2026年3月 6日
#1004 尾﨑 晟也 『1日1日、自分をアップデートしていく』
静岡ブルーレヴスで3トライを挙げた尾﨑晟也選手。悲願の優勝に向けて、どんなプレーを見せてくれるでしょうか?(取材日:2026年3月上旬)

◆さらに強くなって帰ってきた
――復帰2戦目、ようやくエンジンがかかってきましたね
今シーズンが始まる時も、自分としては調子が良かったですし、身体の動きもプレシーズンを通して良くなってきていました。そこでの怪我だったので、自分としても初めて怪我で離脱したので、最初はちょっと落ち込みました。そこからS&C(ストレングス&コンディショニング担当)としっかりコミュニケーションを取り、そういう中で逆にチャンスかなと思うようにしました。そこで身体をイチから整え、鍛え直したので、今はさらに強くなって、パワーアップして帰ってきた感じがします。
――当たりが強くなったとか、速くなったとか、具体的にはどう現れていますか?
身体の使い方、動かし方を中心に、怪我をしている期間、トレーニングしてきました。
――それは新しい動かし方なんですか?
新しいというよりは、量を多く取り入れました。僕は結構、硬くなるので、そこは強さを発揮できる良さでもあるんですけれど、そこでレンジが伸びると、トップスピードの速さや他のところの良さが出てくるので、強さを残しつつ動きの幅を伸ばすということを、S&Cと一緒に考えて取り組んでいました。
――それはどんなトレーニングなんですか?
若い頃から今までは、高重量など大きな負荷をかけてトレーニングをしていましたが、それをもう少し下げて、自分がコントロールできる範囲で、動きを出しながらトレーニングをするんです。いろいろな動きの中でおもりを持ってやるトレーニングに変えました。
――そういう負荷がかかって、今まで使っていないところを使っているという感覚が出てくるんですか?
そうですね。あとは、走っている時の重心の乗り方が変わり、走り終わった後に来る筋肉痛の場所が変わりました。今まで頑張って脚で走っていたのが、今はどちらかと言うとコアを中心に走って、動きを出している感じです。
――新しいところを使っているということですね
そうですね。本来はそっちの方が良いんですよ。走ることに関してはコアで走る形が良いんですが、それがやっと出来るようになってきたという感じです。

◆もっとバチバチやりあっている
――ボールが良いところに回ってきたということもあると思いますが、その成果が3つのトライに繋がったと思いますか?
チームとしても良いアタックができていると思いますし、バックスもセイムページで同じ動きができていることが、よくボールが動く要因になっていると思います。アタックする方向性や、どのタイミングで仕掛けるか、そういったところの精度がとても高くなってきていると思います。
――怪我をして途中退場した第3節のクボタ戦が、今シーズンいちばんの大敗でした。そこからしばらく外から見ることになりましたが、あの試合が分岐点だったんですか?
まだシーズンが終わっていないので何とも言えませんが、あそこからもう一度自分たちのスタンダード、自分たちのやりたいラグビーをするためには何が必要かを考えて、ブレイクダウンの質、フィジカリティーなところで逃げないなど、あの試合から良くなったところだと思います。外から見ていて、惜しいゲームを何個か落としましたが、それ以降は勝負所で自分たちで与えてしまっているペナルティーや自滅してしまったミスなどに対しては、特に厳しく練習でもいうようになっています。そうやってチーム全体として意識してできてきているので、そういうところが影響して、最近好調に勝ち続けているんじゃないかなと思います。
――昨シーズンと比べて、チームのどこがいちばん違いますか?
それが要因かは分かりませんが、練習の質はとても高いと思っています。特にノンメンバーが練習でも大きなプレッシャーをかけ続けてくれていますし、競争率がとても高くなっていると思います。それがチームを強くしていて、昨シーズンとは違う、もっとバチバチやりあっているような雰囲気を感じます。復帰するにあたって、僕がノンメンバーに入って一緒にやったり、メンバーにプレッシャーをかける週もあったりしたので、一緒に入ってやっていて、ノンメンバーからの「やってやる」という、練習中のバチバチした雰囲気を感じていました。
――みんなの負けん気に火がついている感じですか?
もちろん全員がこのチームで試合に出たいと思っていますし、やっぱりゲームに出られない時は、練習でアピールするしかチャンスはありません。そこでいかに自分が良いプレーをするか、メンバーに対してプレッシャーをかけられるかが、大事になってきます。そういう気持ちはみんなが持っていますし、ゲームに出たいという気持ちがとてもあると思います。
――その気持ちが強くなったんですか?
もちろん今までもやっていたとは思いますし、練習もバチバチやっていたんですけれど、それがよりレベル高く、本当のゲームに近いような状態でバチバチやっていて、遠慮なくやっているような感じがします。誰が出ても同じラグビーができるというのがサンゴリアスの強みなので、そこの質を落とさないということを、チーム全体として取り組んでいます。そういうやり合いをずっとやっているので、試合に出ていないメンバーがいざ試合に出ても同じプレーができるんだと思いますし、練習の質がとても高くなってきていると感じます。今までも選手は全力で練習をしていましたが、それ以上に今シーズンはそこが良いのだと思います。

