2026.09.11

サントリー“君は未知数”基金 デンマーク視察報告/【中編】若者のウェルビーイング、対話と自己決定を重視する教育の背景にあるもの

サントリー“君は未知数”基金 デンマーク視察報告/【中編】若者のウェルビーイング、対話と自己決定を重視する教育の背景にあるもの

2026年5月11〜13日、次世代エンパワメント活動 “君は未知数”で、デンマークにおける若者の「居場所」を視察しました。重視されるのは学力だけではなく、意見を言うこと、自分で決めること、楽しむこと、共同体・民主主義の担い手となっていくことなど多様でした。そこから参加者は何を学び、考えたのでしょうか。

ポイント:

  • 1日目の午後は、デンマークに特徴的なフォルケホイスコーレの「IPC」を訪問。日々の授業や共同生活のなかで対話を通じて民主主義を学ぶことを目指す。学生は学校運営にも意見を言い、ルールや仕組みを変えることで民主主義を体感できる。
  • 2日目は、若者の悩みを匿名・無料で傾聴する非営利組織「ヘッドスペース」と、子どもが自由に遊んで可能性を伸ばせる多目的公園「マルチパーク」・放課後クラブ「ヴィラ・フェム」を訪問。

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民主主義を学校生活から学ぶ「フォルケホイスコーレ」

2つ目の訪問先、ヘルシンガーの「インターナショナル・ピープルズ・カレッジ(IPC)」は、デンマーク独自の成人向けの全寮制教育機関フォルケホイスコーレの一つです。フォルケホイスコーレとは、近代デンマークの父とされる神学者・哲学者グルンドヴィ(1783〜1872)の教えに基づき、19世紀以降に始まった民衆の啓発のための教育機関です。

民主主義に参画する市民を育成するための生涯教育の場で、対話と実践的な教育を重視し、試験も学位もありません。全国約70校のホイスコーレのうち、IPCは唯一英語で授業が展開され、世界中から留学生が集まります。ギャップイヤー中の他の欧州の国の若者をはじめ、日本出身者や奨学金をもらって発展途上国から来ている学生もいました。非営利の民間学校ですが、公的な支援を受け、IPCの運営資金の半分は公的資金で賄われています。

学生との昼食の風景
学生も教員も食堂で一緒に食事をし、自分たちで食事を取り分け、食事後には自分たちで食器を片付ける

学生たちは学校で3食一緒に食べ、生活の場をともに作って共同体意識を高めます。私たちも一緒に昼食を取らせてもらったあと、校長先生からIPCの理念と実践についてお話を聞き、校内を視察させてもらいました。

ネリマ・ラッセン校長によると、IPCは「尊重」「民主主義」「平等」「平和」「共感」「サステナビリティ」をコアバリューとして掲げています。

自身もIPCの学生だったというネリマ・ラッセン校長。映し出されているのは、フォルケホイスコーレの思想の父・グルンドヴィ

「私たちは、これらの価値すべてを学生が守るだけでなく、実践することを望んでいます。学校という共同体の中でお互いの話に耳を傾け、平等に接し、互いに共感しあい、敬意を払い、いかなる種類の暴力も許さず、サステナブルに暮らす共同体にしたいのです。たとえば今日のランチはベジタリアンのメニューでしたが、『サステナビリティを掲げる学校なのに、週3回も牛肉を出すのはおかしい』として変更を求めてきた学生が以前にいたのです」

(註:牛肉はタンパク質100gあたりの温暖化効果ガスの排出量が二酸化炭素換算で鶏肉の10倍、豆腐の20倍以上となる。家畜の牛は大量の穀物を必要とし、カロリー量でも牛肉は他の食品に対して非常に非効率で環境負荷が高いと言われている)

フォルケホイスコーレへの視察の様子

さらにIPCでは学生は対話を重ね、民主主義を実践から学ぶとネリマ校長は言います。

「IPCのコアバリューがそれぞれ何を意味するのかを考え、議論するのも重要な学びです。たとえば、IPCには民主主義があまり根付いていない国の出身の学生も来ますが、民主主義は単純に教えられるものではありません。まず学生は『民主主義とは何か』『自分たちの国でどう実践されているか』『良い点、悪い点は何か』などと話しあって考えます。それと同時に、彼らはIPCでの生活の中から民主主義を学んでいきます。学生たちはさまざまな物事やルールについて話しあって決めますし、学校運営については私のところに意見を持ってきます。

