とうかいどう ごじゅうさんつぎ ほえいどうばん
保永堂版の名で知られる広重の東海道五十三次のうち、《沼津》はシリーズの中で唯一の月景で、木立と重なる月の光に照らされた狩野川と沼津宿へと続く街道を進む旅人が描かれます。手前の男は金毘羅大権現へ奉納するための天狗の面を背負った参詣者とされます。自然な遠近感が達成され、川と街道が破綻をきたさずに画面の奥へと続いており、月夜の情感溢れる逸品です。 御油宿は次の赤坂宿との距離が短く旅人の客引きが激しかったことが知られています。画面では街道が右へ弧を描きながら奥へ収斂してゆき、奥行のある画面が構成されています。広重は透視図法的な空間表現を巧みに使いこなし、《御油》は保永堂版の中でも遠近感が強調されているひとつです。画面右方の草鞋を脱ぐ旅人の上にかかる木札にはシリーズ名や広重の号、彫師・摺師の名が書かれており、奥の壁には版元名があるなど、錦絵の遊び心も感じられます。(『リニューアル・オープン記念展Ⅲ 美を結ぶ、美をひらく。』、サントリー美術館、2020年)
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