SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年10月29日

#769 呉 季依典 『夢がふたつ、ひとつは日本代表、もうひとつがコーチ』

サンゴリアス2組目の兄弟選手、しかも兄弟で第一列に並ぶことができる呉季依典選手が東京サンゴリアスにやってきました。東京サンゴリアスで何を目指すのか?その意気込みについて聞きました。(取材日:2021年9月下旬)

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◆三人に勝てば日本代表が近づく

――ポジションはフッカーで、兄弟で1列目が組めますね

そういうことです。僕が知っている範囲では、兄弟で1列目が組める人はいないですね。四男に呉味和昌がいて、昨シーズンで現役を引退してしまったので、夢であった日本代表で兄弟3人が1番、2番、3番を組むということは叶わなくなってしまいました。

――それはきっとご両親や兄弟の夢でしたよね

それが実現できれば、いちばんの親孝行になったかなとは思いますね。過去に同じチームではなく対戦チームとしてですが、サントリー対ホンダの試合で、三男の由起乙(森川)対四男と五男という戦いが2回くらい出来たので、その時は楽しかったですし、親も喜んでくれましたね。

――その場合は、ご両親はどちらのチームを応援するんですか?

チームというよりは、僕たちのことを応援してくれていました。座る位置もどちらのチームに偏ることはなく、いつも中央あたりに座って応援してくれていました。親なりに気を遣ってくれていて、試合を見に行く服装とかも気にしていましたね(笑)。

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――サンゴリアスには日本代表フッカーがたくさんいますが、この厳しい環境に身を置こうと思ったのは何故ですか?

ふたつ夢があって、そのひとつが日本代表です。サンゴリアスのフッカーは、僕以外の三人は日本代表経験者で、堀越さんや中村駿太さんは今も日本代表に招集されていますし、そういうレベルで出来るチャンスをいただけたので、そこでしっかりと挑戦したいと思いました。近道はないと思いますが、その三人に勝てば日本代表が近づくんじゃないかと思い、サンゴリアスに来ることを選びました。

――日本代表をイメージするようになったきっかけは何ですか?

やはり兄の存在ですね。今年、兄が日本代表に招集されたことです。日本代表に入りたいという思いはこれまでもありましたが、同じポジションに堀江翔太さん(パナソニック)という活躍している選手がいたりして、遠い存在というか、現実味がありませんでした。自分の実力を考えると厳しいかなと考えていた時に、身近でずっと背中を追い続けてきた三男が日本代表に選ばれたと聞いて、現役である以上は日本代表を目指さなければやる意味がないと思い、そこでまた火が付きました。
これまでも挑戦はしてきていて、高校も京都成章高校で、三男も四男も同じ高校で、大学も結果的には兄たちと同じ大学に進みました。高校には兄の背中を追いかけて入って、兄と比べられるということはありましたが、しっかりと挑戦しようと思って取り組んでいました。大学を選ぶ時には、日本一の大学に行きたいと思い、その時の大学日本一が帝京大学だったので、自分の実力がどこまで通用するのか知りたい、そこでしっかりと結果を出したい、挑戦したいという想いで帝京大学に進むことを決めました。今までのラグビー人生でずっと挑戦してきましたし、サンゴリアスに入ることも挑戦で、それがひとつの要因になっています。

――挑戦が大きなテーマだと感じますが、それはどこから生まれているんですか?

僕らは兄弟、男5人で、他の家庭よりも野性的というか、ずっと戦っていました。僕は五男ということで甘やかされがちだったとは思いますが、兄弟が多い分、たくさん兄弟げんかをしましたし、毎日が戦いでしたね。兄弟みんなが自分のこだわりを持っていますし、負けず嫌いという性格です。そういう小さい時の環境が、今の自分を作っていると思います。

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◆いちばんはディフェンス

――ホンダヒートで社会人デビューをして、感触はどうでしたか?

周りのみんなのレベルが高くて、今までにない刺激がありましたし、自分自身の強みや、これからも伸ばしていきたいところ、ここで勝負したいというところも、少しずつですが手応えも感じています。

――自分自身の強みとは?

いちばんはディフェンスです。そこはブラさずに、これからも強みにしていきたいと思っています。

――ディフェンスが強みになったきっかけは?

高校だと思います。京都成章高校はディフェンスが有名で、練習するグラウンドがフルサイズでは取れず、狭いスペースしかない中で出来るトレーニングとなると、ブレイクダウンやディフェンスがメインになります。今の京都成章はボールを動かしてバックスのチームという印象になりましたが、僕らや兄の世代ではディフェンスで、狭いスペースでバチバチにやるというチームでした。

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――これからのターゲットは?

今はディフェンスでもアタックでもフィジカル面で劣っていると思うので、全てにおいてレベルアップする必要があると思います。その中でも、自分の強みはどんどん伸ばしていきたいと思っています。ディフェンスのところと、フッカーというポジション柄、セットプレーが重要になるので、そのふたつにフォーカスして取り組んでいます。

――セットプレーの手応えはどうですか?

