2026年01月26日(月)
Vol.6 体もメンタルも充実。「勝負がかかった場面での戦い方を学んでいます」 髙橋藍
バレー漬けだった高校時代が今の土台
サンバーズが広島で、昨年10月から続くSVリーグでの連勝を19に伸ばしていた頃、東京で開催されていた春の高校バレーの会場でも"髙橋藍"の名前がたびたび登場していた。母校の東山高校が、藍がキャプテンを務めて初優勝した時以来、6年ぶりの優勝を飾ったからだ。東山高の選手たちは勝ち進むたびに、「優勝すれば先輩の藍選手の代以来の優勝になりますが」と聞かれていた。
それだけではない。「目標としている選手は?」という問いに対し、東山高に限らず"髙橋藍"を挙げる選手は多い。理由は、守備が一級品だから。"エース"は攻撃だけでなく、守備にも優れていなければならないという意識が、藍の活躍により、若い世代に自然と植え付けられている。
後進に目標とされる存在になった藍もまだ24歳。今年の抱負に「進化」を掲げ、まだまだ成長と挑戦を止めない。そんな藍に、後輩の活躍について、そしてサンバーズのキャプテンとして臨んでいる今季について聞いた。
ー年明けの春高バレーでは母校の東山高校が優勝しました。
6年ぶりなんですよね。もう6年も経ったか、という感じはしています。自分たちの代や(2歳上の兄)塁の時もそうでしたけど、昔ながらの東山の、拾って拾ってという粘り強さ、泥臭さが引き継がれているなと感じましたし、完成度も高かったですね。
ー 藍選手は毎試合コートに入る時に一礼していますが、あれは東山高時代から?
東山もやっていましたか?
ー 春高でやっていました。
そうですよね。自分はたぶん高校の時にやっていたのが、ルーティンみたいになっているんでしょうね。あまり意識したことがなかったですけど、そういえばずっとやっていますね。東山の時は他にも、コート内には裸足で入ったらダメとか、そういう決まりがありました。コートは自分たちが戦う神聖な場所だから。そういうところも東山の良さだなと思いますね。しんどいことも多かったけど、人としての部分、礼儀や言葉遣いなども徹底されたので、今もすごく生きているなと思います。
小・中学校も厳しい環境ではありましたけど、高校時代が一番バレー漬けで、濃かった。バレーも、仲間との関係も、監督から受ける指導も濃くて、今の自分の土台になっていると思います。あの厳しさ、あの練習量(笑)。無茶もしていましたね。(春高で優勝した)2020年に日本代表に初めて選ばれて合宿に参加したんですが、少し足を捻って痛かった時に、それでも無理して練習しようとしたら、当時代表のコーチだったツマさん(津曲勝利チームディレクター)に、「いや、ここもう高校じゃないから、無理にやらなくていいんだよ。ちゃんと休んで」と言われたのを覚えています。高校の頃は、捻挫しても3日後ぐらいにはやるもんだと思っていた。根性で(苦笑)。まあ、よくないことなんですけどね。
ー 東山高の2年生エースの岩田怜緯選手に、豊田充浩監督はよく「藍はそんな姿勢でやってなかったぞ」という話をされるそうです。
言われてるんですか? かわいそうに(笑)。僕の時は(同学年の)水町泰杜(ウルフドッグス名古屋)でした。「水町を倒せ」「水町を超えろ」「水町はそんなんじゃない」みたいにずっと言われていました。言われた時はムカつきますし、悔しいですけど、比較されるのはしょうがないし、「超えてやろう」と火はつきましたね。
ー 藍選手は春高優勝から、日本代表入りして五輪に出場したり、イタリアでプレーしたり、サンバーズで優勝したりと大きく人生が動いてきました。
本当に春高から変わっていきましたね。日本代表の(フィリップ・)ブラン前監督などいろいろな出会いがあって、いろんなことに繋がっていった。春高って夢があるなと思いました。
ー 今季はサンバーズでキャプテンも任されています。キャプテンの難しさを感じることはありますか?
特に難しいなと思ったことはないです。常に選手がやりやすいように、モチベーションを維持しやすいようにと考えていて、それを一番監督に伝えやすいのが自分かなと思っています。ずっと試合が続いていると、メンタル面も含めた疲労は必ず出てくると思うので。
これだけポテンシャルの高い選手が揃っているので、あとはコンディションやメンタルがすごく重要。だから年末年始やこの1月の練習スケジュールについて、オリビエ(・キャット)監督と「こういうスケジュールを組んでトライしてみない?」という感じで話したり。そういうのはキャプテンとしてやれることだなと新たに発見した部分でした。
ー ちなみに(試合前にキャプテンが行う)コイントスは強いんですか?
