ストーリーで描く健康経営戦略~アウトカムを飛躍させる鍵~【後編】

ストーリーで描く健康経営戦略~アウトカムを飛躍させる鍵~【後編】

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多くの企業が重要性を認識し、すでに取り組みを始めている健康経営®。しかし現場からは、「成果が見えにくい」「従業員の巻き込みが難しい」「経営層に説明しづらい」といった課題の声も寄せられています。健康経営の成果を出すための戦略は、企業ごとに異なります。健康経営が目指す姿や、何をもって「価値ある成果」とするかも企業によって違います。ここで大切になるのが、自社にとって本当に重要なアウトカムを見極め、そこへ向かうストーリーを描くことです。自社ならではの健康経営を進めるためのさまざまなヒントが紹介されたセミナーの様子をレポートします。

現状を分析し、仮説を立てて実行・検証することがストーリー

意思を込めて数字を作りにいく

セミナー後半は、ストーリーを描くことで実りある健康経営に取り組む企業として、サントリーホールディングス株式会社(以下、サントリー)とブラザー工業株式会社(以下、ブラザー工業)から、自社の活動やそれを支える考え方が紹介されました。

最初に登壇したのは、サントリーのグループ健康推進センターで部長を務める蓬莱京子氏。蓬莱氏は健康推進活動の「回し方」のポイントを説明しました。

往々にして健康推進活動は、「対象者は全員」「施策を行うことが目的化している」「活動の効果検証ができない」という状況に陥りがちだと蓬莱氏は言います。その結果、「数字は出たとこ勝負」になってしまうことも。それに対して同社では、「意思を込めて数字を作りにいく」という姿を目指しています。
「まずターゲットは、データを元にして絞り込みます。次にそのターゲットに対して仮説を立て、現場から得られる情報も交えて施策を検討し、意味のある計画値を設定します。意味のある計画値とは、アウトカムの実現につながる値のことです。施策の検討にあたっては、PDCAが回せるようなデータを得られるかも重視しています」

続いて蓬莱氏は、健康推進活動の事例として、運動習慣の促進を目指す「One Suntory Walk」を紹介しました。One Suntory Walkは、健康経営のグローバル展開や従業員の一体感醸成を目的に、2017年から毎年、世界中の拠点で開催されているウォーキングイベントです。社会貢献も目的の1つに据えられており、参加人数に応じた寄付が行われています。

このイベントに関して同社は、「参加者を増やしたい」「イベントの効果検証が必要」という課題を持っていました。そこで、「社会貢献という側面を訴求することで無関心層を取り込めるかもしれない」「チーム戦やランキングで歩数を向上させられるかもしれない」という仮説を設定し、これらに基づいて、寄付が行われることに関する情報発信を強化しました。ロゴの刷新や社内SNSでの投稿など広報活動の強化やランキングの可視化にも取り組んだ結果、参加人数は過去最高となりました。効果検証に向けたデータの取得源としては、健康行動の習慣化をサポートするアプリ「サントリープラス」を活用しました。

アプリが習慣化を後押しし、効果の検証にも役立つ

サントリープラスは、さまざまなタスクをクリアすることでポイントがたまり、そのポイントは自動販売機で飲料と交換できるというアプリです。タスクは「朝食を食べる」「1駅分歩く」など、手軽に取り組むことができる健康行動が設定されています。ポイントをため、お得に飲料を入手できることが行動の動機付けとなり、健康行動の習慣化を後押しします。また、アプリユーザーの利用状況は企業などの担当者が管理画面で把握できるため、効果の検証や保健指導に活用することもできます。
「サントリープラスのウォーキングイベント中の平均歩数は、イベントの前月より12%向上しました。さらにイベント翌月も3%の向上を維持できました。これらの変化を把握できたのはアプリのおかげです。イベント当月だけでなくイベント翌月まで歩数の向上が維持できた要因の1つは、『歩くと飲料がもらえる』という、サントリープラスならではのお得感だったと考えています」

サントリーは今、「健康オーナーシップ」の浸透に力を入れています。健康オーナーシップとは、従業員が自分の健康に関心と責任を持ち、主体的に健康習慣に取り組むこと。この目標の実現に向けても、サントリーらしい仮説を立て、楽しみながら取り組んでいきたいと蓬莱氏は語り、講演を締めくくりました。

アプリが習慣化を後押しし、効果の検証にも役立つ

計画や取り組みには一本筋の通ったストーリーを

一貫性がアウトカムにつながる

企業には会社全体から分野ごと、長期のものから短期のものまで、さまざまな計画や戦略が設けられています。それらが個別に存在するのではなく、「一本筋の通ったストーリーとして描けているかをいつも考えている」と話すのは、ブラザー工業の統括産業医である上原正道氏です。

