SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年10月26日

#507 中靍 隆彰 『トライを取り続ける』

2シーズン振りにトライを重ねている中靏隆彰選手。勢いに乗りながらも、どんな思いで試合に臨み、何を目指しているのでしょうか。じっくりと心境を訊きました。(取材日:2016年10月4日)

◆練習の入りから意識する

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—— まずは第5節のキヤノン戦の話を聞きたいんですが、前半をリードされて折り返すという状況は、選手としてはどう感じていたんですか?

「入りが大事」と話して試合に臨んだんですが、試合開始直後にトライを取られて良くない流れになってしまいました。敵陣でプレーすることが多かったんですが、なかなかスコアに繋げられずにいました。前半をリードされて終え、後半に逆転出来ると思っていましたが、ラインアウトを含め修正しなければいけないポイントがあると思っていました。

—— ウイングとしてトライを取る役目があると思いますが、前半はもどかしさなどがあったんですか?

試合を通してだったと思いますが、特に前半はボールを持ってアタックを継続するシーンが少なかったと思いましたし、もっとボールを持って攻められれば良かったかなと思っていました。

そういう状況になってしまった原因としては、ポイントポイントでサントリーにミスが出てしまっていましたし、ディフェンスをする時間が多い中で、ボールを奪い返した時に有効的なアタックに繋げられなかったと思います。個人としてもいくつかそういうプレーがあって、相手がミスをしたボールに飛び込んで、結果的にはマイボールスクラムになりましたが、そこでアンストラクチャーなアタックに繋げられなかった場面がありました。そこは反省すべきポイントだと思いました。

—— 試合の入り方はこれまでも課題でしたね

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敬介さん(沢木監督)や流(大キャプテン)が中心となって毎回言っていますし、みんなも「試合の入りが大事」と思っていると思っていて、試合だけじゃなくて練習の入りから意識をするようにしているんですが、そこがなかなか改善出来ていないことは事実だと思います。

オールブラックスの試合を見ても、試合のスタートが悪いことはほとんどないと思いますし、例え悪かったとしてもすぐに修正していると思います。なので、オールブラックスと比較して、サントリーはそのスタンダードがまだ低いんだと思います。

やっぱり試合の最初で勢いに乗れば、主導権を握って、こちらがやりたいことがスムーズに行えると思います。パナソニック戦がそうだったように、試合を通して良い流れで試合が進められるんです。意識という言葉だけで改善出来ることではないと思うので、1つ1つのプレーの精度、コミュニケーションの精度など、そういうところから取り組んでいくしかないと思います。

個人としても試合の最初から100%のパフォーマンスが出せるように臨んでいます。ただ、集中し過ぎて周りが見えなくなってしまってはウイングとしての動きが出来なくなってしまうので、熱い気持ちを持ちながらも冷静にプレーすることを心がけています。

その中で、アタックでは周りのサポートもあり、ボールを持てばトライを取るということに集中することが出来ていますし、ディフェンスでも誰が相手でも引かずに体を当てられているので、部分的に一気に集中するということが出来ていると思います。

◆ウイングとして重要なこと

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—— 一気に集中してトライを取った場面が、キヤノン戦では2つありましたね

1本目のトライは、僕の特徴は足なので、美味しいとこ取りじゃないですが(笑)、いかに抜け出した選手にすぐに反応して、そこからトライに繋げるということがウイングとして重要な役割だと思っています。ナイジェル(アーウォン)が抜けて、そこですぐに反応して上手くトライに繋げられたので、持ち味のひとつが活かせたトライだと思います。

あのような場面では、まずは抜けた選手の近くに追い付くということを考えるんですが、ナイジェルが抜けた場面のようなシーンでは相手のフルバックが上がってくるので、その裏のスペースが空くんです。ナイジェルも蹴るつもりだったと思いますし、僕からも裏に蹴るようにコールを出しました。

実際に抜け出す前に、あの選手が抜けそうだなと予測しておくことも大事だと思います。ラグビーはボールが先頭で、外に行けば行くほど後ろから追いかける形になるので、抜けた後に反応して走り出すと長い距離を走らなければいけなくなります。完璧に出来ているわけではありませんが、そういう部分でも他の人との違いを出していかなければいけないと思っています。

—— 2つ目のトライについては?

時間帯も終了間際でしたし、相手はキックは蹴らずにトライを狙ってくるとバックスラインで共有できていたので、そこで前からプレッシャーを掛けようと話していました。実際に相手がボールを回してきたので、狙い通りの形でトライが取れました。

あのトライは特別に目立つようなプレーではなかったと思いますが、基本的なコミュニケーションが取れていたので、トライに繋がったと思います。

◆トライの数が成功体験になる

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—— 第5節を終わった段階で3トライとなっていますが、その結果についてはどう考えていますか?

もっと取りたいと思っていますし、パナソニック戦でもキヤノン戦でも取れる場面があったと思っています。トライの数がそのシーンでの成功体験になると思うので、トライの数を増やしていきたいと思っています。

パナソニック戦で一度裏に蹴ったシーンがあって、あの判断は悪くはなかったと思うんですが、後日映像を見返した時に、蹴らずに外を抜ければそのままトライになったかなと思いました。あとで振り返るとそういう判断も出来るんですが、その場でそういう判断が出来るかどうかということがウイングとしての引き出しの数になると思うので、そのために成功体験を増やしたいと思っています。

—— 2014-2015シーズンは1トライ差でトライゲッターを逃しましたが、その時と比較してどこが成長出来ていると思いますか?

