SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2025年12月 5日

#987 福田 健太 『なぜサンゴリアスでラグビーをするのか』

日本代表活動から帰ってきた福田選手。今シーズンはケイン主将、流&ホッキングス副将、そして堀越、小林(賢)と共にリーダー6人の一角を担い、チームをあらゆる面で引っ張っていく役割も増えました。調子も良く、やる気に満ちた福田選手に聞きました。(取材日:2025年11月下旬)

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◆憧れたチームをリードする機会

――サンゴリアス2年目にして、リーダーのひとりとして響グループに入りましたね

まずコスさん(小野晃征ヘッドコーチ)に選んでいただいて、とても嬉しく思います。サンゴリアスは僕が小学校でラグビーを始めてから、ずっとジャージを買って練習していたくらい憧れのチームだったので、そのチームでまだ2年目ですけれど、リーダーとして自分の憧れたチームをリードする機会を与えてもらったのは、とても有難いですし、それと同時にとても責任を感じます。

――具体的にはリーダーのひとりとして、どういうふうにリードしていくイメージですか?

サンゴリアスのラグビーって、9番がとても大事だと思いますが、それと共にリーダーに選ばれたということには、コスさんからの強いメッセージが含まれていると感じます。昨シーズンはなかなか自分のパフォーマンスを発揮できませんでしたが、今シーズンはチームをリードし、内側からゲームをコントロールして、チームをしっかりとコントロールできるようにしていきたいと思います。

こういう機会を与えてもらったということもありますし、ゲームで良いコントロールができるように、クラブハウスの中から響としてしっかりとリードしていくつもりです。やはりケイノ(サム・ケインキャプテン)がいるので、僕は9番としてバックスやフォワードを引っ張り、練習だったり、自分のパフォーマンスだったり、ちょっとでもケイノの支えになれば良いなと思っています。

――昨シーズン、プレーにおいてはどの辺がまだ足りなかったと思いますか?

大怪我をした状態でサンゴリアスに入ってきたので、その中でシーズンが始まる前には、30分くらいしか練習試合に出られませんでした。ですのでシンプルにラグビーとして、そもそもの感覚が戻っていなかった部分がありました。感覚の部分で自分のプレーに自信が持てていない状態だったので、9番としてチームを引っ張るには、まだぜんぜん達していなかったと思います。

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◆感覚的には戻ってきた

――良くなってきましたか?

今年の5月からエディー(ジョーンズ/日本代表ヘッドコーチ)に呼んでいただいて、その中でゲームを想定した練習がとても多かったんです。それをオフシーズンの約5ヶ月間ずっとやっていたので、実戦形式がたくさんあったことで、感覚的には戻ってきたと感じています。昨シーズンは怪我がもう一回再発したらどうしようという気持ちがあり、怖さをなくそうと思っていても、なくしきれずにやっていたなと感じました。

――それは本来の自分の持ち味でもあるランニングにも影響がありましたか?

あります。怪我したことは仕方がないと思っていましたし、過去のことだと思っていたんですけれど、自分の中でどこかしら引っかかっていて、怪我をした時の音だったり感覚が忘れきれずに、もう一回再発したらどうしようという思いがあったなと思います。本来、自分の中で走れる時は直感だったり、インスピレーションを感じて迷わずに遂行していたんですけれど、そこで判断に迷いがありながらプレーしていたなと思います。

――それは自分としても相当悔しいし、また反省点ですか?

そうですね。スペースが 見えて、ここは行けそうと思っても、そこで思いっきりバンって行けない。脚と走力と直感を信じて、そこを遂行し切ることが、出来なかったと思います。あとは、昨シーズンは幹也(髙本)が10番のことが多かったですが、幹也の判断に頼り過ぎたという反省もあります。

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◆乗り越えた

――精神的な部分を含めて、そこをどう乗り越えるかだったと思いますが、今はどんな状態ですか?

これはもう、本当になくなりました。5月からの活動が良かったと思います。そんなことを気にしていられなかったということもありますし、何がきっかけでなくなったのか、時間かもしれません。それくらい自分の中でも、消化するのに時間がかかる怪我でした。ただこのオフシーズンで、ちょっと乗り越えたかなと思います。GPSのデータから見てスピードも戻ってきたので、そうやってデータから生まれている自信もあります。

昨シーズン中はどこかしら怖さがありましたし、スピードで見てもまだ戻ってないなという部分もありました。でもその時の積み重ねがあったから、いま戻ってきたということがあると思うので、無駄な時間を過ごしたわけではないと思います。

――日本代表で約半年過ごして、手応えが増えて行って、もう行けるという感じですか?

はい、今シーズンは行けます。

――エディーさんも最初から福田という名前を出していて相当期待されていると思うんですが、そういう中で思うように行かない状況での精神的な戦いとか焦りは?

