Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ニューヨーク・サワー Recipe 1 New York Sour

ノブクリーク ライ 40ml
レモンジュース 20ml
シュガーシロップ 2tsps.
赤ワイン 15ml
シェーク/ロックグラス
シュガーシロップまでの材料をシェークして、氷を入れたグラスに注ぐ。赤ワインをフロートさせ、レモンピールを絞り、飾る

グリニッジ・サワー Recipe 2 Greenwich Sour

ノブクリーク ライ 40ml
レモンジュース 20ml
シュガーシロップ 2tsps.
卵白 1個分
赤ワイン 15ml
シェーク/ロックグラス
卵白までの材料をシェークして、氷を入れたグラスに注ぐ。赤ワインをフロートさせる。

ニューヨークの骨を集める

サワー(Sour)とは、酸っぱい。カクテルの分類においては、ブランデーやウイスキーなどのスピリッツをベースに、レモンジュースをはじめとした柑橘類の爽やかな酸味と砂糖といった甘みを加えてつくるものとされる。トラディショナルでシンプルなスタイルである。

何度も述べてきたが、ジェリー・トーマスが1862年にニューヨークで刊行した『The Bartender Guide』には、すでに「ブランデー・サワー」「ジン・サワー」が掲載されている。

ほんの少しばかり遅れて文献に登場するのが「ウイスキー・サワー」で、いまのところ1870年が初出とされている。アメリカ・ウィスコンシン州の新聞『Waukesha Plain Dealer』(ウォキショー・プレーン・ディーラー)に言及があるのが最古とされている。

今回はウイスキーベースのサワーのなかでも、わたしにとって、とてもこころに響くカクテル「ニューヨーク・サワー」を紹介しよう。日本ではあまり知られていないが、アメリカではよく飲まれている。

何故こころに響くのか。ちょっとばかり長い話になる。

サワーの歴史を調べていたら、「ウイスキー・サワー」が人気となったのがアメリカ禁酒法時代(1920−1933)であったと知る。この間、乱立したのがもぐり酒場(Speakeasy)だった。人々は隠れ家で官憲の目を盗んで酒を飲んでいた。そして禁酒法が解禁されたときには「ウイスキー・サワー」はスタンダードの地位を固めていたのである。それを知ったとき、もぐり酒場の佇まいが記憶のスクリーンに映し出されたのだった。

1987年にわたしはマンハッタンのグリニッジ・ヴィレッジの酒場を取材した。名高い『チャムリーズ』(Chumley’s)にも行った。1922年、まさにもぐり酒場として開業した店である。

ここにはユージン・オニール、E.E.カミングス、F.スコット・フィッツジェラルド、アーネスト・ヘミングウェイ、スタイン・ベック、サリンジャーといった作家たちが顔を見せた。俳優、画家、ミュージシャン、ダンサーたちもやってきた。1950年代には、60年代のカウンターカルチャー運動のヒッピーたちに影響を与えたビートニック作家たちが集った。

長く愛されたが、2007年に建物が老朽化して閉店を余儀なくされる。たしか10年ほど経って、新しいオーナーで再出発したと噂で聞いた。しかしながら新型コロナのパンデミックの影響で完全に幕を閉じたらしい。

このもぐり酒場の記憶から、同じグリニッジ・ビレッジにあるギター・ショップ『カーマイン・ストリート・ギター』が結びついたのだった。

リクレイムドウッド(Reclaimed Wood/古材再利用)・ギターで知られる店主のリック・ケリーは、古い建物の取り壊しや改修工事がされている現場へ行き、無料で廃材をもらってくる。いわく付きの宿屋やミュージシャンたちが定宿にしたホテル、歴史ある酒場、ニューヨーク最古の教会トリニティ・チャーチなど歴史的建造物の古材を使ってギターをつくっているのだ。

リックは『チャムリーズ』の廃材からボブ・ディランのギターを製作している。ディランも『チャムリーズ』を愛した一人で、そのギターのボディに付いていたシミを「俺がこぼしたビールのシミだ」と言ったそうだ。

古材を“ニューヨークの骨”、そして“歴史の目撃者”とリックは呼ぶ。ニューヨークの文化を育んだ大切な骨組みの一つであり、傷跡や焦げ跡、ヤニやシミ、すべてに歴史があり、材には物語が宿っていると語る。

リックはボブ・ディランをはじめ故ルー・リード、パティ・スミスにキース・リチャーズなど名高いギタリストに愛され慕われてきている。

新たな息吹をもたらすもの

リックの店の名を冠した『Carmine Street Guitars』(2018年制作/日本公開2019年)という映画がある。工房を兼ねた店の月曜日から金曜日までの5日間のドキュメンタリーだ。毎日大物ミュージシャンが訪れる。

リックは彼らと淡々と接している。大金とか名声を得たいがためでなく、愛するもの、創りたいものをひたすらつくっている職人の姿がある。

金曜日、ギタリストのチャーリー・セクストンがやって来る。彼が手にしたギターは、なんと1854年創業の『マクソリーズ・オールド・エール・ハウス』(末尾関連エッセイより『バーボンウイスキー・エッセイ52回/ウエスタン・サルーン(2)』参照)の床材から生まれたギターだった。リックによると「160年分の飲みこぼしが染み込んでいる」ということになる。

こうしたリックのギターづくりから、禁酒法とカクテル「ウイスキー・サワー」、もぐり酒場『チャムリーズ』が結びつき、無性に飲みたくなったのが「ニューヨーク・サワー」だったのである。“ニューヨークの響き”という感覚的なものとわたしのこころがリンクした、としか想いを伝えようがない。

ロック・スタイルに仕上げるもので、ウイスキー(ライまたはバーボン)、レモンジュース、シュガーシロップをシェークして氷を入れたグラスに注ぎ、赤ワインをフロートさせ、レモンピールを絞り、飾る。また卵白を加えてシェークして、赤ワインをフロートというレシピもある。

1880年代のシカゴで誕生したといわれている。当初は「コンチネンタルサワー」「サザン・ウイスキー・サワー」と呼ばれていたらしい。「ニューヨーク・サワー」としての文献初出は禁酒法が明けた1934年に刊行された『Mr. Boston Bartender’s Guide』のようだ。

ベースは「ノブクリーク ライ」をおすすめする。まずは卵白なしで。口にすると赤ワインのタンニンのニュアンスをかすかに感じるものの、たちまちライウイスキーのスパイシーさにレモンの酸味と甘みを抱いた風味がしなやかに溶け込んでくる。口当たりがよく、しかも複雑味があるから楽しい。

近年は卵白を使うレシピが愛されているらしい。マンハッタンの酒場では「グリニッジ・サワー」と呼ばれていると聞いた。卵白が加わるとフルーティーな滑らかさが強調され、柔らかくふくよかな感覚に包まれる。人気が高まっている理由が理解できる。

ちなみにバーボンをベースにすると甘くまろやかなバニラの風味が潜み、これもまた心地よい味わいだ。

見た目にも美しい「ニューヨーク・サワー」と「グリニッジ・サワー」。赤ワインがビターとは異なる香味感覚をもたらし、下部の「ウイスキー・サワー」にフルーティーでありながら複雑味、重層感をもたらしている。

ニューヨークの歴史的建造物を支えた古材がリックの手によってギターという楽器に生まれ変わり、新たな響き、音色として輝く。それはわたしに、「ウイスキー・サワー」に赤ワインをフロートすることにより新たな味覚の響きをもたらす「ニューヨーク・サワー」を想起させるのだ。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ノブ クリーク ライ
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