2026年5月 8日
#1013 呉 季依典 『このチームに勝ちたい、対面に負けない、どれだけ勝ちを重ねられるか』
16試合ぶりに出場した呉選手。長いトンネルをどう抜けたのか?そして抜けた後のラグビーで、どんな気持ちで戦っているのでしょうか?(取材日:2026年5月上旬)
◆引っ張られる存在から引っ張る存在
――久々のインタビュー、前回は2回に分けてその量が話題になりましたが、何か変わりましたか?
もうそんなに経ちますか。今年の10月でちょうど30歳になりますが、体はあまり変わらないですけどね。精神面では引っ張られる存在から引っ張る存在というか、自分だけが頑張っていてもいけないという自覚が芽生え、周りを見るようになりました。
――若い選手に目がいくという感じですか?
あまり意識はしていないですけれど、同じポジションにも良い選手がたくさんいて、ホリ(堀越康介)はひとつ上ですけれど、同期とあとは下の選手になるので、フロントローで言えば若い選手が入ってきています。ラグビーに関して僕は賢いわけではありませんが、スクラムには自信を持っているので、そこでコミュニケーションを取ることは多いですね。
――以前に話を聞いたときに指導者になりたいと言っていましたが、それも関係していますか?
それは間違いなくありますね。
――前節のヴェルブリッツ戦ではインタビューしたい多くの候補がいる中で、呉選手になりました。それはなぜだと思いますか?
何で、ですか?(笑)ホンダにいた時以来の瑞穂での試合でした。今シーズンで言うと、開幕戦で出て以来の試合だったので、今回は周りを見るというよりも、自分のプレーの質にこだわって試合に臨みました。僕がメンバーに入って負けることは嫌ですし、僕がメンバーに入ったから勝ったと思えるくらい自信を持ってできたら良いと思っていたので、それが結果につながったと思います。
――自分としても出来は良かったですか?
そんなに波がなかったというか、僕が求めている一貫性は、チームからも求められていると思いますし、そこで波を作らずに淡々とできて、良かったと思います。
◆勝利がチームをグッと締めて
――16試合振りの試合で感じたことは?
久しぶりにゲームに出て感じたのはベテランの力、亮土(中村)さんも何試合かぶりの試合でしたし、やっぱり心強いというか、周りが強いと自信を持っていけますよね。それこそ亮土さんもいて、今まで以上にメンバーの年齢層が上がったんですよ。だからこそ余計に自分にフォーカスしやすかったと思います。それをより感じましたし、やっぱりベテランってスゲーなって。それと同時に、亮土さんと流さんの2人が来シーズンはいなくなるのかって思っちゃいますね。
――呉選手自身は、今回の試合ではプレーで見せようと思っていましたか?
そこはキャラクターだと思いますが、僕は口よりもプレーで。フォワードですし、それがわかりやすいと思っています。
――チームとしても久しぶりに勝って、試合が終わった後の雰囲気はどうでしたか?
正直、ホッとはしました。プレーオフに向けてヒリついている中で、決められて良かったというか、よりチームの団結力が深まって、ここからプレーオフに行くぞという雰囲気になったと思います。イエーイという軽い感じじゃなくて、勝利がよりチームをグッと締めて、より良い形でプレーオフに行けるんじゃないかなと思います。
――次の試合の結果では、4位、5位、6位の可能性がありますね
先ほどプレーオフと言いましたけれど、あまり関係なくて、本当に目の前の一戦一戦です。プレーオフに行くからには、最後に勝って行きたいですし、僕としてはそれだけですかね。
◆好きなプレーを全力でやろう
――ヴェルブリッツ戦では自分の武器は出せましたか?
本当にぜんぶのプレーを楽しもうと思っていました。メンバー発表の時に自分の名前があって本当に嬉しかったですし、スクラムもそうですけれどボールキャリーもタックルも、好きなプレーを全力でやろうと思いました。それが出せていたと思うので良かったと思います。
――前回の出場から15試合空いていて、その間の心境はどうでしたか?
