考え方・方針
サントリーグループの製品は自然の恵みを原料に製造されています。つまり地球環境そのものが、サントリーグループの大切な経営基盤なのです。その経営基盤を守るために私たちは自然環境と生物多様性を保全再生する活動を行っています。
こうした自然の恵み(自然資本)への依存は、同時に、生態系の劣化や生物多様性の損失が事業継続にとって重大なリスクになり得ることも意味しています。一方で、生物多様性の保全活動に積極的に取り組むことは、原料の持続的な調達確保や地域社会からの信頼獲得など、企業価値向上の新たな機会を生み出すと認識しています。
サントリーグループは、持続可能な社会の実現に向けて世界が合意した目標である、生物多様性損失を2030年までに食い止め自然を回復軌道に乗せるという「30by30」目標(Kunming-Montreal Global Biodiversity Framework)に賛同し、自社の事業を通じてその達成に貢献していきます。
また、科学的知見に基づく自然資本管理の手法を提供するSBTN(Science Based Targets for Nature)に参画し、科学的根拠に基づく目標設定とアクションを進めることで、生物多様性に対してポジティブなインパクトの創出を目指します。こうした方針のもと、気候変動対策(カーボンニュートラルなど)と生物多様性保全の双方を両立し、自然の持つ再生力を次世代へ引き継いでいきます。
TNFD提言に基づく開示
サントリーグループでは、2023年5月に発表されたSBTNによるガイダンス(以下、企業向けガイダンス)のもと、自然関連の科学的根拠に基づいた目標の設定と、それに向けた活動を進めていくべく、企業向けガイダンスの試験運用を行う企業17社として日本企業で唯一参画しています。
SBTNの試験運用での分析と進捗を踏まえ、Taskforce on Nature-related Financial Disclosures(TNFD)提言に基づく開示をしています。
詳細は以下からご覧ください。
ネイチャー・ポジティブ宣言
サントリーグループは、人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、「人間の生命(いのち)の輝き」をめざす企業として、自然と共存する持続可能な社会を実現するために、積極的に自然再生に取り組むことを表明する「ネイチャー・ポジティブ宣言」※を2025年8月に行っています。
- ※環境省(2030生物多様性枠組実現日本会議)が設けた、ネイチャー・ポジティブの実現に向けて企業や自治体などの団体が自らの活動内容を表明する制度
推進体制
グローバルサステナビリティ委員会
サントリーグループでは、グローバルサステナビリティ委員会(GSC)を中心に、環境経営の推進体制を整えています。GSCは、サステナビリティ担当役員の管掌のもと、水、気候変動、原料、容器・包装、健康、人権、生活文化のサステナビリティに関する7つの重要テーマに関する戦略を立案し、その進捗を監督するとともに、事業のリスクや成長機会を分析し、四半期ごとに取締役会へ報告しています。
グローバルサステナビリティ委員会の詳細は「環境マネジメント」をご覧ください
また、生物多様性に関わるリスクと機会はサントリーグループの全社的なリスクマネジメントプロセスに組み込まれ、経営陣および取締役会レベルでも定期的にモニタリングしています。例えば、水資源や生物多様性に関する重要課題は、取締役会によるリスク監督項目の一部として位置づけられており、必要に応じて経営戦略や事業計画に反映されています。
今後、TNFDのフレームワークに沿って、生物多様性に関するガバナンス体制と経営への組み込みを更に強化していきます。気候変動への対応で培った知見(TCFDに基づくガバナンスなど)を活かし、自然資本についても全社で議論・推進する体制を整備していきます。
取り組み
水に関する取り組み
サントリー 天然水の森
「地下水」の安全・安心と、サステナビリティ(持続可能性)を守るために、サントリーグループでは、『国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水』を、工場の水源涵養(かんよう)エリアの森で育む、「サントリー 天然水の森」活動を行っています。
良質な地下水を育む森は、生物多様性に富んだ森です。森林が本来持っている機能を回復すれば、そこに生育する動植物相にも変化があります。サントリーグループは「天然水の森」において、鳥類を含む動植物の継続的な生態系モニタリングによる計画的な管理を実施しています。環境のバロメーターといわれる野鳥について、専門家による調査を毎年行うことで、生態系全体の変化状況を総合的に把握しています。
また、国内すべての「天然水の森」において、生態系の最上位に位置するワシ・タカ類の営巣・子育ての実現を目指した「ワシ・タカ子育て支援プロジェクト」を進めており、「天然水の森」を鳥類の目から見つめ、生物多様性豊かな森づくりを進めることを目指しています。
現在、この「天然水の森」は全国16都府県・26カ所、合計12,000ヘクタール以上の規模にまで広がっており、森林保全活動を地域行政や地元林業関係者と協働で推進しています。
「生物多様性のための30by30アライアンス」に参画
サントリーグループは2022年4月に、持続可能な社会の実現に向けて、生物多様性の損失を食い止め回復させることを目指す「生物多様性のための30by30アライアンス※1」に参画しました。
