Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

別れ霜

奏<抹茶> 30ml
HAKU 15ml
ウーロン茶 適量
ビルド/タンブラー

花信風

焙煎樽熟成梅酒 30ml
奏<柚子> 20ml
ソーダ水 適量
ビルド/タンブラー

悟空

奏<白桃> 25ml
ROKU 15ml
オレンジジュース 適量
ビルド/タンブラー

使用するスピリッツには意味がある

 

新たなリキュールが2019年6月に誕生した。その名はジャパニーズクラフトリキュール「奏 Kanade」。抹茶、柚子、白桃の3タイプの味わいでの登場となった。

製品名は、楽器を奏でる、演奏といったワードをイメージさせ、心地良さそうな香味感覚が伝わってくる。ところが、奏(かなで)の本来の意味は音楽的なものではないらしい。

漢字の成り立ちには“差し上げる”“申し上げる”の意味があるという。上部は神様を呼び寄せる木の枝を表し、末広がりの下部の天は“神の降臨を願い、お供えする。ものを差し出す”様子を物語るらしい。

そして神様を待ち望む礼式として舞い踊ることにより、奏でるとか演奏するといった解釈につながったという。

ならば、このリキュールを飲めば神が宿ってくれるかもしれない、なんてことにはならないだろうが、それでもなんだかこころ穏やかな幸せな心地にしてくれそうな気がする。

3品それそれがオン・ザ・ロックで十分楽しめる。和の素材の高い品質感に満ちていて、クラフトリキュールとしての洗練を堪能できるはずだ。

順にカクテルにして味わってみた。凝ったレシピではない。すべてグラスに直接つくるビルド。できるだけ「奏」の味わいを感じ取れるシンプルなものにした。面白いことに、合わせたスピリッツの素晴らしさをも知ることとなる。

まず「奏<抹茶>」。ベースである京都宇治産の抹茶浸漬酒と宇治産の玉露浸漬酒が品質の高さを語り、上質なお茶の美味しさ、すっきりとしたしなやかな味わいで魅了する。

スタンダードカクテルに、家庭でも楽しめる抹茶リキュールとウーロン茶の1対1をロックで味わう「照葉樹林」がある。極めて優しい味わいなのだが、これをアレンジしてみた。バーで飲む「照葉樹林」といえるだろう。

国産米を原料にて生まれたジャパニーズクラフトウオツカ「HAKU」を「奏<抹茶>」に合わせ、それをウーロン茶で伸ばすというもの。口にすると、すっきりとしたお茶の風味に、よりカクテルらしいというか、アルコール感が高まったなかに心地よい辛みがある。

ほどよい辛みは「HAKU」がもたらしていて、米の弾力感のある甘みを抱いたウオツカから表出したこの味わいには驚かされた。ミックスの妙。カクテル素材として、「HAKU」でなくてはならないという存在感を示している。

「照葉樹林」のアレンジではあるが、ウオツカを加えたことからあえてネーミングした。

「別れ霜」。八十八夜の別称で、霜の季節の終わりを言う。ここから新茶の摘み取りがはじまり、米づくり、田植えのシーズンがはじまるのである。茶と米のミックスからイメージしたものだ。

充実するジャパニーズクラフトの世界

 

つづいては「奏<柚子>」。国産柚子浸漬酒や柚子皮蒸溜酒、柚子果汁などをブレンドした爽やかな印象のリキュール。

こちらは「山崎蒸溜所貯蔵 焙煎樽熟成梅酒」と合わせてソーダ水で満たしたハイボールスタイル。梅酒がベースながら柚子の風味が清々しく香り立つ。梅の酸味と見事に調和して、すっきりとし飲み口となる。

もっといえばコクのある焙煎樽熟成梅酒がソーダ水でキレイな伸びをみせ、柚子の香りを柔らかくそよがせている。

カクテル名は柚子から梅へとつながる季節をイメージして「花信風」(かしんふう)とした。これは二十四節気の小寒(現行の太陽暦では1月6日頃)から穀雨(現行、4月20日頃)までに吹く、花の開く季節を知らせる風のことを言う。柚子の最盛期は12月。そこから新春を迎えると最初の花信風、暖かな季節の到来を予感させる梅花の風が吹く。

締めは「奏<白桃>」。果実のみずみずしさにあふれた、とてもナチュラルな感覚のリキュール。国産白桃浸漬酒のみならず白桃果汁が華やぎを際立たせている。

白桃のリキュールにはジャパニーズクラフトジン「ROKU」を当て、それをオレンジジュースで割ってみた。「ファジー・ネーブル」のアレンジカクテルである。

しかしながらこちらも「ROKU」である意味が明確に感じ取れるカクテルとなった。とてもフルーティーな味わいに口中が満たされるのはもちろん、後口にジャパニーズクラフトジンのニュアンスがそよぐ。

「ROKU」にはベースとなるジンのボタニカルに加えて6種の和のボタニカルがブレンドされている。おそらくそれらのなかの山椒やお茶といった香味が口中で浮遊するからではなかろうか。このカクテルでも「ROKU」を使う意味、ふさわしいスピリッツがある、ということを知る。

これには「悟空」(Goku)の名を冠した。大昔、桃は中国から日本へ伝わった。桃に関して面白い逸話があるのが日本でも『西遊記』でやんちゃぶりを発揮して知られ、人気の高い孫悟空。たくさんの破天荒な行動のひとつに桃の話がある。

悟空は桃の園で大暴れし、不老不死の仙桃を食べ尽くして天界を逃げ去る。それで天罰を受けるのだが、不死身になったからまったく平気であった。と、くどい説明をするほどでもなく、単純に桃と「ROKU」を引っ掛けたくて、ならば「GOKU」にしちゃおう、となったのである。

「奏」の登場でジャパニーズクラフトシリーズが充実してきた。今後さらに新たな香味世界が創出する可能性もある。和のニュアンスを抱いたユニークなカクテルが生まれてくることだろう。いずれ神が宿るカクテルが誕生するかもしれない。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

ブランドサイト

クラフトリキュール「奏 Kanade」
クラフトリキュール
「奏 Kanade」

バックナンバー

第87回
シップスミス
&ROKU
第88回
ルジェ レモン
第89回
クラフト
ウオツカ
HAKU
第90回
山崎蒸溜所貯蔵
焙煎樽熟成梅酒

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