PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)とは?
企業での活用メリット・活用方法を解説
従業員の健康に関するデータ活用の重要性が高まる中、PHR(Personal Health Record:パーソナル・ヘルス・レコード)が注目されています。PHRとは、個人の保健医療情報(健診・検診情報、予防接種歴、薬剤情報、検査結果など)や、個人が自ら測定するバイタル、ライフログなどを含む健康・医療情報の総称です。こうしたPHRを活用することで、企業においては健康経営®の推進や医療費削減につながることが期待されています。この記事では、PHRの基本から企業での活用メリット、活用する際の注意点までをわかりやすく解説します。
目次
PHRとは?企業が注目する理由
PHRは近年、医療分野だけでなく企業の健康経営においても注目される健康・医療情報です。まずはその基本となる定義や必要性、PHRと混同されやすい2つの用語との違いについて解説します。
PHRの定義と必要性
PHRとは「Personal Health Record」の略で、経済産業省によると、「生涯にわたる個人の保健医療情報(健診・検診情報、予防接種歴、薬剤情報、検査結果等診療関連情報及び個人が自ら日々測定するバイタル等)をいいます」と定義されています。
出典(※):健康経営ガイドブック 2025年3月版(健康経営優良法人認定事務局)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/about_PHR.html
健康診断の結果や服薬情報といった医療データだけでなく、個人が自ら測定する日々のバイタルや歩数、睡眠、食事などの生活習慣データもPHRに該当します。
こうした情報を自ら把握できるようになることで、自分の健康状態を客観的に理解しやすくなり、医療機関への早期受診や生活習慣の改善といった適切な行動につながります。
また、必要に応じて医療機関などと健康・医療情報を共有することで、これまでに実施した検査や治療内容を医師が把握しやすくなります。その結果、検査の重複を避けたり、より適切な医療を受けやすくなったりする可能性があります。なお、PHRは、医療機関が作成・管理する診療記録とは異なり、本人が自身の健康・医療情報を把握し、必要に応じて管理・活用できるようにすることを想定したものです。そのため、実務上はスマートフォン等のデジタルデバイスを通じて利用されるケースが一般的です。
EHR・EMRとの違い
PHRと混同されやすい用語として、EHRとEMRがあります。
EHR(Electronic Health Record)は電子健康記録を指し、個人の医療情報を電子的に記録し、複数の医療機関で横断的に共有・活用する仕組みを指します。地域の医療データ共有を目指した「地域医療連携ネットワーク」として各地で導入されていますが、全国で完全に統合された仕組みではなく、現在も標準化や連携強化が進められている段階です。
一方、EMR(Electronic Medical Record)は電子医療記録(電子カルテ)を指し、医療機関ごとに管理される診療記録システムです。検査結果や処方履歴などを医師・医療従事者が記録し、院内の診療で活用します。
EHRやEMRが医療提供側の情報基盤であるのに対し、PHRは生活者側の健康管理基盤といえます。本人が健診結果や生活習慣データを確認し、日々の健康管理に生かせる点は、従業員のセルフケアや行動変容を支えたい企業の健康経営とも相性がよい特徴です。こうした点を踏まえ、次では、なぜPHRが健康経営で注目されているのかを詳しく見ていきます。
なぜ健康経営でPHRが注目されているのか
近年、企業が従業員の健康づくりを経営課題として捉える「健康経営」の取り組みが広がっています。健康経営とは、従業員の健康保持・増進を投資と考え、生産性向上や組織活性化につなげる経営手法です。こうした取り組みを後押しするため、経済産業省と日本健康会議は「健康経営優良法人認定制度」を設け、企業の健康施策の取り組み状況や実効性を評価しています。
この制度では、健康診断の実施だけでなく、従業員の健康状態を把握し、その結果を施策の見直しに活かすための仕組みを整えることが重視されています。特に近年は、健診結果や生活習慣データを従業員自身が確認できる環境整備や、健康データを活用した取り組みの実効性が評価対象となっており、企業におけるデータ活用の重要性が高まっています。
こうした流れの中で注目されているのがPHRです。PHRを活用すれば、従業員が自ら健康情報を確認しやすくなり、セルフケアや行動変容を促しやすくなります。
また、健康経営優良法人認定の際に提出する健康経営度調査(令和6年度)では、PHRを個人が特定できない形で集計・分析し、部署ごとや会社全体の健康状況の把握、健康課題の抽出、健康経営の取組評価に活用できるようにしているかを確認する設問も設けられています。
