SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2020年10月 9日

#716 梶村 祐介 『大事にしたいのは直感、その瞬間思ったことにチャレンジしていく』

新人の頃からラグビー選手らしいラグビー選手であり、バックスらしいバックスと感じさせられる梶村祐介選手。その長所を変えずに、さらに新たな課題にチャレンジしている、その思いの丈を聞きました。(取材日:2020年9月中旬)

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◆"感覚"でプレーしてきた

――ちょうど昨日(9月13日) 誕生日でしたね。お誕生日おめでとうございます

ありがとうございます。25歳になりました。時間が経つのが早いですね。特に大学を卒業してからは、あっという間でした。いま3年目で、今シーズンの途中には4年目になります。

――毎回、誕生日は嬉しいですか?

どうですかね(笑)。20代になってからは、あまり嬉しくないですかね。年齢的にラグビーが出来なくなることが現実味を帯びてくるというか、だから歳を取るのは嬉しくはないですね。

――もうそのことを考えているんですね

あまり深く考えているわけではないですが、意識はしてしまうので、難しい気持ちですね。

――サンゴリアスで2シーズンプレーしてみて、サンゴリアスに入る時に考えていたことと、実際の成長具合を比較するとどうですか?

もちろん成長は出来ていると思いますが、僕は元々考えてプレーしてきたわけではなく、"感覚"でプレーしてきていたので、そこの感覚のズレを無くさなければなりません。サンゴリアスは感覚で戦えるチームではないので、考えを持ってプレーしなければいけません。そこをアジャストさせることが難しかったですね。

――感覚から考えてプレーするというのは、具体的に言うと?

僕の場合は、出来たスペースに無意識に走り込んでいることが多く、意図してスペースを作り出すことが得意ではありませんでした。バックスコーチの剛さん(有賀)から指導してもらうようになってから、そこを考えることがすごく増えました。

――どこが違いましたか?

自分のプレーを後で考えた時に、言葉で説明できなかったんですが、最近は「なぜこうなったのか?」と考えるようになっています。それでも分からない部分は多いんですが、「だから、こうなったんだ」ということが分かれば、次に同じ状況になった時のヒントになると思うので、しっかりと過程を考えることが大事だと思いました。ただ、感覚でプレーする部分は絶対に必要だと思うので、そこを捨てたくはありません。それまでの過程をしっかりと理解するという部分は、少しずつ成長しているんじゃないかなと思います。

――では、現在の立ち位置としては予定通りという感じでしょうか?

遅れているつもりは正直ないですね。めちゃくちゃ加速しているかと言うと自信はないですが、ここ3年の成長速度は悪くはないと思います。

――更に加速させたいという思いはありますか?

そのチャンスがあるのがトップリーグ2020だと思っていたんですが、試合が出来なくなってしまったので、そのチャンスが無くなってしまったという思いでしたね。

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◆すぐに切り替えられた

――トップリーグ2020の中止が決まってからはどういう気持ちの移り変わりがありましたか?

普通にいけば5月中旬までシーズンが続く予定で、そこまでのトレーニングメニューを作ってもらっていたので、シーズン中と変わらないように動くようにはしていました。クラブハウスが使えなかったり、色々な制限はありましたが、出来る範囲でしっかりやろうと取り組んで、僕の中ではシーズンオフを過ごしたという感覚はなかったですね。

――喪失感のような感覚はなかったんですね

それはなかったですね。2019年にワールドカップがあったということもありましたし、多くのライバルがいる中で、12番、13番としてもっと成長したいという想いが強くなっていっていたので、トップリーグが中止になって短期的な目標は無くなりましたが、長期で見た時に休んでいる場合ではなく、割とすぐに切り替えられましたね。

――その期間は、どういうことをテーマに取り組んでいたんですか?

7月くらいまではクラブハウスも使えず、出来ることは限られていたんですが、まず優先してやったことはコンディションを落とさないことです。食事面や、出来る範囲の中で運動量を増やすことに取り組みました。制限がある中で出来たことは、そのくらいだったと思います。クラブハウスが使えるようになってからは、ラグビー的な分野も強化出来るようになってきました。昨シーズンからディフェンスの強化をしなければいけないと思ってきましたし、もっとラグビーを理解しなければいけないという部分は引き続きの課題なので、その部分は今シーズンは特に意識しています。

――ラグビーを理解するということは永遠の課題でもありますよね

そうですね。ゴールがないので、何とも言えないんですが、先ほど言った過程のところを考えることが自分を理解することになるので、それがラグビーを理解することにも繋がると思っています。

――過程を知ることで自分の中のベースが上がることに繋がっているんですね

迷った時に立ち戻れることになると思うので、感覚も大事ではありますが、12番や13番でプレーする上では過程をしっかりと理解しないと、結末で上手くいかないことが増えていきます。そこが重要だと思っています。

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◆自分へのプレッシャーは増えた

――トップリーグ2020を振り返ると、どんなシーズンでしたか?

