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ウエスタン・サルーン

鉄道はアメリカを大きく変えた。まず東部では中西部から新鮮な野菜や牛肉が安く手に入るようになり、西部にはより多くの人々が移住するようになった。

カンザス、ネブラスカ、ノースダコタ、サウスダコタの4州を合わせても1880年に50万人にすぎなかった人口が20年後の1900年には6倍の300万人に急増する。ワシントン、オレゴン、アイダホの3州はたった29万人だったが、30年後には200万人に達した。

西部の男たちの唯一の寛ぎの場であったサルーンも、鉄道の出現によって様変わりしはじめた。

懐かしの西部劇映画には、砂塵が舞うなか馬に跨がり登場するテンガロンハットをかぶった荒くれ男たちが、スイングドアを押し開けて酒場に集うシーンが必ずあった。映画は、西部男とは酒を飲む男である、と伝えた。

小さな町の体裁が整っていくとサルーンが男の社交場となる。人々がその土地に集まりはじめたときに、重要視されたのがサルーンで、最初に建てられる公共施設のようなものだったらしい。そしてゴーストタウンになっても残っているのがサルーンだった。もちろんあえて辺鄙な場所で旅人相手の商売をする酒場もあった。

真偽はともかく、こんな話も残っている。あるときセントルイスのウイスキー商がプレーリー(大平原)を牛車で移動していると、牛が寿命を迎えて行き倒れてしまう。ウイスキー商は仕方なく地面にウイスキー樽を並べ、板切れを拾ってSALOONと書きなぐり、近くの木にくくりつけた。するとそこから町が生まれたという。

ただし、ホース・オペラと呼ばれる西部劇に描かれた決闘や殴り合いの喧嘩で荒れるステレオタイプの酒場は伝説的なものに過ぎず、ある時代にいくつかの土地に存在した、といえる程度のことらしい。アメリカ人はもちろん世界中の人々は伝説と映画のヒーローたちが演じた世界を、西部のサルーンとして焼き付けられているのである。

現実は違ったようだ。働け、頑張れ、と尻を叩く女たちから逃れるための男の隠れ家だったらしい。いつの時代も男は女好きで、すぐに愛してしまう。その代償はおびえながら生きることだ。そんなことはない、っていう人もいるかもしれないが、大概、愛は苦に変わる。

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