Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ジン・バジル・スマッシュ Recipe 1 Gin Basil Smash

ビーフィータージン 45ml
レモンジュース 15ml
シュガーシロップ 10ml
スイートバジル 16葉程度
シェーク/ロックグラス
シェーカーにバジルの葉とシロップ、レモンジュースを入れ、馴染ませるようにペストルで軽く押し込むようにタッチする。ジンと氷を加えてシェークし、バーズネスト(茶漉し)で漉しながらクラッシュドアイスを入れたグラスに注ぎ、バジルの葉を飾る

ウイスキー・スマッシュ Recipe 2 Whisky Smash

ジムビーム 45ml
レモンジュース 15ml
シュガーシロップ 10ml
スペアミント 16葉程度
シェーク/ロックグラス
シェーカーにミントの葉とシロップ、レモンジュースを入れ、馴染ませるようにペストルで軽く押し込むようにタッチする。ウイスキーと氷を加えてシェークし、バーズネストで漉しながらグラスに注ぐ。こちらはオン・ザ・ロックで楽しむ。スライスしたレモンを入れ、最後にミントの葉を飾る

グリニッジビレッジの夜風

フレッシュなバジルの葉が手近になったのは、ここ20〜30年ほどのことではなかろうか。かつては近所のスーパーマーケットで簡単には入手できなかった。いまのように流通していなかったはずだ。

料理に使われるジェノベーゼのソースはバジルの葉を使うとわかっていたはずだが、しなやかで鮮やかな緑の葉を想い浮かべることはなかった。

若かった頃のわたしがバジルと聞いてイメージしたのはニューヨークのグリニッジビレッジにあったジャズクラブ、Sweet Basil(スイート・ベイジル/1974−2001)だった。一度は行ってみたい、と憧れた。

1987年だったか88年だったか、わたしは20代を終えようとしていた。日本がバブル期、経済狂想曲のクライマックスへと向かっている最中にニューヨークのSweet Basilの前にやっと立てた。しかしながら店名ロゴにも、どこにもグリーンはない。緑のバジルのイメージが湧くはずもない。ただ、初秋の夜風が心地よかったことを覚えている。

アート・ブレイキー(Art Blakey/1919ー1990)率いるザ・ジャズ・メッセンジャーズのライブだった。ブレイキーのドラミングを目の前、ほんのわずかな距離で聴けたことだけで歓喜した。

すでにブレイキーは体力的な衰えを隠せなかった。晩年はSweet Basilを拠点にするようになっていたが、あの夜から2、3年後に彼は肺癌で亡くなってしまう。

人間の感情や記憶はおかしなもので都合よくできている。ひとときながら彼の晩年の姿を忘れることができる。いまでも若くて元気な頃のプレイをレコードやCDで聴くことができるし、動画も観られるからだ。そして新鮮なバジルが簡単に入手できるようになり、美しい緑の葉を目にしたりするとニューヨークのジャズクラブの記憶がしばしばよみがえったりもする。ジャズとバジルがリンクするようになったのだ。

これにはひとつのきっかけがある。15年以上も前のこと、イタリアンレストランではなかったが、洋食店でジェノベーゼのパスタを食べていたらジャズ・メッセンジャーズの『モーニン』が店内に流れた。わたしはスパゲッティをフォークにクルクルと絡めながら笑いだしてしまった。

それからだ。いつもとまではいかないまでも、ジャズを聴くとバジル・ソースが恋しくなったりもするし、ジェノベーゼの文字を見ると何かしらジャズに関する記憶がよみがえってきたりする。

そしてここしばらくはバジルを使ったカクテルからジャズを連想するようにもなった。古くて新しいカクテル「ジン・バジル・スマッシュ」の軽快で爽やかなテイストが生む心地よさがジャズへと導いてくれ、アタマのなかはクールなビートに揺れるライブハウスとなる。

