2026年5月22日
#1015 チェスリン コルビ 『可能な限りシンプルに』
見事今シーズンの得点王に輝いたコルビ選手。走って捕って蹴って点を取って、プレーでチームを引っ張るコルビ選手に、いつも大事にしていることを訊きました。(取材日:2026年5月中旬)

◆チームを成功に導くこと
――今シーズンのリーグワン得点王になりましたね
シーズン当初は得点王という目標は立てていなくて、個人としてはチームに貢献することをずっと考えていました。得点王になるということがいちばんのフォーカスではなく、ただただチームに貢献したくて、プレーオフに向けてチームを成功に導くことを考えていて、その結果が得点王ということになったんだと思います。
――昨シーズンの後半からゴールキックを蹴るようになりましたが、何かきっかけがあったんですか?
南アフリカで高校生の時からキックは蹴っていて、スプリングボクス(南アフリカ代表の愛称)の時もそうでしたし、ずっと取り組んできました。昨シーズンも今シーズンも、コーチ陣と話して、蹴ることになりました。幹也(髙本)は10番としてチームをオーガナイズすることを含めて、やることが多いので、そこのサポートになればと思っています。
私としてもやるのであれば、そこに責任を持ってしっかりとやらなければいけないと思っています。逆に少しプレッシャーはかかりますが、キックをやってもやらなくても、それ以外のフィールドのところは変わらずに、どんな形でもチームのために貢献できればと思ってやっています。
個人としてもキックは好きですよ。ウイングでプレーしていて、自分の逆側でトライがあった時は、60秒以内に蹴らなければいけないので、逆側からスプリントしなければいけませんが(笑)。そこでしっかりと2点を取らなければいけないので、それには順応していくしかないと思っています。それは練習の中でも取り入れていて、そうすれば試合の時はもっと楽にできると思っています。
――キックを蹴ることも普通になったということでしょうか?
長年ずっとやってきたので、落ち着いてふだん通りできていると思います。ゲームの中の一段階越えられるような要素だと思っています。

◆その瞬間に集中する
――蹴り方については、準備がとてもシンプルですよね
5歩下がって、1歩前に出ます。あまり複雑にしないようにしています。そして複雑に考えすぎないようにして、その瞬間に集中するようにしています。
――複雑に考えずシンプルにやるということは、あらゆるプレーに共通しているんですか?
まさにそうですね。可能な限りシンプルにして、複雑に考えないようにしています。その週の練習でやることが試合に繋がるので、週の中で理解度が高まれば、週末の試合ではしっかりと発揮できると思います。なので、物事は複雑にしないようにしています。そしてその瞬間に集中して、時にはその瞬間の直感も大事になります。
――例えばキックする瞬間には、何を見て何に集中していますか?
ボールにフォーカスして、ボールを蹴る位置に集中しています。小さいところに対してズームするかのように、フォーカスしています。
――ゴールキックが外れる時には、そのフォーカスがズレてしまったということですか?
もちろん完璧は目指していますが、完璧にできることはないので、外す時には複雑に考えてしまったり、ズレてしまっているんだと思います。本来であれば自分のプロセスを信じて行えばいいんです。スタートのボールを置くところから、ボールを置く角度も大事だと思っています。もちろん風などの影響もありますが、それはアングルを少しアジャストすればいいだけで、そこは学びながら成長させていっているところです。
――今シーズンのキックについては、良い結果を残せていると思いますか?
ディーン(カミンズ/アシスタントコーチ)と一緒に取り組んでいて、練習の中でもリズムとキックのストライクをしっかりとやる。そして試合当日は複雑に考えずに、自分のプロセスを信じてやるだけです。それでボールに対して、良いストライクができていると思います。その同じ感覚を、毎回できるように繰り返そうとしています。

