オレンジの果皮の香味成分(果汁、果肉は不使用)と糖分を加えてつくられたリキュールをキュラソーと呼ぶ。17世紀後半にカリブ海の南、南米ベネズエラに近いオランダ領キュラソー島産のオレンジ果皮を使って生みだされたことに由来している。
無色透明のホワイトキュラソーの他にブルー、グリーン、レッドといった着色されたものがある。またオレンジキュラソーは基本的に樽熟成されたもので、淡いオレンジ色をしており、ホワイトキュラソーよりも香味に厚みが感じられる。
今回はベースのスピリッツは異なるものの、ホワイトキュラソー、レモンジュースあるいはライムジュースという共通した素材構成のカクテルについて私見を述べたい。
その共通するスタイルのカクテルを挙げてみよう。ブランデーベースには「サイドカー」がある。ジンベースは「ホワイト・レディ」、他はラムベースが「X.Y.Z.」、テキーラベースは「マルガリータ」、ウオツカベースは「バラライカ」と、お馴染みの名前ばかりである。
これらのカクテルは1920年前後から1930年代(「バラライカ」に関してはおそらく1950年代)にかけての誕生とされている。しかしながらレシピからすれば起源となるカクテルは19世紀には存在していた訳で、カクテル史においては突然の登場といった驚きはない。時の流れ、時の蓄積の中での派生というか、必然といえる進化、洗練ではなかろうか。
1850年代に「ブランデー・クラスタ」(連載147回参照)が誕生した。このカクテルはまずスタイリングに目を奪われるが、ドリンクとしてはブランデーにオレンジキュラソー、少量のマラスキーノリキュール、レモンジュース、アロマティックビターズをシェークしてつくられていた。
ジェリー・トーマスの『The Bartender Guide』(1862年初版刊行)に掲載され、そこには「ウイスキー・クラスタ」「ジン・クラスタ」の紹介もある。世界のカクテル識者の多くが、クラスタを「サイドカー」や「マルガリータ」などにつながる原点と語っている。
また、レモンジュースを使用する点では、この初版本に「ブランデー・サワー」「ジン・サワー」が掲載されており、早い時点でサワー系カクテルは確立されていた。
トーマスの初版には他にも興味深いリキュールづくりの解説がある。つくり方の詳細は省くが薄切りにしたオレンジの皮をウイスキーに漬け込み、シロップを加えたりしてつくる「イングリッシュ・キュラソー」というものだ。クラスタを含めてウイスキーとオレンジの組み合わせはかなり早い段階からあったことが伺える。
1860年代になると「ブランデー・デイジー」(連載123回参照)が誕生した。トーマスのカクテルブック第2版(1876年)にはブランデーの他にウイスキー、ジン、ラムをベースにしたデイジーの掲載がある。当時のレシピはそれぞれのスピリッツにレモンジュース、オレンジコーディアル(オレンジと砂糖のアルコール浸漬/いわゆるオレンジリキュール的なもの)、ガムシロップを加えてシェークするものだ。これも現在ではクラスタの影響を受けたものである、と語られている。
こうした流れのなかから、やがてスピリッツ、ホワイトキュラソー、レモンジュースのレシピが生まれたと考えられる。
















