2026年5月15日
#1014 中村 亮土 『自分に課した責任を自分で果たし続ける』
いよいよファイナルラグビーが始まり、同時に自らの引退に向けてカウントダウンが始まった中村亮土選手。いま、どんな思いでグラウンドに立っているのでしょうか?(取材日:2026年5月中旬)

◆本当に幸せ者
――ブラックラムズ戦後の引退セレモニー、あのような形はおそらくサンゴリアス初だと思いますが、いかがでしたか?
本当にありがたいことで、感謝しかありません。ホストゲーム最終戦であのような場を設けていただき、本当に幸せ者だと思います。
――セレモニーではまず流選手が挨拶して中村選手の番になりましたが、自分に回ってくる時の心境は?
何を言おうかと考えながら待っていたんですけれど、結局、出てくる言葉は感謝しかありませんでした。だからシンプルに両親と家族に感謝を伝えようと思っていました。
――流選手が比較的明るい雰囲気で終わったのに対して、中村選手はグッとくる場面があり、観ている人たちもグッと来たと思います。涙ぐむことは予想していませんでしたか?
全く予想していませんでした。だから止まってしまいましたね。
――いちばん最初に、16歳でサッカーからラグビーに転向を薦めた父親への感謝がありましたが、改めて、なぜサッカーからラグビーに転向することになったんですか?
もともと父親は学生時代にラグビーをやりたかったそうですが、ラグビー部がなくてハンドボール部に入ったそうです。当時、大学選手権の早明戦を会場に見に行くくらいラグビーが好きで、息子が生まれたらラグビーをやらせようと思っていたみたいです。僕が生まれた瞬間にラグビーをやらせようと思ったそうですが、当時は部活みたいに毎日ラグビーをやる場がなかったので、まずはサッカーをやらせて、高校からラグビーをやらせようと計画していたみたいです。僕としては単純にサッカーが好きで、やっていたんですけどね(笑)。

――サッカーでのポジションは?
フォワードで点を取る役でした。
――今みたいに点を取っていたんですか?
今は取れていないですけどね(笑)。当時は点を取る方だったと思います。
――高校でもサッカーを続けようとは思いませんでしたか?
中学校くらいで、薄々高校ではラグビーをしなければいけないかなと感じていました。知り合いのラガーマンとご飯を一緒に食べたりして、薄々感じてはいたんですけれど、いざ父親に「ラグビーをやらないか」と言われて、もうその時には周りを固められていたので、「やるしかない」と思ってラグビーを始めました(笑)。
――やってみてどうでしたか?
もともとサッカーをやっていた時も、相手に当たることが好きで、合法的に相手に当たれると思ったら、楽しいと思いましたね。
――それが今でも続いていますか?
そうですね。

◆丈夫な身体
――セレモニーでは二番目に、当たることができる丈夫な身体に産んでくれた母親への感謝がありましたね
本当にあまり怪我をしないタイプで、怪我でも不運な事故とかだったので、そこは母親が丈夫な身体で産んでくれたおかげだと思っています。
――中村選手の後には予期せぬ同期からの発表がありましたね
本当にすごいなって思いましたね(笑)。さすがですよ(笑)。シナリオというかエンターテイナーというか、あの尺の長さを歌い続けるメンタルというか(笑)。
――お互いにリスペクトしている同期が、タイミングを同じにして引退するということについてはどうですか?
彼も苦しい思い、怪我に悩まされたり、メンバー選考に悩まされたり、社会人になってから特に苦い思い出がたくさんあったと思うので、それを近くで見ながら、それでもめげずに自分なりのやり方で今の地位を勝ち取ったことは、本当に素晴らしいと思います。でも寂しいですね。僕の引退とは別に、同じ世代を歩んできた仲間が引退するのは、やっぱり寂しいです。
彼は自分が試合に出たら良い結果を出せるというプライドもあったからこそ、もがいていましたし、みんながそうでなくてはいけないなという部分もあります。それをいちばん感じているひとりだと思います。