青木コーチから今までにない知識や正しいスキルを、しっかりと手本を見せてくれて、自分の悪いところを的確に指摘してくれます。今まではフッカーのコーチがいなかったので、サンゴリアスに来てまだ3ヶ月くらいですが、成長を感じています。

――その部分は楽しいんじゃないですか?

そうですね。ゼロのレベルからステップアップしていっているので、とても楽しいですね。自分自身も実感しているので、余計に楽しいです。

――フッカーはセットプレーをリードしていく役割もあると思いますが、その辺はどうですか?

大学3年の時にフッカーに転向したので、「1番はこうして欲しい、3番にはこうして欲しい」などという知識がまだ少ないです。まずは1番や3番の選手、青木コーチと話をして、知識を入れている段階です。深くまで理解できていないので、まだ自分から発信出来ていません。そこは課題ですね。

――社会人としては3年目になりますね

1年1年ではなく、1日1日が勝負だと思っています。サンゴリアスに入る前からレベルが高いことは分かっていましたし、入ってからも自分の課題がたくさん出てきています。それがクリアになってきているので、1日1日を大事に挑戦しています。

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――現時点での課題は?

ひとつは、まだ一貫性を持ったセットプレーが出来ていなくて、良い時と悪い時の波があるので、まずは一貫性を持ったセットプレーが出来るようになることです。あとはチームのカラーや形を覚えることですね。

――セットプレーで波がある原因は何ですか?

正直、まだ確立したルーティーンが出来ていないことだと思います。

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◆組み方の引き出し

――コーチングにも興味があるということですが、それは何故ですか?

5歳の時からラグビーをしていて、これまでラグビーしかしてきませんでした。これから20年も30年もラグビーが出来るかと言えばそんなことはなくて、いつかは現役を引退しなければいけない時が来ると思います。現役を引退したらラグビーとは全く関係のない仕事をするという方法もあると思いますが、僕としてはずっとラグビーを続けてきて、ラグビーの知識がたくさんある中で、それを活かさないのはもったいないと思っています。自分自身の魅力や最大限に人に影響を及ぼすことができることは何かと考えた時に、コーチということを第一に考えました。

――コーチに興味を持つことによって、自分自身のプレーにも影響はありますか?

自分のポジションだけじゃなく、例えばフッカーで言えば、1番はこうした方が、3番はこうした方がやりやすいなど、いろいろな角度から考えられますし、組み方の引き出しを多く作れるのかなと思っています。
サンゴリアスには青木コーチがいて、本当に良い指導者だと思います。僕が求める指導者像というか、こういうコーチになりたいと思っている人なので、一緒に出来るうちに多くのことを吸収していきたいと思っています。

――青木コーチの良いところはどこですか?

まずは選手と同じ目線に立って、しっかりとしたお手本を見せられることだと思います。その映像をすぐに見られるようにしてくれたり、自分たちの目線に合わせてトコトン突き詰めてくれる、付き合ってくれます。僕もコーチになったら、ラグビー選手としてだけじゃなく人としての価値を高めて上げて、そういう選手たちと共に汗を流したいと思っているので、青木コーチはそういうコーチだと思います。

――最初に夢がふたつあると言っていましたが、もうひとつの夢がコーチですか?

そうですね。ひとつは日本代表で、もうひとつがコーチです。

――今の時点で、コーチに最も必要なことは何だと思いますか?

僕が付いて行きたいというか、僕が勝手に求めている理想像ではあるんですが、選手と共に、同じ目線で向き合える、共に汗を流して成長させられるコーチになりたいです。「これをやれ、あれをやれ」と言うだけじゃなく、選手によって考えや課題があると思うので、しっかりと選手と向き合ってやっていきたいです。

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◆日本一をホンマに目指しているチーム

――ホンダからサンゴリアスに移籍してきたわけですが、チームが変わることについては?

僕としては、「このチームではアカンかったからこっちのチームに」ということは考えたくなくて、サンゴリアスに移籍してきたのは勝負をしに来ましたし、昨シーズンは決勝で敗れましたが、僕の中ではサンゴリアスが絶対に日本一のチームだと思っています。実際にこのチームで練習をしてみて、そういうレベル、そういう強度でやっていますし、話すレベルもそうですし、ひとりひとりの意識のところで、「日本一をホンマに目指しているチーム」ってすごく感じています。しっかりとこのチームで勝負をして、ずっとこのチームにいられるように勝負し続けたいと思っています。

――今シーズンの目標は?

チームとしては、リーグワンの初代チャンピオンになるということが、絶対に達成したいひとつの目標です。個人的には、ただメンバーに入るのではなく、しっかりとみんなから信頼されるように、しんどいことから逃げずに厳しいプレーをやり続ける、タフにずっとゲームに出られるように戦いたいです。三男の兄貴がいるので、やっぱり1番と2番を背負って試合に出ることを狙っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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