2025年10月17日
#980 竹内 柊平 『日本一の3番になりたい』
日本代表プロップの竹内選手。サンゴリアスへ移籍してきた、その熱い思いを語ってもらいました。(取材日:2025年9月下旬)
◆プロップになったのは大学4年
――TKと呼ばれていますが、なぜTKなんですか?
サンゴリアスの前に所属していた浦安D-Rocks、僕が入った時はNTTコミュニケーションズシャイニングアークスでしたが、トライアウトで入ったんですね。トライアウトを受けた際に初めて自己紹介した時に、「九州共立大学から来ました竹内柊平です」と言ったら、当時キャプテンだった金正奎選手に「じゃあ、TKで」と言われて、そこからTKになってしまいました(笑)。竹内柊平なので、イニシャルで言ったらTSとかSTになるんですが、TKは竹内のTAKEからTKになったんじゃないかなと。外国人選手も覚えやすいので、とても気に入っています。
――NTTコミュニケーションズに入って公式戦の出場は2年目からですか?
そうですね。1年目のシーズンの最後に、順位決定戦でリザーブで出させてもらったんですが、トップリーグキャップの非対象の試合でした。その翌シーズンからリーグワンが始まって、リーグワンデビューは2年目の開幕戦でした。
――その辺りからレギュラーが掴めそうだという手応えはあったんですか?
おかしな話なんですけれども、プロップになったのは大学4年でした。大学ではほぼロックとナンバー8で出場していて、実質社会人からプロップを始めたようなものでした。
――なぜプロップに転向したんですか?
僕自身はナンバー8でプレーしたかったんですが、大学の3年の後半くらいからプロになりたかったんです。ラグビーのプロになりたいと思うのと同じタイミングで日本代表になりたいと思ったので、どのポジションだったら日本代表になれるかと考えた時に、自分の身体の頑丈さには自信があったので、1列目でスクラムを1回も組んだことはなかったですけれど、プロップをやろうと思いました。
――それまではスクラムを後ろから押していたわけですよね
そうですね。最初から出来るとは思っていなかったんですけれど、やればやるほどスクラムは難しいですし、身体を鍛えるというか、プロップって愚直なポジションというか、やればやるだけレベルが上がるポジションだと思います。それはスクラムの回数然り、トレーニング然り、見るというナレッジの部分然り。僕は忍耐力では誰にも負けない自信があるので、スタートラインは他の選手よりもめちゃくちゃ後ろでしたが、プロップで日本代表を目指そうと思いました。
――ポジションへの未練はありませんでしたか?
なかったですね。九州の何チームかから「ナンバー8で来て欲しい」というオファーもあったんですけれど、日本代表を目指すならナンバー8では無理だと正直に思っていましたし、身長もスピードもボールキャリーも僕よりも素晴らしいナンバー8の選手がたくさんいました。更に外国人選手を含め、インターナショナルレベルでは通用しないと思ったので、プロップ一本に絞りました。
◆めちゃくちゃご飯を食べる
――我慢強さはどこから来ているんですか?
もともとはレイジー(怠惰)な選手で、トレーニングが大嫌いでした。中学生の時には身長が160cmで体重が60kgくらい、他の選手はみんなが宮崎県選抜に選ばれているのに僕だけが選ばれないような選手でした。ところが恩師に誘われて高校に行ったら急に身長が伸びて、頭で考えているプレーがぜんぶ出来るようになりました。もともと、何を頑張っても出来なかった奴が、何も頑張らなくても出来るようになってしまったので、努力は必要ないと勘違いをしてしまいました。
――身長が急に伸びた理由は何かあったんですか?
いや、分からないですね。今もめちゃくちゃご飯を食べるんですが、昔からそうでした。今は逆に節制しなければいけないくらい食べてしまいます。牛乳も好きで、給食で牛乳が嫌いな友だちからもらって飲んでいました。給食の献立が出た段階で、お肉が嫌いな女の子に「何月何日のこのおかずを頂戴」と言っていました(笑)。それくらい食べていたのに、中学まではめちゃくちゃ小さかったんです。しかも足もめちゃくちゃ遅かったんです。
――我慢強さに話を戻すと?
