SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2020年6月22日

#699 小野 晃征 『自分から離れて自分をどう思うか 結果が良くても悪くても磨いていく』

いろいろな意味でサンゴリアスの中核を担ってきた小野晃征選手。チームを離れることとなって、サンゴリアスとラグビーへの思いを聞きました。(取材日:2020年5月下旬)

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◆ゆっくりリハビリすることが出来た

――いまニュージーランドにいるということですが、どんな生活をしているんですか?

ニュージーランドはコロナウイルスの状況がかなり落ち着いて、レベル4からレベル3に入りました。レベル4の時には、6~7週間くらいずっと家で家族と過ごして、レベル3にワンランク下がったことで、レストランやカフェからの持ち帰りはOKになりました。少し外に出たりして、家での食事もレストランのものを食べられるようになりました。

――かなり厳しい状況だったんですね

ニュージーランドは世界で一番厳しかったんじゃないですかね。飛行機も飛ばなくなりましたし、ニュージーランドに帰国して、空港でスーツケースなどを取ったらすぐにバスに乗せられるんです。そこからホテルに連れて行かれて、2週間完全に缶詰にされて、1日1時間くらいしか外に出られない状況でした。そもそもニュージーランド人とニュージーランドの永住権を持っている人しか入国できず、さらにその人たちが2週間を完全にホテルで過ごさなければいけない状態です。家族で帰ってきた選手もそうで、サントリーの選手たちが帰国した時には自宅でもOKだったんですが、それからすぐにルールが変わってホテルで過ごさなければいけなくなりました。

――その成果もあり、ニュージーランドでは他の国と比べてあまり広まっていないんですよね

そうですね。いちばん多くても、1日90人弱くらいの感染者数で、そこがマックスでどんどん下がってきています。それが5月までの状況ですかね。

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――そういう状況を体験してみて、どんなことを考えましたか?

政治のことはあまりよく分かりませんが、やっぱりお金を動かすことと人を守ることが両方大事だと思うんですよね。ニュージーランドも輸出入する国ですし、観光客が多い国ですからね。ただ、人が健康じゃなければ国が動かないということも感じましたね。今回の件に関してニュージーランドの首相は、もちろん経済は大事だけど、人が生きていなければそれは動かないし、病院などが大変な状況になれば国自体が動かなくなってしまうということで、とても人を大事にする判断だったかなと思います。

――その判断は良かったと思いますか?

それは正直分からないです。10年後、20年後、30年後に、この4ヶ月、国が動かなかったことで、何百人、何千人、何万人も、きっと仕事を失った人がいると思います。今は正解だったか分かりませんが、命はひとつしかないです。この先にどれだけ苦しい状況があったとしても、無駄に命が無くならなかったということは言えると思います。

――そういう状況下で、身体は動かしたんですか?

怪我をしたところのリハビリ中で、友達がジムを持っているので、バイクや軽いウエイト器具、リハビリの器具を貸してもらい、家のガレージでやっていました。もちろんチームの環境の中でリハビリをしたら、倍以上はリハビリが進んでいたと思いますが、怪我をしている間は治すことが大事なので、メンタル的にラグビーから少し離れたところで、身体を休ませながらゆっくりリハビリすることが出来たかなと思います。

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◆人として成長させてもらった

――移籍することになりましたが、いつ決めたんですか?

12月に怪我をして手術することが決まった時には、この2年半で4回目の手術だったので、正直、タイミング的には終わっても良いかなと思いました。引退して違う道に進んでも良いかなと思っていたんですが、手術をして1月、2月と、試合に出ていないメンバーと多くの時間を過ごしていて、試合に出ても出なくても、ラグビーという環境を楽しめることをすごく感じましたし、ラグビーを長く続けたいと思いましたね。一度引退したら復帰するのはすごく大変だと思いますし、現役を続けたいという想いがいちばんでしたね。

――他のスポーツでも長くトップで現役を続けている選手が出てきていますよね

ラグビーも5、6年前のトレンドであれば、35、36歳くらいでベテランでしたが、37、38歳くらいまで続けている選手もいますからね。自分はそこまではいかないと思うんですけど、ラグビーを楽しめて、その環境とチームで成長して、日々何か学べることがあれば、続けたいなとすごく感じました。

――そういう想いを、サントリーではなく別のチームで、と決めたのは?

