2026.09.11

サントリー“君は未知数”基金 デンマーク視察報告/【後編】「若者を取り残さないデンマーク社会」と日本でできること

サントリー“君は未知数”基金 デンマーク視察報告/【後編】「若者を取り残さないデンマーク社会」と日本でできること
カラフルな建物が運河沿いに並ぶ、コペンハーゲン中心部の歴史的な港、ニューハウン

2026年5月11〜13日、次世代エンパワメント活動 “君は未知数”で、デンマークにおける多様な若者の「居場所」を視察しました。公教育は画一的でなく、若者は必要に応じて何度もやり直せる仕組みになっており、誰も取り残さないようにする配慮がありました。そんなデンマークのあり方から参加者は何を学び、日本に何を持ち帰りたいと考えたのでしょうか。

ポイント:

  • 3日目は16〜25歳で就学も就職もしていない困難を抱えた若者が、自分に合った進路を見つけ、そこに到達できるように準備できる学校「FGUブロンビュ」を訪問。実務中心、職場での実習中心、基礎学力向上のためのプログラムから、興味や希望に応じてコースを選び、その後の進学や就職を目指す。
  • 最後に参加者間で視察全体を振り返り、そこから得た学びと日本に持ち帰って実現したいことを議論した。

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誰も取り残さないための公立校「FGU」

3日目には、コペンハーゲン市内のFGU Brøndby(ブロンビュ)を訪問しました。16〜25歳の若者が進学・就職の準備をするために最長2年間通える教育機関です。国民学校卒業時の学力試験で最低限の水準を満たさないなど学力面で遅れていたり、学習障がいや発達障がい・精神疾患を抱えていたりする若者のほか、特別支援学校出身者、十分学べなかった移民家庭出身者などが集まっています。

各住民の情報が個別の登録番号ごとに一元管理されているデンマークでは、個人の収入の有無や状況を行政はすぐに把握でき、就業も就学もしていない若者に対しては行政から声がかかります。協議を経てFGUに通うのが適切と判断された若者が、希望に合ったコースに随時入学してきます。通学期間も個人のニーズによって異なり、準備ができたら修了し、それぞれ次のステップに巣立っていくそうです。公費で運営されるFGUは学費が無料なだけでなく、最低26時間の訓練を受ければ在学中に所得補償として就学手当が国から支給され、誰もが通いやすくなっています。

「デンマークには、2025年時点で就労も就学もしていない25歳以下の若者が4万3,000人いました。FGUは23年に全国で1万人程度を受け入れ、修了者の8割が就職あるいは進学を果たしました。FGUの意義は大きいと思いますし、私はこの仕事をできていることに、とても満足しています」と、センター長のハイディ・ラスムセン先生は話します。

FGUブロンビュのセンター長のハイディ・ラスムセン先生とメディアコースの学生たち

FGUには各人の適性や希望に合わせて、基礎学力向上を目指す「AGU(基礎教養過程)」、実習経験を積んで就職を目指す「EGU(基礎職業教育)」、実践的な学びから自分に合った仕事を見出す「PGU(生産基礎教育)」の3つの課程があります。コースにかかわらず、ほぼ全員が自立生活・仕事をするために必要なライフスキルを身につけるPASEというコースを受けます。

PGUは学校によって提供される分野が異なりますが、FGUブロンビュでは、「メディアコース」、「音楽・スタジオコース」、将来ペダゴーグや介護・医療助手になることを目指す「ケア・ヘルス・教育コース」がありました。

メディアコースに通う若者は視察する私たちの様子を撮影し、編集した映像を、私たちが帰るまでに作ってプレゼントしてくれました。FGUで本格的な機材を使ってクリエイティブな作品づくりを学び、より深く学びたい分野を見出すなどして、修了後にメディア専門の学校に進学する若者も多くいるそうです。過去には学生の作品が映画祭で受賞したこともあり、今は自治体などから映像づくりを請け負うビジネスを始めようとしていると、トム先生は話します。

「商業経験を通じて若者は技術的なスキルに加え、責任感、商売のノウハウを学べるので、素晴らしい経験になると思います。売り上げでより良い機材を買い、もっと面白い映像を作ることもできるでしょう」

メディアコースの視察の様子
数々の撮影用ドローンなど、メディアコースには本格的な機材が揃っている Credit: Sohei Daifuku

ケアコースでは手を使った学びを取り入れ、教室もリラックスできる雰囲気にすることで、勉強をする場という雰囲気を出さないようにしていると、担当のアンヤ先生は話してくれました。

「子どもや高齢者の過ごす空間の模型を作るなど、手を使った学び、実習も取り入れています。修了後には専門の学校に進学する若者が多いですが、ここでの学びはその初めのカリキュラムを先取りしているので、進学後に基礎教育部分が免除されますし、基礎用語などに慣れられるので、学力に不安があってもその後の学びも楽になります」

