15世紀後半に侘び茶が発展してくると、信楽や備前では本格的に茶陶の生産を始める。本作は中国の青磁筒花生を原型とし、旅寝に用いる枕を連想させるため「旅枕」と称されるが、この種の初期のものとして貴重である。単純な筒型の器体は厚手で固く焼き締まり、片側には自然釉が厚く掛かって暗緑色のビードロ状を呈し、反対側は赤褐色に焼けて白い長石粒が噴き出し、片身替の景色となる。澄み渡る青磁を荒い自然釉に置き換えてしまった日本独特の美意識が垣間見られる。(『サントリー美術館プレミアム・セレクション 新たなる美を求めて』サントリー美術館、2018年)