SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2021年4月16日

#742 江見 翔太 『ラストチャンスで獲り切れるか』

第7節NTTコミュニケーションズシャイニングアークス戦でハットトリック達成。どんどん調子を上げてプレーオフを迎える江見翔太選手に、好調の理由とここからの目標を聞きました。(取材日:2021年4月中旬)

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◆ミラクルな感じで手に収まりました

――第7節NTTコミュニケーションズ戦ではキックオフのボールをキャッチしてそのままトライをしたスーパープレーがありましたね

僕が先頭を切ってラインを上げなければいけなかったですし、ボールの軌道を見て、競れるならば競りたいというイメージは持っていました。なんか、ミラクルな感じで手に収まりましたね(笑)。あのパターンはレシーブする側からすると難しくて、元々キャッチをしようとしたポッドがキャッチできなかった場合、後ろでカバーしているウイングは、ジャンプして競れないんですよ。僕が逆の立場でも難しいと思います。

上手いこと間に入れたなと思います。キャッチした後、前にディフェンスがいなかったですし、「これはプレーオンで良いのかな?何か悪いプレーしたっけ?」と一瞬思ったんですけど、とりあえずトライまで走っておこうと思って続けました(笑)。

――サンゴリアスの初代キャプテンの稲垣純一さんが、長年ラグビーを見てきけれどこういうトライは初めて見たと言っていました

僕も海外のラグビーを見ていても、結構少ないと思いますし、2~3回しか見たことがないですね。セブンズ(7人制ラグビー)などで、たまたまキャッチしてそのままトライということはあると思いますけれど。

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――キャッチをする際に怖さはありませんか?

相手に競って来られたら空中でコンタクトする準備はしていたので、怖さはそれほどありません。練習の時から流や直人(齋藤)が蹴ったボールを、しっかりとチェイスして取る練習をして飛ぶイメージは出来ていたので、恐怖心は無かったですね。

でもキックオフからの、あのようなサインプレーはありません。ヒカル(田村煕)が良い感じに滞空時間が長いボールを蹴ってくれたので、僕も判断をする時間があって、結果的にすっぽり手元に入っちゃったという感じです。

――狙って出来るプレーですか?

これまでずっとウイングで試合に出ていますけど、なかなかあれだけ滞空時間が長いボールってなかったですね。相手がキャッチしたところにタックルに入るイメージを持って、いつもチェイスをしていたんですが、一方で自分がキャッチしてトライというイメージもしていました。

またあのようなプレーが出来る可能性はあると思いますが、なかなか狙って出来るプレーでもないかなと思います。キッカーの精度の高いキックと、ディフェンスの間を縫って行ければ、また出来る可能性はあるかなと思います。

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――前半で3トライをあげて、自分自身、出来は良かったですか?

あのような展開になり、蓋を開けてみたらリーグ戦での最多得点になりました。個人的には、アタックでは後半にもう少しトライを獲りたかったという想いはありますが、及第点をもらえるくらいかなと思います。ただ、ディフェンスでは、僕のサイドでインターセプトされてトライを獲られたり、裏にキックを蹴られて相手のところに入ったりしたので、個人としてもチームとしても課題が残ったかなと思います。

――裏に蹴られたボールの対応は、予測していてもボールの転がり方によって難しい部分はありますよね

頭に入れておかなければ難しいシーンではあるんですが、相手にアドバンテージが出ていて、僕とサム(ケレビ)がディフェンスをしていて、蹴る余裕が持てる間合いを持たせてしまいました。蹴らせないくらいプレッシャーを掛けるために、どちらか1人が前に出ていればあのような失点は無かったかなと思います。

あそこはコミュニケーションの部分と、自分の判断ミスがあったと思います。これからプレーオフに入ってくると、得点を取るチャンスが少なくなってくると思うので、ひとつひとつの失点が自分たちの首を絞めることになると思います。そこは気を引き締め直さないといけないと思います。

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◆自分のプレーを思いっきりやる

――今シーズンはここにきて調子が上がってきた感じですか?