◆しっかり当たれるかどうか
――第17節ヴェルブリッツ戦から復帰しましたが、そこからの自分のプレーはどうですか?
良いですよ。しっかりとコンタクトできています。
――それはディフェンスに関してですか?
どっちもです。ブレイクダウンもそうですし、タックルもそうですし、ボールキャリーもそうです。スキルや状況判断はある程度すべてこなせるので、そのコンタクトの部分でしっかり当たれるかどうかが、僕の中では結構大事なことなんですよ。そこが上手くいかないと全部が崩れてしまうみたいなところがあるんですけれど、今はそこがすごく良いので、全体的にパフォーマンスも上がっています。
――最後のシーズンでもより良くすることを目指していて、どこがより良くなってコンタクトが良くなっているんですか?
シーズンを通してですけれど、コンディションが整っていることですかね。
――今シーズンはコンディショニングが良かったということですか?
良かったですね。S&Cスタッフとメディカルスタッフのおかげで、良い状態をキープできていると思います。

◆上が抜ければ下が成長してくる
――リーグ戦4位でプレーオフトーナメントに進むことになった最終節ブラックラムズ戦は、チームとしてどうでしたか?
良かったと思います。ディフェンスのところもアグレッシブに行けていたのと、どっちに転ぶか分からない展開でも我慢できた時間帯がありました。そこはプレーオフに向けて、自信を持って良いところだと思います。
――試合中には「我慢」をチームに伝えていたんですか?
言っていました。我慢比べじゃないですけれど、拮抗状態でどちらに転ぶか分からない時間帯だから、ここは我慢しようと言っていました。なかなか試合展開が乗れそうで乗れないとか、ちょっとアンラッキーで相手に転がったりした中でも、あまりストレスを感じずにできていたので良かったと思います。
――そこについては、シーズンを通じてはどうでしたか?
今シーズンの中で言うと、一貫性はなかったと思います。
――それはなぜですか?
まだ精神状態が成熟されていなかったと思います。試合に対するマインドセットだったり、勝った後のモチベーション、負けた後のモチベーションだったり、その波が結構あったと思います。
――そこのモチベーションは勝った負けたではない要素を持っていなければいけないということですか?
そうです。その通りです。
――まだ来シーズンの話は早いかもしれませんが、ここから中村選手と流選手が抜けるわけで、精神面では今後どうすれば良いと思いますか?
正直、上が抜ければ下が成長してくるので、特に心配はしていません。良いマインドを持った若手がいますし、ポテンシャルがあるメンバーが揃っているので、僕たちが抜けるからどう、ということはないと思います。何なら、チャンスなのかもしれません。

◆やるべきことをやっている
――第3節スピアーズ戦で大きく失点して負けた後に、「自分たちはあそこまで負けるチームじゃない。絶対に勝てる。そこは信じて、自信を持ってやっていかなければいけない」と言ってました。それを言える自分自身に対する自信は、どこからですか?
やるべきことをやっているからだと思います。自分に課した責任を自分で果たし続けているから、自信が積み重なっているのかなと思います。
――責任を果たすというのは、試合で結果を出すこともそうだと思いますが、練習のひとつひとつで果たしているということですか?
そうですね。課題の克服だったり、本当に積み重ねですね。一貫性をもって、試合に対して準備をする。ベストパフォーマンスを出すために、例えばタックルのひとつのシチュエーションを繰り返しやるとか、自分を良くするための時間を大事にしているので、そういうことが自信になってくるんだと思います。
――チームとしては連敗もあり、自信を保つのが大変な期間もあったと思います
成功体験を重ねていかないと、なかなか厳しいところがあるので、それを試合だけで成功体験を感じる人もいれば、練習の中で「今日はこれが良かった」とレビューして、ひとつひとつのプレーをちゃんと意思を持ってプレーして、それに対してレビューをするということを繰り返すと、ぜんぜん変わってきます。だから普段の積み重ねの中で自分と向き合って、レビューして向上していくしかないと思います。

