SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2017年9月22日

#553 村田 大志 『成長するチャンス』

13番としての抜群の安定感に加え、ゲインする機会も増えている村田大志選手。シーズン中盤を迎えて、自分自身とチームについての現状と展望を訊きました。(取材日:2017年9月7日)

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◆良い状態、良い時期

---- 選手として順調に序盤戦を戦っているように思いますが、いかがでしょうか?

毎試合毎試合、別の課題も出てきていますし、すごく良いというよりも、試合を重ねながらどんどん課題を克服している段階ですね。まだシーズン中盤なので。

---- それはチームとしても?

もちろんチームとしてもそうですし、自分の中でももっと修正しなければいけない点が試合毎に出てきているので、まだまだやることがいっぱいあるんだなという感じです。

例えば、ヤマハ戦に関しては自分自身、チームディフェンスをオーガナイズできなかったり、ヤマハにやりたいことをやられてしまった時間が多かったりしたので、修正するところがいっぱいあります。やっぱりサントリーに対して特別なプレーを用意しているチームもあるので、それに対応するところは、もっとチームとしてやっていかなければいけないと思います。

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---- 自分自身のプレー自体はどうですか?

久しぶりに体の状態が良くシーズンに入ることができました。ここ数年は怪我を抱えながらやっていてスピードを上げられなかったこともあったので、今は体の状態自体は悪くないですね。あとはギタウが来たことで、サントリーというチーム自体にプレー選択の幅が広がり、アタックの中で自分が良いオプションになる時が増えてきたので、そういうところは昨シーズンよりも良いかなと思います。

---- 選手として良いシーズンになりそうですね

29歳ですし、運良くチームでは毎年毎年試合に出させてもらって、ビッグゲームも何個か経験させてもらいました。そういう意味で自分の中でも良い経験を積み重ねて来たと思いますし、体の状態を考えても選手としては結構良い状態で、良い時期かなと思います。

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◆色々と考えながら体が動いている

---- ビッグゲインからのトライも含め、今シーズンはトライが目立ちますね

体の状態が良いと落ち着いてプレーができます。体の調子が悪い時はやっぱりどうしても余計に考えなければいけなかったり、リアクションが遅れて余計に動かなければいけなかったりします。今は体の状態が良い分、落ち着いて次のプレーを考えながらできていますが、ここから試合を重ねて疲れが溜まってきた時に、体にガタがこないようにするためにもメンテナンスもしっかりやらなければいけないと思います。

---- リアクションを気にしなければいけない時と、そうしなくても良い時というのは、どこが違うんですか?

良い時は自然に体が動きます。体の状態が悪いと、その悪いところを意識してしまうので、本当に目に見えないくらいのレベルだと思うんですけれど、少しずつリアクションに影響します。それが80分間ずっと続くので、精神的にも疲れてきたりもします。でも今は体の状態を気にしなくていいので、昨シーズンよりも、先のことを色々と考えながら体が動いているという感覚があります。

---- 注意する場所が違うということですか?

そうですね。注意しないといけない場所が違います。自分の体に少しフォーカスしていた部分が、今は全ての意識を次のプレーに集中することに向けられていると思います。

---- 若い時にはなかったことですか?

大学時代は体の状態を考えたことはなかったですね。怪我もそんなにしない方でしたし、怪我をしているからといって気にしたことがありませんでした(笑)。でも、30歳前になって、思ってもいない怪我というのも何回か経験しましたし、前より無茶ができない体になってきていると思います。

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◆バラバラにならないこと

---- 昨シーズンはシーズン後半からの出場でしたが、チームに合流する前と実際に合流した後で、何か違いを感じたことはありますか?

昨シーズンは外から試合を見ていて、もし自分が試合に入ったらできることが沢山あるなとすごく感じていて、特にディフェンスの部分でチームに貢献できると思っていましたね。実際にチームに入ってみると、ディフェンスのところで昨シーズンは結構やるべき仕事が多かったかなと思います。

---- 今シーズンはどうですか?

