Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

シェリー・ツイスト

ラ・イーナ 2/5
ティーチャーズ
ハイランド
クリーム
2/5
オレンジジュース 1/5
ホワイト
キュラソー
2dashes
シェーク/カクテルグラス

アドニス

ラ・イーナ 2/3
スイートベルモット 1/3
オレンジビターズ 1dash
ステア/カクテルグラス
好みでオレンジピールを擦る

スコッチに貢献したハーベイ社

時は1587年。2年前から断続的にはじまったイングランドとスペインの紛争(英西戦争1585-1604)の最中だった。ドレーク提督率いるイングランド艦隊はスペイン・アンダルシアのシェリー交易拠点であるカディス港を襲撃する。

ドレークの艦隊は3日間カディスを占拠して破壊掠奪をおこなう。スペイン船を焼き払ったり拿捕しただけでなく、新大陸へ向けて積み出されるはずの3,000樽近いシェリーを掠奪した。その後、ポルトガル沿岸をも襲撃しながらイングランドに凱旋。ロンドンのエリザベス女王に掠奪物資を献上する。

なかでもシェリーは、宮廷でたちまちにして大人気となった。

もともとイギリス上流階級はワイン好きだった。11世紀にフランスのノルマンディー公ウィリアム(ギョームⅡ世)がイングランド王国を征服してノルマン朝となり、つづく12世紀半ばから14世紀のプランタジネット朝時代はフランス西部のロアールからスペイン国境までが領地であり、ボルドーワインがたくさんブリテン島へ運ばれている。

英仏の百年戦争(1337-1453)でフランスの領地のほとんどを失ってからは、ポルトガルやスペインのワインを輸入するようになる。そしてドレーク艦隊のカディス襲撃により、イギリス人のシェリー好きがはじまったといえる。21世紀のいまでもシェリーの最輸入国はイギリスである。


大昔の歴史の名残りをイングランド西南部の港湾都市、ブリストルに見ることができる。いまもボルドー埠頭という船着き場があり、かつておそらくボルドーからのワインがたくさん荷揚げされていたのであろう。

このブリストル、長年にわたりシェリーの町であった。そしてスコッチウイスキーの熟成樽に貢献してきた。スコッチが貯蔵熟成に使用するシェリー樽の多くは、実はスペインではなく、ブリストルにあったシェリー会社のものだったからだ。樽の供給は1970年代までつづいた。

シェリーは土壌、ぶどう品種、アルコール度数、味わいや醸造法によって辛口のフィノ(またはマンサニージャ)からアモンティヤード、オロロソ、極甘口のペドロ・ヒメネスなどに区分される。スコッチウイスキー出よく使われるのはオロロソシェリーを熟成させた樽である。

長らくブリストルのシェリー会社はスペインからシェリーを樽で輸入し、港湾近くやその近郊で貯蔵やブレンド、瓶詰めをおこなっていたが、1989年、スペインのカディス県ヘレスに移転している。これはEUによる原産地名称保護の動きだけでなく、もともとスペイン政府がシェリーはヘレスで製品化するべきだと主張していたことも大きい。

シェリーとスコッチのカクテル

さて、「シェリー・ツイスト」という名のカクテルを紹介しよう。

これはシェリー、ウイスキー、オレンジジュースにホワイトキュラソー(オレンジリキュール)少量をシェークする。カクテルブックをいろいろ眺めるが、シェリーやウイスキーの細かな指示はない。シェリーに関しては、おそらくバーテンダーの多くが辛口のフィノを使い、すっきりとした味わいに仕上げるのではなかろうか。どちらかといえば食前タイプといえよう。

そこでシェリーはカディス県に属すヘレス・デ・ラ・フロンテーラを代表するフィノ「ラ・イーナ」を使ってみる。シャープで樽香が爽やかなミディアムドライなこのシェリーと、イギリスつながりでスコッチのブレンデッド「ティーチャーズ ハイランドクリーム」を合わせる。

味わいはとってもすっきりしていて、オレンジの爽やかな風味がそよぐ。辛口シェリー「ラ・イーナ」に、大麦とスモーキーさが香る「ティーチャーズ」が絶妙なハーモニーを奏でる。口中でオレンジのフルーティーさの中からウイスキーの柔らかな感覚が浮遊するのが心地よい。さっぱりときりりとした感覚がある。

しなやかな味わいに、ファンになる人は多いのではなかろうか。「ティーチャーズ」との組み合わせのバランスがいい。伝統的なハイランドモルト「アードモア」をキーモルトにした、ブレンデッドの王道ともいえる香味が安定感をもたらしている。

ただし、カクテルには自分好みの味わいを見つける楽しさがある。さまざまなウイスキーを試してみていただきたい。


カクテルをもうひとつ、これは典型的な食前酒「アドニス」。シェリーはもちろん「ラ・イーナ」。加えてスイートベルモットにオレンジビターズを効かせた一杯である。すっきりとした口当たりで、ドライなシェリーとベルモットの風味が優しく寄り添う。

もっとドライにすっきりとした味わいが好みであるならば、ベルモットをドライベルモットに変えるといい。「バンブー」というカクテル名になる。

最後に、シェリーは英語での呼称。かつてスペインがイスラム支配下にあったとき、アラブ人がヘレス周辺をシェリシュと称していたことに由来する。原産国スペインでシェリーはビノ・デ・ヘレス(ヘレスのワイン)と呼ばれる。

(「ラ イーナ」は現在取り扱っていません)

シェリーに関するエッセイはこちら

第20回「セビージャの春祭り」ラ・イーナ

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 児玉晴希(シェリー・ツイスト)/川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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ティーチャーズ ハイランドクリーム
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