私たちは、サントリーグループの事業活動は自然界の水循環の一部であるという認識のもと、20年以上に渡って多様なステークホルダーと手を携え、水資源の保全に取り組んできました。流域社会の一員であるサントリーグループが事業を継続的に成長させていくためには、流域の水資源管理をより持続可能なものへと移行していかなければなりません。流域内の地域社会の持続的発展や豊かな生態系の維持を目指し、ステークホルダーと協力するエンゲージメント戦略を通じ、持続可能な水利用の慣行を広く社会に浸透させ、社会全体の移行に寄与していくことを目指します。
プロセス
サントリーグループは、環境目標2030に掲げる水源涵養活動の目標達成に向け、地域のステークホルダーと連携して工場の立地する流域の起こりうる水課題を特定し、主要なステークホルダーとの合意のもと、その課題解決に資する水源保全の取り組みを進めています。サントリーグループはまた、持続可能で健全な水循環を実現する社会への移行を目指して、バリューチェーンを超えた国際的なルール形成や業界を超えた協同体などの枠組みの構築に挑戦しています。
ステークホルダーとの対話
水はローカルな資源であり、起こりうる水に関する課題は地域ごと、あるいは流域ごとに異なります。そして、水にまつわる地域のステークホルダーは、地域行政から水道事業者、NGO、専門家(大学の研究者やコンサルタントなど)や住民の方々まで、多岐にわたります。
サントリーグループは、対話を通じてこれらの多様な主体のニーズやケイパビリティを理解し、どのような協力体制のもと、どのように取り組みを進めていくべきかを検討し、合意形成を図るところから地域エンゲージメントを進めています。
流域の起こりうる水課題を特定
サントリーグループが20年以上にわたり水源涵養活動を通じて培ってきた知見は、地域エンゲージメントにおいて大きなアドバンテージとなっています。
基幹事業として「サントリー 天然水の森」に真摯に取り組んできた経験は、地域の方々からの信頼につながり、直面する水の課題がない場合でも、将来にわたる水の持続可能性に寄与したいという私たちの想いをご理解いただく一助となっています。また、水科学研究所が蓄積してきたデータや科学的知見は、ステークホルダーとの合意形成に向けて、各流域の起こりうる水課題を的確に把握する上で大いに役立っています。
水に関する地域エンゲージメントの取り組み
日本
山梨県(北杜市) - 20年以上にわたる地下水モニタリングの継続
山梨県の旧白州町(現・北杜市)では、1996年に「白州町地下水保全条例」を制定し、1998年には当時の白州町長が現サントリー天然水 南アルプス白州工場の初代工場長に協力を求め、他の大規模事業者、地域企業と連携して「白州町地下水保全・利用対策協議会」を設立しました。この協議会では、事業者が費用を分担し、観測井を設置して地下水のモニタリングを継続的に実施しています。第三者評価により、地下水位は長期にわたる変動傾向が安定的であり、概ね問題のない状況にある、との客観的な評価をいただいています。
サントリーグループは、設立当初からこの協議会に参加しており、地下水の水位をモニタリングする取り組みに20年以上協力を続けています。
こうした取り組みを含む、「サントリー天然水の森 南アルプス」での水源涵養活動や北杜市などの山梨県内の自治体と連携した次世代環境教育「水育」などのウォーター・スチュワードシップ活動※1が評価され、サントリー天然水 南アルプス白州工場は、2025年に「Alliance for Water Stewardship(AWS)」認証において、最高位である「Platinum」を取得しています。
- ※1工場など自社の敷地内だけでなく、流域全体の視点で行政や地域社会と連携して継続的に取り組む統合的な水資源管理
熊本県(熊本市)- 地下水の可視化と企業の協力体制構築を支援
これまでの取り組み
水と緑に恵まれた熊本地域では、市民・行政・企業が協力し、長年にわたり地下水の保全と活用に取り組んできました。この取り組みは世界的にも評価されており、熊本市は2013年に国連「生命の水」(水管理部門)最優秀賞を受賞しました。
サントリーグループも、九州熊本工場内での取水管理と節水活動に加え、上流域における地下水涵養活動(サントリー 天然水の森)や「冬水たんぼ」(冬期に湛水を行って地下水を涵養する取り組み)を通じて、工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養してきました。
