くさばな いぬ らでん まきえ たんす
蝶番をつけ扉が前方に倒れる形式の箪笥である。Escritoro、Scritoryと呼ばれ、わが国では書箪笥、あるいは文机と訳されている。ヨーロッパでは通常この種の箪笥に合わせて飾台をつくり、箪笥を載せ、蓋を開けると机の天板として使えるようにしつらえる。 本品は中型の箪笥で扉上部に錠をつけ、左右側面に提鐶をつけ角金具を打っている。内部には大小8個の引出を納め、中央の引出には別に錠をつける。錠金具のうち扉正面のものの先端は2匹の犬の頭を線刻する。提鐶座金、引出鈕座金は銅製菊花形金具、角金具は魚々子地に梅花形を表した金銅製のものを用いている。引出の錠には魚々子地に八つ花鉄線紋を表した金銅製金具を打つ。扉表には、楓、桐樹とその下に戯れる2匹の洋犬、周縁に花文繋と二重界線を表す。扉裏には朝顔、両側面には朝顔と夕顔、背面には葛を描く。また天板上には、桐・椿樹とその間に飛ぶ尾長鳥と小鳥を描いている。各引出正面には、八重葎、土筆、葛、桔梗、流水に紅葉、雪持笹などを表す。本体の各稜には花文を交互に描き、その内側の周縁には扉表を除いていわゆる南蛮唐草を表す。また内部の各区画、引出正面の各周縁にも南蛮唐草を表す。中央引出正面の柱とアーチ形の組み合わせは、イタリア、ルネッサンス期の寺院や墓碑のそれを模している。このアーチ形と柱に囲まれた部分には桔梗唐草、片輪車文繋、花菱、七宝繋文、蜀江錦文などを表す。 技法は総体黒漆塗に金平蒔絵を主体として螺鈿を交え、細線には針金・金蒔を用いている。各面の技法は以下の如く整理される。 扉表・裏、天板は金平蒔絵、絵梨地、螺鈿により、平蒔絵の細線は針描、絵梨地、螺鈿の細線は黒漆・朱漆地の金蒔によっている。葉の一部や鳥は平蒔絵と絵梨地を組合わせる片身替りの文様としている。扉表の犬は一方を金平蒔絵、他を銀蒔絵で表すが、毛は前者は針描で、後者は金蒔で表している。2匹とも腰のあたりには貝を嵌め込んでいる。扉裏の絵梨地は弁柄地によるが、梨地粉はほとんど蒔かれておらず、弁柄地がかなりそのままのこされている。 左右の側面、背面は金・銀平蒔絵、螺鈿により、金蒔絵の細線は針錨、銀蒔絵・螺鈿の細線は金蒔としている。この三面の細線の金蒔の地には朱漆は用いていない。葉の一部などには金蒔、銀蒔の片身替としているところがある。 引出正面は金平蒔絵と螺鈿により、それぞれ針描と金蒔で細線を描く。金蒔細線の地には朱漆も用いられている。 以上のような文様、技法的特徴からみてこの箪笥はヨーロッパ向けの輸出用のものであったことは明白だが、大量生産されたにもかかわらず、表現に破綻なく、手際よくまとめられている。(『開館20周年記念 サントリー美術館100選』、サントリー美術館、1981年)
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