自分の中で特別に悪い試合は無かったと思っています。パフォーマンスの波を無くそうと思い取り組んでいて、悪い試合は無かったんですが、僕の中で印象的だったのは、第3節の神戸製鋼戦でしたね。開幕戦と第2節でスタメンで、どちらも13番で出場したんですが、第3節では復帰した亮土さん(中村)がスタメンで、僕がリザーブになりました。チーム内での評価はまだ変わっていないんだなと、改めて認識することが出来ましたし、これまでの信頼を上回ることが出来ませんでした。

――トップリーグ2021が開幕するまでに課題を改善し、信頼を勝ち取ることがターゲットになるわけですね

開幕戦で13番のジャージを着ることが、次に向けてのまずひとつの段階だと思うので、そこをターゲットにしています。下に同じポジションの選手が入ってきたので、色々なプレッシャーがかかって、もっと成長できるんじゃないかなと、自分に期待しています。

――今年の4月からはプロとなりましたが、その狙いは?

きっかけとしてはワールドカップ日本代表からの落選です。正直、それまではプロになろうとは思っていませんでした。サントリーには社員として入りましたし、引退後も社員としてやっていきたいと考えていたんですが、ワールドカップ日本代表から落選した時に、もちろん社員選手が本気でやっていないとは思っていませんけど、やっぱりプロはラグビーに人生がかかっていて、確実に社員選手よりはラグビーにかけられる時間は増えるので、どちらが自分のためになるかと考えた時に、プロの方が良いんじゃないかという決断に至りました。

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――その時に初めてプロになることを考えたんですね

そうですね、あまり考えていなかったですね。

――プロになってみて良いと思うところはどこですか?

まだシーズンを経験していないので大きく変わったところはないんですが、1日を通してラグビーに向き合える時間、例えばリカバリーやトレーニングの時間は確実に増えていて、自分のことを優先して行えるので、そこはプラスになっていると思います。

――身体的や精神的な部分で変わってきたことなどはありますか?

自分へのプレッシャーは増えたと思います。責任感ということではないんですが、もちろんプロなので、チームから必要ないと言われたら去らなければいけませんし、そういったプレッシャーは社員の時よりも確実に増えたので、それが良い方向に行ってくれればと思っています。もちろん社員選手のメリットってたくさんあると思うんですが、今後、トップリーグが新リーグになりますし、スーパーラグビーの道も閉ざされてしまったので、プロとして勝負をして、会社の協力を得て留学という形ではなく、個人としてしっかりと海外に出ていかないと、世界で戦うことは難しくなるかなと思っています。

――プレッシャーを感じる気分はどうですか?

僕はプレッシャーが無いと良いパフォーマンスは出せないので、今のところは心地良いですね。僕はチームの中ではまだ若手の方ですし、上にはまだまだたくさんの選手がいて、そこにチャレンジしなければいけないという気持ちは、社員だろうがプロだろうが変わらないので、上にライバルがたくさんいることが大きいですね。

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◆自分にフォーカスを当てる

――リーダーシップを取るのは、まだこれからですか?

リーダーシップを取りたくないわけじゃないですけど、まだ自分のパフォーマンスに自信を持てていない部分があります。少しずつ自信を持てるようになってきているので、そこを確立できれば、チームの中での立ち位置もはっきりしてくると思います。

――自信はどう積み上げているんですか?

練習からのひとつひとつの成功体験が、確実に自信になると思います。もちろん練習でミスすることはたくさんありますけど、1日の中で上手くいくこともあるので、それを積み重ねることで自信になると思います。それを加速させるのが試合だと思っていて、昨シーズンはそれが無くなってしまったので、また練習からひとつひとつ積み重ねていきたいと思っています。

――性格はポジティブですか?

どうでしょうか。1年目の頃はすごいネガティブだったと思います(笑)。毎日不安で、色々なことを考えていましたが、考えるべきことと考えても仕方ないことがあるので、そこをちゃんと分けて、自分にしっかりとフォーカスを当てるようにしています。

1年目の時は、試合のパフォーマンスが悪くはないけど、それほど良くもないという普通のパフォーマンスの試合が何回かあり、そういう試合でチームが負けたりすると、「これは自分の責任だ。自分のせいで負けた」とすごくネガティブに考えてしまっていました。ラグビーは15人でやるもので、自分だけのパフォーマンスで結果が変わるものでもありません。パフォーマンスが良いに越したことはありませんが、だからこそもっと楽に考えてやろうと思っています。「サントリーに入ったからには」と、自分で勝手にハードルを高くしていて、自分に余計なプレッシャーをずっとかけてしまっていました。その部分については、だいぶ成長したんじゃないかなと思います。

――何か変わるきっかけがあったんですか?

ずっと大志さん(村田)に相談をしていたんですが、「お前ひとりのパフォーマンスでチームの勝敗は左右されないから大丈夫。パフォーマンスが良いに越したことは無いけど、悪い時は絶対にあるから気にしなくていいと思うよ」と言ってくれて、その時にすごく気持ちが楽になりました。

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◆ファーストプレーは自分から先に仕掛ける

――今は自分のどこにフォーカスを当てているんですか?