◆そこを消さずにプラスして
――試合を見ていて、こういう勝ち方は久しぶりだなと感じますが、選手としてはどうですか?
点差は開いていますけれど、どのチームもレベルが上がってきているので、点差などに執着している感じはありません。それよりも自分たちのラグビーの質をどう高めていくかというところを、毎週準備していますし、点差がクロスゲームの試合も今後はあると思います。そういう状況になっても不思議ではないので、選手としてはクロスゲームの時に、自分たちが次にどう選択するか、そういうところにフォーカスしています。ですので接戦だからどうしようなど、そういう不安は一切ありません。
――では、ファンの皆さんも安心して見ていて大丈夫という感じでしょうか?
はい(笑)。選手が慌てているということは一切ありません。
――昨シーズンのインタビューでは「プレーで引っ張って見せていかなければいけない」と言っていましたが、そこについては今の自分はどうですか?
そこは試合に出る限りは変わりません。自分のパフォーマンスを出してチームを引っ張ることをずっと心がけています。それが出来ないと、チームの勝ちに貢献できていないと思います。そういう意味では先を考えるんじゃなくて、目の前のひとつひとつのプレーを必死にやること、それができていると感じています。
――弟の泰雅選手、その右側に並んで次のプレーの開始を待っているシーンがありましが、やはり兄弟は意識しますか?
そこはそんなに意識していないというか(笑)。兄弟というよりは普通にチームメイトとして接していますけれど、強いて言えば、「このプレーするんだろうな」と、喋らなくてもアイコンタクトや癖でわかる部分があって、そこは他の選手より通じやすいかなと思います。
――泰雅選手も調子が良さそうですが、お兄さんから見てどうですか?
良いと思います。波がなくなったというか、安定した良いプレーを継続して出せていると、外から見ていて思いますし、チームメイトからもそういう評価があるんじゃないかなと思います。
――お兄さんとしてアドバイスを続けていたんですか?
いや、そんなにアドバイスという感じはなかったです。特にプレーのダイナミックさが彼の持ち味なので、「そこを消さずにキチっとやるところのレベルを上げていけば、プラスして安定していくんじゃない」という話はしたことがありますけれど、そんなにアドバイスはしていません。
――弟がトライを取ったり活躍すると、やっぱり嬉しいですか?
それはもちろん、そうですね。それは泰雅じゃなくても、チームメイトがトライを取れば嬉しいですよ(笑)。

◆追いつきたいという思いで小学生から必死でやってきた
――人生の中で影響を受けた人物が、松田力也選手(トヨタヴエルブリッツ)とのことですが、その理由は?
ラグビーを始めて、いちばん最初に憧れて、追いつきたいと思った選手です。
――松田選手は1歳上ですね
ひとつ上です。小学校の時のラグビースクールが一緒で、もともとは父親同士が同じチームでラグビーをやっていたんです。それでも僕が先に南京都ラグビースクールに入って、小学1年生のタイミングで力也君(松田)が入ってきて、そこからです。中学校は別々で、高校で一緒になって大学も一緒でした。
――その当時から素晴らしい選手でしたか?
そうですね。ひとつ上の世代では、ずば抜けていました。やっぱり力也君がいたから、それに追いつきたいという思いで小学生から必死でやってきたので、いちばん影響を受けていると思います。
――高校や大学は松田選手がいるから、そこに進んだ?
そうですね。
――そういう時には喋ったりするんですか?
いや、ぜんぜん喋っていないですし、高校を選ぶ時も自分で決めました。大学を選ぶ時は、当時はぜんぜん自信がなくて、違う大学に進もうかと考えていたんですけれど、その時に力也君から電話がかかってきて、「お前はそれで良いんか?」といろいろと話をしてもらい、「一緒にやりたいです」って言って、帝京大学に進むことを決めました。
――それで自分の中では大学で花開いた感じですか?
割と中学校から全国優勝していますし、高校2年で高校ジャパンに入って、高校3年でU20日本代表に選ばれたりしていて、飛び級で入っていたんですけれど、大学でいちばん伸びたとは思います。
――大学で松田選手と一緒にプレーしてみてどうでしたか?
それこそお互いに何も言わなくてもわかるというか、そうやってプレーしてきました。でも社会人でチームを選ぶ時の理由としては、力也君と戦いたいという思いがあったので、違うチームを選びました。
――なぜ社会人では戦いたくなったんですか?
力也君は10番でしたが、自分はバックスリーをやっているので、いちばん競争率が高いサンゴリアスに入りたかったんです。当時のバックスリーは、松島、中靏、江見、塚本健太とか、ここでバックスリーとして活躍して、日本代表に入ることがいちばんの近道だと思いました。そして日本代表で一緒にやりたいという思いでサンゴリアスを選びました。
――社会人になって松田選手と対戦してみてどうですか?
やっぱり面白いですね。なんか楽しいです。

