SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年3月31日

#477 佐々木 隆道 『プラスαを自分で作り出さなければいけない』

サンゴリアス在籍10年。ルーキーイヤーから常にサンゴリアスの中心選手であり続けた佐々木隆道選手が退団します。自他共に認めるサンゴリアス愛の持ち主である佐々木選手が退団に踏み切った真意は?そして佐々木選手は何を求めどこへ向かうのか?チームを離れる直前のタイミングで、佐々木選手が想いを語ってくれました。(取材日:2016年3月23日)

◆チャレンジ

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—— 急きょ、サンゴリアスを離れることとなりましたが、どういう経緯があったんですか?

ちょうど10年目のシーズンが終わる時にチームとの契約も切れるタイミングで、この先、ラグビー人としても指導者としても、もっともっと成長したいという思いがありました。この今の状態の中で成長していくことは、自分にとっても心地よくて、リスクも少ない状況ではあったんですが、本当のトップの指導者、ラグビーに携わる人、そういう人間に相応しいスキルを、将来を見据えて身につけるために、今の自分にはチャレンジすることが必要だと思い、決断しました。

選手として次のチャレンジをしたいという思いがありましたし、将来、指導者になりたいと思っていますし、組織を動かすことにも興味があるので、そういう意味で、今までとは違うことに対してチャレンジしたいという思いが湧いているんです。

—— 何かきっかけがあったんですか?

僕は強いチームでしかラグビーをしたことがなくて、当たり前のようにみんなが頑張る環境があり、組織もしっかりしていて、そういう中で自分がラグビー選手としてのスキルが活かせないフィールドに立った時に、「僕には何もない」と思ったんです。

指導者というのは、トップチームを指導するチャンスだけがあるわけではなくて、色々なチームを勝たせられるのが素晴らしい指導者だと思っています。ある意味、苦労をするために、サンゴリアスを退団するということになると思います。

—— そういう決断をすることは、もともと10年という区切りで考えていたんですか?

そういうことを考えた時に、どうすれば自分という人間が次のステップを踏むことに対して、筋が通るだろうかと考えました。個人的には色々なチームを転々とするつもりは無く、まずはサントリーに対して筋を通して、かつ自分のチャレンジに対してもポリシーから外れないチョイスをしようと考えているところです。

◆サンゴリアスが好き

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—— 選手としてあと何年やるということを決めているんですか?

それはないですね。僕の個人的な感覚としては、昨シーズンがベストパフォーマンスだったので、もっと成長出来ると思いますし、やれない訳が無いんです。ただ、「それだけじゃない」という考えを持っているので、選手として出来るあと数年をどこでやるかより、もっと人生を通して物事を考えたいと思っています。

僕はトップチームでプレーしたという経験があるので、今まで経験をしたことのない世界へ飛び込みたいという思いがあります。ベストパフォーマンスが出来る自覚がある上でチームを離れるのであれば、トップの戦いが出来るチームで優勝を目指すという考え方もあると思いますが、それをするのであれば、僕はサンゴリアスに残ります。なぜそういう選択をして強いチームに移らないかと言えば、サンゴリアスが好きだからです。僕の中で、次のシーズンにサンゴリアス以外のチームでトップを目指すというイメージは湧きません。

—— ベストパフォーマンスが出来て、もう一度サンゴリアスで優勝してから次のステップに進むという選択肢もあったかと思いますが、このタイミングを選択した要因は?

チームも変わる時期ですし、サントリーという同じ環境の中で、同じモチベーションで続けていくということが、自分の中で少し難しいと感じることが多くなったので、今回の選択をしました。

僕がいなくなることで、若い選手にとってもチャンスですし、競争が激しくなると思います。7番のポジションを誰が獲るのか。新人かもしれませんし、今まで頑張ってきた選手なのか、外国人選手なのか、その中で、プラスの力が働いていくはずなんです。これからサンゴリアスは間違いなく強くなりますし、それは分かっているんです。でも、そこの一員でいるよりも、自分のチャレンジがしたいという思いの方が強くなったんです。

◆とても貴重な経験

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—— 大変なチャレンジになると思いますが、これまで以上にリーダーシップを発揮する立場になっていかなければいけませんね

そういうことも含めて自分の仕事だと思いますし、どこのチームに移るかはまだ決まっていませんが、次に契約したチームに対して100%コミットしなければいけないと思います。そして、そのチームで結果を出して、また日本のラグビーを盛り上げていくという考えを持っています。

—— この決断をしたのはいつ頃ですか?