まずラグビーを始めた理由が、ラグビーが好きということで、ラグビーを好きで始めて、好きで終わりたいという気持ちがありました。もちろんサントリーで終わりたい気持ちもあったし、サントリーにここまで育ててもらったし、優勝もベストフィフティーンも経験させてもらい、日本代表としてワールドカップにも出させてもらったんですが、この8年間でいちばん成長したのが、何よりも人として成長させてもらったと思っています。

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当時は彼女でしたが、彼女と2人で東京に引っ越して、結婚して子どもも生まれて、グラウンド内以上に育ててもらったチームです。会社も含めてすごく応援してくれて、人として育ててくれた場だったので、離れることは難しかったんですが、ラグビーも含め、自分と家族のことを考えたら、またサニックスに戻って新しく現役で続ける道もありかなと思いました。色々なことを考え、ラグビーだけではなく自分がいかに成長できるかと考えたときに、サニックスに戻ることが今の自分に合っているかなと思いました。

8年前にサニックスと複数年契約をしたのに、それを破ってサントリーに行くことでジャパンを目指すチャンスがあったんです。それを応援してくれたのが、当時のサニックスの監督だった藤井さん(雄一郎/現 男子15人制日本代表強化委員長)でした。その時の恩を返したいという想いもありましたし、きっと藤井さんの頭の中では、「もっと早くサニックスに戻ってくる、まさか8年間もサントリーにいるとは」と思っていたかもしれませんが(笑)、その恩返しを含めて、また環境を変えることで成長できるチャンスがあると思って、サニックスを選びました。

――サンゴリアスでいちばん成長したところはどこだと思いますか?

色んな人と話せるようになったことですかね。あと、色々な立場で経験をさせてもらいました。フルで試合に出たシーズンもあれば、怪我をして出られなかったシーズン、全勝優勝したシーズン、9位になったシーズンもあって、チームの環境があまり良くなかったシーズンもあれば、最高なシーズンもありました。24歳でサントリーに入って、自分が試合に出たいという気持ちを大事にしていた時もあれば、チームが勝たなければダメというマインドを持つことができた時もありました。怪我がなかったシーズンもあれば、怪我しかしていないシーズンもあリましたが、8年間で悪い経験はなくて、全てポジティブしかないですね。

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◆瞬間を一緒に楽しめた仲間との繋がり

――色々な経験をものにするのは姿勢だと思いますが、物事に対する時に何を大切にしていましたか?

どういう人になりたいということと、自分を見直すことを考えていました。人のせいにしたり言い訳をすることは簡単なんです。たまたま友達と話していたんですが、1人に「お前のせいだ」と言えば、他の3人から自分が指さされているんですよ。基本的に自分がどう見られているのかをしっかりと理解した上で、発言するようにしています。やっぱり自分の声が大事だと思って、自分の発言を良くするように考えていたんですが、だんだん経験を重ねていくうちに、聞く力って大切だと思うようになって、聞くことと話すこととのバランスを上手く取るようになりました。

――小野選手は常にサンゴリアスの中心にいて、それが出来ていたのではと思います

8年間サントリーにいて、自分よりも長くチームにいる人もいますが、この8年間で選手も変わっていますし、特にスタッフがよく変わったイメージがあると思います。自分が試合に出ている出ていないに関係なく、その中でコンスタントにコミュニケーションを取れていたのが、振り返ると自分だったのかなと思います。あまりそうは思っていなかったんですが、何人か退団するという話が出た後に、「いなかったら困る」と言われたんです。そういう意見もあると思いますけど、これもみんなが成長するチャンスだと思います。自分がいたからこのチームが進まなかった部分もあるかもしれませんし、これからももっとチームが強くなる可能性もあるなとすごく感じましたね。

