2026年6月12日
#1018 特別篇・プレーオフ準々決勝 『Amazing!』
80分のホーンが鳴った後の相手のペナルティキックからの大逆転。プレーオフ準々決勝戦の最後の約4分間のプレーを、ボールに絡んだ選手たちのコメントで振り返ります。(取材日:2026年6月上旬)

【試合時間80分】
ブラックラムズのPGを松島幸太朗がトライゾーン中央でキャッチ
松島「相手がキックを選んだ時点で、チャンスがあると思いました。皆もそうだったと思います。雰囲気は、一気に行けるという感じになりました。キックがどこに来るかはわかりませんでしたが、どこかしらにショートで落ちてくるか逸れるか、距離も結構あったので、完全に構えていました。キャッチする前から皆にショートあるぞ、と言ってましたし、準備万端でした。自分のところにボールが来て、ボールを取って、前に出なければいけないので、待つよりもしっかり前に出て、少しでも多く自分たちの陣地から相手方に返すという気持ちでいました。プレッシャーは相手の方にあったと思います」
まっすぐランで仕掛け5mライン付近でラック、ラックから右に福田健太→呉季依典でラック
福田「キックになった瞬間は、95%終わったなと思っていました。相手もそのリスクをわかって選んできていると思ったし、外れるにしても時間を使って思いっきり蹴り飛ばすだろうなと思っていましたが、ごく僅かな可能性があるとすれば、短いキックでゴールが外れて、自分たちのボールで再開するということがあるなぁ、ってぼんやり思っていました。そうして振り返ったらマツさん(松島)がキャッチしていて、おっ、始まった!って思いました。僕らにはキックの選択肢はなかったし、あそこからずっとフェイズを重ね続けていくのも難しいところがあるので、うまくペナルティをもらいながらどんどん前へ出ていきたいなと思いながら、ブレイクダウンに到達しました。まずは強いランナーを当てていって、ちょっとでもモメンタムを得られるようなキャリーをしてもらえるように球出しを心がけながら、ブレイクダウンに向かっていったんですが、テンポを上げるというよりは、強いキャリーをしながら相手の反則をもらいにいこうという気持ちでした。あとは心情的には自陣ゴール前だったので、先は長いけど頑張るか、という感じでした」
呉「ここではビッグゲインというより、自分の強みのキャリーを出して、しっかりと次につなげることを考えていました。いちばん求められているのは絶対にボールを出すことなので、自分の強いキャリーからしっかりボールを出せて繋がればいいなと思っていました。ターンオーバーされないということが第一優先なので、しっかりと相手に当たってラックをつくれたということで、合格点じゃないでしょうか」
更にラックから右へ福田健太→箸本龍雅でラック、ラックでブラックラムズがハンドのペナルティー
福田「龍雅(箸本)はいつも良いキャリーをしてくれるので、とにかく強いキャリーをしてくれという思いでパスをしました。ラックになってボールがちょっと動いてちょっとヒヤッとしたんです。ボールを出そうと思ったらボールが落ちてきて、相手がボールを取る寸前でした。レフリーがよく見てくれていて、相手のペナルティーになりました」
箸本「アタックするしかない。ミスは全く考えていませんでした。もう、行くしかないと。リアム・ギル(ブラックラムズ)にボールに絡まれたので、ちょっと終わったと思ったんですが、レフリーがペナルティーを取ってくれて、首の皮一枚つながってホッとした気持ちでした。その後は、信じるしかなかったです。自分の仕事を100%やる。それがうまく行けば勝てる。大きなことは考えていなかったですけれど、目の前の自分の仕事をやることがいちばん大事だと思っていました」
ケイレブ・トラスクがタッチキック
トラスク「このキック前に皆が集まった時に、落ち着いてタイトにプレーしよう、と伝えました。自分のキック自体は、リスクを最小限に抑えながら、その中でできるだけ長い距離を蹴ることを意識しました。ミスへの不安はあったとしても、頭の片隅に置いて、冷静に、自分を信じて正確に蹴ることに集中しました」

