2025.12.22

その他 植物科学 ストーリー

世界初!「青いバラ」への挑戦

世界初!「青いバラ」への挑戦
世界初!「青いバラ」への挑戦

自然界には存在しない「青いバラ」。開発成功までの道のりにはサントリーのDNA「やってみなはれ」精神による挑戦の積み重ねがありました。

本記事は2014年に弊社コーポレートサイトにて掲載された内容を、再編集したものです。記載の役職・部署名・写真などは、原則として掲載当時(2014年)の情報です。現在とは異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

開発の概要

開発の概要

バラはクレオパトラやローマ皇帝ネロはじめ古くから世界で最も愛されてきた植物です。現在栽培されているバラ(学名:Rosa hybrida)のほとんどは、世界各地の野生種のバラ8種程度を人為的に掛け合わせること(人工交配)により生み出されました。四季咲きのバラ、黄色やオレンジのバラも、長年の人工交配による品種改良の結果、誕生したものです。ナポレオンの妃ジョゼフィーヌが自分のマルメゾン宮殿の庭で人工交配をさせ、たくさんの品種を生み出したことは有名で、これらのバラが多くの現在のバラのルーツになりました。

青いバラを作ろうという努力もされてきましたが、多くの青い花に含まれる青色色素(デルフィニジン)を作る能力がバラにはないため、いくら交配を繰り返しても実現には至りませんでした。このため、Blue roseは、「不可能」「存在しないもの」の意味も持つほどです。「幸せを象徴する青い花を作って世の中を明るくしたい、勇気づけたい」、「バイオテクノロジーを用いればバラで青色色素を合成させることができ、青いバラができるはず」、「サントリーのDNAであるやってみなはれにふさわしい」。これが夢への挑戦の始まりでした。

1990年にこの研究プロジェクトをスタートし、14年の年月を経て、2004年にようやく開発の成功を発表。「青色色素が花びらに存在する、世界初の青いバラの誕生」と大きな反響を呼びました。その後、2008年に生産販売に必要な認可を取得、2009年から「サントリーブルーローズ アプローズ」(花言葉「夢 かなう」)として好評発売中です。

さらに、香りの分析を行い、生花以外にも「サントリーブルーローズ アプローズ」の香りを楽しめる製品として石鹸や香水を展開し、活用の幅を広げています。

参考文献
・青いバラ 救え!世界の食料危機 113-130 (2009) 化学同人
・花の色の不思議と青いバラへの挑戦 日本植物生理学会 公開講座「花の魅力」

誕生の秘密

花の色は自由に変えられる

図1:バラの花色色素合成の経路

花の色は、花びらにどんな色素が蓄積するかによっておおむね決まります。赤、紫、青などの花色の成分はアントシアニンと総称されます。アントシアニンの構造と色は多彩ですが、発色を司る骨格部分(発色団)の構造は主には3種類に分けられます(図1)。

サルビアなどのオレンジや鮮やかな赤い色の花びらにはペラルゴニジン、バラなどの赤や紅色の花びらにはシアニジン、リンドウやキキョウなどの紫や青い花にはデルフィニジン(青色色素ともよばれます)という化合物が含まれることが多いです。これらの構造を比較してみると水酸基(OH)の数が違うだけです。このわずかな違いで色素の色が変化します。

バラには赤・オレンジ・ピンクなど様々な色があり、これらの色は、シアニジンとペラルゴニジンに由来します。赤いバラにはシアニジンが、オレンジ色のバラにはペラルゴニジンが主に含まれます。バラに「青い色」がないのは、青色色素が花弁に存在しないことが理由です。従来の品種改良で作られたバラの中には、青系と総称される品種もありますが、これらにもデルフィニジンはありません。シアニジンの量を減らすことで、青く見えるように品種改良されたようです。なお、黄色のバラはアントシアニンとはまったく異なる化合物であるカロテノイド(カボチャ、ニンジンなどの色の成分)に由来します。

植物がどの種類の色素を合成するかは、その植物がどんな遺伝子を持っているかで、生まれつき決まっています。バラは、青色色素を合成するために必要な遺伝子(青色遺伝子、学術的には、フラボノイド3′,5′-水酸化酵素遺伝子(図1))を持っていないため、青色色素を合成しません。従って交配を繰り返してもバラの仲間には青色遺伝子がないため(バラ科のイチゴやリンゴにもありません)、青色色素を合成することができず、青いバラを作ることはできませんでした。

植物の品種改良

現在栽培されている穀物、野菜、花などの植物は、長年の「交配」による品種改良で作られたものです。このおかげで、病気に強い、たくさん収穫できる、美しいなど、人が利用しやすい作物がもたらされ、私たちの生活は豊かになりました。しかし、この交配には、たくさんの時間と手間が必要な上、交配では達成できない性質もあるので、なんとか効率よく品種改良ができないかというのが課題でした。

近年発展の著しいバイオテクノロジーを利用すると、狙い通りの品種改良が効率よくできるばかりか、交配では不可能とされてきたことも可能になってきました。サントリーでは、この技術を花の品種改良に応用し、世界中のバラ育種家の夢であった「青いバラ」を開発するなど、さまざまなテーマに挑戦しております。

バイオテクノロジーで花の色を変える例
※サマーウェーブはサントリーフラワーズ(株)より販売しております
※サマーウェーブはサントリーフラワーズ(株)より販売しております
参考文献
Plant Biotechnology (2006) 23:13-18
Plant Biotechnology (2010) 27:375-383