やはり昨シーズン勝ったという自信もありますし、多くの選手が日本代表やサンウルブズで色々な経験を積んで帰ってきたので、そういう意味でもみんなが昨シーズンより自信を持ってプレーをしていると感じます。他のチームがサントリーをターゲットにして全力で戦ってくる中でここまで勝ち切れているというのは、昨シーズンのこの時期と比較すると、現時点では今シーズンの方がチーム力は上がっているのかなと思います。

---- さらに良い方向へ持っていくポイントは何ですか?

バラバラにならないことじゃないですかね。昨シーズンは長い間、同じメンバーでずっとチームを作り上げてきて、最後の最後にチームとして一番良い形になったかなと思うんです。今シーズンは春夏の時期にチームを離れた選手がすごく多かったので、まだ合わないところもありますし、逆に「昨シーズンできていたから大丈夫だろう」と安易に考えている部分も、まだまだあると思います。

過去にはそういう緩みが徐々にチームに広がっていって、チームがバラバラになるというケースも見てきたので、優勝という大きな目標はありますけれど、試合毎のフォーカスに対してみんなが100%取り組むというのが、チームを作るということでは大事かなと思います。

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---- みんなを引っ張っていかなければいけない立場でもあり、プレーヤーとリーダーの1人という両方の立場から更に言うとポイントはどこですか?

今シーズン、僕がシンプルに考えているのは、一番自分にとって良い状態に持っていきたいということで、今の自分にできることは昨シーズンの自分を大きく超えて、選手として良い状態でいることだと思います。それは僕以外の選手も同じで、みんなが昨シーズンより良い選手になっていれば、チームがひとつになれば自ずと良いチームになると思うので、そこは意識しています。

---- 昨シーズンを超えるためのターゲットは?

僕がこのチームで仕事をしなければいけないところはディフェンスなので、これからも力を入れてやらなければいけないと思っています。ギタウが入ったことで、ディフェンスに関しては昨シーズンより負担が減っているので、今はアタックのところでもう少し成長したいと思っています。

昨シーズンはなかなかラインブレイクをする機会が少なかったんですが、今は良い状態でボールがもらえばラインブレイクできると思うので、チームを前に進めるという部分の仕事もしっかりとしていきたいと思います。

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◆正しく走る

---- ラインブレイクする時のポイントはどこですか?

ラインブレイクできる時は、自分の前にスペースがある時です。僕は人がいっぱいいるところをぶち抜いていくような選手ではないので、チームが使うプレーの中で自分の役割をしっかりと果たして、自分の前が空いた時はチャンスを逃さないという、ただそれだけですね。

---- チャンスを逃さないコツは何ですか?

ただ正しく走るだけです(笑)。自分勝手なプレーをしなければ自ずと空きますし、自分が正しいコースを走っていれば、自分の前が空いていなくても自分以外のプレーヤーのスペースが空くと思っています。そこで自分の前が空けばラインブレイクするし、空かなければ他があるはずということです。

うちは決め打ちしてアタックするチームではなくて、その場その場で各選手が判断をしてアタックをしているので、実際に僕もどこにボールが動くのか、その時にならないと分からないです。

---- どこに動くかわからないという状況で、ベストな選択をしてベストなパフォーマンスができるというのは、日々の練習の賜物なんですか?

それはもちろんそうですね。僕はどちらかというと選択する側ではなくて、9番、10番が選択することが多いですし、その9番、10番が選択しやすいところにしっかりとオプションになるということが大事かなと思います。

あとは事前の分析もあります。事前に他のチームとの試合を確認して、この辺にスペースが空きそうという予測はできますから、そこには分析が先に入ります。

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◆どれだけ同じ思いで戦えるか

---- みんながそれぞれより自信を持ってプレーをしていて、かつバラバラにならないようにするというのは、難しいところではないですか?