いやー長かったですね。本当に長かった。サンゴリアスに入った時には、まずは試合に出たいという思いがありましたが、やっぱりなかなか簡単じゃないなと思いました。シーズンを重ねる度に、3試合から7試合、13試合と試合数を増やすことができて、昨シーズンも13試合出場した中で、今シーズンは開幕戦からずっと試合が空いてしまいました。そういう経験がこれまでなかったので、本当に長いトンネルの中というか。
ただ、こういうシチュエーションを考えて、最後に出られたら良いなと思っていたんです。怪我をせずに最後に出ることができて、結果を残して、チームを優勝に導ければベストだと思っていました。その中でS&C (ストレングス&コンディショニング) スタッフを中心にサポートしてくれて、その準備がヴェルブリッツ戦に出たんだと思います。
――開幕戦の先発に出たことも嬉しかったですよね?
嬉しいです。昨シーズンに初めて2番をつけられてんですけれど、開幕戦での先発はありませんでした。今シーズンは開幕戦で初めて2番で出られました。多分、社会人では初めてだと思います。
――開幕戦で嬉しかったのに、その後出られずに、その間は相当もどかしかったですか?
それこそチームが連敗している時と、同じ心境だと思います。自信がなくなっていったというか。その中で影で支えてくれている人たちもそうですし、スタッフでもずっと僕について見てくれていた人がいたので、そういう存在が大きかったというか。けれど、ホンマに辛かったです(笑)。
◆試合に出たら、こういうプレーしたろ
――いま振り返って、どうやって乗り越えたと思いますか?
ずっと三上さん(S&Cコーチ)をはじめとしてS&Cと話しながら、「まだ諦めたらアカン」って言いながら、「自分はもっとこういうプレーをやりたい」という動きのトレーニングをしました。「試合に出たら、こういうプレーしたろ」ってずっと考えながらやって、その中でもちょっと気持ちが落ちる時はありましたよ。今週はチャンスがあるかなと思っていても、そこでもチャンスはもらえなくて。ただモチベーションとしては自分のやりたいプレーをずっと考えて日々過ごしていました。
――その振り返りからすると、かなり精神力が強いんじゃないかなと思いますが、どうですか?
鍛えられました。1年目の時は「やっぱり出られないかー」って拗ねることなく、「そりゃ簡単じゃないか」と思っていましたが、2~4シーズン目の時は結構試合に出ることができている中での今シーズンでした。2、3シーズン目くらいに今の状況だったら、多分拗ねて、今頃はコンディションも最悪の状態になっていたと思います。その精神力はこのチームで鍛えられました。
――そして呉選手と言えば、家族のパワーですよね
あまり言ったら親父に怒られると思いますが(笑)、たぶん兄貴(森川由起乙)から、僕がメンバーに入ったと連絡をしたと思うんです。それを聞いた親父が、風呂場で泣いていたらしいです(笑)。
――それを聞いてどうでしたか?
周りからは「親のことをどんだけ好きやねん」と言われますけれど、それはどうでもよくて、家族を大事にできない人って何を大事に出来るのかなって思うんです。僕はここまで大きく育ててもらって、兄貴と一緒に試合に出ることが親孝行というか、親に感謝を伝えることを体現する機会だと思っています。このタイミングでメンバーに入れたことは、本当に嬉しかったですね。
――奥さんについてはどうですか?
妻は僕よりも悔しがっていたと思います(笑)。僕は結構ネガティブはなんですけれど、彼女は超ポジティブで、良い意味で楽観的なんですよ。「あんたが試合に出たらぜんぶ勝てる。負けているのは出てないから」とかずっと言ってくれていました。だから、僕にとってのベストパートナーだと思っています。
――そう言ってくれると嬉しいですね
最初は僕も出られると思っていても、10試合以上出られないことが続くと「あかんわー」ってなってしまうんですが、「大丈夫、できる」って真っすぐに言ってくれるので、本当に大きい存在です。
――奥さんも同じように喜んでくれましたか?