◆チャンスがあるならば絶対に掴みに行きたい
――そしてサンゴリアスに入る前に日本代表に選ばれましたね。日本代表についてはどうですか?
日本代表はもちろん目指していますし、2027年のワールドカップが自分が目指せる最後のワールドカップだと思っていますし、そこにチャンスがあるならば絶対に掴みに行きたいと思います。その気持ちが大前提としてあるんですが、日本代表に選ばれたいから、そういうプレーをしなければいけないとか、そういうことは考えていませんし、どちらかと言うと、このチームで良いパフォーマンスを出し続けることが日本代表に入る道だと思っているので、日本代表への気持ちはありますが、そこまで意識はしていません。
――そこは結果はついてくるという考え方だと思いますが、今の自分のテーマは何ですか?
選手としてのテーマは、毎日成長していくこと。1日1日、自分をアップデートしていくことは、特に30歳を超えてきて思うことですね。歳を取ると身体が衰えていったり、プレーの質が落ちたり、そう思われたりすると思いますが、僕の中では今がラグビー人生の中でいちばん良いと思っています。段々と良くなってきていて、フィジカル面もラグビーのスキルも考え方もそうですし、今がいちばん良いので、これを毎日更新していくことが、僕がラグビーをやっているテーマですね。
――そういう状況であれば、ラグビーをやっていて、今めちゃくちゃ面白いんじゃないですか?
はい、今めちゃくちゃ楽しいですよ。
――ラグビーをやっていて、いちばん面白いと感じる時はどんな時ですか?
やっぱりチームで勝つこと。それが僕の中ではいちばん喜びを感じる瞬間で、ラグビーを続けたい理由です。
――サンゴリアスに入って、まだ優勝はしていないんですよね
優勝した次の年に入って、まだ優勝していません。いや、悔しいですよ。優勝したい気持ちは、康介(堀越)も持っていると思います。僕らが入ってから優勝していないので、絶対に優勝したいという気持ちはいちばん強いと思います。僕と康介は。
――今シーズン、チャンスがありますね
もちろん、毎シーズン、優勝を目指しています。今シーズンは行けると思います。

◆チャンスメイクもできる理想形のウイング
――優勝に向けて、ファンにはどういったことを期待してもらいたいですか?
毎回ベストなパフォーマンスを出すので、ボールを持ったら何かを起こす選手と思ってもらえたら嬉しいですし、その期待に応えられるようなプレーをしていきたいと思っています。
――トライだけじゃないと思いますが、トライを取ることは役割ですよね。トライについてはどう考えていますか?
ウイングとしてはトライを取り切るということが大事なスキルですし、必要なことですけれど、トライに固執し過ぎないことも大事だと思っています。もちろん味方が良い位置にいればパスを選択しますし、僕はたくさんトライを取らせてもらっていますけれど、トライに固執しているつもりはありません。トライを取るという仕事はウイングとして大事な役割で、自分がトライを取りたいか、固執しているかと言われれば、そこまで固執していません。だからパスも出来ますし、その時にいちばん良い判断をすることを心がけています。
例えばゴール前まで行く、そこで自分が無理やり行けばトライが取れるようなシーンで、僕は確率を選びます。そこで自分が無理をして行ってターンオーバーが起きるリスクがあるんだったら、次のフェーズで絶対にトライを取れるというチームへの信頼があるので、自分がギリギリで止めてラックを作って、自分が無理して行く選択はしません。だからボールを活かす、残す選択をすると、その後にチームでトライが取れるという考えがあります。
――そういう選択をした時には結果としてトライを取れていますか?
取れていると思います。自分がそこまでゲインしたり、綺麗にラインブレイクしたら、絶対のその次で取れます。やっぱり試合中はふたつ先くらいまで想像してプレーしていますし、それができる優秀なウイングになりたいと思っています。もちろんそこで取り切れる、スペシャルな選手もいますし、それは僕とは違うタイプのウイングです。それはその人の良さだと思いますし、特に外国人選手はそこで行き切れるので素晴らしいと思います。僕はそういうタイプじゃないですけれど、でもトライを取る時には取り切ることが、自分の仕事だと思っています。
――チームのトライも多くて、自分自身も多くのトライを取れたら良いですよね
そうですね。チャンスメイクもできるというのが、自分の理想形のウイングです。

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]