SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年8月17日

#497 『ジョージ・スミスを語る』

1人の選手を本人ではなく周りのメンバーが語って浮き彫りにするという特別編・第2弾は、帰って来たジョージ・スミス選手です。3年振りにサンゴリアスに復帰したスミス選手を、篠塚公史選手、西川征克選手、村田大志選手、大島佐利選手、宮本啓希選手、小野晃征選手、畠山健介選手が語ります。どうぞお楽しみください。(取材日:2016年7月19日&20日)

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『いつも大事なところに』 篠塚 公史

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大事なところに顔を出す、常にそういうところにいる、というプレーヤーです。嗅覚があって、「そこを抜かれたらまずいな」というところにはちゃんとディフェンダーとしていますし、ちょっと前のプレーでは反対側にいたのに、その次のプレーではラックに行ってボールにからんでいます。「チャンス」というところが、分かっているのかなという気がします。

いつも大事なところにいます。これが出来るのは経験しかないんじゃないでしょうか。若い頃からトップレベルで経験していますから。守りでも攻めでも、大事なところにはいる、そういう選手です。

ただボールやプレーを追い掛けているだけではなくて、次に何が起こるかということを予測して動いていると思います。多くの選手にはボールを追いかける癖があると思うんですが、ボールだけじゃなくて先を読んでいるというのが凄いですね。僕がそれを出来たら日本代表になっているでしょうね(笑)。でも真似して出来るものではないと思います。

ジョージはたぶん、練習ではフルパワーを出していないと思います。手を抜いているという意味ではなく、身体は常にリラックスした状態をキープしておいて、頭の中はフル稼働しているというように感じます。だから、相手チームとして試合をしたら、どれくらいの力があるのかが分かると思いますが、一緒にチームメイトとしてやっている私には分からない部分です。それでも練習中から凄いですよ。試合中も何人も飛ばしていますからね。体はそんなに大きくはないですが、一緒にプレーしていて頼もしいですね。本当に心強いと言うか、安心感があります。

人間としては、普段、明るいです。そしてお酒が大好きです。試合の日の後、一気に1週間の疲れを取っているんだと思います。一緒に飲む時は、ビールとハイボールをずっと飲んでいますね。簡単な日本語は通じるので、コミュニケーションの問題はありません。

3年振りに戻ってきましたが、フランスでもイングランドでも凄く活躍していたので、一緒に試合をするのが楽しみですね。見た感じでは体が大きくなったと思います。ますますパワーアップしているんじゃないでしょうか。ヨーロッパのラグビーはコンタクトで真っ直ぐ体を当てに行くプレーヤーが多いので、そこでやっていたからかもしれません。今シーズン、期待は凄くしていますけれど、ジョージだけに頼るんではなく、周りもちゃんと仕事をしないといけないと思います。ジョージにはジョージのプレーをしてもらって、他は自分たちが何とかする、そんな気持ちです。

『大先生』
西川 征克

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ひとことで言えば「大先生」ですよね。世界のトップの選手なので、その人から教わる時には、聞く方も受け取りやすいし、教え方もすごく理にかなった教え方をしてくれます。そこがやはり大先生だなと思うところです。こちらから聞くというよりは、やっている練習でダメなところを指摘して指導してくれたりします。だから「なるほど」という気づきが大きいですね。

「ジョージと言えばジャッカル」ですし、そこは盗みたい部分というか、自分も出来るようにしたいと思っている部分です。ブレイクダウンの練習で教えてもらっている僕らが出来ないところを、ジョージはこれまで積み上げてきているから出来るんだろうと思います。

とくに考え方、判断、そしてコミュニケーション能力の面で、見本となる選手ですし、人間としては、親しみやすい人です。彼が言うことは聞きやすく、自分だけという感じではなくて、みんなにオープンに広げてくれるイメージです。とってもフレンドリーだと思います。

『何かを残そうとしてくれる』
村田 大志

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誰が見ても素晴らしい選手だというのは分かりますし、一緒にいてすごいなと思うのは、練習の時から見本になるようなプレーをしてくれる選手で、チームに何かを残そうとしてくれる、とても素晴らしい選手だと思います。

