2026.07.13
マーケティングと向き合い20年超! 「クラフトボス」を生み出したサントリートップランナーの着眼点
ビールや飲料のブランドマーケティングに携わり、「クラフトボス」をはじめとする数々のヒット商品を手がけてきた、サントリービバレッジ&フード株式会社 事業推進本部 新価値創造部長の大塚匠さん。国内外でまったく新しい価値の創出に挑みながら、ブランドマネジメントにおいてサントリーを牽引し続けている大塚さんに、マーケターとしての哲学を伺いました。
「良い商品が、良い広告をつくる」
落語家である父の影響を受け、言葉を扱う仕事に惹かれていたという大塚さん。大学時代の広告プロダクションでのアルバイト経験を経て、「コピーライターになりたい」という漠然とした思いを抱いたことが、サントリーを志望するきっかけにつながりました。
大塚さん:広告のアルバイトと言っても、週に1回、朝から夜中まで雑用をして、たまに焼肉チェーン店のチラシのコピーを書かせてもらうという感じでした。そこの会社の社長がある日ふと教えてくれたんです。「良い商品をつくることができれば、広告も良くなる。商品がダメだったら、どんなに良い広告をやっても、ものは売れない」と。
コピーライターになりたいという思いから広告業界を目指していましたが、社長の言葉から”ものをつくるメーカー”という選択が、私の中に初めて生まれました。もともと言葉が好きだったこともあり、好きな新聞広告の切り抜きを集めたりしていたんですが、改めてそれを見返したらサントリーの割合が多かったんです。自分の好きな広告を追って、自然とサントリーに行きついた、という感じですね。
サントリービバレッジ&フード株式会社 事業推進本部 新価値創造部長の大塚匠さん。
大塚さん:よく覚えているのは、人に寄り添った広告ですね。サントリーが新聞広告で毎年出している「新社会人」シリーズや、愛鳥活動の広告。ほかにも、お酒との付き合い方を考えるモデレーション広告など、読んでいる人たちに語りかけているような広告のスタンスや企業姿勢に共感して、サントリーに入りたいと思うようになりました。
就職試験でも、運命的な出会いがありました。面接の合間に設けられた懇談会での先輩社員のひと言が、宣伝部志望だった大塚さんの軸をがらりと変えます。
大塚さん:「入社後は宣伝部に行きたい」と言ったら、マーケティングを担当していたある先輩が「君のやりたい仕事は、ブランドマーケティングの一部分だ」と。ブランドマネジメントという仕事は、中味をつくるところから、パッケージ、宣伝、営業、売場までのすべてに関わるんだということを、そのときに初めて知りました。
事業部でブランドづくりを担えば、いろいろな部署の人と関わりながら、商品のすべてに携わることができます。「こんなお得な仕事はない!」と思い、そこから面接では「事業部に行きたいです」と言い続けて、入社後は希望通りのビール事業部に配属されました。
入社から20年以上にわたり、最前線で数々のヒット商品を生み出してきたトップランナー。
「千三つ」の世界で、それでもつくり続ける理由
ビール事業部では「ジョッキ生」や「金麦」などの新商品開発を担当。2010年からはサントリー食品株式会社の食品事業部で「エスプレッソーダ」「MY BOTTLE DRINK drop」などの新ブランド開発に携わり、2014年からは「BOSS」ブランドを任されることになりました。
大塚さん:サントリーってヘンな会社で(笑)、規模や商品にかかわらず、若いうちからプロジェクトリーダーを任されるんです。R&D(研究開発)で中味をつくる人、デザイナー、我々マーケターが1つのチームになるのですが、当然、酸いも甘いも噛み分けたその道のプロである先輩たちを、若いプロジェクトリーダーがまとめることになります。
私が「BOSS」を任されたときも、まだ30代になってすぐの頃でした。それでもその若さでグループリーダーですから、とにかく無我夢中でプロジェクトを引っ張るだけでしたね。そこから11年、「BOSS」と向き合いながら、飲料マーケティングの世界を走り続けてきました。
