2026.10.13
「仮説と検証」の先に、ブレイクスルーがある。キャリア採用で広がった、サントリー研究職の挑戦
医薬品事業会社の研究職から、キャリア採用でサントリーへ入社した土屋貴嗣さん。健康機能研究、社外への出向を経て、現在はサントリーグローバルイノベーションセンター株式会社のプロセス技術開発部で、ノンアルコール飲料をはじめとした技術開発に携わっています。研究分野を変えながらたどり着いた「仮説と検証」という仕事の軸や、技術開発の面白さ、サントリーで広がった研究者としてのキャリアについて聞きました。
「化合物の気持ちになる」。おいしさを生み出す技術開発
グループの基盤技術研究を担う、サントリーグローバルイノベーションセンター(以下、SIC)。プロセス技術開発部の土屋さんは、発酵技術や分離技術を活用しながら本格的な酒類の味わいを実現する、ノンアルコール飲料の技術開発に取り組んでいます。
土屋さん:プロセス技術開発部は、サントリーが大切にしている「自然の恵み」の力を「お客様の価値」につなげていく部署です。たとえば、茶葉から成分を抽出し、お茶として飲むーーそんなシンプルな過程にも、革新的な技術を持ち込むことで、これまでにない価値を生み出せます。
ノンアル飲料はソフトドリンクの延長線上で捉えられることもありますが、お酒らしい香りや味わいなど、“ノンアルならではの価値”があるはずです。そこで「本当においしい」と思っていただけるものを技術でどう実現できるのか。それを追究していくことにやりがいを感じています。
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社 プロセス技術開発部 主幹研究員の土屋貴嗣さん。
土屋さんが技術開発の面白さを強く実感したのは、プロセス技術開発部へ配属されて最初に担当した“コーヒーオイル”の研究でした。
土屋さん:コーヒー豆には20%ほどの油分が含まれていて、そのオイルだけを取り出すと挽いた豆のようないい香りがします。ところが水に加えると、急に焼けたゴムのようなニオイに変わってしまうんです。それがなぜなのかは、これまで曖昧なまま解明されていませんでした。
そこに改めて着目し、成分の分配比率や揮発性などをひとつずつ調べていくと、香りが変化するメカニズムが見えてきました。この研究は、食品や飲料における香味設計や品質設計への応用といった新しい技術開発にもつながっています。
また、研究成果をまとめた論文や学会発表によって、学会表彰を受賞することもできました。目の前の「なぜ」に向き合い、メカニズムをていねいに深掘りすることで、学術的な成果だけでなく、ビジネスにつながる新しい可能性も生み出せる。そう実感できた経験でした。
コーヒーオイルの研究は、公益社団法人におい・かおり環境協会の奨励賞を受賞。
研究対象と向き合うときに土屋さんが大切にしているのは、「すぐに解決策を探さないこと」だといいます。
土屋さん:研究開発では、何かを良くすると別の何かが悪くなるようなトレードオフがよく起こります。そこですぐに「どう解決しよう」と考えるのではなく、まずは「なぜこうなっているんだろう」というメカニズムを理解することが重要です。その積み重ねこそが、ブレイクスルーにつながると考えています。
そのためには、「化合物の気持ちになる」ことも大事にしています。物質がミクロの世界でどう動き、どう変化するのか。化合物を頭のなかで生き物みたいにキャラクター化して対話してみることで、思いもしなかった答えが見えてくることがありますね(笑)。
「欲しいデータを出す」研究から、「仮説と向き合う」研究へ
大学院では感染症に関するワクチンの研究に取り組んでいたという土屋さん。「自分は研究に向いていないと感じていました」と、当時を振り返ります。
土屋さん:研究をやっていると、本当にわからないことだらけで。それが面白さでもある一方、大学院のころはそのまま研究職を目指すのが少しイヤになってきて(笑)。就職活動では薬の臨床開発職を志望していたんですが、結果的には医薬品事業会社に研究職で入社しました。
「子どもの頃に起こったSARSの流行がきっかけで、ワクチン研究の道を志しました」と土屋さん。
前職では、主に抗体医薬品のバイオシミラーに関する薬効・薬理評価を担当。入社1年目で医療機器の開発プロジェクトリーダーを任されたことも、その後のキャリアを考えるきっかけでした。
土屋さん:指示されたことを黙々と進めるより、自分で考えて新しいものをつくる開発のほうが面白いと感じました。しかし、当時の会社ではそうした機会はほとんどなく、4、5年が経つなかで、新しい成長機会を求めて転職を考えるようになったんです。
そんなときに、サントリーの募集を知りました。基礎研究から事業直結の開発まで、業務のフィールドが幅広いことに加えて、商品開発やマーケティングなど、キャリア自体の選択肢が多様であるところにも惹かれましたね。
こうして、2014年にキャリア採用でサントリーへ。SIC研究部に配属され、腸や血管などの健康機能研究に携わっていきます。
土屋さん:もともとは脳や腸などの決まった分野の専門家を採用する予定だったそうです。私はそのどれにも当てはまっていなかったのですが、「今すぐ専門性を発揮しなくてもいい。うちで成長していけばいい」と、内定をいただきました。専門を活かした即戦力でのキャリア採用というよりは、中長期での育成も踏まえて見てくれていたのだと思います。