ブラザー工業の場合、最上位には戦略マップが据えられています。それを受けて策定されているのが、中期計画である「健康ブラザー2025」です。そこから「ブラザーメンタルヘルス計画」「ブラザー生涯健康づくりモデル」「ブラザー両立支援ガイドライン」というテーマごとの5カ年計画へと枝分かれしていきます。さらにメンタルヘルス計画では、「睡眠衛生3カ年計画」「ラインケア・セルフケア教育」など、より個別テーマに絞った計画が設けられています。これらの「川上から川下へ」という流れに一貫性が保たれていること、すなわち場当たり的でなく戦略的であることがブラザー工業流の「ストーリーを描くこと」であり、アウトカムにつなげるためのポイントです。

さらに、個別のテーマや活動においても一貫性が重視されています。上原氏が例として紹介した睡眠衛生への取り組みでは、最初に睡眠不良がもたらす課題を抽出しました。「なぜこの課題を解決しなければいけないのか?」から考え、そのうえで、「どうやって解決を図るか」という方法論を検討。従業員への調査から得られたデータを使って根拠に基づく仮説を設定し、施策の立案を行うことで確かな結果の検証が行えるようになります。上原氏は、「ほかのテーマにおいても、弊社で行っている多くの施策はこのような3カ年計画を策定し、段階的で継続的、そして戦略的に進めています」と語りました。

健康習慣は仕組みで整える

ブラザー工業は、健康づくりに関する活動・施策のポイントの1つに「仕組みで整える」を据えています。これは、無意識のうちに健康的な行動を取る環境をつくるという意味です。睡眠衛生に関する取り組みの例では、SharePointサイトを使った記録のほか、年代ごとの課題に沿って、週替わりのミッションに取り組む仕組みを導入しました。これらの取り組みの結果、不眠の可能性が高いと判定された人がプログラム実施前は62%もいたことに対して、実施後は29%にまで減少。30歳代・40歳代の不眠改善率を60%以上にするという事前の目標に対し、76%という結果を得ることができました。

そのほか仕組みを整えることで成果を得た例として、上原氏はサントリープラスの活用例を2つ紹介しました。1つは「禁煙チャレンジ」です。同社では、従来からさまざまなアプローチで従業員の禁煙を促してきました。2022年末から行われた今回の取り組みは、2023年4月に控えていた敷地内全面禁煙を前にした「ラスト企画」として実施されたもので、従来の活動でも禁煙できなかった、いわゆる「岩盤層」が主な対象でした。

この取り組みでは、アプリをダウンロードした喫煙者に飲料10本分の無料クーポンを提供し、休憩時間の口寂しさ対策として、飲み物を活用することを促しました。また、アプリ内で禁煙タスクにチャレンジできる仕組みを整えました。その結果、26人の参加者のうち約半数が禁煙を維持できました。

2つ目の活用例は、「ブラザー歩こうフェス」というウォーキングイベントです。ここでは、参加者全員が飲料クーポンをもらえることに加えて、歩数を競うチーム戦と個人戦を導入。参加者増と歩数増を目指しました。結果は、サントリープラスを活用していなかった前年の参加者が590人であったことに対して、この年は870人になり、目標の660人も大きく上回ることができました。イベント開催期間中の歩数も、平均して1,000歩以上増加しました。

上原氏は、「2つの取り組みはともに、簡単で楽しくチャレンジできます。義務ではなく自然に行動できていることが重要なポイントでした」と振り返りました。

健康習慣は仕組みで整える

時代は「健康経営3.0」。一人一人が自分の健康に責任を

セミナーの最後には、4人がそろって壇上に上がり、意見交換を行いました。岡田氏から「取り組みを紹介した2社のポイントは?」と問われた楠木氏は、「サントリーは一番効果のあるターゲット層にフォーカスし、データを取って徹底している」「ブラザー工業は目標から逆算して個別の取り組みを組み立てている。小説と違って、エンディングから読むのが経営です」と、両社の印象的だった点を語りました。

健康経営は結果がなかなか出ないとも言われがちです。「結果が出ないときはどうするのでしょうか?」と岡田氏からたずねられ、蓬莱氏は「仮説を見直します」と、上原氏は「結果が出ない要因を分析するとともに、健康行動を習慣化するための施策を検討します」とそれぞれ回答し、筋道立ててストーリーを描くことの重要さをあらためて強調しました。

最後に岡田氏は、企業が利益を出すプロセスにおいては、従業員の健康が非常に重要であるということを指摘しました。経営者が企業の健康管理体制を構築した「健康経営1.0」の時代、従業員の心理的安全性を確保できるよう、管理職が部下の育成に直接関与する「健康経営2.0」の時代を経て、現在は従業員一人一人が自分の健康を管理していく、「健康経営3.0」の時代に入ったと説明しました。そのうえで、「みなさんの会社でも、従業員のリテラシーを高めて自己保健・自己管理を実現できるようにしていきましょう」と呼びかけ、セミナーの幕を閉じました。

時代は「健康経営3.0」。一人一人が自分の健康に責任を

※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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