【試合時間81分】
自陣右10mライン手前ラインアウト、呉季依典のスローからハリー・ホッキングスがキャッチ→福田健太から左へケイレブ・トラスク→中野将伍→チェスリン・コルビと繋ぎコルビがラインブレイク
呉「ここらあたりはほんまに記憶がありません。ゾーンに入っていました。ミスしたらあかんという感情もなく、試合が終わって奥さんの実家でビデオを見返したんですけれど、俺どんな感情で投げてたんやろ?みたいな。ノットストレートしても終わりだし、カットされても終わりだし、正直そういうこともいつもだったら考えるんですが、この時は全く考えませんでした。ただサインコールが来て、あ何々やな、じゃあここに投げなあかんな、としか考えていませんでした。無で投げた。それが結果的にうまくいったという感じです」
ホッキングス「どうなるかわからないチャレンジで、興奮していました。キエ(呉)の素晴らしいスロー、ナイスラインアウト。そのスローをキャッチするのが僕の仕事。それがすべて。レッツゴーという気持ち。そして落ち着いてもいました」
福田「試合を振り返ってみたら結構ドキドキするんですけれど、あのラインアウトでは僕は片手でボールを取っていたんです。ホッコ(ホッキングス)のボールが右肩の上に来て右手だけで取って、TJ (ペレナラ/ブラックラムズ) が毎回飛び出してきていたので、ワンハンドでそのままパスしたんです。その時は流れの中でやっていたので感じませんでしたが、振り返ってみたらあれでボールを落としている可能性もあるし、見ている側はヒヤヒヤですよね。でもやっている時は集中していたので、ミスはまったく恐れていませんでした。このラインアウトはキエが良いスローをしてくれて、トラスキー(トラスク)に良いパスを供給できましたし、うまくショートサイドを使いながら数的優位を作って、1回アドバンテージが欲しいと思いながらアタックしていました。片手でなく両手で持ってパスしていたら0コンマ何秒かは遅れていたと思うので、あの一連の動きの中で一瞬一瞬の判断が、ちゃんと良い方向に行っていたと思います。そういう中で、ミスしたらどうしようという気持ちが、少しでもあって安全にいっていたら、歯車がちょっとずつズレていったと思うんですけれど、ミスを恐れていなかったというところが、いちばん良かったと思います」
トラスク「ここでは特別なことは何もなく、自分の仕事をしただけです」
中野「サインプレーしただけという感じです。サインプレーをサイン通りにした。チェス(コルビ)のところで前に出たので、良かったと思います」
コルビ「フォワード陣をはじめとするチームメイトの懸命なプレーが、僕らバックスにとってプレーしやすい環境をつくってくれました。ボールに触れる機会を得て、チームに貢献できることはとても嬉しい。チームの勝利に貢献することを常に最優先に考えています」

自陣左10mライン付近ラックから右に福田健太→呉季依典→森川由起乙でラック
福田「ショートサイドをうまく使いたかったので、それを使いながらフォワードに良いキャリーをしてくれって思ってやっていました。僕はブレイクダウンからボールを出すところでノックフォワードしないように、そこだけ意識しながらパスをちゃんと出すようにしていました。デリバリーのところでちゃんとしっかり握ってパスをする、そこを意識していました」
呉「この時はボールが出てくる前から、兄貴(森川)から、キエ、パスせい、って言われていました。もうお兄ちゃんが言うんだったら疑う余地もなく、僕はじゃあボールを取ってパスして、僕が兄貴のサポートに行くんだなと、淡々とやっていました。何の疑いもなく、ただ自分たちの仕事をやりきっていました」
森川「シンプルにキャリーを選択するより、ひとつ早めにコミュニケーションを取っていたので、いいランコースで走ることができましたし、相手に乗っかることを考えていました」
ラックから左へ福田健太→イザヤ・プニヴァイと繋ぎラック
福田「イジー(プニヴァイ)からショートサイドのコールが出ていて、それほど見ていなかったんですけれどイジーのコールが良く聞こえていたので、そのコールに従ってパスしました」
プニヴァイ「相手がキックを蹴ると決めた瞬間、僕らにはプレーしてトライを決めるチャンスがあると思いました。すぐにそこに到達する必要はなく、急ぐ必要はなかったのです。僕たちがすべきことは、一度に一つのプレーをすることだけ。ボールを受け取ったとき、僕が考えていたのは強いキャリーをすることだけでした。ミスを恐れることは全くありませんでした。シーズンを通しての試合への準備の中で、こういう状況になった場合に何をするかについて話しています。ですので、僕たちは皆、次のプレーに向けて心構えを切り替えることができました。トラスクのリーダーシップも素晴らしかったです」
ラックから右へ福田健太→森川由起乙でラック
福田「イジーがちょっと前に出ることができていたので、ちょっとモメンタムが出てきたなと思いながらパスをしていました。ここはもう、パスだけを意識してプレーしていました」
森川「ボールもらう前からランして、しっかりとダミーを入れてからキャリーへ堅く行きました。乗っかるラックをつくることもできました。最後まで、緊張もミスするという考えもまったくなかったです」
ラックから右へ福田健太→ケイレブ・トラスク→ハリー・ホッキングスでラック
福田「トラスキーと結構コミュニケーションを取れていたので、そのコミュニケーションを信じてパスしていました」
トラスク「チャンスを探しながら、辛抱強くプレーすることを考えていました。ボールを失えば即ゲームオーバーになるので、フォワードを前進させ続けることだけを意識していました。冷静さを維持し、辛抱強い攻撃を継続して、各自の役割遂行を軸にプレーしました」
ホッキングス「全力を尽くす。これがラグビー。引かずにやり続けるだけ」

