サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2026
室内楽アカデミー第8期フェロー
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン出演への期待
2024年9月にスタートしたサントリーホール室内楽アカデミー(CMA)第8期。いよいよ2年間の研鑽も修了に向かっている。第8期には、弦楽四重奏が6団体、ピアノ三重奏が1団体、参加しているが、なかには以前より独自の音楽活動をしている団体も参加していて、室内楽ファンの間では既に名前の知られたグループもある。特に、ほのカルテット、カルテット風雅、クァルテット・イーリス、カルテット・プリマヴェーラなどは、国内外の室内楽コンクールで入賞の実績を持っている。
個人で見ても、ソリストとして国内外のコンクールで入賞しているフェローが何人もいる。そのほか、オーケストラに所属するなどプロフェッショナルとしての音楽活動をしながら、このアカデミーで室内楽の研鑽を積んでいるフェローも少なくない。
また、第8期には、第7期から引き続いて受講しているフェローが例年以上に多い。カルテット・プリマヴェーラとほのカルテットは第7期からの参加であり、カルテット・シュトゥルム、カルテット風雅、トリオ・フィデーリスのメンバーも、団体を替えながら、第6期や第7期でも学んでいる。
室内楽アカデミー選抜フェローが
芥川也寸志:弦楽のための三楽章(トリプティーク)を演奏
先日芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した、CMA修了生であるクァルテット・インテグラのようにフルタイムで活動する団体を目指しているのか、オーケストラ活動の合間を縫って室内楽に取り組んでいるのか、ソリストを目指しながら室内楽も学んでいるのか、CMAのフェローたちの目標や目的はまちまちであろう。それでも、彼らはみんなが室内楽の楽譜と向き合い、まさに室内楽の生き字引というべきファカルティ(3人の元東京クヮルテットのメンバーを含む講師陣)に指導を受け、CMAのなかで切磋琢磨し合っている
CMAの参加団体の特徴は緻密なアンサンブルといえるだろう。粗雑で気ままな演奏をするフェローはいない。彼らは、室内楽として緻密な上で何を表現するかを課題としている。
以下に紹介する7つの団体がCMAでの2年間の研鑽の成果を発表する、6月6日と13日の「ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会」が非常に楽しみである。
ピアノ五重奏曲名曲選
2026年のCMGでは磯村和英を迎えて五重奏を披露する
●クァルテット・イーリス(6月6日・13日出演)
クァルテット・イーリス(高麗愛子、稲田清香、鈴木双葉、宮之原陽太)は、2023年に桐朋学園大学在学中の4名によって結成された。「イーリス」はギリシャ神話に出てくる虹の女神を意味する。2024年の第13回秋吉台音楽コンクールで第3位に、2025年の第5回宗次ホール弦楽四重奏コンクールで第3位に入賞するなどの実績を残している。第1ヴァイオリンの高麗を中心に、全員で熱のこもった演奏を繰り広げるのがクァルテット・イーリスの特徴といえるだろう。昨年のCMAの選抜演奏会(非公開)で弾いたバルトークの弦楽四重奏曲第1番は、情熱的かつ完成度の高い演奏だった。CMAでは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンから、ブラームス、ドビュッシー、バルトークまで幅広い作曲家に取り組んでいる。
第1ヴァイオリンの高麗は、第14回ヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールのジュニア部門で第3位入賞。2025年には第94回日本音楽コンクールで第4位に入賞。これからの活躍が大いに期待されているヴァイオリニストである。チェロの宮之原は2024年の第78回全日本学生音楽コンクール全国大会で第1位を獲得している。
●カルテット・シュトゥルム(6月6日・13日出演)