僕どうなんですかね。あまり気にしていないんですけど、五分五分じゃないかと。たぶんどっちでもいいと思っているからでしょうね(笑)。パス(サーブレシーブ)からでもサーブからでも、どっちでもいいと言われることが多いので。ニシくん(大阪ブルテオン・西田有志)は、「俺ずっと負けてんだよね」と言っていたので、「勝とうとしたら勝てないんじゃない?」って。案の定、年末のブルテオン戦は僕が2回とも勝ちました(笑)。
肉体改造が好調の要因
ーチームは今SVリーグで連勝を続けています(1月23日時点で21連勝)。12月の天皇杯では準々決勝で敗れ、タイトルを逃して悔しい思いをされたと思いますが、あの敗戦をリーグに生かせている部分もありますか。
そうですね。もちろんチームとしては天皇杯優勝という目標があったので、悔しいんですけど、ポジティブに捉えると、負けたことによって、みんながより一層引き締まったというか。あの時は(怪我のため)ディマ(ドミトリー・ムセルスキー)も(小野寺)太志さんもいなかった。メンバーが代わった時に、それでも勝てるチームを作らなければいけないなと、あの敗戦でみんなが痛感したと思う。
それをすごく感じたのが(1月11日の)広島サンダーズ戦でした。オポジットで出た(甲斐)孝太郎が、めちゃめちゃいい活躍をしたので。孝太郎自身もあの天皇杯で出場した時に、「俺がもっと、ディマの代わりに出た時にやらないと」と思ったと思う。もちろんプレッシャーはあるだろうし、大変だということもわかっているんですけど。天皇杯でみんなに火がついて、チーム力を上げていかなきゃいけないという意識が強まったんじゃないかと思いますね。
その広島戦では、藍自身もスパイク、ブロック、サーブで両チームトップの18得点を奪い勝利に貢献。特に4本のサービスエースが、今季の進化を如実に表している。昨季はミスを最小限に抑えながら、巧みなショートサーブと強いサーブを織り交ぜて相手を揺さぶっていたが、今季はパワーサーブを主体とし、豪快にエースを奪う場面が増えた。
ー 昨季以上に今季は強いサーブで攻めていく場面が増えていますが、ムセルスキー選手がいなかった11日の広島戦は特に攻撃的な意識で臨んでいましたか。
もちろんどの選手が入るかによって、シフトや戦い方も変わってきます。ディマが前衛にいる時はブロックが強いので、自分はサーブミスはしたくない、けど攻めたい、という中で、リスクを抑えたサーブを打つことが多い。孝太郎が入る場合は、ブロックの高さはディマよりは落ちる。でも孝太郎はその分ディフェンスがいいので、ディフェンスで勝負できる。だから自分がサーブを攻めて、できるだけ相手が崩れた状況からディフェンスに持ち込む。というふうに、誰がコート内にいるのかによって自分のサーブを変えることはしていますね。
ただ今季は基本的に攻めていくことが多いです。サーブを強化したいという思いが自分にあるので、しっかり攻めて、自信をつけようとしています。サーブに関しては攻めないと、いい感覚をつかめないので。
ー 今季の「サーブを強化したい」という思いはどこから来ているんですか。
日本代表ですね。サーブを攻めないと勝てないなと、昨年の代表シーズンに感じたので。やっぱりサーブで崩し、自分たちの強みであるディフェンスを生かさないと。
ー 実際結果にも表れていて、今季はパワーサーブでエースを奪う場面が増えていますが、そのためにやってきたことは。
技術的なこともありますけど、体をちょっと絞ったおかげで今すごくキレがいいんです。筋肉の質を変えると、スパイクやサーブの時にしっかり力が乗ったり、スピード感が出たり、変化を感じています。食事の部分から体の質を変えようとしてきたので。
ー 体脂肪が9%台になったとか。
ハイ。そこまで落とせたんですけど、でも9%は若干自分には合わないかなと感じていて、10%ぐらいがいいかなと。落としすぎると逆に体が張ってきちゃう気がして。体重も筋肉量も少し落ちてしまうので、それだとあまり意味がないですし。だから体脂肪は9%を切らないようにして、できれば10%ぐらいに。今ちょうどそれぐらいだと思います。
ー もともと無駄のない体だったと思いますが、より節制して絞ろうと思ったのは?
さらにパフォーマンスを上げるために、何が一番いいのかな?と考えて。今まではずっと食べ続けてきたんです。代表に入りたての頃は細かったので、じゃあ体重を増やさないといけないということで、とにかく食って食って。若いというのもあって、蓄えるようにと栄養士さんにも言われていました。そのおかげで結構蓄えられたんですけど、年齢的にも、その期間は終わってきているかなというのがありました。
栄養士さんに聞くと、体脂肪を1%でも落としたら体は軽くなると言われたので、じゃあ試してみようと思って。炭水化物の量は変わらず、タンパク質だとか、脂質や糖質が含まれているものを減らしていく。試合の前後は結構摂りますけど、普段は調節しています。
ー 食べたいけれど我慢しているものは?