今は、試合のファーストプレーは絶対に逃がさない、自分の最大限のパフォーマンスをファーストプレーにぶつけるということを意識しています。練習でもよりファーストプレーを意識するようになりました。あとは試合と練習のウォームアップを統一するとか、ファーストプレーでコンタクトを受けると80分通して試合に乗れなくなってしまうので、アタックでもディフェンスでもファーストプレーは自分から先に仕掛けることを意識しています。先にポジティブに仕掛けて、もしダメだったとしても絶対にマイナスにはならないと思っているので、とにかく自分から先手を打てるようにと考えています。

僕みたいにファーストプレーが良くない選手が、そこを意識して変わることができるというのは、そんなに難しいことではないと思うんですけど、流れを持って行かれた中から、もう一度自分に流れを引き戻すということは本当に難しいと思います。そういう選手になれたら素晴らしいと思いますが、まずはファーストプレーを良くしようとしていて、もしそこでダメだった場合、自分の力でどう挽回できるかはまだ分かりません。選手としてのピークを迎えた時に、そこがパーフェクトになっていれば良いですね。

――話を聞いていて、客観性や冷静さを感じますが、自分ではどんな心境ですか?

自分に対して勢いでやっているというイメージはなくて、感覚でやっている中でも考えてやっています。全く考えず感覚でやるとどうしようもなくなってしまうので、感覚でやりながらも瞬間瞬間に判断をしているので、そこには自信を持っています。今まではそこを言葉で説明することが上手く出来なくて、言葉で説明できることが全てではないと思いますけど、出来ないよりは説明できた方が良いと思うので、その過程を理解しようとしています。

――言葉で説明するために取り組んでいることはありますか?

そのためというわけではないですが、結構、栄養学が好きなので、金剛地さん(管理栄養士)に聞いて、お薦めの本を紹介してもらっていしています。自分では何にも料理を作れないですけどね(笑)。

――今日は感覚の話がポイントですね

サンゴリアスでは、あまり感覚でやっている選手は多くないと思います。つい最近、大志さんに、サンゴリアスには喋れる選手が多いけど、自分は振り返って上手く言葉で説明できないということを相談したら、「それは、それで良いんじゃない。喋れることが正解じゃないし、考えてプレーするよりも直感でプレーした方が瞬間的なスピードは速い」と言ってくれました。だから、まず大事にしたいのは直感だと思っていて、その瞬間瞬間で思ったことにチャレンジしていくことをブレずにやりたいなと思いましたね。

考えて言葉に出来る選手やスタッフから見ると、僕は本当に考えているのかと思われると思います。このチームではそこも求められるので、そこは自分に足りない部分だと思い、しっかりとやらなければいけないと思います。

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◆自分がやりたいポジションでファイナルのグラウンドに立つ

――改めて、今シーズンの目標をお願いします

まずは開幕戦で12番、13番のどちらかでグラウンドに立っていることが短期的な目標で、長期で見るとファイナルの試合でグラウンドに立っていたいですね。

――12番と13番では、どちらも同じような位置づけですか?

やりたいのは12番で、チームから求められるのは13番ですね。昨シーズンからずっと13番でやってきて、チームからは13番の選手としてみてもらっていると思います。場合によっては12番やウイングでプレーすることもあると思うので、まずは与えられたポジションでしっかりと結果を出すことと、最終的には自分がやりたいポジションでファイナルのグラウンドに立つことが理想ですね。

――12番と13番でいちばん違うところはどこですか?

僕が思ういちばん違うところは、12番は対ボール、対ひとなんですけど、13番は対空間だと思っていて、そこがいちばんの違いだと思っています。対空間とは、アタックで言えば、パス数が増えた中でボールが回ってくるので、相手との距離も接近した状況となります。例えば12番からのパスに対して角度を変えて走り込む回数は、13番は絶対に増えます。ディフェンスでは長いパスに対して詰めたり、13番側に広いスペースが出来るので、そこでサイドラインを使ってどうディフェンスをするかというところが違いだと思います。

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――十分に喋れていますね

考えていないというレッテルが貼られているんだと思います(笑)。

――日本代表についてはどうですか?

大学の時はあまり代表に興味がなくて、社会人になってから日本代表に選ばれたいと思ったりして、日本代表への思いはこれまでいろいろと変わってきています。もちろん現役であるうちは日本代表に選ばれたいですし、目指すべきものなんですが、まずはチームでの信頼をしっかりと勝ち取りたいと思うようになりました。

次のワールドカップまで残り3年ですけど、このチームでしっかりと信頼を得て、結果を残すことが出来れば、確実に日本代表が見えてくると思うので、焦らずにやっていこうと思います。いちばん近いところに代表選手がいるので、まずはそこに勝つことですね。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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