サントリー ワイン スクエア

異例尽くしの天候

7月の報告で、今年前半の異常な天候について報告しました。異常な暖冬でのスタート、4月からの低温、そして1-6月の降水量が747mm(平年402mm)と半年でほぼ年間降水量に匹敵するレベルであったこと、等々です。「7月からの好天に期待したい」と締めくくった前回の報告に、今回は新たに異常な高温・乾燥を追加する必要が出てきました。

7月は、平均気温は平年比+1.3℃で酷暑というほどではなかったのですが、月間降水量はわずか13mm(平年比-72%)と極端に乾燥し、日照時間も275時間と長く、葡萄にとっては理想的なひと月となりました。葡萄果も健全な状態が保たれ、春先からの雨で心配された病害への恐れは一掃されました。8月に入ると本格的に暑い夏となり、平均気温は平年比+2.9℃で、月間降水量はわずか12mm(平年比-79%)と極度の乾燥が継続しました。日照時間に至っては313時間とこれまた記録的な長さとなったのです。

8月中旬には、乾燥に弱い公園のマロニエは季節外れの紅葉と落葉を開始しました。この段階での紅葉を見るのは、2006年以来です。そして8月下旬には38℃という強烈な熱波にも見舞われ、それまでの高温と乾燥に何とか耐えていた葡萄にもさすがに日焼けによる被害が広がり始めました。添付した写真のように果皮が傷むと葡萄は干しブドウのようにカラカラに乾燥してしまいます。9月に入っても熱波の勢いは衰えず、記事を書いている今日(9月12日)も36℃の強烈な暑さに襲われています。

有名なメドックマラソンが一昨日に開催されたのですが、午後はほぼ30℃となり制限時間を通常の6時間半を、特例として7時間とする措置が取られました。一昨年に続く、二度目の特例でした。天気予報では、明日夜から待望の雨が予報されており、2ヵ月半ぶりのまさに恵みの雨となることを期待しているところです。理想を言えば、今後週一回程度に適度な雨があり、好天に恵まれた収穫期を迎えたいところですが、さてどうなるでしょうか。

こんな極端な天候のもと、地元の新聞に生産者を驚かすニュースが流れ、話題となっています。白の生産でも有名な一級シャトー、シャトーオーブリオンが先週白の収穫を開始しましたが、今年のオー ブリオンに関する記事が掲載されていました。今年の異常な乾燥のためオーブリオンは当局に申請をしてなんと畑に散水の許可を得て収量に影響しない8月15日以前に散水を実行したと書かれていたのです。皆さんもご存じのように、フランスではテロワールの個性を守る目的で、基本的にはどんなに暑くても水遣りすることは禁止されています。南仏では時期を限って特例として認められるケースもあるのですが、ボルドーではこれまで認められたケースは耳にしたことがありません。仮に認められるとしたら、生産者組合からの要請で、AOC全体に認められる話であろうと思っていたのですが、如何に一級シャトーとはいえ個々の要請に許可が降りたという話には驚かされました。記事では収量に影響しない8月15日以前であったため許可が降りたと書いてありましたが、この理屈で申請が通るのであれば、来年以降、独自に、もしくは組合経由での申請は一気に増えることでしょう。昨年、今年のこの状況であればどのシャトーも灌水したい気持ちは同じですので。こんな異例の天候でも、収穫のタイミングは平年より遅めとなりそうです。ラグランジュでも白は、9月12日の開始でした。赤は今後の天候次第ですが、早くても9月26日の週、遅ければ10月に入ってからの開始となりそうです。葡萄の成熟度の分析値では、この暑さと乾燥で、強いタンニンを持った葡萄果になりそうな兆候が見られています。不思議と6の付く年はタンニンの強いカベルネのヴィンテージとなっていて、この感じであれば2016年もこのジンクス上の年となりそうです。果粒の小さかった去年を更に下回っていることが、今年の特徴でもあります。

まだ品質や特徴を語るには早すぎますが、異例続きの天候が特別なヴィンテージをもたらすことは間違いなさそうです。次回は収穫の報告をしますので、どのような収穫となるのかを楽しみにお待ちください。