また、地域の多様な関係者との対話を継続し、取り組みに対する理解と信頼関係の醸成にも努めています。こうした取り組みが評価され、サントリー九州熊本工場は2023年2月にAWS認証の最高位「Platinum」を取得しました。
熊本地域におけるサントリーのウォータースチュワードシップ
公益財団法人くまもと地下水財団の「熊本地域の地下水の流れ」をもとに作成
地域の新たな課題とサントリーの貢献
熊本県では現在、半導体関連産業の集積や都市開発が急速に進んでいます。水を大量に使用する産業の進出により、回復傾向にある地下水が再び減少することが、地域の自治体や住民の間で懸念されています。
また、営農人口の減少などにより、従来の水田を活用した冬期湛水などの地下水涵養手法を維持するための敷地確保が難しくなっています。こうした状況を受け、サントリーグループは2025年、地元の大学や金融機関などと連携し、企業の自主的な地下水涵養を促すグリーンインフラ普及による「熊本ウォーターポジティブ・アクション※1」を開始しました。
本アクションでは、土地開発に伴い雨水の浸透面積が減少するという課題に対して、雨庭などのグリーンインフラ※2を活用し、開発が進む地域における雨水の浸透機能を確保し、地下水涵養や洪水緩和の促進による水循環の保全に取り組みます。また、土地開発を行う企業による自発的なグリーンインフラの設置を支援するとともに、自然クレジット※3の原則に基づき、グリーンインフラによる地下水涵養量等の価値をクレジット化する革新的な金融手法の研究開発を進めます。
こうした金融手法を活用し、官民連携の資金メカニズムを通じて、グリーンインフラのさらなる導入を目指します。
また、企業の行動を促す上では、正確な地下水データに基づくシミュレーションの提示が不可欠です。サントリーグループは、くまもと地下水財団および水科学研究所と共同研究協定を締結し、過去のデータセットを活用して将来の予測が可能なシミュレーションモデルの構築を地域とともに進めています。
地下水の流れの可視化に関する知見を提供することで、今後は水利用・土地利用に関する提言や政策への反映にも貢献していきます。
- ※1本アクションにおけるウォーター・ポジティブは「流域内での土地改変や取水に伴う水への負(ネガティブ)の影響に対し、水を育む自然の保全や水源涵養、再生水の活用などにより、流域内に同等以上の水を還元すること」と定義する
- ※2自然環境が持つ多様な機能で自然災害や地球温暖化等の社会課題を解決し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める考え方や取り組み
- ※3自然の保全、回復、適切な管理活動からもたらされる、生態系や生物多様性への測定可能なプラス成果のこと。自然や生物多様性の改善・向上を目的に資金提供する経済的手段として世界的に注目を集めている
東南アジア
ベトナム - 国家レベルのエンゲージメントを実現
ベトナムは、サントリーグループが海外で初めて「水育」を展開した国です。2015年に開始した「水育」は、今年(2025年)で10周年を迎えます。
ベトナムでは、都市部や町の周辺を流れる川に不法投棄が依然として多く、河川の汚染が深刻な課題となっています。政府もこの問題を非常に重要視しています。この課題の解決には教育が重要であるとの認識のもと、サントリーグループは政府と協議を続けてきました。その結果、2022年10月に教育訓練省と協定を締結しました。
教育訓練省は、日本の文部科学省に相当する省庁です。この協定は、政府が水問題の深刻さを認識する中で、公的な教育の枠組みにおいても「水育」の有効性が評価されたことを示すものであり、国家レベルの環境教育推進の一例といえます。
サントリーグループは現在、教育訓練省と連携し、全国の学校教員に向けた「水育」のカリキュラム研修を実施し、プログラムの全国展開を推進しています。
具体的な取り組みの一つとして、教員向けのトレーニング教本(日本の文部科学省が発行する教本に相当する公的な教材)を作成しました。この教本をもとに、2024年には全国63県の学校教員に向けた「水育」の授業運営に関するトレーニングが実施され、多くの教員が研修を受講しました。
また、2024年時点で、研修を受けた教員は各自のクラスで「水育」の授業を実施し、その受講児童数は約53万人に達しました。
タイ - 大学との共同研究