ディフェンスの考え方も変わってきていますし、アタックについても全体的に成長は出来ていると思います。アタックで意識していることは、ウイングとして取らなければいけないポイントでトライを取ることと、自分にしか出来ないような形でトライを取ることを意識しています。ただ、今シーズンこれまでに取った3トライは、別に普通のトライかなと思いますね(笑)。

先ほど引き出しの話をしましたが、やはり選手としては色々な引き出しを持っておきたいと思っています。結果としてトライが取れたという形ではなくて、相手がこう来た時はこう動くとか、この動きだと相手が流れてくるから、そこでガッと止まって相手をかわしてトライを取るとか、どうしても体が小さい方なので、思い通りに体を動かして絶対に抜けるポイントを増やしていかなければいけないと思っています。

—— 現時点で、練習も含め理想とする形でトライが取れていますか?

練習では徐々に良い形でのトライが取れてきているので、それを試合で発揮して、回数を重ねていくことが必要だと思います。ボールをもらう前のコミュニケーションや内側の選手とのコミュニケーションを更に増やしていければ、試合でも理想とする形でのトライが取れると思っています。

ただ、個人的な目標を持ってやることは大事だと思いますし、自分の理想とするトライで勝利に貢献できれば最高だと思うんですが、今はチームが勝つことが本当に嬉しく感じています。

◆同じ方向で取り組めている

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—— ここまで全勝で来ていますが、勝ち方よりも、やはり勝つということが大事ですか?

今シーズンはどのチームも強くて、気が抜ける試合が1試合もなく、どこに負けてもおかしくないというプレッシャーがあるんですが、勝っているとその疲れも心地よいというか、体は疲れているんですがポジティブな状態になれて、「次の試合に向けて、また良い準備をしよう」とトレーニングに入れるんです。

試合に負けると「あの時にああすれば良かった」とかネガティブな考え方になりますし、クラブハウスに来るのも気が重くなるんですが、今シーズンはこれまでそういう感情になっていないので、それが良い流れになっていると思います。

今シーズンの開幕戦では1点差での勝利でしたし、競った試合になりながらも勝つことが出来ているんですが、それは春からずっと積み重ねてきて、やりたいラグビーが明確になっているということと、例えやりたいラグビーが出来なくてもチームとして勝ちきるための体力がついて来ているからだと思います。だから、やりたいラグビーが出来た時には良い内容で勝っていると思います。あとは全員がやりたいラグビーに向けて同じ方向で取り組めていることが大きいと思います。

—— 個人としての今後の課題は何ですか?

ずっと意識しているのはトライを取り続けることです。具体的な課題は色々あって、トライを取るだけじゃ試合には出られないので、試合に出るためにディフェンスやブレイクダウンを強化しなければいけないと思いますが、毎試合トライを取ることにこだわり続けたいと思います。

トライを取るためにはボールをもらわなければいけないので、その回数を増やすために、前段階のコミュニケーションでよりチームに要求を出していきたいと思います。その要求に対してチームが応えてくれるためには信頼が必要で、「ボールを渡しておけば何とかしてくれるだろう」と思ってもらえれば、必然的にボールをもらえる回数が増えるので、そういう選手になっていきたいですね。

—— その課題を克服するために体を大きくしていると思いますし、実際に体が大きくなっていると思いますが、持ち味であるスピード面では速くなっているんですか?

以前よりも速くなっているという感覚は自分の中にはないんですが、春シーズンの練習試合などで相手チームの選手から「足が速くなったね」と言われていたので、自信になっていますね。

ウイングの選手って、相手が何気なく「足が遅くなったね」と言ったことでも凄く気にします(笑)。逆に「速くなったね」と言われると凄く嬉しいんです。春シーズンからトライが取れていますし、速くなるためのトレーニングはしているので、その成果が表れてきているのかなと思います。これからも更に速くなりたいと思っていますし、自分の中で「ここをこうすれば更に速くなれる」というイメージがあるので、それを実現していきたいと思います。

◆勝ちに繋がるトライを積み重ねる

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—— 選手としてこれから目指すところは?

もちろんチームとして全勝で優勝することが一番です。その中でチームの勝ちに繋がるトライを毎試合積み重ねることです。

春シーズンにはリザーブが多かったですし、開幕戦ではメンバーに入れなかったので、現時点では何かあればすぐに変えられてしまう立場だと思っています。練習試合にリザーブで出場してトライを取っても、次の試合でも先発ではなくリザーブだったりしたので、その時は同じポジションの選手と比較して、自分は低い立ち位置にいると感じていました。

その経験があるので、結果を残し続けなければ、また試合に出られなくなってしまうと思っています。けれど、その中でもしっかりと自分にベクトルを向けていなければいけないと思いますし、例えメンバーに入れなくても、出場した練習試合で毎試合3トライ、4トライを取りまくっていれば、絶対にチャンスは来ると思って取り組んでいます。

他のチームのウイングの選手と何気なく話していたことで印象に残っていることがあって、その選手が「普通のプレーをしていたのでは、今シーズンは試合に出られない」と言っていて、そこで改めて、自分も普通のプレーをしていたのではダメなんだなと気づかされましたね。

—— 自分に厳しくなければ、自分自身にベクトルを向けることは難しいですよね

自分では意識しませんが、嫌だとか苦だとか思っていないことでも「細かいね」とか「ストイックだね」と言われます。ただ、自分はずっとそういう形でやって来たので、周りから言われても気にならないですし、逆に色々なところで周りと差をつけていくことを考えています。

例えば、トレーニングにしろ食事にしろ、ある選手が「ここはこだわるけど、ここはこだわらない」という考えがあるのであれば、自分は周りがこだわらないところにもこだわって、そこで差をつけたいと思いますし、そういう差をたくさん作りたいと思っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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