シーズンの最初の頃はあまり調子が良くなくて、2節のホンダヒート戦には出場しましたが、そこでのパフォーマンスがあまり良くありませんでした。そこから第6節クボタスピアーズ戦まで出場が無くて、個人的には歯がゆいシーズンのスタートでした。

3月末に非公開で日野レッドドルフィンズとの練習試合がありました。そこでしっかりとアピールしなければいけないと思って試合に臨み、その試合ではボールタッチも多くて、トライも2つ獲ることが出来ました。チームとしても勝ちましたし、自分自身のプレーとしても良かったですね。

トップリーグでのチームの調子も良かったので、なかなかチャンスはもらえないかなと思っていましたが、クボタ戦に出場することが出来ました。クボタ戦では、自分のプレーを思いっきりやるしかないと思って臨みました。久しぶりの秩父宮ラグビー場での試合で、しかもクボタスピアーズとの全勝対決ということで、緊張しちゃうようなシチュエーションだったんですけど、あまり気負わずに楽しんでプレーが出来たと思います。

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――シーズン序盤に調子が上がらなかった原因は?

2シーズン前くらいから怪我があって、長期離脱などもしたんですけど、昨年末にも怪我して3週間くらいリハビリをしていました。復帰した後、何となく思い切ったプレーが出来ない、思い切り走れないというような状態が続いて、自分のプレーが萎縮してしまっていたと思います。

――思い切りできる様になってきたんですね

そうですね。今は気になるところがなくて、身体の調子も上がってきています。第3節宗像サニックスブルース戦、第4節東芝ブレイブルーパス戦あたりから徐々に調子が上がってきました。試合のメンバーには入れませんでしたが、試合前にノンメンバーが相手チームの動きをしてメンバーにプレッシャーを与えるような練習をしています。ノンメンバーとして最初の決められたプレーは相手チームの動きでプレーしますが、それ以降のプレーは自分のプレーが出せるので、メンバー相手にプレッシャーを掛けるという想いで練習していました。

メンバーの選手たちは試合よりもキツい状況で、その練習に臨んでいましたし、自分も日野との練習試合に自分のピークを持ってこられるようにプレーしていました。その日野戦を経て、クボタ戦でチャンスをもらい、NTTコミュニケーションズ戦にも出場することが出来ました。

――ようやく全開という感じでしょうか

そうですね。変に気にしないでプレーが出来るようになりましたね。怪我を色々と乗り越えてきて、ここまでやったら危ないとか、こういう状態の時にはどうすればいいということが分かってきたので、身体のケアをしっかりしながら、試合で自分のパフォーマンスを出せるようにしています。

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◆ラストチャンス

――現時点での課題はありますか?

クボタ戦、NTTコミュニケーションズ戦を振り返ってみると、失点しているのが僕のサイドだったりします。個人だけの責任ではないとは思いますが、結果的に僕のサイドが抜かれて失点しているということは、やはり僕の責任だと思います。内側の選手としっかりとコミュニケーションを取るなど、僕のサイドで失点しないために事前にどういうことが出来るのか。もっと予測しながらコールして、実際に危険だと思った時にはバツっとシャットアウト出来るようなウイングになりたいと思います。

――NTTコミュニケーションズ戦ではジャッカルもありました

ブレイクダウンについては、普段の練習から結構やっています。ジャッカルのチャンスがあれば、バックローだけじゃなく、どのポジションの選手でもボールが見えたら、そこにしっかりとファイトしていく練習をしていました。これまでやってきたことが出せたかなと思います。

――今後もチャンスがあれば見せてくれますか?

もちろんチャンスがあれば狙いますし、ラックを越えなければいけない時には越えますし、ブレイクダウン周りでは内側の選手だけじゃなく外側の選手もしっかりと相手にプレッシャーを掛けられるように、責任持ってやりたいと思います。

――リーグ戦を全勝で終えプレーオフに進んでいきますが、チームの調子はどうですか?

80分間を通してアグレッシブにアタックし続けるマインド、最後まで諦めない気持ちという部分で、グラウンドに立っている15人がその気持ちを持ち続けられるかどうかのチーム力を試されていると思います。トヨタ自動車戦にしろ、クボタ戦にしろ、最後にしっかりと勝ち切れていることは、今後のプレーオフでは活きてくるのかなと思います。

――そういう部分は、チームで練習しているんですか?