どういう気持ちで練習してくれているかは分かりませんが、まずは自分のスタンダードがあって、それを落とさないというところがすごく見えますし、それを僕たちにも良い形で伝えてくれています。押しつけるのではなく、アドバイスしながら自分はこういうスタンダードだということを教えてくれているところが、すごいなと思います。

僕はバックローではないので、その専門的なことを教えてもらったことはありませんが、試合に臨む姿勢、練習に臨む姿勢というのは、「ジョージがやっているんだから僕らが100%でやらないという理由はない」という感じに、いつもなります。

2年連続MVPを取った頃は、誰が見てもMVPで間違いなかったと思いますし、あの2年間でサンゴリアスがすごく進歩したのは、ジョージのお陰だと思っています。もちろんジャッカルもすごかったですけれど、チームにとって嫌な時間帯にいつも良い仕事をしてくれるし、必要な時に必要なことをしてくれるという意味では、本当にラグビーをよく知っている人だなと思います。

間違いなくラグビーセンスがあって、ラグビーをやるために生まれて来た選手なんじゃないかなと思いますし、人間的にも素晴らしい人だと思います。誰に対してもフランクに接してくれるし、聞いたことに対しては真摯に応えてくれるし、変にスターのような素振りも見たことないですし、道具も自分で率先して片づけをしています。あまり今までの外国人選手でも見たことがないようなことも、よくやっていると思います。

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『当たり前のことを当たり前にやる』
大島 佐利

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まずブレイクダウンのところで、本当にスペシャリストだと思います。けれど、何か特別なことをしているというよりは、相手の下を絶対に取るとか、相手より素早くポイントに着いて、体を高くすることなくブレイクダウンに入っていくということを、一番意識しているんだなというところが、すごく勉強になります。

ブレイクダウンのトレーニングでは、ジョージが考えてくれたメニューをやってみたり、ジョージのアドバイスを色々もらいながらやっているので、バックローとしては本当に勉強になっています。当たり前のことを当たり前にやることが、大事だということを教わっています。

ジョージが作ったメニューというのは、それこそ特別なことはなくて、ゲームに近い形で、ひとつひとつタックルに入る部分や、ブレイクダウンにエントリーする時の姿勢、タックルの後にどうやってすぐに起き上がってボールに働きかけるのかという、本当に基本的なことを教わっています。

一緒にプレーしていて、ブレイクダウンの部分では、常に基本を守っていると感じます。疲れてきたり、自分の態勢が悪い時などでも、基本的なブレイクダウンのスキルを、変わることなくやり続けていると思います。僕らにはまだ身についていないことを、ジョージは長い年月をかけて、やってきたんだと感じています。

一番優れているところは、どこでボールに働きかけるかというタイミングであったり、ボールに働きかけることが出来ないんだったらこういうプレーをしようという判断や準備の部分がすごいですね。長年身につけて来た部分もあるでしょうし、ジョージがもともと持っているスキルもあると思います。

グラウンドの外では優しいですし、それこそお酒を飲む場では、誰よりも楽しんでいると感じます。本当に美味しそうにお酒を飲みます。ビールやウイスキーが好きで、そういう意味でもサントリーは彼にとって、すごく良いチームなんだと思います。

『世界で一番すごい選手』
宮本啓希

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世界で一番すごい選手だと思います。プレーをご覧になっても分かると思いますし、自分の愛称である「ジャッカル」が、ひとつのプレーの名前になるというぐらいの人です。やっぱり一番注目されるのはブレイクダウンのところだと思うんですけれど、“神業”だと思います。

「なんでそんなにボールが取れるの?」というぐらいボールを取って来てくれます。僕はポジションが違いますけど、同じポジションの人で、ジョージのプレーを見て学ぼうという人でも、「何で?」と思うようなことがいっぱいあると思います。

精神的なところでは、毎試合コンスタントに高いレベルのパフォーマンスを出すというのが、やっぱり世界のトップだと感じるところですね。そこは精神が安定していないと出来ないと思います。

人間性については、オンとオフがしっかりしているというところを感じます。集中力がすごいですし、グラウンドにいる時はもちろん100%ですし、オフの時にはしっかりとオフにするというイメージがあります。ひとことで言うと、自分の枠を分かっている人だと思います。例えば自分が今これをしないとダメ、今はプレーをしっかりしないとダメ、今は楽しむ時、今はこうする時、という判断をもとに行動が出来る人だと思います。

