ひな どうぐ
いかにもお殿様が使いそうな立派な道具類ですが、実はすべて指先でつまめるほどの大きさしかありません。これら極小の雛道具は、江戸の高級人形店「七澤屋」が手掛けたもの。全面に「大」の字形の牡丹と唐草を組み合わせた、牡丹唐草文があしらわれてます。 七澤屋製品の魅力のひとつは、実物と同じように作られた精巧さと遊び心にあります。たとえば、短冊箱を開けると、金銀砂子で装飾された短冊が何枚も入っています。あるいは、硯箱を開けると、蓋の裏側に水仙の花束の蒔絵が施されています。 こうした乙女心をくすぐる心憎い仕掛けの数々に出会うたび、思わず人形の気持ちになって、小さきものの世界に夢中になります。 折り畳めば長財布ほどの大きさになるミニ屏風。表面は実におめでたく、金地に松竹梅と鶴が描かれています。各隻の端にある「守常筆」のサインと「守常」の印は本物らしさの演出に一役買っています。 表面とは対照的に、裏面は銀地に秋草図という落ち着いた印象です。江戸時代には、雛祭りを3月3日の桃の節句だけでなく、9月9日の菊の節句にも行っていました。これを「後の雛」と言います。秋になると、裏面の秋草図を表にして飾ったのかもしれません。 通常、屏風を縁取る表装には裂(布)を用いますが、本作もやはり、菊文様の裂となっています。一番外側の木枠、金属製の縁飾りや鋲もまた、実物同様に再現されています。 三ツ組盃とは、大きさの異なる3枚1組の盃のこと。現在も、神前結婚式で行われる「三々九度」の儀式などで用いられます。3枚は同じ文様で、流水の上に桜や鳥が浮かんでいます。この鳥は、頭の冠羽から鴛鴦と思われます。鴛鴦は仲の良い夫婦のシンボルであり、まさしく雛道具にふさわしい文様と言えます。 目を見張るのは技法の繊細さです。桜や鴛鴦は、単に朱漆の上に金泥で描いたものではありません。文様が浮き彫りになるよう、わざわざ黒漆で盛り上げた上に、金泥を塗っているのです。濃い灰色に見える鴛鴦の羽は、もともと銀泥を塗っていたものが、黒く変色したのでしょう。鴛鴦の目や羽、桜のしべなど、細部まで愛らしく表現されています。 今では「銚子」と聞いて思い浮かぶ姿は、やきものの徳利かもしれません。しかし実際には、湯や酒を注ぐための道具として、銚子は徳利よりも古い歴史を持っています。 ミニチュアの銚子は、前面に七澤屋特有の牡丹唐草文が蒔絵で表されています。実物と同じく、持ち手の部分が動く構造です。金色のつまみのついた蓋を開けると、中は朱塗りで、注ぎ口にも朱がまわっています。底面もやはり実物と同様、3つの脚がついており、床面から少し浮くような姿です。 厨子棚は今で言う「見せる収納」のインテリアで、手箱や香道具、硯箱などを置いて飾ります。江戸時代には大名家の嫁入り道具にもなりました。 ミニチュアの厨子棚は、道具類も含め、前面が七澤屋特有の牡丹唐草文です。中段扉の内側に「大黒天」と「恵比寿」、下段扉の内側に「狛犬」が隠れており、その柔和な表情に思わず笑みがこぼれます。 今では「銚子」と聞いて思い浮かぶ姿は、やきものの徳利かもしれません。しかし実際には、湯や酒を注ぐための道具として、銚子は徳利よりも古い歴史を持っています。 ミニチュアの銚子は、前面に七澤屋特有の牡丹唐草文が蒔絵で表されています。実物と同じく、持ち手の部分が動く構造です。金色のつまみのついた蓋を開けると、中は朱塗りで、注ぎ口にも朱がまわっています。底面もやはり実物と同様、3つの脚がついており、床面から少し浮くような姿です。 身の回りの細々としたものを収める箱を「手箱」と言います。なかでも「角赤手箱」には、箱の蓋と身の口縁から四角にかけて、目の粗い布を貼り、朱漆で仕上げる、という特徴があります。江戸時代には、大名家の嫁入り道具にもなりました。 ミニチュアの角赤手箱は、実物とはやや構造が異なり、朱漆部分もつややかなため、「角赤風」とした方が適当かもしれません。とは言え、直径3㎜の紐金具や組紐は丁寧に作られ、組紐の先端には房を保護する和紙が巻き付けてあります。思わず、紐を解いて蓋を開けてみたくなります。 (『リニューアル・オープン記念展Ⅱ 日本美術の裏の裏』、サントリー美術館、2020年)
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