そこから5年半ほどは、グループ会社とも連携しながら乳酸菌や松の樹皮由来の素材研究などに取り組みました。人の健康に関する研究は奥深く、その複雑さと向き合うなかで“人を理解することの難しさ”を実感しましたね。
SIC研究部のメンバーと。「ヒトの健康機能の研究に没頭した5年半でした」。
2020年からは、サントリーと社外企業によるジョイントベンチャーへ出向。そこで“ものづくり研究”の面白さと出合います。
土屋さん:それまでは、“いい仮説を立てる”ということに、あまり真剣に向き合えていませんでした。事業として求められているデータがあり、「それを出すには、どんな実験をすればいいか」とロジックを組み立てるような、ゴールありきの研究をしていたところがあったと思います。
一方、出向先では、「なぜ、そう言えるのか」「本当にその現象が起きているのか」と、メカニズムをとことん問われました。当時の部長がよく言っていたのは「巨人の肩に立つ」という言葉です。私たちの新しい発見も、先人たちが積み重ねてきた膨大な知見の上にある、ごく小さなものです。
サントリー社内の知見だけに頼り、いわば井の中の蛙の状態で考えても、いい仮説はなかなか生まれません。その枠を飛び出し、先人たちの知見と向き合ったうえで「いい仮説を立て、実験で検証し、それを積み上げる」。それが“ものづくり”における研究開発の本質なのだと気づきました。
まずは「サントリーNo.1」に。ひとつの専門性から広がるキャリア
2023年にプロセス技術開発部へ異動し、現在は主幹としてメンバーのマネジメントにも携わる土屋さん。組織を越えた連携を支え、メンバーが研究に集中できる環境づくりも、大切な役割です。
土屋さん:「One Suntory」という言葉が表す通り、研究、商品開発、工場、マーケティング、営業など、さまざまな組織が垣根を越えて協働することで、大きな成果を生み出せると思っています。私たちがいいものをつくれば、他部署がしっかりと売ってくれるという信頼感も、サントリーの強さです。
部署の垣根を越えた「One Suntory」が、一つひとつの商品に結実する。
土屋さん:一方で、研究側と事業側では見ているものも異なります。研究側だけで「これは絶対にいい技術です」と言っても、相手にきちんと伝わらなければ意味がありません。だからこそ、マネージャーは組織間の細やかな調整を引き受け、メンバーには新しい技術をつくることに時間を使ってほしいと考えています。
SICには、多様な専門家と刺激し合いながら、自分自身の専門性を磨いていける環境があります。
土屋さん:SICには、水や酵母、健康、サステナビリティなど、幅広い分野のスペシャリストがすぐそばにいて、サイエンスのレベルも本当に高いです。だからこそ、メンバーには「まずはサントリーでNo.1になれる強みをつくろう」と伝えています。
そんな軸が自分にもひとつあれば、他の専門家との議論からさらに横へ広げていけます。「あなたは何屋さんですか」と聞かれたときに、「この分野なら誰にも負けません」と言えるものをつくる。私でいえば、食品化学がその軸なのかなと思っています。
SICには「外へふらっと出れば、別分野から刺激を受けられる良さがあります」と、土屋さん。
土屋さん:また、若手の頃からテーマリーダーを任せてもらえるところも、サントリーらしさだと思います。テーマがあって、お金があって、人がついて、そのなかでどう成果を出すかを考える。感覚としては、「小さなベンチャーの社長」のようなものです。
専門性を深めるだけでなく、それを起点にキャリアを広げていけることも、SICで働く魅力のひとつ。土屋さん自身も、サントリーで働きながら社会人博士課程に進み、生命農学の博士号を取得しました。
土屋さん:入社2年目くらいからリーダーを経験するケースもありますし、論文発表や博士号取得などで専門性を深めることもできる。もちろん、グループ内の異なる職種へキャリアを広げていく道も閉ざされていません。キャリア採用で入社したときには、今の自分の姿はまったく想像していませんでしたね。
家族や友人、同僚とワイワイ過ごすのが休日の楽しみ。「最近は双子の娘たちと奈良公園で遊んでいます」
土屋さん:この先は、サントリーの「−196℃製法(FCI製法)」のように、「この商品には、この技術があるからおいしい」と言ってもらえるような、ブランドにひもづく技術を生み出したいと思っています。もちろん、自分自身でかたちにするのも楽しいですが、メンバーから画期的な技術がどんどん出てくる、そんなチームがつくれたら最高ですね。

※社員の所属・役職、内容は取材当時のものです。
編集:サントリーホールディングス株式会社 人財戦略部
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土屋 貴嗣Takatsugu Tsuchiya
サントリーグローバルイノベーションセンター株式会社
プロセス技術開発部 主幹研究員
2010年、医薬品事業会社に研究職として入社。2014年、キャリア採用でサントリーへ入社し、SIC研究部 健康Gにて、腸・血管・血糖・もの忘れなどの健康機能研究を担当。2020年よりサンセラバイオ株式会社へ出向し、飲料安定化・製剤研究に従事。2023年にプロセス技術開発部へ異動し、ノンアルコールビール、RTDなどの技術開発を担当する。