◆自分にフォーカスする
――中村選手には新人の頃からずっとインタビューをしてきましたが、最初の頃はそこまで自信を持っていませんでしたよね
そうですね。
――どこかで変わったという意識はありますか?
自分にフォーカスするようになってからですね。それまでは「あいつより俺の方が良いのに」とか、「あいつに負けないように」とか、「人が選んでくれない」とか、フォーカスが自分じゃなかったんです。
――そうすると、「あいつができるプレーは、自分もできなければいけない」ということになるわけですか?
そう、そうです。本当に自分が求めるプレーを追求し、それで選ばれたら良いやという感覚になってから、安定したかもしれません。
――そこに行きつくまでは相当悩んだと思いますが、どうやってそこに行きついたんですか?
もう、やるしかなかったんです。やっぱり負けたくないという気持ちが根本にあって、負けても自分が納得できれば良いと思っていました。自分が納得できるというのは、自分がベストのパフォーマンスを出して、それでも選ばれなかったり評価されなければ、それでいいやって思ったんです。そこからは自分がやるプレーに対して評価されようじゃなくて、評価されたらいいな、結果はその後、みたいな気持ちです。自分が納得できるプレーをやろうと思いましたね。

◆ゲームメイカーでもあり、フィジカルプレーヤーでもありたい
――その後「5年後、10年後の自分の姿をイメージしながらトレーニングをしている」と言っていました。その時にイメージしていた選手像には近づけましたか?
そうですね。自分なりの選手像はある程度固まっています。
――それは今までに例のない選手像ですか?
そうだと思います。
――表現は難しいかもしれませんが、どんな選手像なんですか?
うーん、難しいですね。
――違う聞き方をすると、将来「中村亮土とはこんな選手だった」と言われたいですか?
わかりやすい表現で言うと、やっぱりタックルの選手になるんじゃないですかね。見られ方としては、そこがいちばん大きいと思います。
――自分の中では、もうちょっと違うところもあると?
違うところはいっぱいありますけれど。ゲームメイカーでもあり、フィジカルプレーヤーでもありたいなと思っていました。
――中村選手にとっては、ラグビーをやっていて、その両方が面白いということですね
そうですね。自分が動かしている感じが好きで、チェスの駒を操っているような感じですかね。あと駆け引きも好きで、キャリーでめちゃくちゃ身体が強いわけでもないですし、めちゃくちゃ脚が速いわけでもないので、いろいろな駆け引きをしながら、上手く相手の隙を突きながら、そういう駆け引きをして、自分もしっかりと身体を当てられるということが、やっていてとても楽しいですね。
◆ワクワク、生き生き
――いよいよプレーオフトーナメントですね
やっとですよ。本番が始まります。本当にサンゴリアスのラグビーをしたいですね。
――第17節、第18節と、これまでとはチームもだいぶ変わってきていますよね
変わってきていると思います。試合をやっている僕らもワクワクします。やっぱりそういう気持ちにならないとダメだなって思いますね。連敗時から5連敗から変わったのは、マインドセットのところじゃないですかね。しっかりと自分たちにフォーカスして、カッキー(垣永真之介)がよく「目に見えない力」って言うんですけれど、想いだったりサンゴリアスのジャージに対するプライドだったり、それは確かにと思っていて、そういう力をここからチームとして積み上げていって、お互いのためにプレーするとか、ジャージの責任を背負ってプレーするとか、そういうことがここからは大事だと思います。
――いかにワクワクするように盛り上げていくかも、ひとつのターゲットですね
そうですね。結局はアタックのチームなので、バックスのウイングやフルバック、例えば将伍(中野)とかがいっぱい走って、いっぱいボールを回して、みたいなラグビーをしたいと思っています。将伍は元から素晴らしいですが、なんか生き生きしていますよね。だから楽しいですよね。
――残り3試合になりますが、ひとつひとつ乗り越えていくことに必要なことは、ワクワク感の他に何がありますか?
最後はマインドセットとメンタリティなので、本当に自分たちに自信を持ってやるだけだと思います。スキルとか持っているので、本当にマインドのところだと思います。
――マインドのところは、やり残したことがない状態で試合の臨むということになると思いますが、みんながその状態になる?
もうやるしかないと思います。
――ここからの戦いで、ファンの人たちには中村亮土のどこを見て欲しいですか?
いやー......ぜんぶ(笑)。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]