2026年12月12日(土)~2027年2月7日(日)
※作品保護のため、会期中展示替を行います。
※展覧会会場では、章と作品の順番が前後する場合があります。また、展示内容は予告なく変更される場合があります。
法華経は釈迦がインドの霊鷲山で説いたという教えで、在俗の仏教徒たちによって紀元前から3世紀頃にかけて、段階的に経典として形成されていったと考えられています。サンスクリット語の原題を『サッダルマ・プンダリーカ・スートラ(Saddharma-puṇḍarīka-sūtra)』といい、これを直訳すると「白蓮華のように最も優れた正しい教え」となります。
中国ではいくつかの漢訳本がつくられましたが、このうち西域僧・鳩摩羅什が訳した28の品(章)から構成される8巻本の『妙法蓮華経』が東アジア諸地域に最も流布し、一般にこれが「法華経」と呼ばれるようになりました。プロローグでは、こうした伝播の過程にも触れつつ、法華経の構成とその壮大な物語の世界をご紹介いたします。


仏塔は本来、仏舎利(仏の遺骨)を納めるためにつくられるものであり、仏教では古くから聖なるモチーフとして特に重要視されてきました。法華経の方便品(第2章)でも、塔の建立やその荘厳が作善のひとつとして挙げられています。
また見宝塔品(第11章)では、霊鷲山で教えを説いた釈迦の眼前に多宝如来が宝塔とともに地中から出現するという、法華経のなかでもハイライトというべき劇的な場面が語られています。多宝如来は釈迦の教えが正しいことを証明するために現れたといい、塔の内部に釈迦を招き入れ、これ以降、法華経の物語は霊鷲山から虚空=空中へと舞台を移します。
本章では、仏法のシンボルとして法華経美術のなかでも重んじられてきた“ 塔”の多様なかたちを、絵画・工芸・書跡の諸作品からご覧いただきます。


平安時代には、貴族を中心に現世利益や女人成仏を説く法華経への信仰が拡大し、如法経と呼ばれる、作法に則し心身を清めて書写した写経だけでなく、華麗な荘厳を施した装飾経も盛んに制作されるようになりました。その背景にあったのは、釈迦の入滅から長い年月を経たことで、その教えを正しく実践する者がいなくなり、誰も悟りを得ることができなくなるという「末法」の到来への恐れです。
人々は成仏へのきっかけをつくろうと、互いに協力しあって写経を完成させ、仏法と縁を結びました。さらに、そうした功徳を現世・未来世のほとけに伝え残そうと、寺社や霊地への奉納・埋納が行われ、朽ちて傷むのを避けるため、金属板や粘土板、石などに経文が写されることもありました。
本章では、貴賤僧俗を問わず、人々が自身のなせる善の限り、美の限りを尽くして願いを込めた法華経写経の名品を展観いたします。


霊鷲山で教えを説いた釈迦をはじめとして、法華経には多くのほとけが登場します。釈迦に付き従う弥勒菩薩や文殊菩薩、現世のあらゆる苦難から人々を救う観音菩薩とその三十三の応現身、法華経の持経者を守護する普賢菩薩や毘沙門天、十羅刹女など、なかには聞き馴染みのあるほとけも少なくないでしょう。
中世以降、尊像が各地でさかんにつくられましたが、発見された銘文や納入品には、安穏に日々を生きていくことや死後に極楽浄土へ行くことを願う内容がしばしばみられ、現代とも変わらない日本人の心性を感じることができます。
本章では、造像の背景に込められた“ 願い”にも注目しつつ、法華経信仰によってつくられたほとけたちをご紹介いたします。


2025年、新たにサントリー美術館のコレクションに加わった象・獅子(重要文化財)を収蔵後初公開いたします。
本作は、釈迦如来の左右で脇侍をなしていた普賢菩薩と文殊菩薩の獣座(台座)であったとみられる一対です。象の豊満な肉付きや厚みのある皺の表現、獅子の大きく巻いた鬣や堂々と力強い体軀が特徴的で、造立当初の彩色や截金文様も残されています。鎌倉時代の動物彫刻のなかでも指折りの名品といえる本作に是非ご注目ください。




鎌倉時代中期に日蓮が開いた新たな法華宗(日蓮宗)は権力者や他宗派としばしば対立しつつも、民衆からの支持を広げ、中世末期には京都の町衆の間で浸透していました。そのため、町衆にルーツをもつ狩野派や本阿弥家などの絵師や文化人には法華宗徒が少なくありません。江戸時代後期に活躍した葛飾北斎も法華経を信仰していたひとりで、外出時には法華経の一節を唱誦しながら歩いていたと伝わります。造形や荘厳を作善とする法華経は、彼らの創作精神に影響を及ぼし、またその活動を支えていたと考えられます。
エピローグでは近世絵師たちの法華経信仰をご紹介するとともに、日本人の生活のなかにあった信仰を振り返る機会となれば幸いです。

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