Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ジューン・バグ Recipe June Bug

ミドリ 30ml
ヘルメスバナナ 30ml
マリブ 30ml
パイナップル
ジュース
120ml
ライムジュース 30ml
シェーク/ハリケーングラス
材料をシェークしてクラッシュドアイスを詰めたグラスに注ぎ、ストローを添える
好みでパイナップルのくし切りやマラスキーノチェリーを飾る
*多くの文献で3〜4cm大のクラックドアイスを使用しているが、よりキーンと冴えた涼を求めるならばクラッシュドアイスがおすすめ

太陽の恵みたっぷりのジューシーな味わい

逃れようにも逃れられない、暑い熱い季節がまたやってくる。ヤングたちにとっては胸躍る日々なのだろうか。

遠い昔のわたしはそうであった。何かが起こりそうな、ひと夏の恋ぐらいは経験できそうな期待感を抱いて、海や山に出かけ、街を闊歩していたものなのだが、ところが年を重ねるとどうだ。夏という言葉に浮かれることがまったくない。リゾート地へと向かうことさえも億劫で、盛夏になる前の熱射、熱波を浴びただけで行動意欲が干からびてしまう。

それでもバーに辿り着けばこころ安らぐ。茹だるようなコンクリート熱から身を守れる場所であり、キーンと冷えたスタンダードやリゾート気分に浸れるトロピカルなカクテルが待っている。

さて、今年の夏は何を試してみようか。ちょっと名前がヘンテコリンなカクテル選んでみた。「ジューン・バグ」(June Bug)。太陽の恵みをたっぷりと感じることのできるジューシーさあふれる甘美なカクテルである。

連載第164回『ティキを感じろ』で「チチ」を紹介した。そのなかで述べたトロピカルなTikiムーブメントよりも「ジューン・バグ」が生まれた時代は新しい。愛されたのはクラフトカクテルやヴィンテージカクテルが人気となる前の1990年代。そしていま再びロンドンあたりでよく飲まれ、復活の気配があるらしい。

メロンリキュール(MIDORI)、バナナリキュール(ヘルメスバナナ)、ココナッツリキュール(MALIBU)のリキュール3種と、それにフレッシュなパイナップルジュース、ライムジュースをシェークする。レシピからはティキカクテル的な味わいが浮かび、ビーチサイドで飲む甘いドリンクを想像することだろう。

ところが甘さはさほど気にならず、おとなし目ではあるが爽快さを感じられる。見事なバランスに仕上がった大人のミックスジュースである。

フレッシュなライムジュースがいい役割を担っているのではなかろうか。官能的なフルーツの華やかさにシトラスの青っぽい酸味がうまく馴染んでいて、濃密な夏時間にそよぐ海の潮風、山の緑風といった涼やかさをもたらす役割を担っているようだ。

このカクテルが誕生した年月と場所は判然としないのだが、考案された店名だけはわかっている。それはアメリカのカジュアルダイニングレストランチェーン、TGIフライデーズである。

訪ねたことはなくても名前を知っているという方は多いはずだ。最初の店は1965年にニューヨークはマンハッタンに開店した。現在は世界60カ国以上で店舗展開していて、日本にもフランチャイズ店がいくつもある。

カクテル「ジューン・バグ」はそのTGIフライデーズにおいて、1980年代後半にアメリカはミシガン州の店舗で生まれた、または韓国は釜山にある店舗で1990年代に生まれた、という説がある。申し訳ないがここでの詳細は省かせていただく。

コガネムシじゃなくて、ピーター・パン

店名のTGIは、“Thank God It’s Friday‘s”(金曜日でよかった/やっと金曜日だ)のアタマの文字を取ったもので、日本で言えば“花金”に当たる。創業者のアラン・スティルマン(Alan Stillman)が学生時代によく口にしていた言葉だったらしい。彼は『ここは、いつも金曜日』とのコンセプトを掲げて営業をはじめた。

スティルマンは女性客を取り込んでセンセーションを巻き起こす。これは社会貢献にもつながった。

初号店の地域はさまざまな職業の独身女性が多く住んでいる場所だった。近辺のアパートには航空会社の客室乗務員が480人住んでいたという。

開店当時の1960年代、独身女性が気軽に集まり、安心して楽しい時間を過ごせるような店はなかった。明るくホスピタリティにあふれ、気が利いた料理と若いバーテンダーたちが次々とカクテルを提供し、開店から1週間で近隣住民、そして独身女性客を熱狂させたという。

いまでは男女を問わず親しい仲間が集う社交場として親しまれているが、レディースナイトをいち早く導入した店であり、かつてはシングルズバ―の先駆け的存在でもあった。

もう一つ、映画『カクテル』(1988公開)の話も外せない。物語の舞台となったのはTGIフライデーズで、主演のトム・クルーズがボトルをトスしたりスピンさせたりする曲芸的なフレアバーテンディングで魅了した。また、ザ・ビーチ・ボーイズの主題歌『Kokomo』は全米、全豪のヒットチャートで1位に輝いている。内容はどうあれ、酒類業界、音楽業界に多大な影響を与えた偉大な映画である。

TGIフライデーズでは、1985年頃からカリフォルニア州のマリナ・デル・レイの店舗でフレアの大会を開いていたようだ。そこからパフォーマンスのビデオを製作したりしてフレアの裾野を広げていったらしい。こうした背景から、映画においてはトム・クルーズにフレアバーテンディングの演技指導をおこなうことになる。

そこで世界各国の店舗に所属するバーテンダーを集め、誰が指導を担うかを決めるための『TGI FRIDAYS Olympic Bartending Championship』を開催したそうだ。この大会以降もフレアの競技会は継続されているらしい。

と、ここまでカクテル名に触れないようにしてきたが仕方がない。ちょっとだけお伝えする。6月頃によく見られる甲虫、緑色したコガネムシのことを英語ではJune Bugというそうだ。

カクテル名の説明に、考案者の渾名(あだな)だったと述べてある文献もあるが、ほんとかよ、虫っていうのもなんだかなー、とわたしは納得がいかないまま、カクテル「ジューン・バグ」をストローからチュウチュウ吸い上げて飲んでいたのである。するとトロピカル的な味わいもあって、かつてアイドルであった榊原郁恵が歌った『夏のお嬢さん』(1978)がアタマのなかに流れてきたのだった。

ファンでもなかったのに郁恵ちゃんの顔を想い浮かべながら飲んで、そして歌を口ずさんでいると、おおっと、ニンマリしてしまった。

郁恵ちゃん、ミュージカル『ピーター・パン』の初代ピーター・パン役で活躍していたではないか。そんでコスチュームは緑色。コガネムシよりずっといいじゃんか、と楽しく飲めたのだった。

だからといってカクテル名は「ピーター・パン」でどうか、って言ったら無視されるに決まっている。虫だけに、ね。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ミドリ メロンリキュール
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マリブ
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