ありましたよ。昨シーズンは代表のことは、考えていませんでした。考えていなかったというか、代表に戻りたいという気持ちはもちろんありましたけれど、自分がそのレベルに戻っていないということもわかっていましたし、怪我以前のパフォーマンスに戻れるのかという不安だったり、もう一回怪我が再発したらどうしようという思いがありましたね。そのメンタル的なところだけは 、このオフシーズンに乗り越えられたと思うので、まだリーグワンが開幕していないので何とも言えないですけれど、自分の中での感触としてはとても良いです。

――そうすると今シーズン、目指すところは先発ですか?

まあ、そうですね。もちろん9番の争いで、コンペティションするところはありますし、ナギー(流大)とかマキシー(マックス・ヒューズ)、元気さん(大越)、宮尾(昌典)もいますけれど、その中でしっかりと争って、そこで9番のジャージを目指します。

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◆スペースを見つける力

――チームに合流してこのままやっていけば、9番を取れるという感触ですか?

もちろん選手として先発を目指すのは当たり前だと思うんですけれど、それよりも今のラグビーはリザーブの21番の役割もとても重要だと思います。ゲームチェンジをするというところですね。もちろん9番は目指しますけれど、それはコーチ陣が決めるところですし、僕がコントロールできるところではないので、それよりも自分が昨シーズンには出せなかったパフォーマンスを今シーズンは出す、という気持ちの方が大きいです。

――例えば、交替で入ってそこで自分のパフォーマンスを出すとすると、どうゲームチェンジするんでしょうか?

昨シーズンはリザーブが多かったですけれど、リザーブにいても健太を入れたらゲームがこうやって動く、というところをコーチ陣に見せられなかったと思います。だからコーチ陣としても、交替は難しかったと思います。僕が監督だったとしても、そういう判断になっていたと思いますし、そこは本当にわかるんです。なので、テンポが上がったり、ひとつのチャンスメイクだったり、なかなか打開できなかったところが打開できるとか、そういうゲームチェンジができるようにと思います。こういう状況では健太を入れよう、という強みを見せられたら良いと思います。

――ランニングがひとつの売り物だとすると、トライも増やしていきたいですか?

自分で無理やりこじ開けるというよりは、状況判断をしながらですね。昔は自分がたくさん走ってトライを取りたいという気持ちがあったんですけれど、その考え方も変わってきて、ゲームをコントロールしながらスペースを見つけたいし、そのスペースがあったら逃さずに。スペースを直感的に見つける力はある方だと思うので、そこを100%遂行したいと思います。それは昔だったらそこだけだったと思いますけれど、今シーズンはゲームコントロールのところ、フォワードをどう動かすか、あとはエリアコントロールをどうするか、そういうところをやりたいですね。

――それが新しいところですか?

そうですね。それはサンゴリアスに入ってナギーを見て、さらに今年はずっと日本代表に帯同させてもらって、自分の中で変わっていかなければいけない、自分が更に成長していくために変わっていかなければいけないところだと思います。

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◆見る視点を学べた

――田中GMと流選手がいるからサンゴリアスに来たと言っていましたが、まず流選手の話をすると、1年間一緒にやって得たものはありましたか?

ありますね。やっぱり裏のキックもそうですし、ゲームコントロールする力もそうですし、オフ・ザ・フィールドでナギーが映像をよく見るところなど。

――それは自チームだったり相手チームだったり、海外だったり、すべてですか?

はい、ぜんぶ見るので、あの感覚はそういうオフ・ザ・フィールドで養われていると思います。それで見なきゃいけないと思ったというわけではないんですし、僕ももちろん試合を見るのが好きで結構見るんですけれど、当たり前に簡単に出来そうなことなんですが、ふつう人間はそういうことが段々と疎かになってしまうと思うんです。それを自然と続けてやっていますし、そういう積み重ねがあのパフォーマンスに繋がるんだと思います。

――プレシーズンマッチでの東芝戦でも初めて見るような流選手のプレーがありました。こぼれたボールをインステップキックで軽く蹴ってパスしたり、その後に手で打っているようなプレーも。ラグビーなのにサッカーやったりバレーやったりしているみたいでした

あのプレーももちろんそうなんです。僕もビデオであのプレーを見ましたけれど、ああいう引き出しが多いなと思います。見ているだけでも、ゲームコントロールの部分は昨シーズンの1年で学べたと思います。映像で見たことをグラウンドでの引き出しにして、想定しながら準備が出来ている状態。その見る視点をひとつ学べたように思います。

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◆ずっとずっと

――田中GMはどんな存在ですか?

ボスです。師匠。僕の中ではいちばんのコーチですね。

――アドバイスを受けたりしますか?

そうですね。キヨさん(田中澄憲GM)も立場上、優しく言う時もあると思いますが、僕にはバチって言ってくれるので、昨シーズンの第16節のトヨタ戦も怒られました。花園ラグビー場で勝った試合だったんですけれど、みんなとニコニコしながら握手していたんですが、僕のところに来た瞬間、手をギュッと掴んで「ぜんぜんダメ」って(笑)。その試合、僕が最後にトライを取ったんですけれど、ぜんぜんダメだって言われました。

――GMという立場でありながらそういう人がいる、というのは幸せですよね

そうですね。キヨさんの存在のおかげで、現状に満足しない。そのひとつの理由になる人でもあると思います。言ってくれるし、だからもっと高みを目指さなければいけないと、ずっと思い続けています。

――同じポジションということもありますね?

