バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

ウエスタン・サルーン(2)

19世紀アメリカの酒場について探っていくと、東部での国家誕生から西へ西へと拡大した歴史を再認識する。まずは東部ありきだったといえる。

今回は希有なパブの話からはじめよう。19世紀半ばにアイルランド移民がニューヨーク、マンハッタンで開業したアイリッシュパブで、貴重な文化遺産といえよう。

この3月、ジョゼフ・ミッチェルが1938年から『ニューヨーカー』誌に綴った作品を収録した翻訳シリーズ(柏書房)第1巻が刊行された。

第1巻は『マクソーリーの素敵な酒場』(土屋晃訳)である。

ジョゼフ・ミッチェル(1908—1996)はニューヨークの裏通りに生きる市井の人々の哀愁を綴り大きな話題を呼び、同じ業界人からも尊敬された名ジャーナリストだった。彼の取材対象となり、名文に織り込まれる人々の多くがアウトローというか、変わり者たちだった。

『マクソーリーの素敵な酒場』の巻頭作品“故郷のなつかしき家”は、1940年頃の「マクソーリーズ・オールド・エールハウス」を舞台にした人間模様を描いたもの。とにかく、とてもとても味わい深い作品である。

このパブは1854年創業。ミッチェルが文章にしたときには禁酒法を乗り越えて、すでに90年近い時を積み重ねていた。そして160年以上経った21世紀のいまも営業している。たしかニューヨーク最古の酒場ではなかろうか。

エピソードには事欠かない。裁判で負ける1970年まで女人禁制の酒場だった。初代オーナー、オールド・ジョンことジョン・マクソーリーが、酒を飲む時に女がいると男は落ち着かない、酒に女はいらない、との強い信念を持つ頑固者だったからで、それを守りつづけていたらしい。

1990年代のはじめにわたしは一度訪ねている。店の表の装飾はあまり目立たず、知人に案内されなければすぐに見つけられなかっただろう。店内は老若男女で賑わっていた。現在はもっと観光名所的な人気店となっているはずだ。

少し後悔がある。ミッチェルの名文を読んで店を訪ねていたならもっと味わい深い時間を過ごせたことだろう。わたし自身が若かったせいもあるが、客の賑わいを眺め、南北戦争前、1854年からつづいていることにただ驚いただけで、それ以上の感慨を抱かなかった。壁にびっしりと飾られた歴史の証。19世紀の新聞記事や政治ポスター、劇場プログラムなど、しっかりと目に焼き付けておけばよかった。再訪しなければならない。

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