Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

エンドレス・ヴォヤージュ Recipe 1 Endless Voyage

ワールドウイスキー
碧Ao
2/4
ホワイトキュラソー 1/4
レモンジュース 1/4
シェーク/カクテルグラス
材料をシェークして、カクテルグラスに注ぐ

チャペル・ヒル Recipe 2 Chapel Hill

メーカーズマーク 2/4
ホワイトキュラソー 1/4
レモンジュース 1/4
シェーク/カクテルグラス
材料をシェークして、カクテルグラスに注ぐ

はじめにクラスタありき

オレンジの果皮の香味成分(果汁、果肉は不使用)と糖分を加えてつくられたリキュールをキュラソーと呼ぶ。17世紀後半にカリブ海の南、南米ベネズエラに近いオランダ領キュラソー島産のオレンジ果皮を使って生みだされたことに由来している。

無色透明のホワイトキュラソーの他にブルー、グリーン、レッドといった着色されたものがある。またオレンジキュラソーは基本的に樽熟成されたもので、淡いオレンジ色をしており、ホワイトキュラソーよりも香味に厚みが感じられる。

今回はベースのスピリッツは異なるものの、ホワイトキュラソー、レモンジュースあるいはライムジュースという共通した素材構成のカクテルについて私見を述べたい。

その共通するスタイルのカクテルを挙げてみよう。ブランデーベースには「サイドカー」がある。ジンベースは「ホワイト・レディ」、他はラムベースが「X.Y.Z.」、テキーラベースは「マルガリータ」、ウオツカベースは「バラライカ」と、お馴染みの名前ばかりである。

これらのカクテルは1920年前後から1930年代(「バラライカ」に関してはおそらく1950年代)にかけての誕生とされている。しかしながらレシピからすれば起源となるカクテルは19世紀には存在していた訳で、カクテル史においては突然の登場といった驚きはない。時の流れ、時の蓄積の中での派生というか、必然といえる進化、洗練ではなかろうか。

1850年代に「ブランデー・クラスタ」(連載147回参照)が誕生した。このカクテルはまずスタイリングに目を奪われるが、ドリンクとしてはブランデーにオレンジキュラソー、少量のマラスキーノリキュール、レモンジュース、アロマティックビターズをシェークしてつくられていた。

ジェリー・トーマスの『The Bartender Guide』(1862年初版刊行)に掲載され、そこには「ウイスキー・クラスタ」「ジン・クラスタ」の紹介もある。世界のカクテル識者の多くが、クラスタを「サイドカー」や「マルガリータ」などにつながる原点と語っている。

また、レモンジュースを使用する点では、この初版本に「ブランデー・サワー」「ジン・サワー」が掲載されており、早い時点でサワー系カクテルは確立されていた。

トーマスの初版には他にも興味深いリキュールづくりの解説がある。つくり方の詳細は省くが薄切りにしたオレンジの皮をウイスキーに漬け込み、シロップを加えたりしてつくる「イングリッシュ・キュラソー」というものだ。クラスタを含めてウイスキーとオレンジの組み合わせはかなり早い段階からあったことが伺える。

1860年代になると「ブランデー・デイジー」(連載123回参照)が誕生した。トーマスのカクテルブック第2版(1876年)にはブランデーの他にウイスキー、ジン、ラムをベースにしたデイジーの掲載がある。当時のレシピはそれぞれのスピリッツにレモンジュース、オレンジコーディアル(オレンジと砂糖のアルコール浸漬/いわゆるオレンジリキュール的なもの)、ガムシロップを加えてシェークするものだ。これも現在ではクラスタの影響を受けたものである、と語られている。

こうした流れのなかから、やがてスピリッツ、ホワイトキュラソー、レモンジュースのレシピが生まれたと考えられる。

発見の旅はつづく

では今回、ウイスキーをベースにホワイトキュラソー、レモンジュースという構成のカクテルを紹介する。面白いことにスコッチウイスキーがベースの場合は「サイレント・サード」、アメリカンウイスキー(バーボンまたはライ)がベースになると「チャペル・ヒル」と呼び方が変わる。

まず「サイレント・サード」。考案者の愛車のサードギア(トップギア)がとてもスムーズで静かだったことから名付けられたという説がある。これに関しては、わたしは静かなる第三者に徹している。

誕生は1930年代のようで、文献初出はおそらく1937年にロンドンで刊行された『Café Royal Cocktail Book』(連載155回参照)ではなかろうか。当時のレシピは1:1:1であった。現在は2:1:1が主流である。

ブランデーベースの「サイドカー」の甘味と酸味がしなやかに調和した味わいとは異なり、ベースとなるウイスキーの特性によって香味の針の触れ方が大きく違ってくるからなかなかに楽しい。

穏やかなウイスキー感を好むならば「バランタイン ファイネスト」のような滑らかでバランスの取れたブレンデッドウイスキーがいいだろう。同じスコッチのブレンデッドでも「ティーチャーズハイランドクリーム」になるとまた印象が違ってくる。またスモーキーさとパンチのあるシングルモルト「ラフロイグ10年」をベースにするとさらに別物の印象がある。

最近、わたしはスコッチではなくワールドウイスキー「碧Ao」をベースして楽しんでいる。これが面白いのだ。オレンジやレモンの柑橘系の素材の味わいが世界五大ウイスキーの何と、またどんな特性と反応しているのだろうか。なんともいえない心地よいほろ苦さがある。甘夏というか、八朔というか和の柑橘類が持つニュアンスがあるのだ。とても好ましい。

これをわたしは「エンドレス・ヴォヤージュ」と命名した。海を超えたブレンドから生まれたワールドウイスキー「碧Ao」に引っかけたものだ。カクテルは果てしない航海なのである。

ホワイトキュラソーにレモンジュースという共通の素材構成でありながら、ブランデーやジン、ラム、ウオツカ、そしてウイスキーとベースのスピリッツが変われば香味は大きく異なる。しかもウイスキーの場合、ブランド特性によって味わいの振り幅がかなり大きい。

ベースとなるスピリッツの違いは異なる世界を知る旅ともいえ、カクテルは終わりのない発見の旅ではなかろうか。

最後にバーボンベースの「チャペル・ヒル」をご紹介する。名前はおそらくアメリカはノースカロライナ州にある学園都市チャペルヒルのことではなかろうか。これはわたしの勝手な推測にしか過ぎない。とはいえ、町の中心部はかつてイギリス国教会の小さな礼拝堂のある丘であったらしい。

おすすめするのはクラフトウイスキー「メーカーズマーク」をベースにした「チャペル・ヒル」である。

シルキーな「メーカーズマーク」にはオレンジのような香味が潜む。これがホワイトキュラソー、レモンジュースと溶け合い、バーボンのコクを感じさせながらもフルーティーな柔らかな味わいが生まれる。

是非「碧Ao」とともに一度お試しいただきたい。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

ブランドサイト

ワールドウイスキー 碧 Ao
ワールドウイスキー 碧 Ao

メーカーズマーク
メーカーズマーク

バックナンバー

第161回
ジン・バジル・スマッシュ
第162回
ミドリ・サワー
第163回
シティ・
コーラル
第164回
チチ

バックナンバー・リスト

リキュール入門
カクテル入門
スピリッツ入門