Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

イエーガー・ストレート

イエーガーマイスター 45ml
ボトル(リキュール)、グラスともよく冷やしておく

イエーガー・オレンジ

オレンジジュース 60ml
イエーガーマイスター 30ml
ビルド/ロック
オレンジジュースにイエーガーを静かにフロート

イエーガー・トニック

イエーガーマイスター 45ml
トニックウオーター 適量
ビルド
オレンジスライスを入れる

ハンターの守護聖人

天高く、秋真っ盛り。そろそろ木枯らしがそわそわと出番待ちする頃だが、まだしばらくは小春日和の心地よさがつづく。

とくに文化の日は晴天率が高い。すでに戦前から晴れの特異日として知られていたらしい。日本国憲法の公布は1946年11月3日。公布日を天晴(あっぱれ)にひっかけて、さらにはあらかじめ文化の日にしようと決めていたとしたら、史実のオチとしてはなかなかのものだ。

「天晴な新憲法公布から施行までは半年くらいの猶予がなくてはならないが、おお、半年後はなんと5月3日ではないか。4月29日は天皇誕生日(現昭和の日)、端午の節句の5月5日はこどもの日となる。その間の3日に憲法記念日が入れば。うん、いいぞ、黄金週間と呼ぼうじゃないか」

こんな思いつきにはしゃぐ、わたしのような人物がいたのではなかろうかと勘繰りたくなるのは11月3日の陽気が良すぎるからだといえる。とはいえ、敗戦の復興時の悲惨な状況下、祝日法主導で国家が動く訳がない。ちなみに祝日法が成立したのは1948年7月20日になる。

さて文化の日、愛飲家の方々に是非とも封を切っていただきたい一瓶がある。それはドイツが生んだ香草・薬草系リキュールの傑作「イエーガーマイスター」だ。

ラベルには鹿。鹿の角の間に十字架が描かれている。「イエーガーマイスター」とは"狩猟の守護聖人"。では聖人とは誰か。聖フーベルト。カトリック、そしてギリシャ正教やロシア正教をはじめとする東方正教会の聖人暦(カレンダー)では、11月3日は聖フーベルトの日なのである。

フーベルトは655年頃、フランスはトゥールーズに貴族の子として生まれた。彼は20歳の若さで司法長官になるが、妬みや陰謀で失脚する。それでも妻と子供に恵まれた幸せな暮らしがあったのだが、685年に妻が若くして亡くなり、失意からそれまでの生活を捨ててアルデンヌの森に隠遁する。

ある日、フーベルトが森で狩猟をしていると、見事な牡鹿に出くわす。すぐに射ようしたが、角の間になんと十字架が見えた。同時に「キリストを信じて生きなければ、地獄に堕ちるだろう」との声を聞く。それからというものフーベルトはイエスの教えを範として学ぶ。やがて司祭となり、ベルギーのリエージュに大聖堂を建ててもいる。727年に天に導かれるまでアルデンヌの森の人々を熱心に宣教した。後に聖人として認められ、ハンターの守護聖人として崇められたのだった。

自由と平和のシエスタ

聖フーベルトは「みだりに獲物を射ることなく、人類のために、自然界の調和を求めるよう努めよ」と諭した。

ハンターの守護聖人の名のリキュールはアニス、フェンネル、カモミール、ラベンダー、リコリス、ミント、ゲンチアナ、シナモンなどを含む56種のハーブ、草根木皮、フルーツを材料として使用している。ブランド名には、おそらく自然の恵みに感謝し、その調和をはかったリキュール、との思いが込められているのではなかろうか。

ドイツではとてもポピュラーな酒であり、健康酒、健胃薬のような感覚で、ストレートで味わう。たしかに。日本人が知る、食べ過ぎや飲み過ぎに効く胃腸液と似た風味ともいえる。ほろ苦さにコーラやチョコレートのような香味も感じられ、とても個性的だ。いまアメリカではこの独特の風味が若者たちに人気があるというから面白い。

おすすめの飲み方はストレート。ボトルもグラスも冷凍庫に入れてキンキンに冷やしておくことをすすめる。強烈な主張が穏やかになり、しっとりとした口当りをゆったりと満喫できる。グラスはリキュールグラスがふさわしいが、小ぶりなワイングラスでもいい。

カクテルにして香草・薬草系の風味を多少やわらげたい場合は、オレンジジュースにイエーガーを浮かべるといい。わたしはオレンジジュースをかなり多めに入れる。最初はイエーガー・ストレートの感覚だが、すぐさまオレンジジュースと溶け合い、フルーティーさのあるふくよかなコクを愉しめる。

もっと喉ごしよく、というならば「イエーガー・トニック」がすっきり爽やかに口中を駆け抜ける。これは食前酒として最適だ。食前に飲めば、胃がすっきりとして食がすすむ。ジンジャーエール割もおすすめ。甘く、エキゾチックな感覚を満喫できる。

11月3日の昼下がり、『聖フーベルト・ミサ曲』(K.シュティーグラー作曲)のウィンナホルンの響きに包まれながら「イエーガーマイスター」を飲む。"自由と平和を愛し、文化をすすめる"というのが文化の日の趣旨であり、なんともふさわしい、天晴な過ごし方ではないか。

でも、こういう高尚な味わい方はあくまで人にすすめるのであって、わたしには美しく荘厳なミサ曲は似合わない。秋の日差しと「イエーガー・オレンジ」で心地よくなり、自由や平和を意識することもなく惰眠をむさぼることだろう。

神よ、われをゆるし給え。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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