SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2026年1月23日

#995 中野 幹 Vol.1『接点の1秒に集中する』

三重ホンダヒート戦でトライとスティールを決めた中野幹選手。その好調の秘密を訊きました。(取材日:2026年1月中旬)

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◆身体を改革して作り上げる

――三重ホンダヒート戦の良きタイミングでのトライ、その後のスティール、それらを生み出しているのは、パワーアップなのではないでしょうか?

オフシーズンから比べても3kgくらい増えていると思いますが、それは狙って増やしました。トレーニングの回数も、オフシーズンはほぼ毎日クラブハウスに来ていました。そこで身体を改革して作り上げると決めていたので、もしかしたらそれがプレーに出ているのかもしれませんし、積み重ねてきたという自信があるので、少しずつ結果として見えてきたのかなと。

スティールに関しても、今シーズンのチームが始まった時から「何を強みにしよう?」という中で、スクラムを強く組む、これはもちろんフロントローとしては絶対にあるべき場所、しなければいけないことだと思います。それにプラスαで、自分には何ができるんだろうと考えた時に、ブレイクダウンだなと思いました。アタックだったら良いサイクルを生み出すブレイクダウンをする、ディフェンスだったら相手からボールを奪い返したりプレッシャーをかけたり。

ここは才能じゃない場所だと思ったんです。センスとかでもなくて、ちゃんとしたタイミングがあって、誰にでもチャンスがある場所だと思ったので、ここなら僕も強みに出来ると思ったんです。取り組み出してから、プレシーズンの試合で1回スティールをして、そこからずっと出来なくて、それでもチーム練習終わりの時間にずっと個人練習はしてきました。毎週ずっとしてきて、やっとホンダ戦で出たという感じです。

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――もちろん下半身もパワフルじゃないとあのプレーは出来ないと思いますが、特に上半身がより強くなったのではと感じました

全体的にウエイトの数値は上がりました。下半身も上半身も全体的に上がりました。

――それが出ていて、トライにしても、3kg増えても前に進む力は増しているわけですね

難しいのは、トレーニングで強いからと言って、ラグビーが強いと言うことにはあまりならないところです。ラグビーとトレーニングを繋げる間のところ、僕はプレーのスピードを落とさないことが大事だと思っています。自分の身体を動かすスピード、走るスピードもそうですけれど、接点の時のしゃがむスピード、ぶつかるスピード。ここのスピードが落ちたら、どれだけ身体が強くなったとしても良いプレーは出来ないと思うので、このスピードを落とさない。それにプラスでもっと上げていける、瞬発的に上げていくトレーニングも意識しているので、そこが出たり出なかったりですけどね(笑)。

――そこは今後も更に強化していきますか?

はい、そうですね。同じポジションの選手と比べても、僕は身体が大きい方ではないので、いま言ったスピードのところですね。ラグビーって難しくて、単純なスピードだけじゃなくて、目まぐるしく試合が動くので、単純じゃないんですけれど、フィジカル的にトレーニングの数値は負けていたとしても、セットする時のスピードだったり、トレーニングしたこの身体を速く動かす、スピードを持って動かすところは、僕の身体のサイズでも勝負できると思うんです。だからそこを伸ばしていきたい、身体が大きい相手にもここで負けないようにしたいというイメージです。

――はやいということには単純にスピードが速いということと、時間的に早いということがありますが、せっかちという話ではないですよね?

せっかちの話じゃないです(笑)。

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◆緩の時間で無駄にエネルギーを使わない

――スピードを出すためには緩急、緩があって急があると思うんですが、意識していますか?

それを意識はしているんですけれど、試合中はそれが出ているかわかりません。僕の身体のことで言えば、緩急の急のところは、急が出る時間はめちゃくちゃ短いと思っています。緩の方が長いと思っているので、緩の時間で無駄にエネルギーを使わないことが大事だと思っています。緩の時間にグーッと力を入れてしまうと、もうそれだけで疲れてしまうので、短いけれど急の時間に、思いっきり全力を出すタイミングがあって、そこに100%を持ってこれるように意識しているつもりです。

――それは意識だけじゃなくて、プレーしながら試合の状況を冷静に見ていないと出来ないですよね

出すタイミングは、もう、ここというタイミングが完全にあるんですよ。

――ホンダ戦でのスティールやトライは、まさにここというタイミングでしたね。そのタイミングが匂うんですか?

