SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2020年8月21日

#709 森川 由起乙 『1番を背負ってフィールドに立つからには勝たなければいけない』

キャリアとして中堅の域に入ってきた森川由起乙選手。文字通りサンゴリアスの中堅・中核に、どんな形でなっていこうとしているのでしょうか?プライベートやサントリーの仕事についても聞いてみました。(取材日:2020年7月下旬)

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◆犬の散歩

――今はどんなことに気を付けながら過ごしていますか?

まずは健康が大事で、僕も独り身ではないので、お互いが気を付けて手洗い、うがいをちゃんとやり、出来る限り外に出かけないようにしたり、出かけたとしても公園などに犬の散歩に行ったり、換気の良い場所を選ぶようにしています。

――犬の散歩は毎日しているんですか?

そうですね。毎日しています。ただ、今年は梅雨が長いので、犬が可哀そうですね。雨の日も散歩をするんですが、少しだけになってしまいます。

――コロナの状況に関わらず、犬の散歩は森川選手の日課なんですか?

時間がある方が行くという感じでしたね。朝と晩で行っています。

――犬と散歩をしていて新たな発見などはありますか?

家にはトイプードル2匹と豆柴が1匹いるんですが、散歩中に会う他の犬がどんな犬種だったら仲良く出来たり、吠えちゃったりするのかとかが、新たな発見ですかね。トイプードルはもう4、5歳なので落ち着いているんですが、豆柴はまだ1歳ちょっとでわんぱく過ぎて、大きい犬を見ると飛びついちゃいますね(笑)。

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◆自分に足りない部分を補う

――練習の方はどうですか?

緊急事態宣言が明けて、クラブハウスがグループごとに使えるようになった時に張り切りすぎて、いきなり器具を使ってトレーニングしたり走ったりしたら、軽く怪我をしてしまいました。6月からリハビリをしていて、3週間前くらいから強度を上げたトレーニングが出来るようになって、もうすぐ復帰できると思います。

今年で6年目になるんですが、昨年、一昨年くらいからオフ期間中の準備力とか、自分に足りない部分をシーズンが始まる前までには補うという意識で取り組んでいます。その結果、昨年くらいからはっきりと変わってきて、今年はちょっと怪我はしてしまいましたが、すでにシーズン中くらいの疲労感がありますね。S&C(ストレングス&コンディショニング担当)が僕のプログラムを作ってくれて、6月末から月曜から金曜で、ずっとコーチと二人三脚でやっています。

――充実していますね

身体はだいぶ出来上がってきています。ただ、ウエイトトレーニングをやりすぎて2kgくらい体重が増えました。身体が大きくなり過ぎてしまって、パワーはこれまで以上に出るようになって、スピードは変わっていないと思うんですが、走っていると身体を重く感じてしまいますね。走ると身体が重くて疲れてしまって、回復力がちょっと遅くなってしまうんですよ。例えば、30秒間走って、15秒間休んで、また30秒間走る時に、そのリピート回数が弱くなってしまっていると思います。

サンゴリアスのトレーニングは、試合で動けるようになるためのプログラムをウォーミングアップからやっているんですが、今は個人トレーニング期間になっていて、そういうウォーミングアップも出来ていない状況です。個人でやっているので、柔軟とちょっとしたスピードドリルとアジリティーだけです。ボールを持ったトレーニングも出来なくて、フィットネスに対しての持久力は上がるんですけど、回復力が上がらない印象です。腕が重くなったのか、胸が重くなったのか、背中が重くなったのか分からないんですけど、身体が全体的に重く感じているので、走ったり有酸素系のトレーニングをやって、色々と試しています。

――体重を落とそうとしているんですか?

僕はサントリーのプロップの中では脂肪量が少し多いので、無駄な脂肪を落とすために月曜から金曜日は食事にも気を付けています。高校と大学で膝を怪我していたので、これからもその部分の強化と、お尻周りとハムストリングを強化するのと、筋肉の酸素量を増やさなければいけないと思っています。

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◆1番で試合に出続けてやり切れたこと

――前回のインタビューで、「責任感が大きくなった」という話が印象的でした。なぜ責任感が大きくなったのでしょうか?