ラックから左へ福田健太→サム・ケイン→ケイレブ・トラスク→松島幸太朗と繋ぎまっすぐ仕掛けたところでブラックラムズがハイタックルのペナルティ、ブラックラムズにシンビン
福田「外にスペースがあったので、外に放って欲しいなと思いながらパスをしていました。ケイノ(ケイン)はボールキャリーもできたんですが、パスをしてくれて、それ良い、と思いながら見ていました。皆が我慢してずっとアタックしていたので、相手のペナルティーが出て、僕の中ではそこが結構大きかったですね。相手からしてみたら、こちらのキックはあり得なかったし守りやすかったと思いますが、そこでアドバンテージをもらえて敵陣に入れたので、よし!と思いました。トラスキーがタッチキックを蹴る前、TMOの時に皆がすぐに集まってハドルを組んで、次のプレーがクリアになっていました。僕はそこがターニングポイントだったんじゃないかなと思います」
ケイン「相手がキックを選択した時に、自分たちに勝機が残されていると思いましたし、その可能性を信じてプレーしていました。試合の流れを維持することを考え、直前のキャリーが効果的だったので、その勢いを継続させることを意識していました」
トラスク「フィールドを前進するために、攻撃的なプレーを続けていました。ラッキーな部分もありましたが、攻め続ければチャンスはつくれると考えていました」
松島「途中、ライアウトも選択してきて、キエノリ(呉)もプレッシャーがあったと思いますが、とにかく自分たちがミスしなければ勝てると思っていました」
ケイレブ・トラスクのタッチキック
トラスク「サム(ケイン)が素早く選手を集めてくれて、短い時間の間に試合の前半で成功したプレーを選択しました。風が右から左に吹いていたので、タッチラインに向かって引き戻されることを計算し、通常より遠くへ蹴ることができました」

【試合時間83分】
敵陣左10mライン奥ラインアウト、呉季依典のスローからハリー・ホッキングスがキャッチ→福田健太→中野将伍と繋ぎ中野将伍が縦に仕掛けてラインブレイク
呉「前のラインアウトの時の感情と一緒でしたが、ほんまに感謝したいのは、ラインアウトのコーラーであるホッコが、誰でも投げられるようなサインを出してくれました。だからより緊張もせずに、何も考えずに投げられたんだと思います。これしかない、というサインを出してくれた。ほんまありがとうホッコ、です。ホッコは口に出して、クヮ、クヮ、クヮって、ずっと言っていました」
ホッキングス「ベストを尽くすという気持ちで、プレッシャーの中でも良いプレーができました。素晴らしいラインアウトで、興奮し、良い挑戦であり、勝利への準備ができていました。頑張り続けるという気持ちです」
福田「デリバリーのところでTJのプレッシャーが来ていましたが、そのプレッシャーを頭の中で想定できていたので、僕がひとつ仕掛けて相手の足を止めてパスできて、そういった面で冷静にゲームを進めることができていました。それを将伍(中野)が良いキャリーをしてくれたんですが、あの時は皆が目の前のことを判断してくれて、僕がピッと仕掛けたことに将伍もアジャストしてくれたんです。皆縮こまらずに、ミスを恐れずに、自分の目で見たことに対して反応して遂行するということを、あの場面でできていたんじゃないかと思います。ゾーンです。目の前のことに対して一瞬一瞬、皆が判断していました。その考えに迷いが生じていない、良いゾーン状態だったと思います。ミスしたら終わりの状況で、自分がミスしたらどうしようという不安がどっかしらにあったらプレーに影響すると思いますが、皆目で見たことに対しての判断を100%信じてできていました」
中野「やはりサインプレーが出ていて、僕が最初にもらってパスして、というサインだったんですけれど、TJが飛び出ていて、健太(福田)さんが仕掛けて持ったので、それに合わせてボールをもらって、仕掛けた分、外に相手のディフェンスが上がってきたので、パスせずに僕がキャリーしました。スペースが見えた時に、思いっきりそこに走りました。反射的にぜんぶ動いている感じです」