一番はラーメン(笑)。中華系はちょっと減りましたね。焼肉に行っても、ハラミとか脂分の少ないものを選んで食べます。あと、自分はもともと甘いものはあまり好きじゃなかったんですけど、最近節制しているからか、甘いものを欲する時があって、ケーキ系とか食べたくなっちゃうんです。それも我慢しながら、たまにご褒美で食べるぐらいにしています。
ムセルスキーから学ぶ勝利への導き方
サンバーズ加入1年目だった昨季のシーズン後に、「特に影響を受けた選手は?」と聞いた際、髙橋藍が挙げたのがムセルスキーだった。日本代表やイタリア・セリエAで様々な選手と出会ってきた藍にとっても、ロンドン五輪金メダルなど国際大会で実績を残し、サンバーズでも4度のリーグ優勝に貢献してきたムセルスキーの経験値、存在感は別格だった。
藍は勝利に対して貪欲で、志すプレーの質も高い。そうした意識の高さや熱量は、年齢に関係なくチームを牽引する要素になっていた。その藍が、昨季からムセルスキーと共にプレーし、異なる質のキャプテンシーに触れた。ムセルスキーはどんな時も動じず、周りに安心感を与えるリーダーだ。
例えば、昨季の序盤戦は、藍は審判の判定に対して不満をあらわにすることもあった。だがリーグが進むにつれてそうした姿を見ることが少なくなった。
「別にそれ必要ないな、言う意味ないなと思ったので。(判定が)『違うだろう』と思うこともありますけど、『次の1点』と切り替えるほうが大事なんだなと気づけたので、ディマには本当に感謝しています。普通だったら僕たちが(熱くなる)外国人選手を止める、というパターンが多いと思うんですけど、サンバーズは逆。選手やコーチが熱くなったら、ディマが止める。経験豊富なディマが『言ってもしょうがない』とか『それよりも次の1点だ』と言ってくれる。勝ち方を知っているからこそ、それをサンバーズに教えてくれて、チームの強さになっているんだなと感じました」
そのムセルスキーが、今季限りでの現役引退を表明した。
ー サンバーズで8シーズン活躍してきたムセルスキー選手が今季限りでの引退を発表しました。チームの雰囲気は。
やっぱり最後、一緒に優勝したいという思いはみんなあると思いますし、自分も強く思っています。たぶんディマの性格的に、僕たちにプレッシャーを与えたくないという気持ちがあると思うので、わざわざそれを言ってくるわけではないですけど、みんな、やっぱりディマを最後勝たせて、胴上げができれば胴上げして、終わりたいなという思いが心の中にあります。
ー 胴上げは大変そうですね(笑)。
重そう(笑)。でもみんなディマのこと好きなので。これ以上いい人いないだろうなっていうぐらい、心が広いし、優しい。日本にも長くいるので、日本人の性格もわかってくれているし。そのディマのためにも勝ちたいという思いはみんな強いです。
ー 藍選手自身、ムセルスキー選手からの心に残っている言葉などはありますか。
何か言われたというより、一緒にプレーをしていたら、ディマが本気になるというか、集中力が上がる時ってわかるんですよね。ファイナルもそうですけど、そこへの持っていき方が違う。今季も20点以降の勝負がかかった場面のスパイクやサーブは一段違います。そういう場面での気持ちの強さや戦い方を、常に自分は勉強できています。
試合の中では、「相手と戦っているわけじゃない。自分たちのバレーに集中して1点1点取っていこう」という言い方をディマはよくします。「相手は気にするな。スコアは気にするな。自分たちが1点取ることが大事。それで勝つ時は勝つし、負ける時は負ける」「勝つ時もみんなで。負ける時もみんなで」ということをいつも言っていて。それは、勝った経験を積んできたからこそ出てくる余裕や気持ちなんだろうなと。チームの回し方やまとめ方もやっぱり一つ上だなと感じるし、それもすごく勉強になっています。
ー 年明けの試合で今年の抱負をお聞きした時に、「バレー選手としても人としても、成長と挑戦」だと。最終的にどんなご自身の姿を思い描いていて、そのために今年はどうなりたいと考えていますか。
ずっと言ってきた通り、自分の最終ゴールというのは、今までにいなかったバレーボール選手、スポーツ選手になることですし、バレーをもっとメジャーにしていくことです。「スポーツといえばバレーボールが面白いよね」となって、子供達にも夢を持たせてあげたいというのが、自分の夢です。今年は、もちろんサンバーズとしてはSVリーグ連覇を目指していますし、今、見にきてくれる子供も増えています。サンバーズジュニアも今すごく人気があって、応募がたくさん来ていますが、今季も優勝して、またサンバーズに行きたいと思ってくれる子供達が増えればいいなと。
それと、日本代表に選ばれたら、今年はオリンピック予選があるので、しっかりと切符を獲ること。それが夢にもつながる一歩かなと。そのためにもプレーでは安定感を求めていきたい。もちろん一つずつの技術を上げることも必要ですが、それを常にいい状態で毎試合出すことを求めていきたいと思っています。
ハイレベルな戦いが繰り広げられるSVリーグ2シーズン目も、成長を続けるキャプテンのもと、サンバーズは連覇に向けて突き進む。
(取材・文 米虫紀子)