タイでは、チェンマイ大学との共同研究を進めています。サラブリー工場の水源地であるパサックダムを含む流域全体の水収支や、地域のエンゲージメントを促進するための課題について研究を行っています。また、地下水がどのように流動しているのか、どの地域で活動を行うことで地下水涵養の効果が高まるのかといった点についても分析を進めています。
得られた知見をもとに、パサックダムおよびパサック流域全体の中で、どの地域でどのような取り組みを行うかを決定していく予定です。
また、2019年7月から「水育」を実施しています。
欧州
スペイン(トレド) - 大学との共同研究
トレド工場の水源であるグアハラス貯水池の将来の気候変動の影響評価を行うため、アルカラ大学の水文学研究チームと共同で、シミュレーションモデルを開発して解析を進めています。この研究では、SWAT+と呼ばれる水文モデルを用いてグアハラス貯水池への気候変動の影響を評価しました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による温室効果ガス濃度の将来予測を基にした気候変動シナリオのうち、最も温室効果ガス排出量の高いRCP 8.5を用いて将来予測を行いました。貯水池の上流にある河川から流入する水量が21世紀末までに、どの程度減少するのかを推定しています。
スペインにおいても、「水育」を実施しています。
水インフラを考慮した水循環の把握と水リスク評価の向上を目指して
課題意識
日本を含むモンスーン・アジア地域は、世界人口の50%以上が暮らす地域であり、年間の降水量が世界平均を大きく上回ることが特徴です。しかし、降水の70~90%が雨季に集中し、乾季には長期にわたって雨がほとんど降らないため、水の供給が不安定になりがちです。こうした地域では、ダムによる貯水や運河を使った流域間の水の移送など、水インフラが高度に発達しています。このインフラによって、地域社会や生態系の旺盛な水需要を支える仕組みが整えられています。
このように、水需要に対する供給リスクを的確に把握するためには、自然の水循環だけでなく、水インフラが果たす役割も考慮した評価が必要です。また、年間でどの程度の水不足が発生する可能性があるかを地域ごとに評価できれば、具体的な対策を講じることが可能になります。
Water Security Compassの開発
こうした課題の解決に向け、サントリーホールディングスは、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科、ID&Eホールディングス(株)傘下の日本工営(株)(以下、日本工営)と共同で、東京大学社会連携講座『グローバル水循環社会連携講座』※1を設置し、オンラインプラットフォーム「Water Security Compass」を共同開発しました。
「Water Security Compass」は、東京大学等が構築した地球全体の水循環をシミュレーションする最先端のモデルを活用し、季節の変化やダムなどのインフラによる水量への影響を考慮することで、世界各地の水需要と供給量を的確に把握し、水資源の用途ごとの不足状況を現在から将来にわたって可視化※2する、世界初※3のオンラインプラットフォームです。
産官学の広い分野での水資源に関する研究で活用いただくことを主な目的に、2024年夏より無料公開しています※4。
- ※1「グローバル水循環社会連携講座」は、企業と大学の知見を融合した研究開発および開発技術の社会実装、人材育成に取り組むことを目指し、2022年に開設されました。東京大学、サントリー、日本工営が参画する産学連携の枠組みです。
- ※2日本域については、従来よりもはるかに高い解像度(約2km四方)でのシミュレーションを実現。(現在は西日本のみ公開。)
- ※3東京大学社会連携講座『グローバル水循環社会連携講座』の調査によります。
- ※4現在公開しているのは正式版に先立つ試用版(β版)です。正式版の公開は2025年を予定しており、今後データや機能の改良・修正を順次実施していく予定です。
「行動を起こせる」指標へ
水リスクに関する企業の対応においては、今後ますますデータに基づく仮説立案と意思決定の重要性が高まります。
「Water Security Compass」は、データを活用して企業が渇水リスクの高い地域を正確に特定できるよう支援し、「行動を起こせる」指標としてご活用いただくことで、より適切な資源リスク管理に貢献することを目指しています。
サントリーグループにおいても、Water Security Compass を自社で活用するだけでなく、国際的イニシアティブへの働きかけを通じて広く普及を促進していきます。