2025.12.22
その他 植物科学 ストーリー2009年|青いバラ販売開始、そしてもっと青く
世界初の青いバラは「SUNTORY blue rose APPLAUSE」と名づけられ、販売が開始されました。アプローズとは「喝采」という意味で、花言葉は「夢 かなう」です。夢をかなえるために努力してきた多くの人へ喝采を贈りたいという想いが込められています。
本記事は2014年に弊社コーポレートサイトにて掲載された内容を、再編集したものです。記載の役職・部署名・写真などは、原則として掲載当時(2014年)の情報です。現在とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
ついに世界初の青いバラが「SUNTORY blue rose APPLAUSE」として販売開始。花言葉は「夢 かなう」。夢をかなえた喜びと、新たな夢へ進む勇気を称え、その気持ちへの喝采を多くの人に届けたいという想いが込められています。そして今も、「もっと青いバラ」を咲かせたいという新たな夢に向かって、挑戦は続いています。本記事では、お客様から寄せられるあたたかい声が研究者たちの大きな励みになっていること、そして「ユニオンジャックの青」という新たな夢に向けた挑戦の歩みを紹介しています。
「もっと青いバラ」への挑戦は続く

青いバラは商品化されましたが、サントリーの不可能への挑戦はまだ終わったわけではありません。自然界にはもっと青い花はたくさんあります。これらの花は青色色素を合成できるだけではなく、アルミニムなどの金属イオンやフラボンなどをはじめとするさまざまな化合物と青色色素を複合させることで、より青い花を咲かせているのです。また、青色色素が入っている細胞内の液胞のpHが高い方が青くなることもわかっています。
このような青い花を咲かせる仕組みをバラで再現することができれば、現在のアプローズよりも、さらに青いバラを咲かせることができるはず──。「もっと青いバラ」を目指すサントリーの挑戦は、今日も続いているのです。
「不可能への挑戦」はまだ終わっていない(田中良和上席研究員)
止まぬ取材や講演依頼

広報発表の後、国からの認可取得と生産体制を整え、5年かかって販売にこぎつけました。販売開始から数年経てもなお、取材の申し込みや講演依頼があります。ありがたいことですが、私は「終わったことは終わったこと。次を見据えなくてはいけない」と考えていました。
販売開始以降、お客様からのお声をたくさん頂いています。「見たこともない青い色」と言っていただけることもあれば、「青ではなく紫」、「もっと青いバラを作ってください」というご意見もありました。
香りについておほめの言葉をいただくこともあるのですが、色を作る経路と香りの生合成経路は全く別。遺伝子組換えで変わったのは色だけで、香りや形は元のバラのものなので、香りをほめられると少々複雑です。
研究とは前人未到の地を行くもの
小中学生のお子さんからもたくさんの手紙をいただきました。青いバラが科学に関心を持つきっかけになれば、研究者として非常に嬉しいことだと思っています。私自身、小学生の頃から植物に限らず生きもの全般が大好きで、動物図鑑などをよく見ていました。バクテリオファージと月着陸船が似ていることに気づいた時には、本当に感動したものです。
よく「誰もやっていないことを手探りしながら研究していくのは大変でしょう」と言われることが多いのですが、研究というのは基本的に前人未到の地を行くべきもの。
「できない理由などない」と信じて、新たなアイデアや違う研究で学んだことを応用し、できることからやっていけば道は開けると思っています。
お客様から届く温かい声が何よりも嬉しい(勝元幸久主幹研究員)
青いバラの刺繍に涙が出るほど感動

このプロジェクトに携われて最も嬉しかったのは、実験の成果が出たときよりも青いバラ開発成功の発表以後、一般のお客様から、こちらが励まされるような温かい声をたくさんいただいた時でした。
80代の女性から「長生きした甲斐がありました」というお手紙と共に、青いバラをモチーフにした手作りの刺繍を贈っていただいたことも。見ず知らずの私たちのために一針一針縫ってくださった姿を思うだけで涙が出ます。
花に興味がない人にとっては、バラが青かろうが赤かろうがどうでもいい話かもしれません。それなのに、青いバラの誕生を「希望」とか「夢」とか言ってくれる方がこれほどたくさんいるとは。この仕事を続けてきてよかったと心底感じました。
お客様との接点を望んでいる研究者

研究所のメンバーは皆、果たしてこれがお客様にどう捉えられるのか、どれほどの価値を持っているのか、常に自問自答しています。研究者は、普段お客様と接点がありません。いわば、お客様から一番遠いところにいる仕事です。にもかかわらず、こういう声を届けていただけるのは、研究を生業にしている者にとっては、この上ない喜びです。
おそらく、なかなか実現できなかったことも背景にあるのでしょう。苦労に苦労を重ねてできたアプローズと、お客様一人ひとりの想いが重なったからこそ、多くの方が青いバラを特別なものだと共感してくださった。その気持ちに応えるべく、これからも青さに磨きをかけていきたいと考えています。
目指すのはユニオンジャックの青

もっと青くするには、自然のやり方に学ぶのが一番。バラの品種を変えるだけでなく、他の青い花がどういう仕組みで真っ青になっているのか詳しく調べて、それをバラでも真似るのです。アプローズを作った時よりも、より複雑なことをしていく必要があります。
青いバラプロジェクトを始めたきっかけの一つに、当時社長だった佐治敬三が、ウイスキー作りでお世話になったスコットランドに恩返しをしたいと考えたから、というエピソードがあります。ユニオンジャックの青のような色を実現してこそ、恩返しになるのではないかと思います。だから、私が最終的に目指しているのは、あの濃い青なのです。
海外でお客様にアプローズを提供できる日が来ますように(中村典子研究員)
日本から世界へーー広がる青いバラの挑戦

現在、アプローズが販売されているのは、世界中で日本だけです(取材当時)。
しかし、海外でも世界初の青いバラ開発成功のニュースは大きく報道されたので、アプローズをひと目見たいと熱望している方は大勢います。その方たちのためにも、一刻も早く海外で販売できるようにしたいのです。
日本同様、海外で販売するためには数々のハードルを越えなくてはなりません。そしていつの日か、スコットランドに恩返しを──というサントリーの想いを現実のものにすべく、海を越えて彼の地へ青いバラを届けたいと思うのです。