――監督と選手の間、コーチと選手の間、外国人選手と日本人選手の間、日本人選手同士の間と、色々な立場の人の間にいたように感じます

それには大きなメリットがあって、そこでいちばん成長できたかなと思うんですよね。キャプテンでもポジションのリーダーでも、中心にいるということには、特別なタイトルがあるわけじゃないですし、意識してそうしようと思ってやっていたわけではありませんが、毎日、周りがそう思ってくれていた、頼ってくれていた、信頼されていたのであれば、とても有難いですね。

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――やろうと思ってもなかなか出来ないことですよね

ある意味、自然と出来ていた部分はあったかもしれないですね。

――客観的に自分を見ることが出来て、日本とニュージーランドの違いも分かっているから出来ていたんですか?

逆にタイトルがなかったからかもしれないですね。ランクとかゴールとか、「お前には今年はこれだけは頼む」ということがあると、それに対して評価されますし、期待されてタイトルをつけられると、それに対して成功しているか成功していないかと、毎日見られているような感じがしますよね。なぜそういう場で長く出来たのかと言えば、タイトルがなく、チームが勝てば良い、自分が成長していたら良いということだけなので、逆に何とも思わなくて、「じゃあ、チームにとって良ければ上手くコミュニケーションを取ろう」、「自分のためになるならサポートしてあげるよ」、「じゃあ一緒に相談しよう」となって、気楽にノンストレスでコミュニケーションが取れたのかなと思います。

――自由だったということですか?

自由な時もあったし、大変な時期もありました。チームが勝っていれば楽ですし、勝てなかった時にはもちろん辛かったですし、そこからしっかりと学べた分、成功したシーズンの方が多かったかなと思います。

――プレーでもチームを引っ張って、コミュニケーションとプレーの両方でしたね

選手でいる間は、チームが優勝することがいちばんの目標ですし、周りからそう見られることはとても有難いことなんですが、5年後や10年後には誰がMVPだったかは忘れられています。その瞬間瞬間を一緒に楽しめた仲間との繋がりはきっと変わらないと思うので、そっちの方を大事にしています。

自分がサントリーに入った1年目のシーズンとか、2016-2017シーズンとか、仲間と一緒に苦しい戦いをした中で優勝できたこと、「あの時にこういう試合があったね」、「こういう試合もあったね」と振り返って、そういう話が出来れば本当に幸せですね。「あの時に誰が十何トライ取った」とか、「何点取った」とか、目標にしていなかったものを振り返ることは、自分はあまり好きではないんですが、周りがそう思ってくれることは有難いですね。

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◆チームにどうコミットするか

――2015年ラグビーワールドカップでの活躍があった上での2019年だったと思うんですが、2019年のワールドカップを見ていてどうでしたか?

感動しました。負けたくない気持ちと、日本のラグビーを見せたいという気持ちがすごく伝わってきましたし、みんなが試合に出るだけで満足していなくて、あの舞台で活躍してチームに貢献したいというプレーが目立ったので、そういうチームプレーが見ていて素晴らしいと感じました。

――その良さを日本代表が持ち続けていくには、何がポイントだと思いますか?

どの選手も自分の強み、弱みがあると思うんですが、チームがやりたいラグビーに全員がコミットすることが大事だと思います。2015年と2019年ではラグビーのスタイル、やり方、意識は全然違うと思うんですけど、それに対して選手、スタッフだけじゃなく、サポーターもそこを信じて応援して、全員がひとつになることが大事だと思います。優勝した南アフリカも自分たちがやりたいスタイルを信じてワールドカップを戦ったと思いますし、日本代表もそういう意味で自分たちのスタイルを信じてトップ8に入れたと思います。

ここから更に成長していって、コーチたちも新しい引き出しを出してきたり、新しいスタイルを進化させていくと思うんですが、そこにコミット出来るかだと思います。なので、今の若い選手たちも日本代表を目指すことは大事なんですが、その前に今いるチームにどうコミットするかということが、とても大事になってくると思います。

