2026年7月24日
#1026 中村 亮土 『良い人間になるためのたくさんの要素がラグビーにはある』
中村亮土選手現役ラストインタビューの2回目、スピリッツ・オブ・サンゴリアス29回目の登場です。
前回の続き...

◆身体の仕組みが変わるタイミング
――選手としてシーズンを重ねてきて得たものは?
正直、スピードが上がったり身体が強くなるということは、もうありません。キープはできるんですよ。あとはラグビーのナレッジとして、今はどういうことをすれば良いのかという状況判断、今のチームに必要なこと足りていないことを理解するという部分は年々わかってきて、そこは経験がモノをいうので、それが上手くチームとマッチするタイミングがあったんだと思います。
――35歳まで現役を続けるということはバックスとしては長い方ですよね
今はだいぶ長くなってきていますが、長い方だと思います。
――フィジカル的にはどのくらいからキープ状態だったんでしょうか?
僕の場合は首の手術をしたんですが、手術をする前には重りが全く挙げられなくなりました。手術をして戻ったんですけれど、そこから身体の変化というか、重いものを何度も持つということを良しとしない身体になったんです。まあそれが、逆に良かったのかなと思いますね。
僕の感覚では、身体の仕組みが変わるタイミングが20代から35歳までの間で2回あって、今までと同じことをやっていても故障したりしたので、そのタイミングをしっかりと感じて理解して、S&Cやメディカルとコミュニケーションを取りながら、違うアプローチをやってもらったりしました。それが長く続けられた秘訣かなと思います。
――その2回というのは、選手生命の危機だったんですか?
危機までは行っていないですね。アプローチの仕方を変えたタイミングが2回ありました。

◆自分の想像を超えていった
――ここまでで、いちばん印象的だったことは?
やっぱり、2019年のワールドカップじゃないですかね。あの時は自分の身体の感覚として、自分を超えていった感じがありました。自分の想像を超えている感じです。自分の持っているプレーのイメージよりも、ひとつ速かったり、ひとつ強かったり、それが毎回ありました。
――いわゆるゾーンに入っていたということですか?
本当にそうだと思います。正直、あそこまでできると思っていませんでした。今までの人生の中で、自分の期待を良い意味で裏切ることはなく、だいたいこのくらいはできると思った通りにできる感じできていましたが、それを上回りました。
――そこで自分のレベルも上がったわけですね
だいぶ上がりました。あれは何だったんですかね。今その時の映像を見返すと、目つきが違うんですよ(笑)。本当に鋭いというか、常に戦っている目をしている感じですね。今はそんなことはなくて、後輩が増えてきているので、どちらかと言えば寄り添ってあげる感じです。あの時は人のことなんて気にしていられない目をしています(笑)。
――ここでこそ積み上げてきたものを出す場、という気持ちがあったんでしょうか?
いやー、もうあまり考えていないと思います。本当に目の前の奴に負けたら殺されるみたいな、チームだけれど1対1の勝負をしているような。本当に終わりというか、人生が終わるみたいな感覚ですね。存在として。危機感や必死さ、生きるための必死さ。
――ラグビー選手として生きるための必死さですか?
そうですね。ラグビーしかしていなかったので。
――なぜそこまで思い込めてすべてを懸けられたんですか?
何でですかね。それはわからないですけれど、高校生の時から本当に目標にしていたことですし、それを掴まないと何も始まらないという気持ちも乗っかったんでしょうね。それに最大のチャンスでもありました。年齢的にも良い時で、精神的にも落ち着いて、本当にプレーにフォーカスできる、雑念がない状態でした。

◆ラグビーに恩返しがしたい
――サンゴリアスを離れますが、メンバーへのメッセージをお願いします
本当にもう、戦って欲しいです。プレッシャーと向き合って、チームどうこうじゃなくて、自分自身を見つめて、没頭して欲しいと思います。自分の成長に対して。
――没頭することができれば優勝も?
そうですね。2025-26シーズンではトップ3のチームが抜けていましたけれど、チーム力としてはどのチームも変わらないと思います。そこをブレイクスルーできると思うので、ブレイクスルーするひとつのチームになって欲しいと思います。
――これからは何をやるんですか?
メゾンカカオというチョコレートを扱っているところで働くことになりました。チョコレートを売りたいというより、石原さんという僕の帝京大学の先輩が経営していて、その人と会って本当に魅力的な方で、この人のもとでいろいろなことを学びたいと思いましたしお誘いもいただいたので、やらせてもらうことになりました。本当に先を見ているというか、未来を生きている人だと感じていて、一緒にいてワクワクするんです。そういう人生を歩んでいきたいと思って、そういう選択をしました。

――やりたいというのはビジネスですか?
やりたいというか生きたいというか。ビジネスと言うとお金の匂いがしちゃいますけれど、生き方ですね。
――どんな生き方ですか?
仲間、家族を大事にしながらワクワクした生き方をしたいんです。想像がつかない、でもこういう未来があったら楽しいよねってところに、ひとつひとつ着実に進んでいるような感じです。
――将来は日本ラグビーフットボール協会の会長をやりたいとか?
そうですね。僕はラグビーに育ててもらったので、ラグビーに恩返しがしたいという気持ちがあります。それがどういう形でできるかはわかりませんが、恩返しができるいちばん大きな形は何だろうと考えた時に、そういうことを思い浮かべました。
――会長になってどんなことをやりたいですか?
ラグビーの価値、文化を、もっと日本中に知って欲しいんです。それはラグビーだけじゃなくて、スポーツ全体に言えるんですが、魅力をもっと伝えたいですね。その先には日本代表がラグビーワールドカップで優勝して欲しいという思いもありますが、まずはもっと魅力を知って欲しいという思いがあります。会長になって看板だけを背負うのではなく、しっかりと社会にアプローチしていくためにも、一度社会に飛び込んでブランディングなどを経験して、どうやって価値を提供できるかを学びながらやらないとダメだと思ったので、ラグビー界からは一度離れることを決断しました。

◆僕らもファンと一体化
――そのラグビーの価値、魅力は何ですか?
教育観点から見て、素晴らしいと思います。例えば、チームワーク、リスペクト精神、ノーサイド精神。抽象的な言い方をすると、良い人間になるためのマインドセットのたくさんの要素がラグビーにはあると思います。
――そうすると自分の子どもにもやらせたいですか?
やらせたいと思います。別にトッププレーヤーにならないとしても、ラグビーを味わわせたいですね。
――ファンの皆さんへメッセージをお願いします
本当に応援ありがとうございました。ファンの応援には力があると、何度も思い知らされました。今いる後輩たちにもファンの皆さんの力を感じるくらい応援して欲しいと思いますし、その思いを結果として形で伝えられるように後輩たちが頑張るので、ぜひこれからもサンゴリアスへの応援をお願いいたします。それと、少しだけ僕の人生にも注目しておいてください。チョコレートを買いに来てください(笑)。鎌倉に3階建ての本店があって、小町通りにもお店があります。あとは東京駅の中や丸の内にもお店があります。ぜひメゾンカカオに来てください。
――ファンの声援が力になったのは2019年がいちばんですか?
いや、毎シーズン。2025-26シーズンで言うと、シーズン終盤に5連敗した時のどこかの試合で「すごい」と感じた時がありました。あとはプレーオフ準々決勝のリコー戦。
――準々決勝では最後はベンチにいたと思いますが、ベンチでもファンの声援は感じましたか?
ありましたね。最後のところは、ベンチの僕らもファンと一体化していたと思います(笑)。ファンと同じ目線で見ていました。その一体感が、選手の大きな力になります。

<続く>
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]