もちろんあります。僕自身、選手としても中盤に入ってきていると思うのですが、その中でやっぱり上手くなりたいとはみんなが思っていると思いますが、こんなもんかなって現状に満足する選手もいると思います。もともと性格的に現状で満足する性格ではないんですけれど、キヨさんにトヨタ戦で怒られましたし、あの時も最後にトライしてちょっと感触が戻ってきているなってところでバンって言われたので、まだまだなんだなって思いました。

僕のラグビー人生は順風満帆だったんですよ。小学校、中学校、高校と。割と自分の思うようなプレーが出来ていたので。そういう状態で来ていたんですけれど、大学の時にキヨさんに会って、初めてスクラムハーフとして未熟なところをズバズバ言われて、人間として未熟なところもズバズバ言われて。

――良いコーチですね

そうですよ。だから怒られても、イラっとしないです、全く。

――褒められたことはありますか?

もちろんありますよ。褒められたいということではなくて、的確なアドバイスをくれると思っているので、それはプレーのことだけじゃなくて、すべてのことにおいて。学生時代だったら生活面でのリーダーとしての態度だったり、そういうことも言われました。

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◆なぜを繰り返すことで真因にたどり着く

――トヨタヴェルブリッツにいたことでも得たものがたくさんあって、"カイゼン(改善)"についても話していたと思いますが、最近さらに知ったのは"5なぜの法則"があるそうですね。それも使っているのでは?

自然に使っていると思います。なぜこうなんだろう?なぜ出来なかったんだろう?なぜ出来たんだろう?...と考えます。なぜを繰り返すことで、真因にたどり着くんです。

――上手くパフォーマンスが出せなかった時に、なぜだろうと考えていくと、最終的に怪我を怖がっているんだという、そういうところにたどり着くわけですか?

昨シーズンに関しては、怪我に対する恐怖感がひとつの大きな原因としてあって、あとはその中でもグラウンドに立てていることに満足している自分もいたと思います。だからこのオフの5ヶ月が大きかったですし、もう一回上の舞台に戻れるステージまで来られたんだっていうのもありましたし、そこを目指さなければいけないとまた思えました。そこにいるためには、自分のパフォーマンスも追及しなければいけません。

――代表に選ばれて良かったですね

良かったですね。昨シーズンのパフォーマンスに一度も満足することはなかったですし、もちろんこのままじゃダメだと分かっていましたし、昨シーズンはそういうところでサンゴリアスに貢献できなかったというもどかしさがありながらシーズンを終えました。

――なぜ優勝が出来ていないと思いますか?

やっぱりみんなが言っていると思いますし、いっぱい理由はあると思うんですけれど、ひとつは自信のところが大きいんじゃないかと思います。あとはこのクラブで優勝を目指したいと、本当に全員が思えているのかというところ。コスさんもナギーもみんな言っていますけれど、サンゴリアスに入って満足しているんじゃないかって。そこも大きいんじゃないかなと思います。みんながなぜサンゴリアスでラグビーをするのかというところ、そこに対する意義を全員が感じてラグビーをしていたら、違う結果になってくるんじゃないかなと思います。

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◆自分のパフォーマンスにこだわる

――まだ合流して間もないですが、今シーズンのサンゴリアスはどうですか?

やっぱりこの"サンゴリアス・スピリッツ"というところですよね。本当に"なぜ"が大切だと思うんですが、サンゴリアスってどういうチームだっけ?というところをいっぱい考えたり話し合ったりだと思いますし、スピリッツやPRIDE、RESPECT 、NEVER GIVE UPや、今シーズンのスローガン"PROUD TO BE SUNGOLIATH"もそうだと思いますし、そういったところでサンゴリアスとしてどうあるべきかを、皆がとことんやっているという印象です。

――開幕まで1ヶ月を切り、今からどんなところに気をつけながらやっていきますか?

まずは自分のパフォーマンスにこだわること、今シーズンはまずそこですね。自分のパフォーマンスをしっかりと出しつつ、響グループなので自分本位には出来ませんから、チームとしてどうあるべきかをしっかりと言ってきたいと思います。

――状態はとても良いんですか?

良いですね。あとは響のことで言えば性格的に、この人にこれは言えない、ということがないので、それはコーチにもそうですし、マネジメントにもそうですし、選手としての意見もそうです。僕はそういうところを擦り合わせるのが上手いと思うので、本当に優勝を目指すには、このクラブにいる人間がどれだけ勝たなければいけない集団であり、優勝を目指すチームであるかということを理解しているかが大事だと思います。そういったところで、自分のリーダーシップを出せたら良いかなと思います。まずいちばんはパフォーマンスです。

――パフォーマンスが良ければまたこのインタビューに

『スピリッツ・オブ・サンゴリアス』はとても大事で、僕の次のスピリッツ登場は、4節終わったあたりを目標にしています。今年、タイトルは「スピリッツ王」を目指します!

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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