2025年11月28日
#986 小林 賢太 『それが自信に繋がる』
日本代表でも出場し続けて9キャップとなった小林選手。サンゴリアスに合流して、新たにリーダーの役割も担いながら、新シーズンに臨みます。(取材日:2025年11月下旬)

◆プレッシャーが激しい
――とうとう代表での80分間フル出場、初めてですよね?
初めてです。今回の日本代表遠征の最後の試合ですね。
――代表でも出場時間が増えていってここで来ましたけれども、今の代表での感触は?
感触という感触は・・・。ないと言うか、毎試合相手が違うので、こういう感触を得られたというよりも、毎試合毎試合、学ぶことが多かったですね。
――具体的にはどんなことを学んでいるんですか?
ブレイクダウンで受けるプレッシャーや、シンプルにはコンタクトの強度とか、もちろんスクラムもそうですし、相手から受けるプレッシャーが、リーグワンと比較すると激しいです。
――それに対応してこうした方が良い、ということが各試合で出てくるんですか?
こうした方が良いというよりは、ここのレベルを上げなければいけないというところを、多く学べたと思います。自分でプレータイムは決められないので、プレータイムが伸びたからどうということはあまりないですし、結果的に最終戦は80分、自分が出場できて、最後にチームとして勝てたという、シンプルにその結果が得られたというところくらいですかね。
――基本的にはどこで代わるかはわからないけれども、いつでも80分間フルで出続けられるという気持ちですか?
初めての80分。リーグワンでも80分出たことがありませんでした。大学生の時までは80分出ていたんですけれど、初めて長い時間出て、「いつでも」と言われると分からないですけれど(笑)。それこそ土曜日に試合をして、今日は火曜日、やっと回復してきたかなと。試合をした次の日に移動だったので。
――海外でも試合が続くという時のペースは掴みましたか?
そうですね。今回5連戦戦って、ペースを掴めたというよりは、シンプルに試合に対して準備して、試合が終わったら、リカバリーして次の試合に向けての準備をして、を繰り返していただけでした。ペースが掴めたというよりは、上手くそのバランスが取れたという感じです。

◆次に向かっていく準備
――いろいろな学びがあった中で、体力的には問題なかったですか?
結構ツアーの中盤くらいは、結果も伴っていなかったですし、シンプルに相手からのプレッシャーも結構あったというところで、心身ともにキツイというか、疲労が抜けにくいと感じたタイミングはありました。とは言え次の試合があるので、しっかりそこに向かっていく準備をやり続けたという感じです。
――疲れやダメージは時によって違うと思いますが、全体が疲れている感じですか?それともどこかが痛くなるとか?
どこか痛めた試合はその箇所が痛いですけれど、シンプルに全身疲れているという感じです。なんか重い感じですね。
――代表からチームに戻ってきて開幕まで1ヶ月を切る中、どうチームにフィットしようと考えていますか?
今年チームがやりたいことがあると思いますし、また去年と変わらない部分もあると思うので、しっかりとそこは対応していきたいです。変わっている部分に対しては、コーチやチームメイトとちゃんとコミュニケーションを取って、フィールド外のところで自分のナレッジを上げる。そして練習に入っていった時にもまた感じるというか、自分の中でのズレみたいなものが出てくると思うので、そこでどれだけそのギャップを詰めていけるかというところ。シンプルに、やっぱり自分のパフォーマンスを出さないと試合に出るという保証はないので、チームにコミットするプラスアルファ、まずは自分のパフォーマンスを100%出すというところにフォーカスして取り組んでいきたいと思います。
――コミットする方では、今のタイミングでは、より頭を使うということですか?
そうですね。ここからちょっと休みがあるので、休みの期間もリフレッシュするところはリフレッシュして、開幕まで時間が限られているというところは念頭に置きながら、身体を動かさないで出来る準備のところは進めたいと思います。