こうした背景から、PHRは健康経営の実効性を高める手段の一つとして注目されています。
健康経営推進にPHRを活用するメリット
PHRを健康経営の推進に活用することで、企業には次のようなメリットが期待できます。
・従業員の健康意識向上
健診結果を確認することは、自身の健康状態を見直すきっかけになります。さらに、歩数や睡眠、体重などのライフログを日常的に確認できる環境が整うと、自身の生活習慣に自然と目が向くようになります。こうした「健康を意識する機会」の増加は、生活改善や運動習慣の見直しといった行動変容のきっかけとなり、企業の健康施策をより実効性の高い取り組みへとつなげます。
・健康経営度調査への対応(ヘルスリテラシー向上施策)
健康経営度調査では、従業員のヘルスリテラシー向上施策の一つとして、アプリやブラウザ上で本人がPHR(健診情報やライフログ等)を活用できるサービスを導入するなどの環境整備を行っているかを確認する設問が設けられています。本人が健康情報を確認し、日々のセルフケアに生かしやすい環境を整えることは、従業員の健康行動を後押しするうえでも意味があります。企業にとっても、こうした取組を通じて健康経営の施策を充実させていくきっかけになります。
・健康施策のPDCAを回せるようになる
PHRを通じて健康データを継続的に把握できると、健康施策実施前後の変化を定量的に確認しやすくなります。これにより取り組みの効果検証が可能となり、改善策を検討しながらPDCAを回せるようになります。
このようにPHRの活用は、従業員の健康意識向上やセルフケアの促進、健康施策の質向上、効果検証のしやすさといった点で、健康経営を前に進める基盤になります。こうした取り組みが継続し、生活習慣の改善や健康課題への早めの対応につながれば、結果として将来的な疾病リスクの低減や、医療費・保険料の適正化にもつながる可能性があります。
企業におけるPHR活用の注意点
PHRは健康経営を推進するうえで有効な仕組みですが、企業で活用する際には事前に整理しておくべきポイントがあります。
・従業員の抵抗感や不安への対応
PHRは個人の健康情報を扱うため、従業員の中には「企業に自分の健康状態や診療記録を見られるのではないか」といった不安から、PHRの情報登録や共有に心理的抵抗感を持つ人もいます。そうした不安を解消するためにも、データの取得範囲、企業が閲覧できる情報の範囲、活用目的などを明確に説明し、本人の同意を前提に運用することが重要です。
・個人情報保護とセキュリティ対策の整備
PHRはアプリやクラウドサービスを通じて収集・管理されることが多いため、情報漏えい対策は不可欠です。データの管理方法、保存場所、アクセス権限、委託先の管理体制などを活用初期段階で明確に定め、社内ルールとして整理しておく必要があります。
・活用目的を明確にする(形骸化防止)
PHRを企業で活用する際は、活用前に目的を明確にしておくことが重要です。目的が曖昧なまま運用を始めると、集めたデータをどの健康課題の把握に生かすのか、どの施策の見直しにつなげるのかが定まらず、活用の方向性がぶれやすくなります。
その結果、PHRがデータを集めるだけで、健康課題の把握や施策改善に十分につながらないケースが生まれます。これを防ぐには、どの健康課題の把握に活用し、施策にどう反映するのかを事前に整理することが重要です。活用目的を明確にすることで、データが蓄積されるだけの状態を避け、健康経営の実効性を高めることができます。
企業がPHRを活用するためのステップと施策例
PHRの活用メリットや注意点を踏まえると、次に気になるのは「具体的にどのように活用すればよいのか」という点です。ここでは、企業がPHRを活用する際の基本ステップと、実際の活用イメージについて紹介します。
PHR活用の3ステップ
企業がPHRを活用する際は、民間のPHRサービスや健康管理アプリなどを利用して始める方法があります。こうしたサービスを導入すれば、従業員が自身の健康情報を確認しやすい環境を整えやすくなります。一方で、サービスを導入するだけでは十分とはいえず、活用目的や管理方法、社内での運用ルールを事前に整理しておくことが重要です。特に次の3点を明確にすることで、スムーズなサービスの導入とその後の運用につながります。
1.活用目的を決める
まずはPHRを活用する目的を明確にします。従業員の健康意識向上を目指すのか、施策の効果検証に活用するのかによって、取得するデータや運用方法は変わります。目的を社内の関係者間で整理して共有しておくことで、サービス導入後の活用方針がぶれにくくなります。
2.PHRの管理方法を決める