- ※1「生物多様性のための30by30アライアンス」は、2030年までに自国の陸域・海域の少なくとも30%を保全・保護するという「30by30(サーティー・バイ・サーティー)」の目標を掲げ、行政、企業、NPOなどの有志連合として設置されました。
さらに、「サントリー 天然水の森」8カ所が、「30by30」目標達成に向け環境省が推進する「自然共生サイト」に認定されています。「自然共生サイト」とは、民間の取り組みによって生物多様性保全が図られている区域を認定する制度で、重複しない部分は国際的なOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)として登録されるものです。当社の森林保全エリアが日本のOECMの一翼を担っていることは、国際目標への貢献という点でも大きな意義があります。
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1.「サントリー 天然水の森 ひょうご西脇門柳山」(兵庫県西脇市)
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2.「サントリー 天然水の森 とうきょう秋川」(東京都あきる野市)
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3.「サントリー 天然水の森 しずおか小山」(静岡県駿東郡小山町)
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4.「サントリー 天然水の森 日光霧降」(栃木県日光市)
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5.「サントリー 天然水の森 近江」(滋賀県蒲生郡日野町)
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6.「サントリー 天然水の森 赤城」(群馬県渋川市・前橋市)
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7.「サントリー 天然水の森 奥大山」(鳥取県倉吉市・日野郡江府町)
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8.「サントリー 天然水の森 奥多摩」(東京都西多摩郡檜原村)
生物多様性に関するレポート発刊
サントリーグループは、2022年9月に「サントリー 天然水の森 生物多様性『再生』レポート」を発刊し、日本の森が抱える多様な課題と、「天然水の森」での先進的な取り組み事例をまとめて公表しました。
このレポートでは、里山荒廃や外来種増加など日本の生態系課題と、当社による森の再生・生物多様性回復への取り組み(林床管理や希少種保護など)について紹介しています。今後も科学的知見に基づき森づくりを進化させ、その成果を積極的に発信していきます。
スコットランドでの泥炭地および水源保全活動
日本国外でも生物多様性の重要拠点での保全活動を展開しています。英国スコットランドでは、ウイスキーづくりに欠かせない、原料となるピート(泥炭)を育む泥炭地と水源の保全に着手しました。過去にピート採掘が行われた場所での泥炭地復元や、英国王立鳥類保護協会(RSPB)と協働した自然保護区での生態系再生に取り組んでいます。
具体的には、アードモア蒸溜所周辺地域を対象に、土地を所有するスコットランド森林土地局と、研究・計画および再生工事の遂行を支援するジェームズ・ハットン研究所と連携した泥炭地復元活動を開始しました。その後、アイラ島、スコットランド北部で、過去にスコッチ用にピートを採掘していた場所でも復元活動を開始、また、スコットランド王立鳥類保護協会と協働で、エアーズモス自然保護区、オア自然保護区での復元活動も実施しています。
今後も活動を展開し、2040年までにサントリーグループがウイスキー製造で使用する泥炭量の2倍の量を生み出すことができる面積の泥炭地を再生することを目標に掲げています。泥炭地の保全・再生は、水質浄化や保水機能の向上といった生態系サービスの維持に貢献するだけでなく、大気中のCO2を大量に固定する泥炭の機能により気候変動緩和にも寄与します。気候と生物多様性双方の観点から有益なこのプロジェクトを通じて、スコットランドの自然環境保全にも貢献していきます。
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復元工事により水位が上昇し湿原植物の再生が進む泥炭地
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アードモア蒸溜所
~サステナビリティストーリーズ~ ウイスキーの重要原料である「ピート」と地球の未来のために──「ピートランド・ウォーター・サンクチュアリ」プロジェクト
原料に関する取り組み
サントリーグループでは、主要原料農作物における生物多様性保全の取り組みを国内外で進めています。