ラグビーも一緒だと思うんですが、ジョージはそのポジションに立った時に、「自分が今やらないといけない仕事はこれだ」とクリアに出来ているから、あれだけ自分の仕事をしっかり出来るんだと思うんです。その中で見る人が見ると「おぉっ!」と思うようなプレーがありますが、その前提としてはサントリーの中での決め事があって、それをしっかりと把握していないと出来ないと思うんです。だからものすごく頭が良いと思います。

トップリーグのチームでバックローの選手を見ると、体が大きい選手が多いと思いますが、ジョージはそれほど大きい方ではないのに、でも体はものすごく強いと思います。それでワラビーズであれだけキャップを取って、世界のトップでやってきたという選手です。日本では前にいた時と今の雰囲気は、まったく変わらないなと思います。明るいですね。

『自分の時間が好きな人』
小野 晃征

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普段のジョージは、自分の時間が好きな人です。オフの時は自分だけでオフを過ごしたい、という感じです。買い物へ行ったり、そういう自分の時間が好きなんだと思います。家族はいま日本にいませんが、奥さんと子供4人が日本にきた時には、家族との時間を大切にしています。それも含めて自分の時間が本当に好きな人ですね。

「どういう人か?」と言われても答えるのが難しいんですが、特別激しくもないですし、特別優しくもない、普通の人です。すごく騒いだりする人でもありませんし、とても静かという訳でもないですよ。

ラグビーのプレーでは、ジョージの意見は本当に参考になります。経験あるジョージに意見を聞いて、アドバイスをもらって、チームに落とすことが大事だと思っています。

ジョージはあまり積極的に発言をする方ではないですが、必要だと思ったことは必ず言います。キーポイントを絞って、メッセージを伝えられる人ですね。試合中も多く発言するというよりも、アクションでリードしてくれます。

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『毎朝6、7時から準備』
畠山健介

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とてもプロフェッショナルな選手です。自分で足りないなと思ったところは、しっかり準備をするという辺りが、プロだと感じます。それが言葉だけだったら伝わりにくいと思うんですが、毎日一緒に生活をしていると、そういうことがすごく伝わってきます。

例えば、ジョージはコンタクトがとても強いんですが、サントリーはすごく走るスタイルなので、ジョージとしても仕事量が必要だということを知っています。もともと彼はイングランドのプレミアリーグでやっていて、イングランドだったらコンタクト重視でやっていたと思うんですが、帰ってきてすぐにサントリーにフィット出来るように、ずっとフィットネストレーニングをやっているんですよ。毎朝6時とか7時から。すぐにチームに馴染めるように、いつでもハイパフォーマンスが出せるようにという準備をしているんです。

プロ選手だから当たり前と思う方もいらっしゃると思うんですけれど、実際にやるのはとても難しいことですし、とくに外国人選手で彼のようなキャリアを持っていたら、1ヶ月ぐらい調整に時間をかけてもおかしくないと思うんですが、彼は「休みは日曜だけでいい」と言って、僕らが休みの日でも、朝早く来たり午前中に来たりして、自分のトレーニングをやっています。すごくプロフェッショナルな選手だと思います。

イングランドでも存在感がありましたし、良い仕事をいっぱいしていました。所属のワスプス自体はベスト4で負けてしまいましたが、ヨーロッパのトーナメントやイングランドのリーグ戦などでも、ジョージはしっかり良いパフォーマンスを出していましたし、存在感を出せていたというのは、やっぱりみんなが「すごいな」と思う証拠だと思います。そこには「チームにどうしたら貢献できるか」ということ考え、行動出来ているんだと思います。

人間的には「真面目な感じ」と思っている人も多いと思いますが、お酒が好きですし、お酒を飲まなくても陽気な時があります。普段は年齢も重ねているし冷静な感じですが、紳士的な時と、飲んだら陽気になると感じることがあります。そこは普通なんじゃないかなと思います。

年齢とか関係なく、グラウンドでしっかりパフォーマンスを出しているところが、一番良いと思うところです。練習でも常に良いパフォーマンスを出そうと準備しているというのが、ジョージの本当に良いところだと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌)
[写真:長尾亜紀]

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