たとえば、1年前、200ユーロ(約37000円)ほど追加費用を払ってスウェーデンに行くプログラムがあったのですが、『誰もが平等に同じ活動に参加できるようにすべきだ』と学生たちから意見が上がりました。IPCの学費は安くなく、奨学金をもらって来ている学生もいます。確かに追加費用を負担できない学生もいたので、結局それは全員無料とし、それ以降の学費を調整しました。学生たちは、何か変化が必要だと思ったら意見をまとめ、請願書を作成したり、署名を集めたりして私に働きかけてくるのです。それに説得力や確固たる根拠があれば、私たちも何ができるかを考えます。こうして学生たちは民主的に物事を効率的に変える方法を学ぶのです」

フォルケホイスコーレのホール
生きた言葉を大切にするホイスコーレでは「一緒に歌う」ことが重視され、毎日全員でホールに集まって歌う

教育を支える哲学と民主主義社会

視察に参加したトリナスの土肥潤也さんは、ホイスコーレの思想の父・グルンドヴィの肖像画があちこちにあったことが非常に印象的だったと話します。

「デンマークでは教育の背景にある思想が浸透して日々実践されています。IPCのように日常から民主主義を学べるようになっている学校があること自体が素晴らしいです。日本で子どもの声を政策に反映する支援をしていますが、『生徒会を作る』『模擬投票をする』などといった手法ばかりに光が当たりがちです。デンマークでは生活様式の中に民主主義が根付いているからこそできるものがあると思いました」

スコールの大福さんは、自分たちの場所を一緒に作るという姿勢が活動のヒントになったと話します。

「私たちのユースセンターでは、中学生が散らかしたまま帰ることに悩んでいました。ホイスコーレでも学生が片づけるなど、自分たちの場所を自分たちで維持することの大事さを重視していて、それが本質的に民主主義につながっているのかもしれないと思いました。IPCでは西洋的にルールを自分たちで作ることが強調されていましたが、日本では関係性を育むこと、文化を作ること、モラルを共有することなども大事だと思います。自分たちに合った形で、場を維持していく仕組みを作りたいです」

フォルケホイスコーレに飾られている、多国籍さを示す絵

共同体の絆を高める市民による「コミュニティダイニング」

1日目の夜は、ヘルシンガー市の「コミュニティダイニング」にも参加しました。同じ地域に住む人々が、地域の施設で、地域の人が作った料理を一緒に食べるという、市民の運営する場です。事前に予約すれば誰もが受け入れられ、お手頃価格で食事ができ、他の人たちとの一体感も味わえるという取り組みです。

ヘルシンガーでは予約したグループごとにテーブルにつき、それぞれ食事と会話を楽しむ形式でしたが、大皿から食事を取り分けたり、使い終わった食器を片付けたりする中でも、自然と言葉を交わせました。

場によっては、知らない人同士の交流が促されたり、地域に住む移民が自分たちの料理や文化を紹介したりする場にもなっています。孤立を防ぎ、世代を超えた交流ができる場であり、参加者からは「日本でもやりたい!」という声が上がりました。

長テーブルに向き合って座り、手作りの食事と会話を楽しむ参加者

多感な若者のどんな悩みも受け止める「ヘッドスペース」

2日目の午前は、ヘルシンガー市内で若者が匿名・無料で悩みを相談できる「ヘッドスペース」という非営利組織を訪問しました。元デンマーク首相のポール・ニューロップ・ラスムセン氏(1993〜2001在任)が実娘を自死で亡くしたことをきっかけに2013年に創設され、現在全国に37センターがあります。

「どんな悩みも大きすぎるということも、小さすぎるということもない」として、若者の声をまず傾聴するということを続けてきました。カウンセリング後、98%の若者が助けられた、半数が孤独を感じにくくなったと答えています。必要に応じて心理療法士や医師、自治体などとも連携し、若者のさらなる支援に繋げることもあります。

活動資金の大部分は各自治体と国から得る一方、基金や寄付金、カウンセリングを担う全国約650名のボランティアに支えられています。近年は実験的に保護者へのカウンセリングも提供しています。

リラックスできるよう、リビングのような雰囲気に整えられたカウンセリングルーム

ユースカウンセラーのトリネさんによると、若者にサービスを認知してもらうところから活動は始まり、そのやり方にも工夫が溢れています。

「私たちの活動を知ってもらえるよう、かつて問題を抱えていた若者であったボランティアと一緒に学校や若者が集まる場に出向きます。そこでワークショップをして、彼らの日常生活の中での課題や困難に寄り添えるようにしたいと思っています。話をしやすいよう、楽しく気楽なアプローチを取るのが大事です。たとえば、『月曜だし、だるいよね』というように本音で話しかけ、風船に今の想いを吹き込んで膨らませ、いっぱいになってしまった心の空気をどうやって抜くのかを話し合います。あるいは質問の書かれたカードを配って答えてもらうなど、話しやすい工夫をしています」

