おうぎ の えづくし えまき
本作は和歌にもとづく扇面画と、その絵の元になった和歌が周囲に記される「扇の草子」と呼ばれる作品群の一作例である。「扇の草子」は扇面画を見て和歌を当てるという遊びを源流とする絵画形式で、視覚的な印象を伴って和歌を享受することのできる媒体として、十七世紀前後という限られた期間に制作されていた。和歌は勅撰集や物語、説話集、お伽草子、仮名草子、謡曲、狂言、はては出典不明のものまでをも含む、多種多様な文学か引用されており、絵は限られたモチーフで和歌の情景を象徴的に表わしたものと、和歌に詠まれる景物を即物的に描いたものに大別される。本作においては、主要モチーフのみを厳選し、筆数を省いたさらりとした描写であり、扇面に対して歌の文字も伸びやかで大きい。そのため絵、歌ともに、内容が的確に伝わるようになっている。また、判じ絵や奇妙な絵はなく、伝統的な歌絵から継承された絵様が目立つのが特徴である。さらに収録された和歌には、ほとんどの伝本にある『伊勢物語』の歌が一首もなく、逆に他には見られない『住吉物語』の歌が二首あることが特徴として指摘されている。「扇の草子」の重要性は、柳橋水車図や武蔵野図といった、近世初期の大画面形式の絵画の原型となったとみられる図が含まれている点にある。すなわち、武蔵野や宇治が歌枕として和歌に詠まれ続けるうち、「扇の草子」に取り込まれて小画面で絵画化されるようになり、そこで最低限のモチーフによって和歌を象徴的に表わす型が確立すると、やがて屏風などの大画面形式に移されていったという経緯が想定されているのである。こうしたことから「扇の草子」に描かれた絵は、当時どのような和歌イメージが蓄積しているかを知ることができるものとして貴重なものであり、そこには宇治や武蔵野の他にも多くの歌枕が含まれていることは注目されてよいだろう。(『歌枕 あなたの知らない心の風景』、サントリー美術館、2022年)
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