これまでの3年間は試合には出ているものの、1番をつけられなかったので、そこには何が足りないのかを考えてきました。その原因はスクラムと分かっているのに、自分のスクラムにたどり着けなくて、腐らずに頑張っていたつもりだったんですが、ずっと口だけで終わっていたと思います。僕が1年目の時に1番で試合に出て、それを慎太郎さん(石原)はすごく悔しかったみたいで、そこから火がついて僕が2年目では逆転して、慎太郎さんが1番でずっと試合に出ていました。

口だけでは終わりたくないという想いはあって、その話を2年目とか3年目の時に聞いたんですが、心のどこかで試合には出られているという想いがあったと思います。家族が試合を見に来てくれていても後半からの出場は悔しいですし、色んな人が応援してくれる関西での試合でも、大勢で応援に来てくれても結局は20分とか15分くらいしか試合に出られていませんでした。東京で頑張っている分、関西に帰った時には「ちゃんと頑張っているよ」という姿を見せたいですし、そういう色々な想いが絡み合って、責任感が大きくなったんだと思います。

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あとは、トップリーグカップがいちばん大きいかもしれません。慎太郎さんが日本代表に呼ばれて試合に出られないことになり、1番は僕と当時1年目だったイワ(祝原涼介)だけでした。イワも1番に転向したばかりでしたし、耕太郎さん(田原/コーチングコーディネーター)から「次の試合から1番で行くから、しっかりと準備しろ」と言われ、その一言で「1番を背負ってフィールドに立つからには勝たなければいけない」と思いました。2018-2019シーズンでは神戸製鋼に不甲斐ない負け方をして準優勝でしたし、トップリーグカップ2018-2019でもトヨタ自動車に負けて準優勝で、負け続きでトップリーグカップ2019を迎えました。

1番をつけるからにはこのチームで勝ちたいですし、1番をつけた状態で優勝してみたいですし、そこからどんどん自分のプレーにも自覚が出てきて、試合を通して「スクラムの入りが上手くいかなかったのか」、「入りは上手くいったけど、相手を仕留め切れなかったのか」など、アオさん(青木佑輔/スクラムコーチ)と分析をしてきました。スクラムが良かった試合もあったんですが、アオさんが「ここで調子に乗るなよ」とクギを刺してくれて、アオさんと良いコミュニケーションが取れていました。そして駿太(中村)やカッキーさん(垣永真之介)などチームに残っているフロントローの間で、良いコミュニケーションが取れました。準決勝で神戸製鋼には敗れましたが、そうやって1番で試合に出続けてやり切れたことが責任に繋がったと思います。

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◆スクラム組めるとこんなに楽しい

――これまで「調子に乗り過ぎない」ということを意識し過ぎていたのではないでしょうか?

そこはアオさんにもすごく指摘されていました。自分のことを話す時に、「悲観的になり過ぎてしまうから、"ここまで出来ていること"を自分でしっかりと思うことが大事」と言われました。これまでスクラムの勉強をしてこなくて感覚でやってきていたのですが、アオさんと話をするようになってから、スクラムの仕組みとか1番としてどうあるべきか、2番に対してどうしなければいけないのか、相手の3番をどう追い込んでどう仕留めるのかなどを、いちから教えていただいて、自分で勉強を繰り返すようになりました。

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いつも言われるのは、「フィールドプレーになるとあれだけ楽しそうに自分の好きなようにやるのに、スクラムになったらなんで元気なくなるんだよ。スクラムだとなんで頭を使わなくなるんだよ。もっと自信を持てよ」って(笑)。無意識のうちに苦手意識があって、スクラムに目を向けていなかったかもしれないですね。変えなきゃいけないとは思いつつも、実際にどこを変えたらいいのかも理解できていなかったですし、そのための筋肉量も足りませんでした。日々の積み重ねが大事で、みんなと同じトレーニングじゃ足りなかったので、色々と取り組みました。

トップリーグカップ2019の時には、だいぶ自分のスクラムが分かってきて、自分の形は出来てきていたと思います。それまではスクラムが崩れた時にはほとんど相手側にレフェリーの手が挙がっていたのが、サントリー側に手が挙がるようになって、そこから「スクラムって組めるとこんなに楽しいし、相手にダメージを与えられるんだ」ってすごく感じましたね。

――それまではなぜスクラムを考えてこなかったんですか?

もうずっとフィールドプレーでやってきていたからだと思います。ただ、それではトップリーグでは誤魔化しが効かないと気付きましたね(笑)。だから成長できていなかったと思います。多少の成長はあったかもしれないですが、どこか掴み切れていなくて、精神的にも技術的にもぜんぜん足りていなかったですね。

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◆ヨガを始めた

――スクラムとの向き合い方を変えられたことがターニングポイントだったんですね

結婚して家でも責任を持つようになりましたし、食事であったり休みの日の時間の使い方であったり、色々とわがままを言わせてもらっているので、結果を出して返さないと「何やってんの?」って言われてしまいます(笑)。