ヘッドスペースでの説明の様子。担当者が手に持つ風船は、若者が話しやすいようにするための工夫の一つ
若者が話しやすくするために用いられる、さまざまなジレンマ状況での問いが書かれたカード

ヘッドスペースは予約なしで対面やチャットによる個別相談を受け付けているほか、必要に応じて保護者の離婚など似た境遇にある若者を集めたグループセッションも開催します。対面での相談内容のトップ3は「日常生活」や「友人との対立」、「アイデンティティ」なのに対し、チャットで上位を占める相談は「鬱」や「恋愛関係」、「自殺願望や不安」とより深刻です。

カウンセリングを担当するのは、対象者1人に対してボランティア2人です。質に非常に配慮しているからこその体制だと、ユースカウンセラーのアンヤさんは話します。

「2人の方が適切な判断ができますし、新人ボランティアの実習にもなります。新人には、13年間の経験で得た知見をもとに中央の事務局が作った研修プログラムを2日間かけて受けてもらいます。若者自身に解決策を考えてもらう『対話モデル』というカウンセリング手法も練習してもらいますし、難しい場面のケーススタディー、たとえば自殺願望のある若者に直面したときにどう対処するかなどのプロセスも学べるようになっています。その後、新人には経験者とペアを組んでカウンセリングをしてもらい、フォローアップをして質を上げていきます。それ以外にもボランティア全員で年に4回集まり、課題や経験などをシェアして学びあえる場を設けています」

ボランティアの研修に使うカードセット
相談者の保護者へのカウンセリング体験を語るボランティア

子どものニーズを起点に磨き上げた手法と運営体制

ヘッドスペースで話を聞いて、その活動は自分たちのものに近いと感じ、自信になったと、カタリバの柏原育哉さんは言います。

「子どもや保護者に対する支援は、私たちが日本でやっている活動とも通じるものがありました。同じ課題感をもち、デンマークでもこうした活動が重視されている現場を拝見し、私たちの目指す方向性に自信を持てました。ここでの学びを日本に持ち帰り、これから現場にしっかりと還元していきたいです」

劇場で働いた経験もある未来の準備室の佐々木郁哉さんは、若者が話しやすいように、メタファーや道具を使うというのが特に参考になったと話します。

「風船など身体的な表現を取り入れると、自分の心の声に気づきやすくなるのでしょう。その声を他者と共有することで、安心感やつながりが生まれるのだと思いました。今後若者と接する上で、遊びや身体表現を取り入れた方法を実践・開発し、若者が安心して心の声を表現できる場づくりを探求していきたいです」

サンカクシャの菊川さんは、若者のニーズを最優先にしているデンマークのあり方に感心したと話します。

「日本ではある社会課題に対処するために事業をするという流れですが、デンマークでは純粋に子どものニーズを起点として動けていると他の視察先でも感じました。そして、困りごとに大きい・小さいはないという共通した価値観があるからこそ、若者は相談をしやすいのではないでしょうか」

未来の準備室の青砥和希さんは、ヘッドスペースの組織としての強さが印象に残ったと話します。

「経験を話してくれたボランティアの男性はいわゆるシニア層でしたが、ユースに寄り添って『同じ目線の高さで語り合う』姿勢を教えてくれました。日本の地方では大学生や若手社会人の人数が少ないので、シニアの力も借りられればと思いつつ、専門的な技術の求められる『カウンセリング』は難易度が高いと思います。ヘッドスペースでは、ボランティアがユースカウンセリングについてきちんと学び、実践できるよう、研修や指導体制、組織があり、うまく機能していました。私たちは活動を続けるための資金調達に追われがちで、運営スタッフの拡大にまでなかなか手が回りません。また、相談者1人に2人で対応するという体制も、孤立しがちな日本のユースワーカーの状況とは大きく異なると感じました」

ヘッドスペースで8年間若者の話を聞いているというボランティアの男性

楽しさから未来を作る「マルチパーク/ヴィラ・フェム」

2日目午後には子どもや若者が思いっきり遊べるヘルシンガー市の多目的公園「マルチパーク」と、そこに隣接する9〜15歳のための放課後クラブ「Villa Fem(ヴィラ・フェム)」を訪問しました。この放課後クラブには国民学校4年生以上の子どもが必要に応じて授業後に通い、夕方までさまざまな活動をして過ごせます。上の学年には社会的に脆弱な思春期の若者もいます。