たとえば、サントリー食品イギリス(Suntory Beverage & Food Great Britain and Ireland)は、2004年よりカシス農家に対してサステナブル農業の支援を行っており、各農場とその周辺にある個々の生息地にあわせた生物多様性計画を策定し、河川や湿地の生態系保全活動を推進してきました。2022年には、カシス農園における生物多様性保全の取り組み、ならびにその成果をまとめたレポート「Farm Stewardship Programme」を発刊しています。
また、サントリーグループでは土壌の生物多様性に貢献する再生農業にも着手しており、ビールの原料である麦芽用大麦の持続可能な調達に向けた土壌改良・輪作の試みや、ワイナリーでの「草生栽培」(ブドウ樹間に植生を維持するカバークロップ手法)などにも取り組んでいます。こうした農法転換により、農地の土壌肥沃度向上や生物多様性の保全を図ると同時に、将来的な気候変動に強い原料調達体制を構築していきます。
「Farm Stewardship Programmeレポート」(英語)のダウンロード
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カバークロップ
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草に覆われているサントリー登美の丘
ワイナリーのぶどう畑 -
カシス農園における生物
多様性保全の取り組みと
成果をまとめたレポート
さらに調達面では、「サステナブル調達基本方針」のもと主要原料のリスク評価を行い、生物多様性に配慮した原料調達基準を強化しています。森林減少に直結する紙包装や農産品については、認証紙や環境に配慮した原料への切り替えを推進し、サプライチェーン全体での生物多様性保全に努めています。また、TNFDの枠組みを活用し、バリューチェーン上流(農産物生産地や林産地)の生物多様性リスク評価を今後進め、重要地域・原材料に関しては外部ステークホルダーとも連携しながら保全活動やコミットメントの検討を深めていきます。
容器包装に関する取り組み
サントリーグループでは、水や農作物に加え、限りある天然由来資源を有効活用するため、原材料や容器包装における3R(reduce, reuse, recycle)の推進、再生可能資源の利用、効率的な資源循環システムの構築について多様なステークホルダーと協働して進めています。
特にペットボトル容器に関しては、サントリーグループ独自の「2R+B」戦略※に基づき、石油由来原料の使用量削減とリサイクル素材・植物由来素材等への代替に取り組んでいます。開発段階から樹脂使用量の削減と再生素材の使用により徹底した資源の有効利用を図りながら、可能な範囲で化石由来原料を再生可能原料に置き換えることで、容器包装のライフサイクル全体における環境負荷の低減に努めています。
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※Reduce, Recycle+Bioの略
容器包装における3Rの考え方
「2R+B」戦略
これら容器包装分野での取り組みにより、廃棄物や資源採取が生態系へ与えるフットプリントの削減につなげています。使用済みプラスチックの不適切な取り扱いによる環境への影響が社会問題となっていますが、サントリーグループはボトルtoボトルのリサイクル強化やバイオマスPET開発などを通じて、こうした問題の解決に貢献していきます。今後は容器包装において、サステナブルな素材の採用比率をさらに高めることで、環境負荷低減と生物多様性保全の両立を実現していきます。サプライヤーをはじめとするビジネスパートナーとも連携し、包材の調達から廃棄・リサイクルに至るバリューチェーン全体で、生態系への影響を最小限に抑える取り組みを推進します。
サントリーの愛鳥活動
野鳥は自然環境のバロメーターといわれています。野鳥を保護することが人間や自然環境を守ることにつながるとの考えから、サントリーグループは、1973年から野鳥保護の重要性を社会と共有する愛鳥活動に取り組んでいます。1989年には、国内外の鳥類保護活動を資金面から助成する「サントリー世界愛鳥基金」を創設し、2024年までに延べ517件、総額7億超の助成を行いました。現在まで継続して各地のNPOや研究機関による鳥類保護プロジェクトを支援しており、生息地保全や希少種の保護、環境教育などその内容は多岐にわたります。
サントリーの愛鳥活動ではまず、身近な野鳥をテーマにした普及啓発に注力してきました。1973年の「愛鳥キャンペーン」開始当時から、テレビCMや新聞広告、ポスターを通じて野鳥の写真やメッセージを発信し、人々に自然保護への関心を喚起しています。また、小・中学生向けの写生コンテスト「愛鳥週間ポスターコンクール」の協賛や、全国の愛鳥活動団体への支援などを通じて、未来を担う世代へ野鳥観察・保護の大切さを伝えてきました。
第1回愛鳥キャンペーン新聞広告
野鳥は生態ピラミッドの上位に位置し、その動向を追うことで生態系全体の健康度を知ることができることから、愛鳥基金による支援のほか、自社の水源涵養林「天然水の森」においても野鳥調査を行い、森林生態系のモニタリングに役立てています。
今後もサントリーグループは、「水と生きる SUNTORY」をコーポレートメッセージに掲げる企業として、水や生きものを育む生態系への感謝と畏敬の念を忘れず、生物多様性の保全に取り組んでいきます。事業を通じて得た知見や技術を社外にも共有し、行政、NPO、地域コミュニティとのパートナーシップを深めながら、自然と共生する持続可能な社会の実現に貢献していきます。