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――指導者は良い方向に導かなければいけないわけですが、選手たちのやり方も重要と言うことですね

そうですね。そしてコミットすることも大事なんですが、それに対して分からなければ聞くこと、疑問に思ったことをクリアにすることが大事だと思います。ラグビーのスキル、S&C(ストレングス&コンディショニング)、強くなるための栄養に関して、世界のどの選手もきっとレベルが高いと思うんですよ。20年前、10年前のラグビーに、S&Cで速くなる、強くなる、パワーなどが入ってきて、今はさらに栄養、リカバリーが入ってきて、小学生レベルでもそこにちょっとずつ取り組んでチームがあると思います。「じゃあ、次にどこを成長させるか」と言えば、マインドとラグビーの知識かなと思うんですよ。

コロナが起きている間、「世界のラグビー選手は何をしているんだろう」と思ったんですが、きっと走ってウエイトしかしていなくて、あとは良い栄養を摂って、リカバリーしている。きっとマインドのことは何もしていないなと思います。ラグビーの試合を見たり、ラグビーの知識を上げたり、ラグビーの戦術を磨いたりすることって、ソファーに座ったり、ベッドに横たわったりしていても出来るトレーニングだと思うんですよ。グラウンドに立つために身体を動かしてフィットネスを上げることって、2、3ヶ月で出来ると思うんですが、ラグビーの知識とかマインドとか戦術の部分って、相当な時間を使わないと磨けないものなので、今後はそういうところもやっていかなければいけないと思います。

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◆マインドの大切さ

――さらなる将来には、指導者の道もありますか?

いやー、分からないです(笑)。ラグビー関係はしたいなとは思っています。

――先ほど言ったマインドの部分を大切にしながら指導していくことも新しいチャレンジになるのかなと思います

まぁ、そうですね。そのチームに合ったもの、必要なものがいちばん大事ですかね。勝ち方はひとつしかないわけではないですし、そのチームに必要な引き出しをしっかりと出せるような指導者にはなりたいなと思います。ラグビー関係で、個人的にサポートする人になるか、チームをサポートするかは分かりませんが、その時に合った経験を自分がしていないとダメだと思いますし、色々な人に知識をもらったり、勉強したりしていかないとダメかなと思います。マインドの大切さを伝えるには、勉強をしていかないと出来ないと思いますが、エリートスポーツの中ではそういう経験があるので、自分が伝えられるストーリーはありますね。

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――来シーズン、サニックスには小野選手が入り、キヤノンも沢木監督(敬介/元サントリー)になったり、面白くなりそうですね

そうですね。自分はGMではないですけど、いまトップリーグのチームには外国人コーチが多くなっていますが、外国人コーチを入れるのであれば、その下に日本人コーチを入れて育てていって欲しいなと思っています。外国人のコーチを呼ぶことは大事なことだと思うんですが、監督を外国人にしてしまうとコーチも外国人になりがちなので、難しいかもしれないけど、日本人のコーチも育てるという考えをもって外国人コーチを入れてもらいたいですね。

外国人の監督が増えてカラーも変わってきていると思いますし、そういうリーグを作るなら、もっともっとプロ化して、オールスターリーグのようなものを作っても良いんじゃないかなって思います。日本のトップリーグと言うのであれば、敬介さん、直弥さん(大久保/サンウルブズヘッドコーチ)や清宮さん(克幸/日本ラグビー協会副会長)のような人たちが、トップリーグのチームを指導して欲しいなと思いますね。個人的な気持ちですけどね。

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◆自分が着たジャージをもっと良くしていきたい 

――将来は、ぜひ指導者の道に

いやー、どうですかね(笑)。やってみたいですけどね。「何かを残したいという考えを持っているじゃないですか?」と言われたりするんですが、残す残さないって周りが思うことかなって思うんです。例えば、「ジョージ・グレーガンはサンゴリアスにこういうことを残してくれた」という意見って、周りが思っていることだけで、ジョージとしたら自分なりに自分のことをやっていただけだと思うんですよ。

