梶川 幹太
サントリー株式会社
ビール商品開発生産本部 ビール商品開発研究部
ビールの発酵に不可欠な酵母は、ご存じの通り“生き物”です。その働きを制御して高品質なビールを安定的につくり込むためには、常に細心の注意を払い品質管理を行うことが非常に重要です。酵母を工場でのビール醸造で使用するためには、研究所で少量保管されている酵母を工場の規模まで増殖させる、「スケールアップ」と呼ばれる立ち上げ作業が必要です。このスケールアップでは、酵母の状態を見てその都度判断する必要があり、酸素をどのタイミングでどれだけ与えるか、発酵温度をどう設定するかなど、その判断には、数値だけでは読み取れない“感覚”も欠かせません。少しの条件の違いがビール全体の品質に直結するため、一つひとつの工程に真摯に向き合いながら、丁寧に酵母の状態を見極めていきます。
また、我々がビール工場で使用する酵母は一度の発酵で役目を終えるわけではなく、ビール発酵終了後の適切なタイミングで回収し適切な環境下において保管します。その後、顕微鏡観察や各種分析によって、酵母がイキイキと働ける状態になっているかを少しの変化も見逃さないように24時間体制で把握し、品質への悪影響の発生を防ぎます。このように酵母の状態を徹底的に管理したうえで、次の発酵に繰り返し使用(連醸)していきます。
この「繰り返し使用」が可能なのは、酵母が健康で、発酵に適した活性を保つ環境を整えているからこそです。しかし、酵母は使用を重ねるごとに少しずつ“疲れ”が蓄積し、発酵力や活性がわずかに変化することがあります 。この変化はビールの味わいや香り、泡品質や透明度などに影響を及ぼすおそれがあるため、品質を一定に保つには、酵母の状態を日々丁寧に観察し、変化の兆しを見逃さないことが重要になります。
「いつもと同じでいい」ではなく、その日・その時の状態に合わせて最適な条件を導き出す──この「見極める力」は、私にとって品質保証の原点とも言える重要な視点です。
現在私は、ビール開発生産本部ビール商品開発研究部に所属し、健康志向の方向けの“糖質ゼロビール”といった機能系ビールや、若年層をターゲットにした“新感覚ビール”など、お客様の期待を超える商品づくりに取り組んでいます。こうした新たな価値を持つ商品の開発では、味や香りといった嗜好性だけでなく、製法・原材料・設備に至るまで、これまでにない条件下での検討、評価が求められます。そのため狙いの品質を達成するためのリスク抽出は、開発初期から極めて重要なテーマです。
例えば2024年にコンビニエンスストア限定で発売された「HOPPLE(ホップル)」※は、サントリーのビール類史上最大量のホップを使いながらも、軽やかな甘みと複層的に広がるフルーティーな香りを両立させた、“新感覚のお酒”という新しいコンセプトで開発されました。前例のほとんどない製法で、香りを引き出す工程では、条件のわずかな違いで狙いの品質を達成できない可能性がありました。開発・生産が一体となって議論を重ね、一つひとつの工程設計をこだわり抜くことでようやく製造にこぎつけました。新商品開発においては、安全安心な中味、確実なつくり込みを実現する現場視点から関係部署の知見を集結したリスク抽出と、開発と生産が一致団結したリスク対応が、“攻めの開発”を達成するためには必要不可欠です。
新しい価値の裏には、これまで経験したことのない新たなリスクが必ず潜んでいます。価値とリスクの双方に正面から向き合い、全員参画で一つずつ乗り越える──それが、サントリーの“攻めの品質保証”であり、ものづくりの未来を切り拓く力となっています。
また、サントリーのフラッグシップ製品である「ザ・プレミアム・モルツ」では、“品質の競い合い”ともいえる文化が根づいています。
毎月実施されている「ザ・プレミアム・モルツ醸造技術会議」では、全国のビール工場や研究所から醸造技師長や開発担当者などの関係者が一堂に会し、各工場のザ・プレミアム・モルツの出来栄えを分析結果や官能検査によって評価を行いながら、さらなるおいしさの実現について白熱した議論を交わします。
この場では、各工場が「理想のザ・プレミアム・モルツ」を実現することを目指し、味・香り・泡立ちなどあらゆる品質指標において当たり前品質だけでなく、さらなる高みを目指した醸造技術向上への挑戦について侃々諤々の議論を行いながら、切磋琢磨を続けています。こうした取り組みが、“最高の一杯”を生み出す妥協なき姿勢を支え、品質保証の現場にも誇りと緊張感をもたらしています。
私にとって「All for the Quality」とは、お客様と私たちをつなぐ“コミュニケーションの手段”です。私たち商品開発の仕事は、お客様一人ひとりに直接「おいしいですか?」と声をかけることはできません。けれど、品質を通じて語りかけることはできる——だからこそ、品質に妥協は一切許されないのです。
サントリーには、「お客様のための品質とは何か」を常に問い続ける文化があります。商品開発・マーケティング・生産など、部門の垣根を越えて連携し、現場と密にコミュニケーションを取りながら、常に「この設計で、お客様に最高のひとくちをお届けできるか?」を確認し合う。「All for the Quality」という言葉には、そんな“全社一丸”で品質に向き合う誇りが込められていると感じています。
品質の追求に終わりはありません。
今日よりも明日、明日よりもその先へ——そうして積み重ねてきた技術や知見を、しっかり次の世代へと引き継ぐことも、私の使命です。これからも「今日のビールより、明日のビールをもっとおいしく」という想いを胸に、品質保証にまっすぐ向き合い続けていきたいと思います。
All for the Quality Story
“ハイボール日本一”を支える、
二人三脚の品質保証
サントリーが掲げる品質方針、「All for the Quality」。それは、製造現場にとどまらず、研究開発から販売まで、すべての業務に携わる一人ひとりが、品質に真摯に向き合っているという意思を示すものです。
デジタルが進化しても、
品質保証の要は「人」
私は入社以来、一貫して天然水の品質保証を担当しています。天然水は、自然に磨かれた清らかな水をそのままにお客様へお届けする製品です。だからこそ、一切の妥協が許されず、品質そのものが問われます。わずかな違和感、設備の変化、香り移り──すべてが品質に直結する。そういう製品です。
今日のおいしさを超えるために。
進化を続ける“品質保証”
ビールの発酵に不可欠な酵母は、ご存じの通り“生き物”です。その働きを制御して高品質なビールを安定的につくり込むためには、常に細心の注意を払い品質管理を行うことが非常に重要です。