思い切り遊べるマルチパーク。訪問した平日の昼間には子どもは少なかった

マルチパークは2011年にオープンした1万平方メートルの広い市営公園で、大きなスケートパークやパルクール施設、バスケット場、屋根付きのコートなどが整備されています。トランポリンなどの小さな子ども向けの遊び場もあり、あらゆる年齢の人が無料で利用できるようになっています。ローラースケート、スケートボードやBMX自転車などの道具もレンタルして自由に遊べるほか、コンサートのステージになる屋根付きの空間、バーベキュー設備もあり、パーティー会場にもなる、「楽しい」が詰まった公園です。

マルチパークの遊び場
コンサートなどを開くことができる屋根付きのステージ

この公園はあらゆる背景・世代の人々が集い、楽しく健康的に過ごせるよう、地元の人々が熱望し、ヘルシンガー市や国レベルの財団が協力して実現しました。プロのスケーターやパルクール選手たちとともに、地元住民がアイデアを出しあって設計されたそうです。

パルクール設備について参加者に説明するヴィラ・フェム責任者のヨン・サビアートさん(右から2人目)

公園には多様な人たちが集うようになり、夏の天気のいい日には400〜500人くらいの子どもたちが来て遊ぶと、同公園の運営も担うヴィラ・フェムの責任者ヨン・サビアートさんは話します。

「子どもたちは転んだり、怪我をしたりもします。でもプロテクターも貸し出していますし、スタッフがほぼ毎日6〜7時間公園の安全を見守り、誰か怪我人がいれば対処します。冬はアイススケートをできるようにしますし、寒い日にも遊びに来る子どもたちはたくさんいますよ。室内でスケートボードやボルダリングをできる施設をさらに建設し、より楽しい場とする計画もあります」

そうして思い切り遊ぶことを重視する一方、一定のルールも定めています。

「監視員のいない公園では、通常あちこち落書きだらけになってしまいます。しかし、ここではグラフィティーを描いていい壁を決め、そこを1ヵ月おきに描きかえていいというルールを設定しており、それ以上増えることはありません」

マルチパークのグラフィティ

放課後クラブに通う子どもたちも、公園で遊べるようになっています。

「ここでは、『楽しい』思い出を作ることを重視しています。放課後クラブに通う上の学年の子たちは、夏の間に公園でジュースなどを販売し、その収益を使って毎年ロンドンに旅行に行きます」

放課後クラブには室内で過ごしたい子どものための活動もあり、何をするかはそれぞれ自分で選びます。12歳までのジュニアクラブの施設には、手芸をする部屋もゲームをする部屋もありました(ゲームは1日45分間までに制限)。

「私たちのモットーは『自由な時間があなたの未来を作る』です。子どもたちが自分たちの興味に合わせ、自ら遊び場を作ることを大切にしています。たとえば、子どもたちがトランポリンをしたいというので、ペダゴー(子どもの成長を支援する専門職)と一緒に、みんなでクラブ用に大きなトランポリンを整備しました。他にも外の小屋でウサギを飼うクラブもあり、それを選んだ子は責任を持って夏休みや週末にも順番にお世話に来なければいけませんが、その活動を通じて成長します」

子どもたちの希望で設置したトランポリン

体を使って遊ぶから感じる一体感、自分で選ぶことの重要さ

未来の準備室の佐々木さんは、デンマークの教育で重視されているものの広さを改めて感じたと言います。

「デンマークでは学業だけでなく、友人と関係を築くこと、遊びの中で試行錯誤しながら学ぶことも、同じくらい社会的に重視されているのがわかりました」

視察後にマルチパークで遊んでみたmiraitoの佐々木さんは、他に遊んでいた子どもたちとの一体感を感じられたそうです。

「大人でも転んだら痛かったです。子どもたちに話しかけられ、境界線がなくなる感覚がありました。ともに成功を喜び合い、痛みを理解し合うという身体的共通体験の大切さを感じました」

D×Pの安田明日香さんは、マルチパークでのグラフィティのルールが自分たちの活動の参考になったと話します。

「グラフティを描いていい場所は施設側でコントロールするものの、月1で若者が決めて絵を変えるというやり方が非常に参考になりました。若者の声を聞き、自由にしていいところは委ねるというやり方は取り入れていきたいです。日本では大人がうまくいくように計画しがちですが、デンマークでは結果よりも若者が自ら決めて行動するというプロセスが重視されていました。私たちも今後ユースセンター内でのイベントや企画を若者と一緒に進め、もっと任せていきたいです」

ヴィラ・フェムでの集合写真

次の最後の記事では、学校にも通わず、就職もしていない若者がやり直しのために通える「FGU(準備教育課程)」の訪問、参加者による視察全体での学びと今後日本で実行したいことについてレポートします。

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