◆自分の身体をもう一回整える時間
――身体の方は、いいコンディションで上手く入って行けそうですか?
コンディションのところはやってみないと分からないですけれど(笑)、この代表期間もずっと長いツアー期間が3回あって、コンディションのところは落とさずにプレーし続けられました。もちろん自分が100%のコンディションで出られるような準備をするので、アメリカ遠征の時に4試合あって、今回5試合あって、このツアーに行く前にコンディションを戻せるかという不安があったので、S&Cとも話をしました。
代表は代表、サンゴリアスはサンゴリアスと別物で考えて、今のこの休みの期間でスイッチを切っちゃうと、より身体が疲れているなと感じるし、そこからまたコンディションを上げるというのは難しくなるから、ひとつのブロックとして考える。去年のリーグワンのシーズンも5試合やって1週間休んで5試合やってという連戦が続くシーズンだったと思うんですけど、自分にはそのイメージがしっくりきています。
もちろん日本代表の活動は日本代表で、これから始まるサンゴリアスの活動はサンゴリアスの活動なんですけれど、そこを繋がっているというふうに考えて、今もレストという休息じゃなくて、自分の身体をもう一回整える時間というふうに捉えて準備をしたら、自ずとコンディションは保つことができて、しっかり上げていけるんじゃないかなと思います。
――やっぱり上げていく時には国際試合で体験したところを加味しながら、より自分を強化していくんですね?
そうですね。それも先ほど言った、ブレイクダウンの部分でのプレッシャーだったり、スクラムで受けたプレッシャーというところに対して、自分のスキルを向上させていくということは変わりません。結果的に自分がパフォーマンスを出すために修正しなければいけない部分を突き詰めて行ったら、結果として自分のパフォーマンスが上がっていくと言うか、いち選手としてのスキルも上がっていくのかなと思っています。
――今そこは描けている感じですか?
そう、そこは明確な課題が見つかったのと、逆に通用した部分もあったので、そこは明確に。
――その明確になった課題とは?
スキル的なところになるんですけれど、ブレイクダウンやコンタクトの局面におけるフィジカルの差でしょうか。相手にコンタクトする時の強さだったり、スクラムひとつにしても、1回1回のスクラムで同じスクラムはないと思うので、どんな相手に対してでも対応できて、プレッシャーをかけられるようなスクラムを組めるようになるという課題ですね。

◆自分の組みたい形にどう近づけていくか
――前回のインタビューで、自分に合わせたスクラムの組み方を追求しているという話がありましたが、今回そこは面白かったですか?
そうですね。今回、代表に行って、サンゴリアスとは環境が変わります。フッカーも違う人だし、ロックもフランカーも違う人だし、試合で組む相手も初めて組む相手で、というぜんぶが新しい環境だったので、そこをどうアジャストするか。メンバーもいつも違い、どのメンバーを組むのかもわからないですし、そういう意味では、長いツアーを通して、その選手たちとアジャストしたり、自分の組みたい形にどう近づけていくかという部分は、面白かったと言うか。何とも言えないですけれど、それが自分の仕事なので、結果的にそうですね。
――面白いというよりも必死にやっていると言う感じですか?
面白いというよりかは、達成感に近いものはありました。セットプレーで相手にプレッシャーをかけるようなスクラムを組みたかったので、それで試合の時にペナルティーを取ることができたり、相手にプレッシャーをかけることができた時には、達成感まではいかないんですけれど、しっかり良いスクラムが組めたなというのは、レビューした時に得られました。
――実際にやっている時には、自分で何をやっているか、冷静にわかっているんですか?
自分の中でこういうふうに組めている時は自分の力が発揮できているなという感覚はあるので、だいたいそれは、相手とバインドした時に、このスクラムが良い感じかどうかって分かるので、そこまでの準備を結構細かくやっている部分はあります。
――バインドした時に「よし行けるぞ」の反対の場合は?
行ける時には「行けるぞ」なんですけれど、その時点で相手からプレッシャーを受けていたり、自分の形に入れていない時には、しっかりフッカーとコネクション取らなきゃなという、どれだけより悪くならないようにできるかということをやる感じです。
――それは喋りですか?
喋りもあるんですけれど、自分の身体の使い方で調整したり、出来る部分は多少あるので、その時にはフッカーに「行きすぎないで」とか、ロックの選手に「もうちょっとプレッシャーかけて」とか、そういった修正をします。
――やりながら修正するわけですね
やりながら修正しないと、とんでもないことになっちゃうので。

◆スクラムでの信頼がいちばん大事
――修正しなければいけない時と、そのまま行ける時の比率はどうですか?
基本的に良いスクラムを組むための準備をしているので、大体、7~8割くらいは自分の中の及第点には行っていると思います。その後の結果は相手があることなので、何とも言えないですけれど。
――それがそこまで行ったことによって、サンゴリアスでも試合に出続けているし、日本代表でも出続けているんですね?
そうですね。やっぱりフロントローはスクラムがいちばんの仕事なので、スクラムでの信頼がいちばん大事というか、試合に出るためには必要なスキルだと思います。
――そこが上手くいっていたら、次はこれもみたないものがあるんですか?
「次はこれも」というよりは、「自分の強みは?」と言われた時に、「フィールドでボールを持ってプレーするところ」「スピードのところ」だと思うんです。スクラムが上手くいけば、しっかりと自分の強みに対してフォーカスできて、そのプレーへの余裕ができて、ゆとりができると思います。
――これからチームと合流してということになるけれども、そこに関しての自信は?
自分を評価してくださるのはコーチ陣の方で、その評価が結果的に試合に出られるということだと思うので、僕自身は本当にもう、自分のパフォーマンスをどれだけより良く出来るか、更に良くなれるかということと、1回1回の練習や試合に対して100%の準備をして、自分のパフォーマンスを100%出すことが自分の役割だと思っています。そのことに対して自信があるかと言うよりも、ひたすら自分の準備をしたり、自分のプレーを100%出すことにフォーカスする方が、それが自信に繋がると思います。