やっぱり自信を持ってプレーをしている方が、全てのプレーに対して絶対に上手くいくと思うんですよね。「こうなったらどうしよう」って考えている時って、どうしても消極的なプレーになりがちだし、ネガティブなミスが起きがちだと思うので、自信を持ってプレーをしていればミスが出てもそれはポジティブなミスで、次に改善できるようなミスになると思います。

自信を持つのと、独りよがりなプレーをするというのは紙一重なところがあって、自分が正しいと思いすぎるとなかなか1つになりづらいということは、僕がバイスキャプテンをやっていた時に感じました。多くの選手がワールドカップから帰って来たシーズンで、南アフリカに勝った試合にはサントリーの選手がたくさん出ていました。

チームの主要選手がいない中で、リーダーとしてやりながらプレシーズンマッチを戦ったんですが、ワールドカップが終わり、主要選手が合流してからチームを1つにまとめられなくて、結局9位という結果に終わってしまったということが、すごく心残りとしてあります。

ラグビーは15人で戦う人数の多いスポーツなので、個人の力というより、どれだけ15人が同じ思いで戦えるかということがとても大事なスポーツだと思いますし、やっぱりまとまっているチームは崩れないなと思いますね。

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◆歳をとったと思うのは恥ずかしいこと

---- 疲れが取れにくくなっているという年齢的なのもありながら、経験値は上がっていますよね?

ここまで言っておいてなんですけれど、ギタウとかジョージ(スミス)を見ていると、歳をとったと思うことがすごく恥ずかしいなと日々思うんですよね。ギタウやジョージはそんなに若くないのに、試合になるとパフォーマンスを発揮しますし、練習でも手を抜きません。そういうのを見ていると疲れたなとは思いますけれど、それで手を抜いたら恥ずかしいなと思います。

---- まだまだ自分の完成は先?

そうであってほしいとは思いますが、ラグビーをやっている以上は何が起こるか分からないじゃないですか。もしかしたら大怪我するかもしれませんし、本当に今を全力でやるということしか考えていません。先は長くないと思うので、今の全力を続けていくことが大事だと思いますし、先が分からないからと言って今を全力でやらなければ、すぐにでもダメになると思います。

---- 2019年ワールドカップはどうですか?

出ることができたら嬉しいですね。子どもが生まれたことが僕の中では結構大きくて、父親としてカッコいいところを見せたいなという思いがあります。ただ代表にフィットするかどうか決めるのは僕ではなくて、僕ができることはサントリーでパフォーマンスを上げることですし、自分は今この場でチームのためになるような動きをするしかないと思います。

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---- 今ラグビーが面白いと思うところはどこですか?

今はめちゃくちゃ面白いですね。今までセンターを組んできた12番の選手は、どっちかというとペネトレータ―役で、ボールを持って前に出ていく選手が多かったので、僕の役割としてはサポートが多かったんです。ギタウはゲームをコントロールしてくれますし、僕を上手く使ってくれるので、そういう意味では、いま欲しいなという時にボールが飛んで来たり、今こういう判断したら良いんじゃないかなと思っていたらギタウがそういう判断をするので、すごいなと思います。今たぶん自分が成長するチャンスだとすごく思います。

---- ギタウ選手はなぜ分かるんでしょう?

天才なんじゃないですか(笑)。もともとセンスがずば抜けていたから、高校生の時にエディーさんに引っ張られてワラビーズ(オーストラリア代表)に入ったんだと思います。そして努力する才能があって、絶対に手を抜かないですし、トライシーンを見ても、トライをした選手に一番最初に駆け寄っているのがほとんどギタウなんですよ。それはトライするまでギタウも全力で走っているからで、そういうところを見ると、やっぱりすごいなといつも思いますね。

---- 目指しますか?

僕はいち早くハーフラインに帰って、みんなを迎える役です(笑)。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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