◆自然の直感
――ランについては、そんなところも抜けられるんだと、よく驚かされます。その時には何を考えているんですか?
まずは、ディフェンスが何をしようとしているのかを読もうと思っています。ウイングとしてタッチライン際でボールをもらうことが多いので、ディフェンスは内側から来ます。そうなると内に切って、ディフェンスの弱い部分を探したり、狭いかもしれないけれど外のスペースで勝負をしたり、自分の自然の直感であったり、自然に出る部分が試合の中で役に立っていると思います。目の前のものに対してプレーし、それを遂行していくだけです。
あとは練習の中で、想像しながらやることも大事だと思います。スペースがない状況となった時に、自分は他に何ができるのか?どうやって他にスペースを探せるか?そういうプロセスでやっています。
――直感で行けると思ったら100%行っているんですか?
そこは絶対に自分を信じて、100%行きます。2つをそこで考えてはいけなくて、そこで考えすぎてしまった時には、判断を間違えてしまいます。自分が思った選択を、信じてやり切るんです。
――横に走りに行く時には、相手のどこを攻めるか探しているんですか?
そうですね。僕は身体が大きくはないので、常にスペースを探しています。ただ単に真っすぐ当たるのではなく、時には当たりに行かなければいけない時もありますが、チームに勢いをつけるためにも可能な限り狙っています。

◆ベーシックなものをずっとやり続けること
――今シーズンでは相手のキックを外に出さずボールを残して、そのボールを拾い相手陣に蹴り、50:22になったプレーもありました。
ああいうプレーはリスクもありますが、走って戻っている時に相手のディフェンスがどこにいるのかチェックして、チェースラインがどうなっているのか?時間があるのかないのか?特にあの時の状況で言うと、余裕があり時間もあって、トラスキー(ケレイブ・トラスク)も戻って来ていたので、少しでも前に出ようと、あのプレーをしました。
――自分でも良かったプレーのひとつですか?
チームに貢献したいだけですし、あのプレーはプランニングしてやるものではないので、瞬時に反応するしかないと思っています。
――今シーズンのパフォーマンスについては、これまでよりも良くなっていますか?それとも元に戻って良くなったという感じでしょうか?
特にラグビーにおいては一貫性が大事だと思っていて、やはり対戦相手もこちらの分析をしてきます。個々としても違うものを出す必要がある時があります。父にずっと言われていることは、「ベーシックなものをずっとやり続けること。それができれば結果はついてくる」ということです。私自身も完璧な選手ではないので、常に向上させたいと思っています。自分のプレーはこれからも伸ばしていきたいです。
――日本に来て成長しているということですか?
そこは、絶対にそう思います。リーグワンの中でも、このチームの中でも、たくさんのことを学びました。特に改善したところは、自分自身はフィットネスがあると思っていましたが、日本に来てみたら大変でした(笑)。そこは自分にとっても良くなった部分ですし、プラスになった部分だと思います。
――お父さんの言葉は大事ですね
この父の言葉は、どんなラグビー選手にとっても大事なことだと思います。やはりベーシックなことをやらなければいけません。華麗な部分ばかりに着目してしまうと、良いところには行けないと思います。
――そのベーシックなことを大事にした結果、華麗なプレーができていますよね
ひとつひとつプロセスがあると思っていて、ベーシックなことをしっかりとやることができれば、その後のことは自ずとついてくると思っています。そうすると、ラグビーやその瞬間を楽しむ時が来ると思います。もちろんミスもありますが、物事を引きずるのではなく、次のことを考えなければいけません。