カルテット・シュトゥルム(城野聖良、松北優里、長谷山博史、髙木優帆)は、2019年、東京藝術大学での授業を機に結成された。城野と髙木は、トリオ・アンダンティーノのメンバーとしての第7期から引き続いてのCMAへの参加である。そして、松北と髙木は、現在、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の団員(髙木はフォアシュピーラー)を務めている。アンサンブルをリードするのは、第1ヴァイオリンの城野。彼女は、第25回日本クラシック音楽コンクールで最高位を獲得し、藝大フィルハーモニア管弦楽団とプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を共演している。また、ヴィオラの長谷山は、2020年に仙台フィルハーモニー管弦楽団とバルトークのヴィオラ協奏曲を演奏したことがある。
「シュトゥルム」の名称は18世紀ドイツの「シュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)」から採られている。彼らは、古典派からロマン派にかけてのドイツ=オーストリア音楽(ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン)をレパートリーの中心としている。最近は、ドビュッシーにも取り組む。作品に対して誠実に向き合う姿勢が彼らの特長といえるだろう。
今井信子(ヴィオラ)の指導を受けた
●カルテット風雅(6月6日出演)
カルテット風雅(落合真子、小西健太郎、川邉宗一郎、松谷壮一郎)は、2024年の第13回秋吉台音楽コンクール室内楽(弦楽四重奏)部門で第1位、2025年の第5回宗次ホール弦楽四重奏コンクールで第1位を獲得するなど、新しい世代で最も期待されている弦楽四重奏団の一つといえる。2023年11月、2001年生まれの4人により結成された。小西は東京藝術大学卒業。落合、川邉、松谷は2026年3月東京藝術大学大学院を修了。また、落合、小西、松谷がカルテット・インフィニートのメンバーとして、川邉がクァルテット・フェリーチェのメンバーとしてCMA第7期に参加。2024、2025年にはイタリアのキジアーナ音楽院夏期アカデミーにてクライヴ・グリーンスミスのクラスに全額奨学金を得て参加した。2025年10月、師匠であるチェロの山崎伸子とともにオンスロウの弦楽四重奏曲第15番をフィリアホールで演奏。CMAのワークショップでは、ベートーヴェンをベースとしながらも、ベルクの弦楽四重奏曲、バルトークの弦楽四重奏曲第5番などの難曲にも取り組み、素晴らしい成果を示した。彼らの演奏の特長は、個々の高い技術に裏打ちされたアンサンブルの精度の高さ、作品への真摯な取り組みにあるといえるだろう。
なお、第1ヴァイオリンの落合は、2021年、第90回日本音楽コンクールで第2位に入賞し、関西フィルハーモニー管弦楽団とシベリウスのヴァイオリン協奏曲を共演するなどソリストとしても活躍している。
●カルテット・プリマヴェーラ(6月13日出演)
カルテット・プリマヴェーラは、2021年、桐朋学園大学在学中の4人によって結成。CMAは第7期からの連続参加である(第7期の時と比べて第2ヴァイオリンとチェロが替わり、現在は石川未央、清水咲、多湖桃子、山梨浩子の4人)。「プリマヴェーラ」はイタリア語で「春」を意味する。2024年、第13回秋吉台音楽コンクール室内楽(弦楽四重奏)部門で第2位に入賞している。2024年3月にはクァルテット・エクセルシオとメンデルスゾーンの弦楽八重奏曲を第一生命ホールで共演した。
アンサンブルをリードする第1ヴァイオリンの石川は、2015年の第69回全日本学生音楽コンクール中学校の部全国大会で第2位、2019年の第9回ノボシビルスク国際ヴァイオリンコンクールのシニア部門で第2位に入賞している。チェロの山梨は、現在、読売日本交響楽団のメンバー。CMAには、第5期をクァルテット・ポワリエ、第6期をドヌムーザ弦楽四重奏団、第7期をクレアール・クァルテットのメンバーとして参加した。2025年秋からカルテット・プリマヴェーラのメンバーとなっている。
カルテット・プリマヴェーラは個々の卓越した技巧とテンションの高い演奏が特徴といえるだろう。バルトークやプロコフィエフなど近現代作品にも積極的に取り組んでいる。室内楽経験の豊富な山梨の加入でどのような化学反応を起こすか楽しみである。
●ほのカルテット(6月6日出演)