――ひとつひとつ目の前のことに集中して良い準備をすることが大事、ということに気がついたのはいつですか?
サンゴリアスでメンタルのところの話をしている中で、自分のプレーヤーとしての大事なところを話した時に、結局は自分のパフォーマンスを100%出すことが大事なんだなというところに気づけて、プラスアルファで、自分の強みだったり、逆に自分が不安に思っているところ、不安というか、ここが上手くいけば、自分のプレーにゆとりだったり余裕が生まれるよねというところを詳しく、そして自分がどういうプレーヤーなのかを自分で言語化して掘り下げていった時に、わかったと言うか、気づかせてもらいました。
サンゴリアス1年目の時は正直、そこまでの余裕がなかったというか、まだサンゴリアスキャップも取っていなかった時だったので、その時はガムシャラというか、何が何でも試合に出たいと思っていました。徐々に試合に出られるようになってきて、その時に話をしている時に、そう掘り下げていったんです。
――良いタイミングでしたね
そうですね。どういうところに他の選手との違いがあるのかということだったり、コンスタントに試合に出ている時はどういう時で、何で試合に出られていると思う?というところを、更に深掘りしていきました。ただ試合に出ていて、自分が試合に出られてるということだけじゃなくて、良い時だからこそ、何で自分が良いのかというところに気づけたので、良いタイミングだったと思います。
――それを日本代表でもやっているということですよね?
でも、もうあまり変わらないというか、結局、自分の強みについて自分の中にひとつ定義があって、自分で理解できるということが、また自分の強みでもあると思っているので。自分のプレーの中で何が強みか、これが上手くいけばこういうプレーも出来るようになるよねっていう流れがあるから、別にそれを欲張るというより、その流れに乗れれば結果的にいろいろなことが出来て、視野が広がり、可能性が広がる。自分のパフォーマンスを100%出そうというところからですね。自分が何ができるかは分からないですけれど(笑)。
――これはブレないですね
これがブレたり、逆に自分が上手くパフォーマンスを出せていない時に違うところに目が行ってしまうと、自分の悪いサイクルにずっと入っていってしまうのかなと思います。

◆自分のパフォーマンスの先にリーダーシップがある
――新しいシーズンは、リーダーグループに入りましたが、初めてですね?
そうですね。ディフェンスリーダーとかになったことはあるんですけれど、チームのリーダーグループは初めてです。
――キャプテンがいて、バイスキャプテンが2人いて、リーダーグループが3人で6人。この役割に対してはどういうふうに考えていますか?
今までは自分のパフォーマンスにフォーカスしていた部分があったので、そこは変わらず持ち続けながら、チームをリードしていく。キャプテンやバイスキャプテンをサポートできるように動いていきたいと思います。
――そういう役割は学生の時は?
高校と大学で、自分が最上級生の時には副キャプテンをやっていたので、リーダー経験がないというわけではありません。ただこういうトップレベルのチームでは初めてです。まだリーダーグループのことに関して、リーダーのメンバーと喋っていないので、実感がまだありません。
――どちらかと言うと自分を出していこうというタイプですか?それとも後ろから支えるタイプですか?
去年もセットピース、特にスクラムのところで敵チームの分析などをやって、チームに対してプレビューをしたりしていたので、そういう部分でもチームをリードできるかなと思いますし、ただ正直、やってみないとわからないです。どういうところをチームから求められているかも含めて、これからですね。
まずはチームに自分がフィットするところがいちばんだと思います。どうリーダーシップを取るかと言うよりは、チームに合流して、自分のパフォーマンスをちゃんと出して、その先にリーダーシップがあると思います。
――優勝できていない悔しさは?
それは毎年悔しいですよ。入ってきた時はアーリーエントリーの時で、出られていないですけれど決勝まで行って、スタンドから決勝という舞台を目にしました。実際に負けるというところも、出ていないから経験したとまでは言えないですけれど、そういうところからなかなか決勝という舞台に行けていなくて、毎年悔しい思いしかしていないです。
――今シーズンの目標は?
チームとしては優勝。個人としては優勝するために全試合に出場して、チームの勝利に貢献したいと思っています。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]