Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ストレート

サウザ オルニートス
ブラックバレル
45ml
ストレートグラスに注ぐ
* ボトルを冷凍庫で冷やす場合は、グラスも冷やしておくことをすすめる

オン・ザ・ロック

サウザ オルニートス
ブラックバレル
45ml
氷を入れたロックグラス

ビーチとは関係なかった

メキシコの太平洋岸、ゲレーロ州アカプルコはリゾート地として世界的に名高い。そのアカプルコの高級リゾートホテルが建ち並ぶオルニートス・ビーチには、仙台市が寄贈した支倉常長記念碑が立っている。

1613年(慶長18)。支倉常長は仙台藩主伊達政宗の命を受け、180人余の慶長遣欧使節団を率いてメキシコ、スペイン経由でローマへと向かう。使節団はまずはアカプルコの地を踏んだ。そして陸路でメキシコシティを経由して大西洋岸のベラクルスへ達して、再び海路でスペインへという旅程であった。

使節団がメキシコで丁重なもてなしを受けたことは、史実としてよく知られている。

それから後もメキシコと日本の縁は深い。日本の外交史において特筆すべき条約が1888年(明治21)にメキシコとの間に結ばれた。日墨修好通商条約である。

江戸幕府の鎖国という時を経て、明治の開国により結ばれた最初の平等条約である。それまで列強と不平等条約を結ばざるを得なかった日本だったが、メキシコとのこの条約締結がきっかけとなり、列強との条約改正をすすめられるようになったといわれている。


さて、漢字での国名表記。条約名に墨とあるようにメキシコは墨西哥と書く。昔の漢字の当て字であっても、何故にいきなり墨なんだろうと疑問を抱いてしまう。太陽の光が降り注ぐ、明るいイメージの国ではないか。煤けた印象ではない。

この6月に、とても素敵なテキーラが発売された。「サウザ オルニートス ブラックバレル」。つくりや味わいがユニークで、とにかく飲んでいただきたいのだが、製品特性は後で語るとして、最初にボトルを観て、おお、これこそ墨西哥だ、と叫んだのである。そして慶長遣欧使節団はメキシコでどんな酒を飲んだのだろう、と想いを巡らせたりするのだった。

存在感のある黒いボトル。まさにメキシコの墨である。Hornitoの語源には暖めるとか、熱くなる、といった意味があるらしい。

眩い光に包まれたオルニートス・ビーチでリフレッシュした一日の終わり、この黒いボトルの封を切り、テキーラをグラスに満たす。ビーチの余韻を噛み締めるかのように火照った身体にテキーラの潤いを沁み込ませる。やがて溶けるように心身が弛緩していく。

そんなふうにイメージしたのだが、ビーチとは無関係だった。

ブルーアガベの衝撃的熟成感

原料であるブルーアガベ(竜舌蘭の一種)の地下茎、ピニャを仕込むときに、一般的にはピニャを切り割る程度で、それをまるごとバスタブのような大鍋に入れてグツグツ煮る。これを圧搾してジュースを得るので、アガベ繊維に由来する不要なエグ味のある成分まで抽出してしまうことになる。

サウザ社は違う。採れたてのピニャをシュレッダーで細かくし、さらに粉砕してから85度の温水を混ぜてアガベジュースをつくる。それを圧力タンク内で120度の蒸気によって加水分解して糖化を促す。

製品名のオルニートスはサウザ社の創業者ドン・セノビオ・サウザの開発した製法、クッカーによる蒸煮方法を称えたものらしい。

ボトルの黒は製品名に付けられたブラックバレルという樽熟成に由来している。

テキーラは1年以上オーク樽で熟成したものをアネホと呼ぶ。「オルニートス ブラックバレル」は18ヵ月以上の樽熟成したアネホであるが、なんとその期間にこれまでのテキーラの製法にはなかった3回樽熟成という貯蔵法を採用している。それもバーボンやスコッチの熟成効果を応用したものだ。

100%ブルーアガベでつくられた原酒を、最初は樽内面をミディアム・トーストしたアメリカンオーク樽に12ヵ月熟成。次にバーボン樽のように内面をカリカリに強く焦がしたアメリカンオーク樽に原酒を移し替えて4ヵ月。3回目は内面をトーストした新樽や古樽など異なる経歴のオーク樽に詰め替えて、さらに2〜3ヵ月熟成させてからブレンドしている。

クラフトマンシップにあふれる、情熱的で、挑戦的な試みから生まれたこのアネホは、未来に向けて新たなテキーラの香味創出を予感させる逸品である。

色はウイスキーか、と見紛うような黄金色。香りはウイスキー的なバニラ様があるが、ジャスミンのような可憐さ、そしてスパイシーさも感じ取れる。

味わいはスムースで、かすかにスモーキー。ウイスキーのような熟成感を抱きながら、口中で上質な独特のブルーアガベの甘みが浮遊してくる。後口には冴えた感覚とともにアガベの口中香が心地よくそよぐ。

衝撃的ともいえる、いまだかってなかったテキーラの熟成香味である。


サウザ社には正統派テキーラ「サウザブルー」がある。これは素晴らしいテキーラで、常温のストレートでじっくりと100%ブルーアガベの味わいを堪能するのがふさわしい。そして「オルニートス ブラックバレル」もまた常温のストレート、あるいはロックで味わうことをおすすめする。

冴えた透明感のある「サウザブルー」、ウイスキーのような熟成感を伝える「オルニートス ブラックバレル」。個性の異なるふたつのテキーラを是非味わっていただきたい。

これから猛暑が訪れる。常温がおすすめと言ったが、ときに冷凍庫でキンキンに冷やして、すっきりとした飲み口を楽しんでもいいかもしれない。

(「サウザオルニートスブラックバレル」は現在取り扱っていません)

サウザに関するエッセイはこちら

第37回「ヒマドールは忙しい」サウザブルー


慶長遣欧使節団に関するエッセイはこちら

第20回「セビージャの春祭り」ラ イーナ

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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