花の色が決まる仕組み

植物は花粉を運んでくれる虫や鳥を呼び寄せるためにさまざまな工夫をしています。花の色もその工夫のひとつで、虫や鳥にアピールするようにさまざまな色の花があります。代表的な花色の成分には、1)黄色〜青までの多くの色を出すフラボノイド(アサガオ、カーネーション、ゼラニウムなど)、2)黄色からオレンジ色のカロテノイド(黄色のキク・バラ、トマトやニンジンの成分など)、3)一部の植物(オシロイバナ、サボテンなど)やキノコに含まれるベタレインがあります(下図参照)。

サントリーは、この中で、フラボノイドの研究を行ってきました。フラボノイドには、身体によい成分が多く、眼にいいとされるブルーベリーのアントシアニン(フラボノイドの中で、赤や青の成分をアントシアニンと呼びます)や、カテキンなどもフラボノイドの仲間です。

フラボノイドは、フェニルアラニン(アミノ酸の一種)から、多くの酵素の働きによって合成されます。どの酵素がどの程度働くかによって花の色は決まります。たとえば、青い色素を作る酵素が働くと、青い花ができますし、赤い色素を作る酵素が働くと、赤い花ができます。

花の色と色素の関係

「ムーンダスト」ベルベットブルー
「ムーンダスト」ベルベットブルー

なお、酵素の働きは、遺伝子(生き物の設計図)によってコントロールされているので、遺伝子の働きをコントロールすることにより、花の色を変えることができます。

バラやカーネーションには青い色素を作るための酵素やその遺伝子がありません。サントリーは、その遺伝子を世界に先駆けて取得しました。この遺伝子をカーネーションに入れることにより、青い色素を蓄積しているカーネーション「ムーンダスト」を作ることができました。このカーネーションは日本や欧米で販売されています。同じように青い色素を蓄積しているバラも開発することができました。

青色色素の蓄積により、青さを実現

図2:従来とサントリーの「青いバラ」の違い

バイオテクノロジーを利用すると、他の生物の遺伝子を利用して、目的の生物の性質を変えることができます。青い花から取り出した青色遺伝子をバラの中でうまく働かせることにより、青色色素を蓄積するバラを作ることができました。いろいろな工夫を行うことで青色色素の含有率を高め、花の色が青くなったバラを得ることができました。従来のバラよりも青いこと、青色色素を蓄積していること(図2)から、2004年に青いバラの誕生という広報発表を行い、国内外で大きく報道されました。

参考文献
『花はふしぎ―なぜ自然界に青いバラは存在しないのか?』岩科司著(講談社ブルーバックス)

開発ストーリー

開発ストーリー

英語で「Blue Rose」といえば「不可能(存在しないもの)」の象徴でした。それは、どんなに望まれても交配による品種改良では誰も青いバラを実現することはできなかったから。しかし、最先端のバイオテクノロジーと開発者たちのたゆまぬ努力により、「不可能」は可能になりました。

プロジェクト起ち上げ時から参加している田中良和上席研究員、現在もプロジェクトの中心メンバーとして研究に携わる勝元幸久主幹研究員、中村典子研究員に、青いバラ開発成功に至るまでの想いを語ってもらいました。

1990年|青いバラプロジェクト、始まる
1991年|ペチュニアから青色遺伝子取得、特許出願
1994年|ペチュニアの青色遺伝子を入れたバラが開花、しかし…青くない
1995年|青色カーネーション完成
1996年|ようやくバラでも青色色素が蓄積。花の色が変化
1998年~2002年|青色色素100%まで。ついに青いバラが誕生
2004年|ついに開発成功を発表
2009年|青いバラ販売開始、そしてもっと青く

「青いバラ」の開発、その他植物の研究において数々の賞を受賞

青いバラ

2004年・バイオインダストリー協会(JBA)「特別技術賞」
・日経BP社 日本イノベーター大賞「優秀賞」
2005年・日本植物細胞分子生物学会「特別賞」
2009年・日本植物生理学会「PCP論文賞」
・日本農学会「農学賞」及び読売新聞社「読売農学賞」
・農林水産省農林水産技術会議「農林水産研究成果10大トピックス」(初の民間単独選出)
2010年・関西元気文化圏ニューパワー賞
・第1回「JAPAN ROMANCE AWARD」ロマンステクノロジー部門
・平成22年度全国発明表彰発明賞
2011年・日本植物学会「特別賞」

ムーンダスト

2000年・民間部門農林水産研究開発功績者「農林水産省農林水産技術会議会長賞」
2002年・日本農芸化学会「技術賞」
・花の文化展 第12回新花コンテスト「ゴールド賞」、(社)園芸文化協会協会長賞
2004年・日本産業デザイン振興会 グッドデザイン賞「金賞」
2005年・オーストラリア大使館インポートアワード

その他

1998年・日本植物細胞分子生物学会「技術賞」
2002年・日本植物細胞分子生物学会「技術賞」
2007年・日本植物細胞分子生物学会「論文賞」
2008年・第7回「産学官連携功労者表彰 文部科学大臣賞」
2009年・日本農芸化学会「BBB論文賞」
2011年・日本植物細胞分子生物学会「奨励賞」
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