ケアコースの学生が作った子どもの居場所の模型

音楽コースでは、ちょうど前日にコンサートを開催したということで、学生たちが私たちにも改めて演奏してくれました。

センター長のハイディ先生によると、FGUに通い続けられない若者も一部いるものの、興味のあることのスキルを習得して成長し、巣立っていく若者を多く見てきたと話します。

「以前、ベースを少しだけ弾ける女性が音楽コースに入り、非常に上達させました。彼女は今、書店で見習いとして働いていますが、その経験に支えられて安定して生活できるようになり、別の分野で働けるまでになったのです」

学生たちによる演奏の様子

何度もやり直せるデンマーク社会

京都わかくさねっとの北川美里さんは、デンマークでは生き方が画一的でないことに感銘を受けたそうです。

「デンマークでは若者が何度もやり直し、自分は何なのかを考える場があって素晴らしいです。日本社会には明確なレールがあって、それを外れると自分で道を作っていくしかありません。でも、日本の女の子たちはものすごいパワーを持っているし、レールから外れて違う景色を見るのは楽しいことなのだと胸を張れるような社会にしていきたいと思いました」

侍学園の長岡さんは、FGUの教育は自分たちのやってきた活動に近いと振り返ります。

「私たちは20年前からお金の管理や生活の仕方、働くためのスキルなど学生に生きるための力を教えてきました。FGUの教育は私たちのものと似ていますが、でももっと上だと感じ、正直悔しかったです。デンマークの学校は文化的でかっこよく、若者が通いたいともっと思えるような場だったから。私たちは日本で十分やってきたと思っていたけれど、こうやってインプットをしていくのは大事ですね」

Credit: FGU Brøndby

デンマーク視察を経て実践したいこと

3日間、デンマークで若者の居場所を訪れ、その支援の仕方を学びました。そこから、何を学び取り、今後どうしたいと考えたかは、参加者ごとに違っていました。最後に参加者間で感じたことをそれぞれ共有し、今後日本で若者支援をする上で何をしていきたいかを話し合いました。

■若者の主体性・プロセスの尊重
デンマークでは若者にやりたいことをやらせ、失敗してもいいからそのプロセスから学ばせるということが当然になっていました。そのあり方を日本でも実現するために、こういう教育について、地域のステークホルダーや社会に発信していきたいです。(Learning for all  細田さん)

Learning for All  細田さん

■若者の意見を聞く
民主主義は『話を聞いてもらった経験』から始まると感じました。私たちのところに来る、虐げられて自己肯定感の低い若者たちは、意見を尊重された経験をあまり持ちません。まずは他者に話を聞いてもらい、安心して自分で決めるという体験を積み上げていくことが、民主主義を支えるのだと思いました。日本では教師も大人もレールに従わないと生きにくくはありますが、まずはそれぞれが現場で若者の話を聞くところから始めたいと思います。(サンカクシャ 菊川さん)

■民主主義・教育は何のためにあるのかという議論
デンマークでは若者に関わる大人が「教育は民主主義を支える市民を育成するためにあり、充実した人生を送れるようにするため」という共通する思想を持っていました。だからこそ若者は学校や日々の暮らしの中で民主主義のやり方を学べるようになっています。日本では子どもの声を聞くと言っても形式ばかりに目が行きがちで哲学がありません。子どもや若者、その政策に関わる人たちで、少なくとも団体内で教育はどうあるべきなのかという根本について話し合いたいです。(トリナス 土肥さん)

■「取り残された」若者を支えるエコシステム構築
デンマークではあらゆる境界で揺らいでいる子ども・若者を受け止める仕組みがあり、さまざまな機関が連携して支えています。日本だと学校に行くかどうかという境界が大きく、環境の変化や移行でつまずいてしまう若者が少なくありません。日本でも既存の制度から外れてしまった若者が絶望せず、自分らしく無理なく歩めるような支援のエコシステムをみんなで作っていきたいと思いました。そのために私たちの団体は今何ができていて、今後どんな役割を担えるのかを考えていきたいです。(未来の準備室 佐々木さん)

誰も置き去りにしない公教育のあり方について議論した未来の準備室・佐々木さん(右)と一木部長ら

■概念を変えるメッセージを発信
デンマークでは、混乱を抱えている人やマイノリティを排除せず、共存できる方法が模索されていましたが、その重要性を伝えたいと思いました。日本で授業や生活に追いつけていない生徒、学校に行っていない若者などが取り残されていますが、日本では教員の教育課程が変わると、置き去りが減るのではないかと皆さんと議論しました。以前は誰も知らなかった発達障がいに対して今の若い先生は理解を持ち、少しずつ現場は変わっています。サントリーがソーシャルセクターと共にイノベーションを起こすという『共助資本主義』という言葉のように、概念を変えられるようなメッセージを教育界でも作り出したいです。(サンカクシャ 菊川さん)