企業がPHRを活用する際は、まず健診結果などの健康データをどう扱うかを整理し、そのうえで必要に応じて歩数や睡眠、体重といったライフログを組み合わせる形が考えられます。従業員本人はアプリなどを通じて自身のデータを確認し、企業は管理者用画面で傾向を把握するといった運用が想定されます。また、利用するサービスによっては、個人を特定できない形でデータを加工したり、個人情報を取得せずに必要な指標のみを確認したりできる場合もあります。自社の運用方針やプライバシー配慮の考え方に合った仕様かどうかを確認したうえで、サービスを選ぶことが重要です。
3.データ管理ルールと従業員への説明
PHR活用ではプライバシーへの配慮が不可欠です。どの情報を誰が閲覧するのか、データをどのように管理するのかといったルールを事前に定め、従業員へ丁寧に説明することが重要です。目的と活用範囲を明確に伝えることで、安心して参加できる環境づくりにつながります。
サントリープラスで始める歩数データを生かしたPHR活用
初めてPHR活用に取り組む企業の場合、日常的に取得しやすい歩数などのライフログから活用を始める方法があります。
サントリーが提供する健康経営サービス「サントリープラス」では、アプリ内での歩数計測や、社内ウォーキングイベント「歩こうフェス」の開催が可能です。従業員はスマートフォンとアプリを連携することで歩数を計測できます。また、ウェアラブルデバイスとも連携可能です。さらに、歩数やアプリ利用状況などのデータは、個人が特定できない形で可視化されます。健康経営担当者は管理者用画面を通じて登録された事業所別または企業別での傾向を把握することができます。個人情報を取得せずにPHR活用を進められるため、プライバシーへの配慮とデータ活用の両立を図りやすい点が特徴です。
サントリープラスを実際に導入した企業では、従業員の健康意識の変化も見られています。
【導入事例:東芝産業機器システム株式会社】データの可視化から全社がつながるきっかけに
2022年にサントリープラスを導入した東芝産業機器システム株式会社では、将来的な全社展開を見据えた取り組みとして川崎事業所でトライアルを実施し、川崎事業所だけでなく他事業所で働く保健師も当初から巻き込んだ拠点横断での運用体制を構築しました。トライアルにあたっては、将来的な全社展開を想定し、川崎事業所だけでなく他事業所で働く保健師も当初から巻き込んだ点が特徴です。
その結果、アプリのダウンロード率は目標としていた50%を上回り、利用開始の過程では、ダウンロード操作が難しい従業員を周囲がフォローするなど、自然なコミュニケーションも生まれました。
また、「歩こうフェス」などのイベントを通じて、部署内の朝礼で話題に上がったり、「階段で行こう」と声を掛け合ったりする場面も見られるようになり、歩くことをきっかけとした健康に関する会話が日常の中に広がっていきました。
こうした取り組みは、約1,000人が勤務する三重事業所にも波及し、拠点を越えた合同イベントの開催など、事業所間のつながりを生む取り組みへと発展しています。
拠点横断の取り組みを後押しした施策の一つが、社内ウォーキングイベント「歩こうフェス」です。イベントを通じて朝礼で歩数が話題に上るようになり、拠点間での合同開催も実現しました。開催期間中は、「階段で行こうよ!」と声を掛け合う場面が生まれ、歩くことが自然に意識されるようになったといいます。
さらに、健康支援センターが歩くメリットを継続的に発信したことで、その情報を見た従業員が保健師に自身の健康について相談するなど、健康への関心が具体的な行動にもつながっていきました。こうしたプロセスを経て、1日の歩数が分からない従業員は約60%から約30%へと減少しています。サントリープラスは、歩数の見える化にとどまらず、社内の会話や行動を変えながら健康意識を育てていく取り組みとして活用されています。
導入事例の詳細はこちら
東芝産業機器システム株式会社「データの可視化から全社がつながるきっかけに」
https://www.suntory.co.jp/softdrink/jihanki/solution/suntoryplus/case8.html
サントリープラスについてはこちら
https://www.suntory.co.jp/softdrink/jihanki/solution/suntoryplus/
まとめ
PHRは、従業員の健康習慣を可視化し、健康経営の施策立案や効果検証(PDCA)を支える基盤となる仕組みです。活用にあたっては目的設定やデータ管理ルールの整理、従業員への丁寧な説明が欠かせません。サントリープラスなら、個人情報を取得せずに歩数データから手軽にPHR活用を始められます。健康経営を一歩進める選択肢として、PHRサービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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