それはありますね。週に1回はゴール前でのフルコンタクトの練習があって、そこではノンメンバーもメンバーのブレイクダウンにしっかりとファイトしてボールを奪い返したり、メンバーもなかなかトライが獲れなかったり、逆にノンメンバー側にトライを獲られたりしていました。"ラストチャンス"という名前のトレーニングなんですが、ラストチャンスで守り切れるか、獲り切れるかというトレーニングが、大一番でのラストワンプレーに繋がったりしているのかなと思います。

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◆再挑戦するチャンス

――前回のインタビューの時よりもお子さんが大きくなっていると思いますが、もうラグビーを認識できていますか?

全然していないですね(笑)。僕が出場する試合や秩父宮ラグビー場での試合には見に来たりしていますが、ラグビーを見ずに遊んでいるので、まだ理解できていないと思いますが、いずれ理解してくれる時に僕が出場できていたら良いなと思います。

――まだまだ頑張らないといけないですね

頑張れるだけのモチベーションがそこにはありますね。

――4月12日に発表がありましたが、日本代表候補に入りましたね

そのことを直前に聞いて、何のことか分かりませんでしたし、12日に発表があることも知りませんでした(笑)。選ばれたことは素直に嬉しいんですが、自分自身のパフォーマンスとしてはクボタ戦、NTTコミュニケーションズ戦くらいしか出せていなくて、本当に滑り込みで入ったという感じだと思うので、今後のプレーオフトーナメントでの活躍で変わってくると思います。日本代表に残ることが目標というよりは、まずはサントリーでしっかりとプレーオフトーナメントで優勝して、最終的に代表候補から日本代表に選ばれれば尚良いかなと思います。

――日本代表ではまだキャップがなかったんですね

サンウルブズに参加していた時も日本代表候補には呼んでもらいましたが、途中で離脱することになって、キャップを取れなかった悔しさがあったので、個人的には再挑戦するチャンスをいただけたのかなと思っています。もし日本代表に選ばれたら、ファーストキャップを狙いに行きたいと思います。

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◆なぜ11番にこだわったか

――プレーオフトーナメントに向けて、ファンの皆さんに期待して欲しいところがあれば教えてください

サントリーのバックスには名立たる選手がいる中で、学習院大学という無名なキャリアから来ている人間が日本代表候補に入ることが出来て、大学のOBや同級生などからも反響がありました。ラグビーの認知度が上がってきているんだなと思いますし、そういう中でサントリーというチームで頑張ることが出来ていることに誇りを持っています。

また今シーズンが最後のトップリーグなので、1試合でも多く出場したいですね。チーム内の競争が激しくて、確実に出場できるとも限らないので、まずはチーム内での信頼、競争を勝ち取りたいですね。僕は11番でも14番でもどちらでも出来るとスタッフは思ってくれていると思うので、しっかりとパフォーマンスを発揮できるように、ひとつでも多くのトライを獲って、優勝に貢献できればと思っています。

――11番と14番の両方を目指す?

僕個人としては、大学生までは特にこだわりがなかったんですけど、サントリーに入ってなぜ11番にこだわったかというと、小野澤さんがずっとサントリーの11番だったんです。小野澤さんがチームを離れることになって11番が空いて、「11番は小野澤がいなくなった後は江見だ」と思われたくてこだわっていました。

今のラグビーでは、ウイングも求められる幅が増えて、11番でも14番でもプレー出来る選手になろうと思いました。一度、サンウルブズで14番をやらせてもらいましたが、パフォーマンスは悪くなかったので、サントリーでも14番が出来ればと思いました。

その当時は14番に素晴らしい選手が多かったので11番をやって、今は11番にテビタ・リーという超特急がいるので、14番に押し出されたという感じかもしれないですけどね(笑)。今は11番、14番にこだわりがなくて、チームから求められるポジションで、しっかりとパフォーマンスを発揮するのが一流の選手だと思うので、11番でも14番でもしっかりとパフォーマンスを発揮したいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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