――コロナウイルスの状況で思うように活動できない中、ラグビーに対してどう気持ちを持っていたんですか

世界的な状況なので、もうきっぱりと割り切って、自分に出来ること、これまでやってきたことを、4月は家の中でやっていました。僕は体が硬いので、YouTubeで映像を見ながら、妻と一緒にヨガを始めたりしました。僕は生まれつき首が疲れやすかったんですが、ヨガを始めて姿勢が良くなったのか、首の調子も良くなりました。この状況下でも、自分のプラスになっていることもありますし、クラブハウスが使えるようになってからはアオさんに1対1でスクラムを見てもらったり、スーパーラグビーも再開したので、ずっとジョー・ムーディー(クルセイダーズ)を追いかけて見ています。

――ジョー・ムーディー選手のどこを見ているんですか?

相手が対策してスクラムを低く組んできても、綺麗な形で刺して、しっかりと押し切ります。セットアップの時とか、組んだ瞬間に行けるとか行けないとか分かるんですが、組み合った状態でも強くて、右肩の使い方も上手ですし、2番に対しての寄り方とか角度とかパワーが凄いです。アオさんもジョー・ムーディーの組み方を勧めてくれるので、須藤さん(分析)にお願いしてジョー・ムーディーだけのスクラム映像を作ってもらったりしました。ただ、サントリーにはサントリーのスクラムがあるので、ジョー・ムーディーの組み方をどう取り入れて、サントリーと自分のスクラムをどう合わせていくかを考えていきたいと思います。スクラムは3番が耐えて、1番が相手の3番を少しでも動かせれば、こっちの3番が動けるので、どっちが3番をめくるのが早いかになりますね。

――いまラグビーをやっていて面白い時期なんじゃないですか?

本当にそうですね。今までずっとスクラムでやられていて、試合中も憂鬱でしたし、「なんでこんなに上手くいかんのやろ」とか思っていました。平然と押されて目の前で喜ばれていましたし、スクラムが崩れれば僕の番号を呼ばれて、それが凄く悔しかったし恥ずかしかったですね。後半から出ているのに。

それが今は逆の立場になってきていて、チームの士気も上がりますし、ピンチをチャンスに変えられますし、相手ボールでもスクラムでペナルティーを取れると試合にも影響します。ラグビーはスクラムかラインアウトで再開するので、そういった意味ではいちばん最初の仕事になりますし、そこで試合の流れをサンゴリアスが掴むのか、相手に渡してしまうのかの駆け引きなので、1本1本が凄く楽しいですね。

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◆ガチガチになります

――仕事の方はどうですか?

僕のお客さんはチェーン店が少なくて個店がメインになるんですが、やっぱりコロナで大変で、浅草などのお店は本当に大変な状況です。お客さんの状況に寄り添った提案をするようにしていますし、win-winな提案になるよう心掛けています。

――ラグビーでの自信が仕事にも影響していますか?

シャイなので、初めて営業に行くお店とかではガチガチになります(笑)。お客さんが体の大きさなどの話をしてくれる場合、駿太はそういう話で距離を縮めるのがすごく上手なんですが、僕はちょっと硬くいき過ぎてしまうのかもしれません。僕もそういうところから距離を縮められるようにチャレンジしています(笑)。大事なお客さんなんですが、「お客さん、お客さん」って思いすぎて、硬くなってしまいますね。お店側の売上に繋がるような商品を勧めに行っているのに、変に硬くいき過ぎちゃうから上手く伝わらないこともあるんですよね。

――ラグビーと同じように仕事でもコーチがいるんですか?

コーチャーがいますね。僕の課はラグビー部OBの方がたくさんいて、北條さん(純一)、川村さん(拓也)、タケさん(竹本隼太郎)、2019年度で引退したアッシーさん(芦田一顕)も同じ課です。10人中5人がラグビー関係です。だから、何か困ったことがあるとすぐに聞きやすいですし、一緒にお店に行ってくれたり、とても助けてもらっています。課長もラグビー部に理解のある方で、日ごろから僕が考えていることを伝える機会を設けてくれますし、僕の考えや行動を共有してくれているので、良い環境で仕事をさせてもらっています。

――仕事でもコツと自信を掴めそうですね

スクラムよりは時間がかからないように頑張ります(笑)。

――次のトップリーグは1月開幕ですが、目標は?

まずはチームでいちばん努力をして、チームからしっかりと信頼を勝ち取りたいと思います。スクラムがキーになると思うので、スクラムの成功率を上げることと、ディフェンスからプレッシャーを掛けて、チームとしてのターンオーバー率を上げて、「サントリーはスクラム」と思ってもらえるようにしていきたいと思います。あとは1番でベストフィフティーンに入りたいですね。狙っていきたいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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