大塚さんは、サントリーの看板ブランドでもある「BOSS」を長きにわたって担当。
しかし、「そう甘くはなかった」というマーケティングの世界。「千三つ(せんみつ)」という言葉があり、1000個出して3つ当たるかどうか——それが現実だといいます。
大塚さん:失敗というのは大抵、生活者の目線でものを考えずに、市場の競争環境や社内事情だけを見て商品をつくってしまうところにあるんですよね。もちろん市場の動向からニーズを探し、それを届けることがマーケティングの基本です。ただ、それだけではなく、生活者の日々の暮らしや買い物をしているときのリアリティを知り、ちょっとした悩み事から「ちょっと今日はテンションが上がらないな」といった喜怒哀楽の機微まで、どれだけ深く興味や関心を持てるかによって、結果は変わってくるんだろうと思います。
それでも“失敗”は起こりますが、そこから学んで次に生かすことを考える。そうすれば、「どうしたら失敗しないようにできるか」の準備ができるようになるんです。それをチームでナレッジとして共有していくことが大事ですね。
大ヒット商品の陰には、数々の“失敗”もあったそう。「これはもう、お酒なしでは語れないです(笑)」。
そんな積み重ねの日々が「BOSS」というサントリーを代表する飲料ブランドを大きく育て上げ、2017年には「クラフトボス」の大ヒットにもつながりました。
大塚さん:どの会社も同じようなマーケティングツールを使いながら、同じような市場のデータを見ているのに、そこから生まれてくる商品や広告がぜんぜん違うのはなぜか。それは、分析や解釈に“人間の機微”みたいなものが加わってくるからです。
トリスの広告の有名なコピーで『「人間」らしく やりたいナ』というのが語り継がれていますが、あれってサントリーの企業姿勢にも近いと思うんです。AIがどれだけ進化しても、解釈して判断し、実行するのは人間の仕事。その機微を感じられるのが人間だというところに、マーケティングの本質があるような気がしますね。
開高健氏によるトリスのコピーなど、「数々の広告がサントリーらしさを形づくってきた」と大塚さん。
大塚さん:どんなに技術が進歩しても、人間をちゃんと見て、人に対してサービスを提供する。創業以来、会長も社長も同じことを言ってくれてるんですが、サントリーはそこにすごくこだわっていて、それが会社の強さであり、ユニークさなんだと思います。
“探索的な目”で、走りながら考える
2025年4月、サントリー食品インターナショナル(現 サントリービバレッジ&フード)の事業推進本部 新価値創造部長に就任した大塚さん。既存カテゴリーの枠を超えたまったく新しい視点での商品づくりが動き出しています。
大塚さん:「飲料の会社だから、飲み物だけを見ていればいい」ということではないと思うんです。生活者の方にとっては、朝起きて、水を飲んで、カフェでコーヒーを買って……という流れのなかで、飲料は生活のほんの一部でしかありません。そんなときに、たまたま「BOSS」を買ってくれたお客様を「あなたはBOSSユーザーですね」とシンプルに考えてしまうと、視野がすごく狭くなってしまうと思うんです。
そうじゃなくて、一見関連がなさそうなところにも関連があるんじゃないかという“探索的な目”で見ながら、編集の切り口を探していくこと。それが新しい価値を生み出すということにつながるんじゃないかと思って、久しぶりにその“労力”と奮闘しています。
ただの「新商品」ではなく、「新しい価値」を市場に生み出すことが、大塚さんの現在のミッション。
そんな探索的な視点で世に生み出したのが、2026年4月に発売された「セサミン1000」や「ロコモアWATER」です。事業領域はグローバルにも広がっており、タイでは現地の生活者視点から生まれた「Hy!」も手掛けています。
大塚さん:「Hy!」は喉の渇きを潤すだけでなく、体内での水分保持を意識した商品で、エアコンの効いた室内で長時間過ごすオフィスワーカーがメインターゲットです。タイってどこの店に入ってもすっごい寒いんですよ。寒暖差がすごくて…。現地の生活に入る中で、それを感じたんです。実際に、タイでは、エアコンがキンキンに効いていることが”豊かさの象徴”みたいなところがあって、それだけ寒いと水分も失われるので、そこを補えればという起点から発案された商品です。
