Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

エル・ディアブロ Recipe June Bug

サウザ シルバー 40ml
ルジェ カシス 15ml
ライムジュース 15ml
ジンジャーエール 適量
シェーク/タンブラー
ライムジュースまでをシェークして、氷を入れたグラスに注ぎ、冷やしたジンジャーエールを満たす。
好みでスライス、あるいはカットしたライムを添える

悪魔のイメージ

悪魔という名のカクテルがある。「エル・ディアブロ」(El Diablo/スペイン語)。このカクテル名を目にしたり耳にしたりすると、わたしは一つのモノクロ映画を想い出してしてしまう。

30歳の高倉健が金田一耕助を演じた『悪魔の手毬唄』(1961)である。

正直な感想を言うと、つくりがチープだ。さらには原作とかけ離れ過ぎている。健さん金田一はサングラスをかけてスポーツカーに乗って登場する。女性秘書を伴っている。人を殴ったりもする。

50年前、1970年代後半の横溝正史作品人気を知っている世代ならば、この健さん金田一を観てしまったショックはご理解いただけるはずだ。

市川崑監督で石坂浩二が金田一を演じた。ほぼ同時期に、TVで横溝正史シリーズがはじまり、古谷一行も話題となった。他にもいろんな役者が金田一耕助を演じた。映画では渥美清、西田敏行といった名優たちの作品もある。TVにおいてはたくさんの金田一演者がいる。

チューリップ帽というのか、お釜帽というのか、くたびれた帽子を被り、下駄履きにトランクを提げたむさくるしそうな和装姿の金田一のイメージは、石坂、古谷で構築されたといえる。この確立されたキャラを味わってから健さん金田一の存在を知ると愕然とする。

丁寧に映像を創り上げた市川作品とは大違いだし、石坂の凡庸で、さえなくて、頼りなさそうな独特の味わいはまったくない。古谷にも彼なりの飄々とした姿があった。原作の香りを纏ったこの二人の演者で金田一の姿は出来上がったのだと教えられることになる。

映画に詳しい友人にこの話をぶつけると、「比較しないほうがいい。別物なんだ。撮られた時代ってのがあるから、それがまた面白いんじゃないのか。最初の金田一は戦後すぐにつくられ(1947)、スーツ姿の片岡千恵蔵だぜ。どう捉えるかだな」と鷹揚な答えが返ってきた。真の映画ファンはこころが広いんだな、と想いつつも、わたしは健さん金田一の映画そのものが悪魔だと実感してしまったのだからどうしようもない。

健さんイコール『悪魔の子守唄』になり、悪魔という文字を見たり聞いたりすると健さん金田一が脳内スクリーンに浮かび上がる。バーでは、「エル・ディアブロ」と耳にすると反射的に健さん金田一に直結してしまう。しばらく、頭のなかに悪魔的な健さんがいる。

カクテルに罪はない。罪は高倉健が国民的大スターになったことにある。健さん本人は『悪魔の手毬唄』で演じたことなど忘れてしまっていたようだ。その頃は、「とにかくいっぱい撮影があった」と語っていたらしい。

はたと考える。健さん金田一を認めないわたしが罪なのか、と。

ラムからテキーラ

さて、名前とは印象が異なるのがカクテル「エル・ディアブロ」だ。色調に悪魔的な感覚はある。しかしながら味わいのほうはなかなか人懐っこい悪魔だ。ジューシーさがあり、口当たりがよくて、気をつけなくてはいけない味わいだから悪魔なのだろう、と誰もが想うのではなかろうか。

テキーラ「サウザ シルバー」をベースにリキュールの「ルジェ クレーム ド カシス」、ライムジュース、そしてジンジャーエールというスタッフで悪魔を生みだしてみた。

良質な原料ブルーアガベ特有の穀物用の甘いコクがあるなか、心地よい柑橘系の酸味が潜んだ「サウザ シルバー」に、フルーティーな「ルジェ カシス」の味わいが寄り添い、そこにライムジュースが加わることでジューシーさを高めている。ライムジュースの酸味はジンジャーエールの甘さを抑える役割も担っていて、意外にしなやかな飲み口だ。

アガベのニュアンスがそよぐ感覚もあり、カシスが持つベリー系のタンニンの苦味と相まって重層的な複雑味を楽しめる。

ライムではなく、レモンジュースを使うレシピもある。レモンの強い酸味はよりスッキリとした味わいへと導く。


悪魔のカクテルブック初登場は1930年のこと。ただしブランデーベースであり、他にはドライベルモット、キュラソー、ビターズというレシピで『WORLD DRINKS and How to Prepare Them』(William T. Boothby/サンフランシスコのミクソロジスト)に掲載されたものになる。カクテル名は単に「Diablo」だった。

つづいて1940年、シカゴの酒類販売店経営者が出版したカクテルブック『The How and When』 (Hyman Gale & Gerald F. Marco’s)のトロピカル・スペシャリティーズの項に「Diablo」があり、こちらはラムベースで、ロンリコ ホワイトにクレーム ド カシス、ライムジュース、ジンジャーエールのレシピで掲載されている。

これはプエルトリコのラムの名門、ロンリコ社が仕掛けたマーケティング資料から転載されたものである。その資料の年代は不明のようだが、カクテル「Diablo」は1940年以前に存在していたということになる。

アメリカ禁酒法撤廃後(1933)にTikiムーブメント(第164回『ティキを感じろ』参照)が起こったが、それに合わせてロンリコ社によって開発されたレシピらしい。

このロンリコ社の「Diablo」のベースであるラムをテキーラにアレンジしたのがTikiの潮流を生んだ一人、ビクター・ベルジェロンのようだ。彼はレストラン兼Tikiバーであるトレーダー・ヴィックスをチェーン化した人物である(第164回参照)。

1946年、彼は『Trader Vic's Book of Food and Drink』を著した。そこにはテキーラベースで、「Mexican El Diablo」とのカクテル名が印刷され、“トレーダー・ヴィクス・オリジナルカクテル”との明記がある。

面白いことに1953年、エスクァイア誌に「フラメンコダンサー」の名で同じレシピが掲載されたりもしているようだ。

そして1968年の『Trader Vic's Pacific Island Cookbook』にはカクテル名からメキシカンが消え、ついに「El Diablo」となった。

最後に、レモンを使うレシピについてお伝えしておこう。1984年刊行の『ザ・サントリーカクテルブック』(通称“2001カクテルブック”)を見ると、「El Diablo」はレモンジュース、「Mexican El Diablo」はライムジュースを使用するレシピで、2品が掲載されている。

はてさて、これが現在のレシピとなるまでの変遷である。カクテル悪魔もいろいろと事情を抱えて大変だったのだ。

でも、とても美味しい悪魔なんだな。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

ブランドサイト

サウザ シルバー
サウザ シルバー

ルジェ クレーム ド カシス
ルジェ クレーム ド カシス

バックナンバー

第171回
グルーム・
リフター
第172回
フレンチ・
スプリング・
パンチ
第173回
ラーチモント
第174回
ジューン・バグ

バックナンバー・リスト

リキュール入門
カクテル入門
スピリッツ入門