22mライン奥でラックとなると、呉季依典が左へパスアウトし福田健太へ、福田健太から右へ→ケイレブ・トラスク、トラスクが縦に仕掛けたところでアドバンテージ
呉「サインが出たからそのサイン通りに動きました。決まっていた役割をしっかりと実行しました」
福田「アドバンテージが出て、ここでキックも選択できましたが、この時はモメンタムがこちらにあったので、いくらでも攻めることができる状態でした。キックもほぼ正面でしたけれど、何があるかわかりません」
トラスク「急遽キャリーを選択しましたが、ターンオーバーされなかったのはとてもラッキーでした。チームメイトのサポートも素早やかったです」
ラックから右へ福田健太→サム・ケインと繋ぎラック
福田「アドバンテージがあったので、思いっきり攻められるという気持ちでした」
ケイン「目の前のプレーに対して、フットワークと闘志を活かして前進し続けることを意識していました」
ラックから福田健太が左に持ち出し縦に仕掛けると、オフロードパスを森川由起乙につないでトライ(トライ時点84:32)
福田「動きながら相手の空いているところも見えていたので、そこを突きました。ここだと思って、バチっと行きました。目の前が空いていたのでトライまで行けるなと思ったんですけれど、相手のカバーディフェンスがうまく僕の足をパーンとタックルして行けず、そうしたらユキオさん(森川)が走ってきたのでオフロードパスしました。あそこはユオさんがちゃんとコミュニケーションを取って、ケンタ!って声が聞こえていました。ユキオさんがそこにいるなというのがわかっていて、バーっと走ってきたので、そのままポンと放りました」
森川「健太(福田)が結構仕掛けて、その瞬間にコールされて、最後はボールを置くだけで、気持ち良く飛びました。ラッキー!良かった!と思いました。ボールを置くだけでしたから。相手のキックが外れた瞬間から、絶対にいけると思っていました」
呉「勝手に涙が溢れ出てきて、まじで嬉しかったです。最後パッと見ていて、わ、兄貴走ってる、と思って、あ、抜けおった、トライしおった、行こうと思って兄貴にダイブして、勝手に泣いていました。最後に兄貴がトライを取ったけれど、全員でつないで、グラウンドに立っている選手だけじゃなくて、58人のメンバーの想いがほんまに乗ったなと思いました。もう正直、僕のラグビーキャリアでこれを超える試合はないじゃないかなと思うくらい、どっちのチームのファンとか関係なく、多くの人がラグビーの素晴らしさを感じたんじゃないかなと思いました」
トラスク「あの距離からスタートしての逆転は初めて。信じられないほどの体験でした」
福田「Amazing ! です。小1からラグビーをやっていて、逆転で勝つとか、77分から逆転とかは経験ありますが、さすがにホーンが鳴って相手ボールでペナルティを狙っている状態からの逆転はありません。初めてでした。内容だけを振り返れば、プラン通りできていないところもあったし、相手のディフェンスにはまってしまったところもありました。ただノックアウト方式の中で、ふつう誰もボールを持たせたくないと思うんですよ、ファンとして見ていたら。自分の子供がもし出ていたら、終わらせて欲しくないし、もうボールに触らないでという気持ちだと思います。そんな中、本当に皆ミスを恐れずに、しかもその中でしっかりと考えがあって、目で見て、判断して、プレーした。そこがとても良かったです」

コンバージョンキックをチェスリン・コルビが決める
コルビ「皆チームのために最善を尽くした。ハッピー!」
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]