自分としても自分が着たジャージをもっと良くしていきたいという想いはあるんですが、自分なりに良くして残してしくことが大事だと思うんです。きっと5年後、10年後、20年後、絶対忘れられていると思いますし、世界のラグビーを見ても、本当に何かを残せた選手って分からないですし、10年後、20年後、30年後も覚えている選手って、ジョナ・ロム―とリーチマイケルくらいじゃないですかね。残すためにやっていたら、すごく損かなって思います。

――周りからどう見られるかを気にするのではなく、それ以外のところのバランスが大事ということですか?

周りがどう思っているかというよりかは、自分が自分をどう思っているか、自分から離れて自分をどう思うかというところが、自分を振り返ってというところですかね。自分が周りからどう思われているかを気にしたら、かなりブレると思うんですよね。周りを気にするということは、自分から一歩離れて自分を見ることが、周りがどう思っているかを気にすることが出来るということですね。周りの人がどう思っているかじゃなくて、周りの"自分"がどう思っているかということです。

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自分の周りに10人くらいの自分が立って自分を見て「こいつはこういう時に真面目じゃない」とか、「プレッシャーを感じたら弱い」とか、「プレッシャーを感じた時にブレずにチームを指導できる人になりたい」とか、「この時は出来た、この時は出来なかった」と評価して、自分をどう見るかですね。

――それはなかなか出来ることではないですね

結果だけを見るのではなくて、自分の態度、自分のボディランゲージ、自分が伝えたメッセージがどうみんなの耳に入って、どう見られているかを考えながら、「こういうプレッシャーを感じた時は、胸を張って歩こう」とか、「プレッシャーを感じた時は少し言葉が多かったな、言葉が足りなかったな」とか。結果だけを見たら成功していなかったかもしれないですけど、その結果だけを見るのではなくて、結果が良くても悪くても、磨いていくんです。

――結果というよりも、自分の中のこうしたいというものと比べてどうだったかと言うことですね

そうですね。

――外から自分を見る感覚はいつ頃から持てたんですか?

いつ頃かは分からないですね(笑)、昔からですかね。ニュージーランドで育っている間、小学生400人くらいいる中でアジア人は1人でしたし、自分を出さなければいけないけれど、自分がどう見えるか、自分がどうなりたいかというバランスは、小さい頃からですかね。'Black Lives Matter'という考え方がありますが、そういう気持ちもすごく分かります。日本で生活していると、すごく簡単に差別の言葉とか聞くので、もったいないなって思いますね。自分もニュージーランドで育ったので、アジア人としてすごく下に見られた経験があって、日本にいて日本人が同じアジアの国の人に対して同じようなことを言っているのは、すごく残念だと思うし、違うなって思います。

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◆人としてラグビー選手として成長したい

――今度、サニックスではどんなことをやりたいと思っていますか?

8年間、離れているチームなので、変わっていないのは練習場とクラブハウスの場所くらいかなと思います(笑)。自分がいた頃とは中身が全然違うチームだと思うので、そこにフィットしたいと思いますし、何よりも自分が良いパフォーマンスをして、ラグビーのグラウンドに立つことが、まずはいちばん大事かなと思うので、それをやっていきたいですね。

――それが出来る自信があるから、チームを変えて現役を続けることを選んだんですね

ひとつはやっぱり、4回手術をして、自分が試合に出ていないイメージが強すぎて、練習中も上手くなりたいというより、正解を探してラグビーをしていたような感じがあります。ちょっと焦ってしまって、練習からパフォーマンスを出すこと、練習から正解を探さないと試合に出られないと、自分でプレッシャーを掛けていたかなと、振り返った時に思いましたね。