匂うというか、僕の仕事はめちゃくちゃシンプルにしていて、簡単に言えば、強いボールキャリーをする、強いタックルをする、強いスクラムを組む、あとディフェンスとアタックのブレイクダウン、その球際、この4つなんです。これしかなくて、強いボールキャリー、強いタックルって、ある意味、一緒なんですよ。接点なので。その接点の1秒、そこに集中するだけなんです。

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――ですけれど、そこに行かなければいけないですよね

そこまでのポジショニングは、正直、それほど考えてないかもしれません。もう流れなんですよ。ラグビーはずっと動いているので、自分がタックルする、ボールキャリーするというポジショニングに来た時、その瞬間になった時にフルパワーを出すんです。

――そのフルパワーを出す瞬間の場所にいる、というのが大切なのではないでしょうか

最近、思うことは、出来ているつもりはないんですが、やっぱりラグビーを知っている奴がそこにいるんですよ。ラグビーってこうだよな、こういう時はここが空いているよなってわかっている奴は、やっぱりトライをめちゃくちゃすると思います。経験なんですかね。僕の場合は、あのトライをした場面も、なぜそこにいたのかと言われると、別に理由はないんですよ。僕の仕事がそこだから。そういう動きで、たまたま僕があの場所にいたんです。

でも、僕がそこから出来ることとしての、コンタクトに勝つことは、たまたまじゃないんです。そこには技術があります。相手は止まっている状態で、僕はアタック側なので走りながらボールをもらえるんですよ。僕の方が前に出やすい、しかもちょっと斜めから入っています。相手から見えにくいところから、入っているんです。1人に勝てばトライできるポジションだったので、そういうところは説明が出来ます。

――あの場面で瞬間的に考えているわけですよね

そこでじっくり考えていたら、もう遅いので、だから勝負事はあまり考えすぎない方が良いと思います。

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◆練習中に意識するポイントはふたつ

――自分の身体をどう作っていくかなど、かなり計画性があると思いますが、考えるところと考えないところ、考えずに自然に任せるというか本能に任せるというか、そこの切り替えは、グラウンドに出たら無意識で出来るんですか?

練習中に意識するポイントは、ふたつにしていて、絶対にやらなければいけないことは、激しくコンタクトすること、ブレイクダウンでアージェンシー(緊急性)を持つこと、このふたつだけなんです。

――ブレイクダウンで緊急性を持つとは、どういうことですか?

アタックだったら、相手よりも先に到達する。味方のサポートに相手よりも先に到達する。ディフェンスだったら、一緒なんですけれど、ターンオーバー出来るタイミングは、やっぱり相手よりも早く入っている時なので、緊急性を持つこと。スティールについては僕が勝手に思っていることなんですが、このふたつだけを意識してグラウンドに入ります。

――試合前の練習ですか?通常の練習でもですか?

ここ3週間くらいは、毎回の練習の前にそれだけを意識しています。細かく形とかフォームとか、こうやって攻めますみたいなことは用意してもらっているので、その枠内でやるんですけれど、その接点で起きることは、そのふたつです。そのくらいシンプルにすると、僕は考えすぎなくてやりやすいです。それだけを意識してやって、それが出来ているか出来ていないか。正直、僕のポジション、プロップは、それが出来ていれば間違いないと思います。

――自分のトライやスティールだけじゃなく、味方のサポートにも早く入っていましたね

それをずっと意識しています。その中でも自分が予測できていないことが試合中には起きるので、そうなった時に遅れるんですよ。タックルも一歩遅れるんですよ。ブレイクダウンも一歩遅れるんですよ。そんなに内側に行く!?とか、こういう倒され方をする!?とか、自分が予測できていないことが起きると、自分の力を出せない時があるので、そういう予測が必要なんです。

――いま挙げたようなことを試合で経験したら、予測のひとつに入りませんか?

そうです、だから経験なんです。

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(つづく)

(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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