「Hy!」立ち上げの際にタイの現地チームと撮影。
大塚さん:また、「ロコモアWATER」は、日常生活のなかでいかにサプリメントの成分をスムーズに摂ってもらえるかということを考えました。「セサミン1000」は、甘いもの飲むときに、「身体のことも少し気になるけど、でも、甘いもの、好きなんだよね」という“人間らしさ”に寄り添うような商品になったと思っています。
1年間で3商品の発売に漕ぎつけ、すごくスピード感をもって仕事ができました。練って練って3年後に「できた!」では、その間に市場はガラッと変わってしまいます。走りながら考え、ブラッシュアップを続けるというスピードとアジャイルな動き方は、この仕事の要なのかもしれません。
1年足らずで「Hy!」「ロコモアWATER」「セサミン1000」と、怒涛のスピード感で”新価値”を届ける。
目の前の1本に、感動できる自分でいられるか
大塚さんのマーケター観の根底にあるのが、入社2年目の苦い原体験。担当した商品に不備が見つかり、一部を回収するということがありました。
大塚さん:私もお客様のご自宅に、直接お詫びに伺いました。その際、あるお客様が、自分がどんなに楽しみにしてこの商品を買ったのかを、玄関先で1時間くらい切々と語ってくださったんです。
もちろん商品の回収など、本来なら経験すべきではないことなんですが、そのときに感じた「一生懸命働いたお金で商品を買ってくださるお客様の期待を絶対に裏切ってはいけない」という思いは、心に深く刻み込まれましたね。
「ビール事業時代の苦い経験が、今の仕事にも生きている」と振り返る大塚さん。
大塚さん:「マーケティングが世の中を動かしている」なんていうのは大きな勘違いで、我々は丁稚奉公みたいなもの。見ず知らずの人が商品を買ってくれるのは、その商品のどこかに共感してくれたからです。その目の前の1本を楽しんでくれている人を見て“高揚感”を感じなくなったときには、この仕事を辞めようと覚悟を決めています。
そう語りながらも、今はまだまだ「高揚感しかない」と微笑む大塚さん。2023年には京都芸術大学の通信制大学院で学際デザイン研究領域を修了するなど、仕事以外でも自らをアップデートし続けています。
大塚さん:「BOSS」の担当も長くなってきて、このままだと脳が固まりそうだなと感じて、新たな学びにもチャレンジしました。自分の領域を決めずに、さまざまな文脈から考える訓練にもなって、とてもいい経験でした。
この先、サントリーでやりたいことが2つあって、1つは「サントリーって面白いな」と思ってもらえるものを世に出し続けること。もう1つは、若い人たちが「こんなこともやっていいんだ」と思えるように、年上の自分が“道をはみ出し続ける”ことです。
サントリーはフラットでフランクな会社なので、「右を向け」と言われたときにも「でも、左もいいと思うんですけど」と言える雰囲気があります。尖っていたい、はみ出したいという人には、ぴったりだと思いますし、その気持ちこそが、お客様とまっすぐ向き合うことにもきっとつながっていくはずです。

※社員の所属・役職、内容は取材当時のものです。
編集:サントリーホールディングス株式会社 人財戦略部
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大塚 匠Takumi Otsuka
サントリービバレッジ&フード株式会社
事業推進本部 新価値創造部長
2004年、サントリー株式会社入社。ビール事業部にて「ジョッキ生」「金麦」などの新商品開発を経て、2010年よりサントリー食品株式会社にて「エスプレッソーダ」「MY BOTTLE DRINK drop」などの新ブランド開発を担当。2014年からは「BOSS」ブランドにも携わり、2017年1月よりサントリー食品インターナショナル株式会社にてブランド開発事業に従事、「クラフトボス」などを手がける。2024年よりブランドマーケティング本部、クロスリージョン推進部を経て、2025年4月より現職。