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もちろんそういう環境で育てば、そういうやり方も全然アリだと思いますし、そういう成長の仕方をしていたと思うんですが、自分はニュージーランドで育って、何でラグビーを始めたか?と言えば、「仲間と一緒にラグビーが出来る」ということでした。正解を探すということが結果論なんですが、何回か復帰した中で、成長したいという想いがあまりなかったんです。発言とか頭では意識はしていましたが、振り返ったら、上手く練習をしようとか、結果を残そうとか、そういう方向に行っていたと思うので、今回は正解じゃなくて、人として、ラグビー選手として、成長したいと思っています。

――そこがラグビーの魅力なんですね

ラグビーは面白い仕事であるということ、そしてプロなので一生懸命トレーニングをして試合で勝つということが大事なんですが、本当に仲間と言える50~60人と会って、一緒にその週の試合で勝つために考えて、監督からS&C、トレーナーなど皆でスクラムを組んで進んでいきます。自分自身、ハイボールをキャッチ出来るわけではないですし、本当に1人では出来ないスポーツです。そこでちょっとずつみんなの良いところを合わせて、試合は週に1回しかないけど、毎回みんなで集まって、ひとつのゴールに向かって努力できるということが最高ですね。

本当に8年間はあっという間でした。なので、1日1日を無駄にして欲しくないというか、楽しんで欲しいですね。楽しむということは、毎日ふざけて笑うということではなくて、毎日みんなで集まれるということに感謝できるという気持ちを持って欲しいですね。2020シーズンで引退となった選手たち全員と話をしたんですが、やっぱりみんな、仲間と一緒にいられないということを悲しんでいました。それを引退してから気づいて欲しくないですし、いまラグビーが出来ることを幸せと思って、ラグビーをやって欲しいです。

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――改めてサンゴリアスに対するメッセージを

自分は日本代表にいて気づいたことなんですけれど、サントリーの社員選手は特にすごいと思います。ちゃんと仕事を任されている選手がたくさんいて、ラグビー以外の人ともコミュニケーションを取って、ターゲットを設定されてプレッシャーもある中、数字もちゃんと評価されていますし、グラウンドでのプレッシャーにも対応して、両方で結果を求められている中で、会社とチームの両方に貢献していることを、すごくリスペクトしています。

――サンゴリアスのプロ選手は、みんなそういう意識を持っているんですか?

他のプロ選手がどう思っているかは分からないですけど、自分はプロだからこそプロとしての結果を残さなければいけないと意識していました。だから、自分は両方は出来ないと、個人的には思っています。考え方がもともと違うからかもしれないですが、プロ選手から見てサンゴリアスというチームは、サントリーという会社に対しても、サンゴリアスとして貢献するというプライオリティーをしっかりと持っているということが素晴らしいと思います。

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◆試合が終わったら美味しい"ザ・プレミアム・モルツ"を飲みたい

――次のシーズンではどんな目標を立てていますか?

怪我からしっかりと復帰して、ロバストの(頑健な)身体を作って、大怪我をしてシーズンが終わらないようにしたいですね(笑)。グラウンドに立つことを、いちばん楽しみにしています。そして、今のサニックスに貢献したいと思っています。

――サンゴリアスのファンに向けてメッセージをお願いします

サントリーのファンは、どこで試合をしても応援に来てくれて、優勝したシーズンもあまり成績が良くなかったシーズンも熱く応援してくれて、自分にとってはそのサポートに応えなければいけないと思わせてくれました。そういうサポートがあるからこそ、自分も成長しなければいけないと思って8年間できたことを、とても感謝しています。

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――今後はサンゴリアスと対戦することになりますね

負けないように頑張りたいと思いますし、しっかりと80分間、自分のパフォーマンスとチームのパフォーマンスに貢献して、試合が終わったら美味しい"ザ・プレミアム・モルツ"を飲みたいと思います(笑)。

――順調にいけば、いつ頃日本に戻ってくる予定ですか?

まだ飛行機が飛んでいないので何とも言えませんし、まだ新しい家も見つけられていないですし、あとはサニックスがいつから練習をするかにもよりますかね。6月くらいには東京に行って、みんなに会いたいとは思っているんですが、まだどんな状況になるか分からないので、様子を見ながらですかね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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