今のところまだ繋がっていないですね(笑)。それで調子に乗っていて、そのまま大学に進んだら、九州共立大学だったので、関東、関西とは違って九州なのでレベルは一段階下ですよね。だから、努力をしなくてもナンバー8のスタメンでポンって試合に出られちゃったんです。「大学でも努力しなくて良いんだ」と思っていたら、案の定、関西の強い学校と試合をしたらボコボコにやられて、チームとしては結構健闘したんですが、僕だけボコボコにやられました。ボールキャリーでは仰向けに倒されて、タックルに行けば吹っ飛ばされて、ハイボールキャッチが得意だったんですけれど、競ったらそのまま取られてトライをされたりとか、全部のプレーでやられて、「ラグビーを辞めよう」と思うくらいやられました。
けれど、いろいろな人にお世話になって、自分がラグビーをやる意義は恩返しなんだと気づいて、そこからは大学で1日5時間ウエイトトレーニングをしていました。今でも覚えているんですが、大学2年生の時にベンチプレスが90kgも上がらなかったんです。今は180kg上がるんですが、当時は体重が105kgあったのにベンチプレスが90kgも上がらなくて、スクワットも120kgをちょっとズルしてやっと上がるような状態でした。その状態から、今考えると非効率だと思うんですが、1日5時間ウエイトトレーニングをやって、その時は自分にやる癖をつけたくて、毎日、授業の合間にグラウンドを走ったり、大学の裏に山道があるんですけれど、山道を走ったりしていました。台風の時にもランニングをしに行ったりもしていました。
それをやっていたら成長を感じて、これを続けたら日本代表になれるという、なぜか確信があったんです。それをやっていたらグーンとパフォーマンスが上がりました。その忍耐強さは、もちろん好きなことなので自分のためにもやりますが、これまで弱い学校でやってきて、いまリーグワンで活躍している他の選手たちよりも、たくさんの人たちに迷惑をかけてきたと思っています。調子に乗っている時期もありましたし、自分自身がめちゃくちゃ弱かったですし、それをサポートしてくれた人の数は計り知れません。だからその人たちへの恩返しです。その時々のチームメイトへ、そして高校、大学の同級生でリーグワンでプレーしているのは僕だけで、そういう人たちの気持ちも背負っていると思っているので、やるしかないんです。
◆頑張っている僕でいたら誇れる
――応援してくれた人たちをがっかりさせたくないということですか?
僕がよくインタビューなどで言うことなんですが、僕はめちゃくちゃナルシストなんですよ。顔のことではないですよ(笑)。めっちゃ自分のことが好きなんです。
――良く言えば美学があるということでしょうか?
そうですね。僕が好きな僕であったら、みんなも誇ってくれるんです。例えば僕が、練習しない、ウエイトしない、すぐに帰る、好きなものを食べる、甘いものを食べる、揚げ物を食べる、何でも食べるということは、僕が恩返しという意義を持った時とは違うわけです。そこから食事制限も始めましたし、そうじゃないと誇れないですよね。だから周りも僕のことは誇れないんですよ。頑張っている僕でいたら、みんなも誇れるというか。
――痛かったり辛かったりする思いをしながらもそれを我慢して頑張れるもとは何ですか?
正直、こんなことを言うと反感を買うかもしれませんが、日本代表も恩返しをするツールだと思っています。いちばん分かりやすいですよね。
――いちばんは恩返しということですか?
そうです。ただの指標ですからね。僕の中で、ワールドカップでベスト4になる、優勝することが、いちばんのゴールだと思っているので、そのツールを使わせてもらっているという感じです。
――自分の美学が先なのか、恩返しが先なのか、どちらですか?
難しいですね。やっぱり自分のことはずっと好きでした。弱っちい時から変な自信はずっとあったんです。今までずっと自信はあるんですよ。けれど、大学の途中までは、努力をしていない自信だったので過信だったんです。そして過信がトレーニングをし出してから自信になりました。僕は海外の選手と試合をする時に思うんですが、対面の選手の身体が大きくても、「こいつは確かに俺よりも身体はデカい。でも俺の方がトレーニングをしているから俺の方が強い」と思って試合をします。そうすると代表戦でもフィジカルで戦えるんです。自分の方がトレーニングをしていると思っているので怖くないんですよ。
――身体が急に大きくなって何でも出来るようになった時が、その自信のもとですか?
何て言うんですかね。小さい頃から自信はあったんですよ。ポジティブな性格なんですかね。母親が心配するくらいポジティブでした(笑)。宮崎県選抜の予選会でも、端から見ていたら絶対に落ちたと思われていても、僕は「たぶん受かったわ」みたいな(笑)。
――そのポジティブはご家族から引き継いだものなんじゃないですか?
そうですね。あとは育った環境ですかね。本当に小学校とか中学校のチームメイトが良い奴らばっかりでした。宮崎ラグビースクールでラグビーをしていました。上から叩く人がいたら、たぶん今の僕はなかったですね。たぶん宮崎という場所もあると思いますが、本当に周りが温かかったですね。ポジティブな僕が出来上がったおかげで、過信から自信になって、今も自信が続いているので、これが僕のアイデンティティになったという感じですね。その過程で「これは恩返しなんじゃないか」と気づいて、ポジティブと恩返しの二刀流でやっています(笑)。
◆めちゃくちゃラグビーが楽しそう
――浦安D-Rocksを離れて、なぜ海外に挑戦したいと思ったんですか?