喜んでいましたね。「ほら勝ったでしょ」って言っていました(笑)。
◆勝って無心で飲んでいる
――前回は優勝するまでお酒を辞めていると言っていましたが、それはどうですか?
あの時は最後に優勝するつもりだったので、シーズンが終わる時までのつもりでした。あれによってお酒を抜いてみると、身体のコンディションが良いことを再確認できました。だからお酒のコントロールが、できるようになりました。
――今シーズンはどうですか?
週末に誘いがあれば、くらいですかね。僕はあまり自分から進んでお酒を飲む感じではないですね。
――そこは自分としてもそういう願掛けじゃなくて、気分転換が必要だったと?
そうですね。毎年勝負ですけれど、この前は勝って無心で飲んでいるというか、「よっしゃー勝ったぜ」という。
――それは美味しいですね
いやー美味しいですね。
――お酒は何が好きですか?
やっぱりビールだったら香るエールが飲みやすいですね。あと基本的には焼酎を飲むか、最近はマッコリも多いですね。サントリーのソウルマッコリが微炭酸でめちゃくちゃ美味しいです。
◆桜のジャージを着る
――日本代表についてはどうですか?
そこを目指さなくなったら、引退と決めています。現役である以上は、やっぱりプロなので、チームから要らないと言われれば、もしかしたらディビジョンを下げなければいけないという話も出てくるかもしれませんが、現役である以上は常に目指していますし、親に小さい頃から「桜のジャージを着る」と言ってきたので、それは早く実現させたいですね。
――奥さんからしたら「そんなの出来るわよ」って言いそうですね
言ってくれています。次のワールドカップがオーストラリアで、その次がアメリカ大会になるので、「そろそろチケットを見ておかなきゃアカンな」って言っています(笑)。もちろん目指していますよ。
――プロはサンゴリアスに入る時にプロになったんですか?
そうです。当時のホンダは、日本人のプロがいなくて、プロになるんだったら会社を辞めて他のチームを探すしかないと言われました。そこは筋を通すために、ちゃんと会社に退社届を出して辞めると決まってからエージェントをつけて、他のチームを探しました。そこでチームが見つからなければ、僕のラグビー人生は終わっていたと思います。
――それでサンゴリアスではプロだったんですね
当時の監督がミルトン(ヘイグ)で、それで青木さん(アシスタントコーチ)が「由起乙(森川)の弟がいる」とミルトンに言ってくれて、それで奇跡的には入れました。
◆絶対に優勝以外は求めちゃダメ
――いまの自分の課題は何ですか?
前回の試合でもやってしまいましたが、ノットストレートのところ。ラグビーで基本的にセットプレーで始まるので、スクラムでのターンオーバーやラインアウトでのスローミスは、ワンプレーで攻守が交代してしまします。そういうプレーはもったいないので、そこのクオリティーはこだわりたいところです。課題というか、強みはセットプレーなので、そこの一貫性はもっともっと磨いていけると思っています。
――今シーズンの目標は?
優勝しかないですね。本当に今まで優勝と言っていましたが、あの2人が辞める。帝京大学のスーパーOBで、サンゴリアスのレジェンドで、今シーズンで他にも去る選手はいるかもしれませんが、この2人は本当にスペシャルですし、そのために絶対に優勝以外は求めちゃダメだと思います。僕だけじゃなくて、チームメイト全員がフルコミットして取りに来たいと思います。
――プレーオフでは戦い方が違いますか?
やっぱり戦い方は変わりますね。1点1点に重みが出てきますし、その取り方も変わってきます。結局はファイナルラグビーでは気持ちだと思います。このチームに勝ちたい、対面に負けないという、本当にシンプルな戦いで、どれだけ勝ちを重ねられるか。1試合の中で、どれだけ勝ちを重ねられるかだと思っています。
――対面に負けないことに加え、「あなたなら出来る」という自信も影響しますよね
そうですね(笑)。僕には何個も家族の武器があって、妻からの武器もあるので、本当に今、自信に満ち溢れてプレーしています。
(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]