ほのカルテット(岸本萌乃加、林周雅、長田健志、蟹江慶行)は、2023年、大阪国際室内楽コンクール2023の弦楽四重奏部門で第2位入賞し、現在、最も注目されている若手弦楽四重奏団の一つである。2018年、東京藝術大学在学中の4人によって結成。同年、第4回宗次ホール弦楽四重奏コンクールにて第3位に入賞。2019年、第8回秋吉台音楽コンクール弦楽四重奏部門で第1位を獲得。CMAには2022年(第7期)から参加している。2023年12月の大阪国際室内楽コンクール入賞記念のCMA特別公演ではハイドンの「冗談」、ベートーヴェンの第12番、メンデルスゾーンの第4番を演奏。2025年には、自主的な定期演奏会を開始。また、大晦日恒例の東京文化会館小ホールでのベートーヴェン弦楽四重奏曲(9曲)演奏会にも出演。
第1ヴァイオリンの岸本は、2011年の第9回東京音楽コンクールで第1位、2017年の第86回日本音楽コンクールで第3位に入賞。現在は、読売日本交響楽団次席第1ヴァイオリン奏者を務めている。第2ヴァイオリンの林は、葉加瀬太郎の「題名プロ塾」に合格するなど、幅広いジャンルでソリストとして活躍。長田健志はジャパン・ナショナル・オーケストラの、蟹江慶行は東京交響楽団のメンバーである。
ほのカルテットの特徴は4人がそれぞれの場所でプロフェッショナルとして活躍し、そこでの経験を持ち寄って一つのアンサンブルを作り上げているところにあるといえるだろう。そして、カルテット自体も既にプロフェッショナルな団体として活動している。
●カルテット・ルーチェ(6月13日出演)
カルテット・ルーチェは、2021年、東京音楽大学付属高校に在学する4人によって結成された。現在のメンバーは、渡辺紗蘭、中嶋美月、森智明、原田佳也の4人。「ルーチェ」はイタリア語で「光」を意味する。
第1ヴァイオリンの渡辺は、2022年、第91回日本音楽コンクールで第1位を獲得し、東京フィルハーモニー交響楽団や兵庫県芸術文化センター管弦楽団と共演するなど、ソリストとして注目されているが、このアンサンブルでも、中心的な存在となっている。昨年のCMAの選抜演奏会(非公開)で披露したモーツァルトの「不協和音」での第1ヴァイオリンの求心力は印象に残っている。第2ヴァイオリンの中嶋は、2023年、第92回日本音楽コンクールで第2位に入賞。ヴィオラの森は桐朋学園大学卒業。リッカルド・ムーティ指揮の東京春祭オーケストラにも参加するなど、幅広く活躍している。チェロの原田は、2022年、2023年度いしかわミュージックアカデミー奨励賞を受賞した、期待の若手奏者である。
2026年3月の武蔵野市民文化会館小ホールでのリサイタルでは、ハイドンの第75番、ブラームスの第2番、ベートーヴェンの第9番「ラズモフスキー第3番」を演奏。CMAでは、ハイドン、モーツァルトから、ラヴェル、バルトークまで幅広いレパ―トリーに取り組んでいる。
●トリオ・フィデーリス(6月6日・13日出演)
トリオ・フィデーリス(吉江美桜、佐山裕樹、百瀬功汰)は、桐朋女子高等学校音楽科からの同級生によって、桐朋学園大学在学中に結成された。「フィデーリス」とはラテン語で「誠実」や「忠実」を意味する。ヴァイオリンの吉江は、2019年の第88回日本音楽コンクールで第3位、2014年の第12回東京音楽コンクール弦楽器部門で第3位入賞するなどソリストとしても注目される。また、レグルス・カルテットのメンバーとしてCMAの第6期にも参加。現在、東京交響楽団コンサートマスター(研究員)を務めている。佐山裕樹は、2018年の第13回ビバホールチェロコンクールで第1位を獲得し、2023年の第92回日本音楽コンクールで入選。現在、新日本フィルハーモニー交響楽団の首席チェロ奏者である。百瀬は2018年第9回東京ピアノコンクール全部門最優秀賞。現在、桐朋学園大学音楽学部弦楽器嘱託演奏員を務める。つまり、3人とも既にプロの音楽家として重責を担い、その上で、CMAで研鑽を積んでいる。
以上7団体の紹介から、それぞれのグループ、そしてフェローたちが、様々なヒストリーを持ち、個性を有していることを推し量っていただけるだろう。
20歳代前後は、フェローたちにとって、音楽家としての人生の転機、進路の選択の時期でもある。彼らは個人として、コンクール、オーディション、留学、進学など、様々な選択をしていかなければならない。そのような時期にグループを続けていくことは決して容易なことではないに違いない。また、既にオーケストラに在籍しているフェローが、所属するオーケストラでの本番を終えたあと、ワークショップに駆け付けることをしばしば見かけるが、それでも、室内楽を探求しようという彼らの情熱には感銘を覚える。
もちろん、それぞれの団体の演奏の良し悪しを比較するのも、このような演奏会の楽しみである。しかしそれ以上に、この6月で第8期を修了する彼らのいまここでしか聴けない演奏をしっかりと味わいたいものである。