■ユース団体同士で連携してインパクトを強化
デンマークでの視察を通じ、私たち自身ができていることはすでにたくさんあると気づきました。でも日本ではそれが適切に評価されにくく、なかなか広がりません。国全体のシステムはすぐには変えられないからこそ、皆さんと連携して今後何をできるかを考えていきたいです。東北地域では震災後にNPO同士のネットワークが強化され、何かあったら連携し合える体制ができています。今回、日本全国で若者支援をしている皆さんと一緒に過ごして信頼を築けたので、これからも一緒に動き続けたいと思っています。(miraito 上田さん)

miraito 上田さん

■自信を持つ
視察先と私たちの活動が重なることもあり、私たちが今までやってきたこと自体がとても素敵な活動だと改めて思いました。根底にあるものを大切にしながら、今回の学びをどう取り入れていくかは、皆さんと一緒に考えて進めていきたいです。(D×P 安田さん)

私は以前から地域の人たちと対話をする場というのをたくさん作ってきましたが、デンマークで対話が重視されているというのを見て、やってきたことは間違っていなかったと自信になりました。(miraito 佐々木里樹さん)

(左から)miraito 佐々木さん、カタリバ 柏原さん Credit: Helsingør Youth School

デンマークではトップダウンで作っていくスピード感や文化も違って、社会的インパクトも測らなくていいくらい若者の支援が当然のことになっていることに感動しました。日本との差を考えると悲しくもなったのですが、日本では課題を見つけた人たちが草の根で一生懸命積み上げて社会を変えてきたという強みもあります。それが日本の良さなのかもしれないですし、希望を持っていいと思いました。(サンカクシャ 菊川さん)

■人と繋がって対話する場を作る
ユースワーカーは孤独です。そんな大人の孤独を解消できそうなコミュニティダイニングを日本各地で開催し、対話の場を作ることを提案したいです。近くの人との関係を築くコミュニティダイニングは日本でもうまくいくのではないかと思いました。デンマークがうまくやれるのは高税率高福祉だからこそだと以前は思っていましたが、日本でもやれることはあるはずです。(スコール 大福さん)

日本でもコミュ二ティダイニングを開催すると宣言した、(左から)村田課長、スコール 大福さん、D×P 安田さん、未来の準備室 青砥さんのグループ

■やるべき仕事を見直す
デンマーク社会には共同体意識があり、余暇が保障され、時間や心の余裕がありました。一方で私たちには余裕がほとんどありません。今後のアクションを考えたときに、自分たちの役割をそれぞれ本当に必要なのかどうかを見直し、インパクトを出すために少し手放すということをやっていきたいと思います。(miraito 佐々木さん)

■自分や身の回りの人たちを大切にする
ユースの活動時間は夕方や夜で、自分の子育ての時間と重なることもあり、日本のユースワーカーには日頃余裕がありません。一方、デンマークは若者に向き合う人も地位が保証されており、ある程度余裕があるからこそ、ユースにも向き合えるのだろうと感じました。私も人の話をきちんと聞けなくなることがあるので、自分や家族、身近な人を大事にするところから始めたいと思います。(スコール 大福さん)

スコール 大福さん(中央) Credit: Helsingør Youth School

今回の視察で、自分の幸せと、コミュニティの幸せは不可分だと感じました。以前は、自分の安定があってこそコミュニティの幸せを考えられると思っていました。これからの過ごし方が変わりそうです。(未来の準備室 青砥さん)

(左から)未来の準備室 青砥さんとmiraito 上田さん Credit: Helsingør Youth School

■希望を持つ
「社会を変えられる」ということを私たち自身が信じて、その姿勢を見せることが大事なのかなと思いました。戻ったら現実に打ちのめされることもあるでしょうが、この思いをこのメンバーで持ち続けたいです。(カタリバ 柏原さん)

終わりに

そんな各団体のリーダーからの言葉に対し、今後、確実に大きなインパクトを生み出せると確信したと、一木部長も期待を持っています。

「デンマークでは若者支援において行政の果たす役割が大きいのに対し、日本でインパクトを起こすには、やはり『共助(民間)』が起点となって公を動かしていくような形になるはずです。それを日本で実現するために、このメンバーで野心的・革新的に企てていきたいです。日本の次世代エンパワメントに向けて、皆さんで大きなインパクトを生み出していきましょう」

デンマークのあたたかな若者支援のあり方に感心しつつも、参加者が自分たちの活動に自信を持ち、今後やりたいことを明確にした視察となりました。今後の展開にご注目ください。

視察後、参加者みんなで駅構内で撮影 Credit: Asuka Yasuda
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