スペアミントからスイートバジルへ

2008年、ドイツはハンブルク。Le Lion(ル・リオン)のヨルグ・マイヤー(Jörg Meyer)氏によって「ジン・バジル・スマッシュ」は考案された。彼は「ウイスキー・スマッシュ」からヒントを得たという。

まったくもって温故知新のカクテルである。「ウイスキー・スマッシュ」はジェリー・トーマスが1862年に著した「The Bartenders Guide」初版にすでに掲載されている。かなり古くから飲まれていたことがわかる。

スマッシュの項にはブランデーベースとジンベースも掲載されており、「ミント・ジュレップ」と同じ方法でつくり、オレンジや季節のベリー類を飾るといった記述がある。

かつて「ミント・ジュレップ」がライウイスキーやバーボンウイスキーだけでなく、ブランデー、ラム、クラレット、マデイラなどさまざまなベースでつくられていたように、スマッシュもまたブランデーやラム、ジンなどのベースで楽しまれていた。

ラムの場合はモヒートといった派生もある。

スマッシュには潰すという意味がある。ミントの葉を潰して香り立たせる処方に由来している。「ウイスキー・スマッシュ」は18世紀には飲まれていた「ミント・ジュレップ」をアレンジしたものであり、その小型版というかオン・ザ・ロック・スタイルで味わうものだ。

そしてこの「ウイスキー・スマッシュ」は「ミント・ジュレップ」の影に隠れつづけていた。脚光を浴びるようになるには1990年代まで待たなければならなかった。

1987年から1999年にかけて、ニューヨークのロックフェラー・センターのレインボールームでチーフバーテンダーを務め上げたデール・デグロフ(Dale DeGroff)氏がこの古典的カクテルを提供しはじめたことがきっかけだと言われている。ジェリー・トーマスのカクテルブックにはレモンジュースは使われていなかったが、彼はフレッシュなフルーツを使って仕上げることで現代的な華やかさを生みだしたのである。

2002年にデグロフ氏が刊行した『The Craft of The Cocktail』では、ベースを「メーカーズマーク」、レモン、そしてシュガーシロップに代えてオレンジキュラソーを使うことをすすめている。「メーカーズマーク」の味わいを意識したアレンジといえるだろう。さらにはピーチを使った「ウイスキー・ピーチ・スマッシュ」も紹介している。

マイヤー氏はこのデグロフ氏のアレンジに触発されたのである。彼はミントの葉ではなくバジルの葉を選び、ベースのスピリッツをジンとした。

当初は「ジン・ペスト」(Gin Pest)と呼んでいたそうだ。シェーカーの底に入れ込んだバジル、レモンジュース、シュガーシロップを馴染ませるために、ペストルを押し当てることからのネーミングだった。

ところが人気が高まり話題になったことから、バジルとカクテル分類名を付けたわかりやすい呼び名となったらしい。

21世紀誕生のカクテルとしては2005年考案の「ペニシリン」(第110回『原点回帰の刺激』参照)と並びスタンダードの地位を確立しそうだ。ヨーロッパでは高い人気を保っている。

味わいにはジン・サワーにスイートバジルが爽やかにそよぐといった心地よさがある。バジルがとても巧く寄り添っているのだ。味わいだけでなく、とくにこれからの季節にふさわしい色感がある。

最後にクラシックな「ウイスキー・スマッシュ」もご紹介しておこう。こちらはバーボン、あるいはライウイスキーがおすすめだが、今回は「ジムビーム」とレモンジュースで試してみた。しっかりとしたバーボンのコクにミントのしなやかな刺激が響いてくる。19世紀半ば過ぎ、ジェリー・トーマスはちゃんとスペアミントを指定している。素晴らしい。

この「ジン・バジル・スマッシュ」「ウイスキー・スマッシュ」ともにクールである。自由な発想から新たな味わい、響きが生まれる。

カクテルはジャズだな。あらためてそう想わせる。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ジムビーム
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