◆トライはボーナス
――今シーズンはリーグ得点王、他にもゲインメーター1位、ラインブレイク1位、ディフェンス突破が2位、そしてトライは9位でした。この成績についてはどう思いますか?
取れるなら、ぜんぶのタイトルは取りたいですよ(笑)。ですけれど、そこがフォーカスではなく、いろいろな方法でチームに貢献できると思っています。スペースを作ったり、スペースに味方を走りこませたり。トライを取ることは私にとってはボーナスだと思っているので、その記録は追いかけるものではないと思っています。
――出場試合数は1年目のシーズンが11試合、2シーズン目が14試合、そして今シーズンはここまで既に16試合と、着実に出場試合数が増えていってますね
最初のシーズンは怪我を含めてコンディションづくりが上手くいかなくて、それで1週や2週試合に出られない時がありました。今はシーズンを通してみんなが一貫性を作ろうとしていて、その中での自分のフォーカスとしては、精神的にもフィジカル的にもコンディション的にも、しっかりと良い状態に持っていくこと、そして毎試合出場することを考えています。特に今シーズンは前の2シーズンよりも良い状態でできていると思います。そして常にベターにしてくことです。
――今シーズン良い状態でできている要因は?
少しでも痛みや違和感を感じた時には、その週の中でしっかりと治すこと。あとは少しエキストラでリカバリーをすることです。最初の2シーズンでもやっていましたが、ラグビーの中では突然の怪我もあるので、フィジオなどジムでできる限りのことを、最大限やるということです。やはりベストのパフォーマンスを毎回出すには、そこをしっかりとやること。それによって、次の週の試合でちゃんと自分のパフォーマンスが出せると思います。
――見ていては感じませんが、年齢による衰えなど感じる時はありますか?
ハハハ(笑)。まだ32歳なので、若いと思いますよ(笑)。自分自身で自分の状態を楽しんでいます。年配の選手にそういう話をしたら、そういうこともあると思いますが、自分のラグビー自体も成長していると思っていますし、テクノロジー的にもラグビー界も成長していると思います。最終的に個人として何を成し遂げたいか、どれだけベストなコンディションに持って行けるか、そこからもう10年プレーするのか、すぐにキャリアが終わってしまうのか、どれだけ最大限のことができるかだと思います。
――もう10年プレーして欲しいです
私もそう願っています(笑)。

◆シンプル、規律、そしてボールをどれだけ大事にできるか
――いよいよプレーオフトーナメントです。プレーオフでは3つ勝てば優勝するわけですが、その中では何がいちばん大切だと思っていますか?
私としてはシンプルで、まずはベーシックなことをやること。練習すること。コーチ陣が求めていることをしっかりと遂行すること。プレーオフトーナメントでは華麗なことをするのではなく、シンプルなことをどれだけできるか。もちろんポイントは取りたいですけれど、規律が本当に大事になります。そしてボールをどれだけ大事にできるか。
チームとしては1日1日、1試合1試合を大事にして、まずは準々決勝です。どのチームも優勝したいと思っているので、まずは今週の準々決勝に集中することが大事であり、相手のブラックラムズは本当に良いチームだと思っています。
プレーオフトーナメントは本当に特別で、何が起きてもおかしくありません。最後の笛が鳴るまで、すべてを出し切る。そこに何も残さないように、すべてを出し切ることが大事だと思います。毎シーズン、チームも違えば選手もコーチ陣も変わります。お互いに楽しみながら、このグループでの今シーズンの思い出を作り、それを引退した後に思い出話として話せたらと思っています。
――勝ち進んでいく自信は?
特に直近の試合は、自分たちの自信につながる試合だったと思います。もちろん課題は常にありますが、チームのパフォーマンスとしてはとても良いものを出せていると思います。そこでエレガントになるのと、しっかりと自信を持っていくというのは、また違うと思うので、そこでのバランスをしっかりと持つ必要があると思います。週の中でコーチがセットアップするものに対して、しっかりとやることをやる。それが絶対に試合に繋がっていきます。それと同時に、相手のことをしっかりと分析することが大事だと思います。
――プレーオフトーナメントでは、ファンの人たちに自分のどんなプレーを見て欲しいですか?
私としては何も変わりませんし、ひとつの試合だと思っています。シーズンの最初の試合も、今週の試合も何も変わりません。残りの1~2%を、練習でも試合でも追及できるかだと思います。最後に笛が鳴った時に、後悔は残したくありません。次は準々決勝ですけれど、その瞬間を楽しみながら、私たちとしてはこの場まで来ることができたので、その瞬間瞬間を楽しんでいきたいと思います。
――今この瞬間も楽しいですか?
はい、もちろん(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌/通訳:木俣俊祐)
[写真:長尾亜紀]