Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

追憶

イエーガー
マイスター
30ml
メーカーズマーク 20ml
奏<抹茶> 10ml
カルーア 1tsp.
ステア/ロックグラス
大きめの氷を1つ入れたロックグラスに注ぐ。

生薬的イメージを脱したカクテル

テキーラをショットグラスでクィッとやる。先日、そんな飲み方が流行ったことがあった、とヤングに言ったら、いまの彼らの様子も変わらないと返された。わたしにはまったく縁のないクラブというところでは、クィッて、やっているらしい。

しかもリキュールの「イエーガーマイスター」(以下イエーガー)も人気が高いという。ボトルをキンキンに冷やしておいて、ショットグラスに注いで飲むという。アメリカあたりの話だと思っていたら、ジャパンでも同じことが起こっているらしい。

たしかに冷えた「イエーガー」の飲み口は心地いい。「イエーガー」は、リキュールとしての感覚よりも生薬的な香味のインパクトのほうが強いが、キンキンに冷やされることでその強い主張が和らぐ。でも、わたしのようなオジサンは、もうクィッとはいかないな。チビリ、チビリである。

もしわたしがバーなんぞでクィって飲んでみせようなら、「なにか辛いことでもありましたか」って言われそうな気がする。ヤングたちのような陽気さもなく、大人の男のダンディズムというかハードボイルドさもない。格好つけようがない。

ストレートもいいけれど、健胃薬的なイメージを脱した、新たな香味を抱いたカクテルもいい。簡単なのは「イエーガー・オレンジ」。オレンジジュースに「イエーガー」をフロートさせるだけのものだ。

ちょうど1年前のこのエッセイで、親しいバーテンダーが創作した「イエーガー」とテキーラ「サウザ」をシェークした「ララ」(第85回『リリー・マルレーンの歌姫』参照)というカクテルについて語った。今回も同じように「イエーガー」をベースにした創作カクテルを紹介しよう。

レシピは「イエーガー」にバーボンウイスキー「メーカーズマーク」、ジャパニーズクラフトリキュール「奏Kanade<抹茶>」、そして「カルーアコーヒーリキュール」を微量というものである。これをミキシンググラスでステアした後、氷を入れたロックグラスに注ぐ。つまりオン・ザ・ロックである。

ナイトキャップ・カクテル的な甘みを抱いた味わいなのだが、なかなかに複雑味があってこころの奥底に響くのである。そして飲み方がロックであるところがこのカクテルのポイントであり、しなやかさをもたらしているといえよう。

口にしてまず感じるのは、わずかな量の「カルーア」がいい役割を演じていることである。「イエーガー」をしっかりと支えて香味に厚みをもたらしているのだ。そして「メーカーズマーク」は「イエーガー」の甘みに上手く同調しながら、柔らかい弾力感と潤いのある伸びやかさをもたらしているのではなかろうか。「奏<抹茶>」の茶の苦味は中和されながらもキックの効いた隠し味として生きている。意外にも抹茶リキュールとコーヒーリキュールとの相性がよく、驚かされた。

思い出がこころの隅々を照らす

これをゆったりと味わっていると、なんだか懐かしい自分、セピア色に染まりかけた昔を思い出した。些細なことで一喜一憂した頃。胸が躍る高揚感も愚かなまでもの焦燥感も、そして挫折感や罪悪感もすべて一括りにして苦笑するしかない。

カクテル名は『追憶』。バーブラ・ストライサンドとロバート・レッドフォードが主演して大ヒットした映画(原題『The Way We Were』1973/日本公開1974)から、わたしが勝手にイメージして命名した。

映画は、理想主義の政治活動家の女性と、政治思想とは無縁のイケメンが大学で出会い、卒業後の第2次世界大戦中に再開して恋に落ち、戦後結婚する。互いに自分にはないものに惹かれ合ったのだが、結局は価値観の相違から離婚するという内容である。

実際は映画の内容よりも、テーマ曲のほうが浮かび、カクテル名としたのである。バーブラ・ストライサントが歌った曲も大ヒットして、高校生だったわたしはすぐにレコードを買った。

ところが時が経ち、この曲が、あるCMのしかも朝のシーンに使われたときは愕然とした。そして長い年月、わたしのこころの中ではお蔵入りとなってしまったのである。正直に言えば、最近再び聴くようになった。

原題の『The Way We Were』を曲の詞から読み取ると、“取り戻せない二人の日々”といった意味合いであろう。実はこのwe もわたしの想いには関係ない。“思い出がこころの隅々まで照らす”といった内容のMemoriesからはじまる印象的な歌い出し部分だけが、カクテルの味わいと結びついたのである。

ハーブに草根木皮、そしてフルーツといった56種もの素材によって生まれる「イエーガー」がさまざまな感情に揺れる若かりし頃のわたし自身であり、バーボンや抹茶リキュールは時の流れのなかで影響を受けた人々や出来事のような気がしたのだ。コーヒーリキュールは時として我を主張しすぎるわたしのこころを支えてくれた人たちなのではなかろうか、と。

とはいえ、飲みながら決して重苦しいこころ持ちになった訳ではない。思い出がこころの隅々まで照らし、いろいろあったけど、もう取り戻しようがない、とカクテルに癒やされ、自分を笑うだけである。

そして自宅に帰ってから、バーブラ・ストライサントの歌声を繰り返し聴いたのだった。

こんな味わい方は「イエーガー」をベースにしたカクテルだからこそ、といえるのではなかろうか。強い香味特性が他の素材と響き合い、こころの襞(ひだ)に沁みていく。すると、思い出が浮かび上がってくる。

しかしながら、映画の『追憶』という邦題は見事というしかない。

「イエーガーマイスター」に関するエッセイはこちら

第85回「リリー・マルレーンの歌姫」イエーガーマイスター

第7回「聖人と文化の日」イエーガーマイスター

「奏<抹茶>」に関するエッセイはこちら

第91回「神に捧げるリキュール」クラフトリキュール「奏Kanade 」

「カルーア」に関するエッセイはこちら

第8回「秘密が香るコーヒー」カルーア

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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イエーガーマイスター
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