めちゃくちゃ単純で、昨年ヨーロッパ遠征や代表戦で10試合に出させてもらいました。その中でいちばん強かったのはフランスでした。もうそれだけですね。スクラムも強かったんですが、スクラムは置いておいて、フィールドプレーでのフィジカルはフランスとジョージアがダントツで強かったんです。フランスはトップ14もあって強いのは分かるんですが、「ジョージアが強いのはなぜなんだ?」と考えた時に、調べてみたらフロントローの選手がほとんどトップ14の選手でした。僕はフィールドプレーが僕の強みだと思っていて、あと伸ばせるところはスクラムだと思っていたんですが、トップ14でやればまだまだフィールドプレーも伸びしろがあるんじゃないかと思ったんです。それから調べてみたら、各国のリーグの中でいちばん外国人選手が使えるのがトップ14でした。フランスっていろんな国の代表選手がプレーしていますが、スーパーラグビーは自国の代表選手しかいないですよね。だからフランスは丁度良いと思って、フランスに行くことを希望しました。
――それでアプローチしたんですね
アプローチしてギリギリまで調整してもらいましたが、結局はダメでした。
――その時はどうポジティブさを発揮したんですか?
もう置かれたところで咲くというか、僕にとってはどっちの道も良かったんです。なぜサンゴリアスを選んだかと言うと、めちゃくちゃラグビーが楽しそうなこと、それが僕にもめちゃくちゃフィットすると思いましたし、3番のポジションで国内でいちばん試合に出にくいところだと思ったんです。あとは練習がめちゃくちゃキツイこと。チームにいる間もパフォーマンスを伸ばしたい、もちろん試合に出ている時もそうですが、それ以外の時間でも自分を伸ばしたい、それだったらライバルの多いところに行こうと思って、そう考えた時にサンゴリアス一択でしたね。
――サンゴリアスとは昨シーズンに対戦していますが、その時はどうでしたか?
めちゃくちゃ強かったですね。結構競った試合になったんですが、ディフェンスをしていて、いちばん嫌なチームでした。試合をしていて、流さんに対して「球を出すのを遅くしてくれ」と思っていました(笑)。めちゃくちゃ上手くて、出たいところで出させてくれなかったりしました。そしてリーダーシップを学びたいという思いもありました。僕はリーダータイプではないんですよ。ただ、将来は教員になりたいことと、あとチームビルディングにとても興味があって、僕が引っ張るわけではないんですが、強いチームを知りたい、カルチャーがあるチームを知りたいと思って、ここしかないという感じで決めました。
◆真っすぐ、一点集中
――教員になりたいのはなぜですか?
僕の人生を変えてくれた方が、高校の教諭だと思っているので、僕がその人から教わったことを生徒たちに教えて、また僕みたいな生徒が現れて、教えていけばその先生と僕の教えが広がりますよね。
――先生をやってラグビー部の監督もやりたいということですか?
そうですね。最終的にはそうなりたいですね。
――それだけ喋れて、それだけ自信家で、それだけ体にも自信があるならば、身体でも言葉でも引っ張れるリーダーになれそうですね
僕はダメなんですよ。責任を感じるとパフォーマンスが激落ちするんです。ぜんぶ自分のせいだと思っちゃうんですよ。あとやろうとして、いらないことまでしてしまうんです。考えすぎてしまったりもします。
――自分の役割はこれだけと、シンプルに整理されればされるほど、パフォーマンスが上がるんですか?
そうですね。もちろんチームから求められたら、それに応えたいと思いますし、チームを良くしようとかフォロワーシップは100%行いますが、みんなの前で表立って引っ張ったりするとダメなんです。真っすぐと言うか、一点集中というか。
――そういう人はゾーン(超集中状態)に入りやすいと言いますね
代表戦の時に「これは絶対にゾーンに入っている」と思うことが何回もあります。
――ゾーンに入るとどうなりますか?
パフォーマンスがいつもより良くなります。何て言うんですかね。僕の中で思うのは、緊張しているとゾーンに入りやすいなと感じています。逆に緊張していない試合だとパフォーマンスが全く良くないんです。緊張する試合って前日から緊張し始めるんです。緊張して、緊張して試合に臨むと、試合のこと以外考えられないというか、疲労感なども分からないというか、そういう状態は何回かあります。大学生の時にもありましたね。
◆期待以上
――まだ合流したばかりですが、サンゴリアスでやってみてどうですか?
楽しいですよ。練習だけで自分が伸びていると実感しますし、もちろんシステムが違うので学び自体があります。人間は関係ないことを学んでもレベルは上がりませんが、ラグビーに直結することがビビッと来るので、面白いですね。新しい視点のことが多いですね。
――新しい視点とは練習のやり方のことですか?
練習のやり方もそうですが、スキルとか選手の雰囲気、練習の雰囲気、日本代表ともNTTコミュニケーションズともD-Rocksとも全然違いますね。
――期待していた通りですか?
もちろんです。僕が言う立場じゃないですけれど、期待以上というか、とても良いなと思いますね。
――このサンゴリアスでどう暴れたいですか?
僕がサンゴリアスで成し遂げたいことは、日本一の3番になることです。チームが日本一になるためには、チームの中に日本一の選手が半分くらいいないといけないと思っています。今は世界トップレベルの選手も入ってくるので、その選手以外でプロップやフッカー、それぞれのポジションでの日本一が何人か必要だと思うので、僕がサンゴリアスに入って日本一の3番になりたいと思っています。このチームには日本一の3番になってきた先輩方がたくさんいますし、そういう方から多くのことを学んで、サンゴリアスが日本一になることに貢献するために、日本一の3番になりたいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]