Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

セプテンバー・モーン September Morn

ロンリコ ホワイト 60ml
ライムジュース 15ml
グレナデンシロップ 1tsp.
シュガーシロップ 1tsp.
卵白 1個
シェーク/クープグラス
材料をシェークして、グラスに注ぐ

同名の曲と絵画がある

語ろうとすると面倒ながらも楽しく、加えてこの季節にふさわしいカクテルをご紹介する。音楽、絵画、バラの花に同名の作品が存在している。

それは「セプテンバー・モーン」(September Morn/9月の朝)という名のカクテルだ。

まずは音楽からはじめよう。随分と昔にカクテルブックでカクテル名を目にしたとき、すぐさまある曲が浮かんだ。

1980年、アメリカでニール・ダイアモンド(Neil Diamond/1941〜)が歌いヒットした「セプテンバー・モーン」である。その少し前、1978年にはフランスでジルベール・ベコー (Gilbert Bécaud/1924―2001) が『セタン・セプタンブル』(C’est en Septembre/それは9月のこと/邦題『故郷の9月』)を発表していた。フランス語版と英語版で歌詞の内容は違うけれど同じメロディーであり、二人の共作だった。

正直に言うと、若い頃のわたしにはあまり強い印象として残らなかった。しかしながらいま聴いてみるとなかなかの名曲である。

ジルベール・ベコーも素敵だ。“オリーブがなり、ぶどうが美味しそうな香りを放ち、砂は冷たくなる。誰もが本気で生きる9月”と故郷を歌う。

そしてニール・ダイアモンドもまたややハスキーに、“新しい朝が来るまで踊り明かした。9月の朝はあのときの気持ちを想い出させる”と、かつての男女のときめきを歌う。

余談だが、ニール・ダイアモンドはいまもアメリカで大人気だ。国民的歌手であり、1969年に彼がつくった「スィート・キャロライン」は、MLBをはじめとしたスポーツシーンやさまざまなイベントで大合唱される。

昨年にはニール・ダイアモンドのトリビュートバンドとして活動した夫婦の実話をヒュー・ジャックマンとケイト・ハドソンが演じた、映画『シング・サング・ブルー』(日本公開2026年4月)が話題となってもいる。

余談が過ぎた。話を戻そう。実のところ、当初気になった曲とカクテルの結びつきはなくて、行き着いたのは絵画『9月の朝』だった。

油彩画『9月の朝』(Matinée de Septembre)は、1911年にフランスの画家ポール・エミール・シャバ(Paul Emile Chabas/1869−1937)が描いたものだ。

湖であろう。湖面が靄っているのだろうか。早朝の柔らかい光のなか、浅瀬に裸の若い女性(少女のようでもある)が立っている。足首まで水に浸かったやや前屈みの姿は、冷たい水や空気に身がすくんだのか、それとも恥じらいなのか。見るものにさまざまな解釈を与える作品である。

いつかどこかで目にしたことがある、という方もたくさんいらっしゃるのではなかろうか。

翌1912年、パリのサロンで展示、発表され、賞も獲得したのだが、そこから所有者はさまざまに変わったようだ。まったく行方不明の時期もあったらしい。最終的には1957年に匿名でニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されている。

作品発表からすぐに複製がたくさん出回ることになる。1913年、アメリカで物議を醸す。シカゴの展覧会に出品されると、卑猥だとして市長が美術商を猥褻罪で告発するという事件となる。そこから新聞の風刺画として取り上げられ、検閲と芸術の議論が展開される。話題性からピンバッジ、絵葉書、カレンダーなどさまざまな形で複製されていった。

なかなか波乱に満ちた作品である。

絵画、バラ、カクテルの三角関係

さてカクテル「セプテンバー・モーン」。アメリカでシャバの絵画が大きな話題となった1913年頃に生まれた、という説がある。しかしながら確かな情報ではない。

ラムベースで、「ダイキリ」のアレンジ・カクテルである。また、当初はジンベースであったと書いた文献もあるが、そのレシピをわたしはまだ見つけられていない。

カクテルブックでわたしが現在とほぼ同じレシピを見つけたのは、連載第158回『歴史的な1冊の重み/デビルズ・カクテル』で紹介した、ヒューゴ・リチャード・エンスリンの『Recipes for Mixed Drinks』(初版1916年、第2版1917年)である。

そしてバラ。こちらも1913年にアメリカで発見されたものである。花弁数が多く、内から外に向かって淡く、薄くなっていくピンクのグラデーションが美しい。そのバラが『セプテンバー・モーン』と名付けられた。

涼風のような爽やかさを感じさせる、心地よい響きのネーミングと言えるだろう。しかしながらアメリカでシャバの絵画が議論を引き起こしている最中に誕生したバラである。命名に話題の絵画への意識があったのではなかろうか。そしてカクテルもまた絵画やバラと結びついているのではなかろうか。三角関係にあるのではないか、と勘ぐりたくもなる。

シェークによって卵白のメレンゲがグラスに浮かぶ様は絵画の湖面の朝靄を想い起こさせ、ピンクの液色はバラにつながる。

味わいだが、その卵白のふんわりとしたタッチが口当たりの良さを生んでいる。加えてホワイトラムとライムジュース4対1の比率は想った以上にドライな感覚があり、わたしは気に入ってしまった。

夏の終わりを告げる9月の朝のようなソフトタッチから少しばかり辛口の味わいがスーッと口中に滑り込んでくる。しかしながら単純にドライな「ダイキリ」の味わいという訳ではない。

ライムジュースの酸味の刺激をシロップが和らげて見事なバランスを生んでいる。これがカクテルに気品をもたらしているようだ。バラの色香に通じるものがある。

夏の名残の火照りが愛しいような、誰もいなくなった海を見つめているような、いろんな想いを巡らせてくれる素敵なカクテルである。是非ともこの9月に試していただきたい。

そこにニール・ダイアモンド、もしくはジルベール・ベコーの歌声が沁みてきたならば、最高のカクテル・タイムとなる。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

ブランドサイト

ロンリコ ホワイト
ロンリコ ホワイト

バックナンバー

第173回
ラーチモント
第174回
ジューン・バグ
第175回
エル・ディアブロ
第176回
バハマ・ママ

バックナンバー・リスト

リキュール入門
カクテル入門
スピリッツ入門