サンゴリアスを出ると決めたのは2月29日です。そういう考えを持ち始めている中、僕のことをサントリーは物凄く評価してくれていて、自分の考えが揺らぐというか、僕のことをそれほどまで評価してくれるのであれば、「自分はまだここで働けることがあるんじゃないか」とか、「ここにいることが自分の一番の成長に繋がるんじゃないか」という葛藤はありました。だから決断をするまでに時間が掛かりました。

—— そこまで評価してくれたサントリーに対して思うことは?

自分の人生を語る上で、間違いなく僕はサンゴリアスに育ててもらいましたし、サンゴリアスに対する愛は、これまで引退されたり移籍されたOBの方たちと一緒で、いつまで経ってもサンゴリアスが一番好きなチームであることは変わらないと思います。

—— サントリーはどこが良いと思いますか?

向上心が強いところです。優勝するということを、会社もファンの人たちも、そして選手たちも求めていますし、そういう組織に属せたということが、20代の僕にとってはとても貴重な経験でした。

◆人の良さを認める

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—— サンゴリアスでの10年の中で印象的なことは何ですか?

いっぱいあり過ぎますし、順位付けすることは難しいんですが、自分のターニングポイントとしては、自分がキャプテンの時(2009-2010シーズン)の最後と、エディーがヘッドコーチになった最初の1年間(2010-2011シーズン)です。この2年間は、本当に自分が変わったというか、チームマンとして成長出来た2年間だったと思います。

—— グラフにするとその2年間はV字になると思うんですが、一度落ちた後また上昇したポイントは何でしたか?

サンゴリアスの一員として、みんなに認められたいというところです。そのために、とにかくチームメイトに対してリスペクトを持って、自分の出来る準備を最大限していくことを心掛けましたし、チームの15分の1として仕事を全うすること、そしてそのレベルをチームで一番高い水準に持っていくということに取り組みました。

—— 下降線だった時にも考えて取り組んでいたと思いますが、上手くいく時といかない時の差は何だと思いますか?

やっぱり自分の中に人を認める部分とか、周りの人の良さを認める部分とかが、下降している時には少なかったかもしれません。自分がキャプテンの時には、自分がリーダーシップを取ることでチームが上向きになると思っていましたし、もちろんそれは必要なことではあるんですが、チームをひとつにまとめるという意味では、自分の仕事は不十分でした。

どんな状況になろうが、僕のスキルがもっと高ければ、もっともっと良いチームになっていたはずなんです。だから、自分がその立場から退いた時に、自分の態度を改めることで、チームのプラスになると思いましたし、そういうことに気づけたからこそ、上昇曲線を描いていけたと思っています。

—— 態度を改めるということは、例えばどういうことですか?

その当時はよく分かっていなかったので、やったことと言えば、挨拶をして、言葉づかいを直して、チームで決めたことを率先してやって、人が練習していない時も練習をして、ということです。

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◆謙虚に努力を怠らない

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—— ラグビー選手としても成長したと思いますか?

相当成長したと思います。その根底にあるのは、心が整ったということがあると思います。その時に、チームスポーツをする選手としてのベースが、やっと整ったんじゃないかと思います。

—— そのベースという部分を他の選手に伝えるとしたら、どういう言葉になりますか?

チームカラーにもよりますが、サンゴリアスのようなチームで言えば、周りから認められるような行動を取るということになると思います。そこは最低限サンゴリアスの選手としては兼ね備えなければいけないものだと思います。けれど、逆に今の若い子たちは、そこに重きを置き過ぎて、悪い言い方をすれば、面白くないんです。

—— 選手としてのパフォーマンスも変わりましたか?

パフォーマンスについては、エディーがヘッドコーチになったことで、トレーニング環境も変わりましたし、トレーニングの内容も変わったので、要因はそっちの方が大きいと思います。ただ、パフォーマンスが上がったからと言って、チームにとってプラスになれるかは別の話で、みんなから尊敬や信頼されていなければいけないと思います。

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—— 人から尊敬されることを目的に取り組んでいる間はまだ本物ではないと思いますが、本当に人から尊敬されるためにはどう取り組んでいくべきだと思いますか?

最初は無理矢理でもいいから、自分を律してやってみるべきだと思いますし、それが何年後かにはその人のスタイルになると思います。自分に矢印をしっかりと向けて、謙虚に努力を怠らないことだと思います。そして、その努力のスタンダートを低いところに設定しないということです。自分に甘いと、周りに見抜かれます。自分に厳しい人に対して、十分なリスペクトは生まれないかもしれませんが、甘い人間に対するバッシングは非常に敏感になります。

—— それを踏まえ、若手選手にはどういうメッセージを伝えたいですか?

人として成長してください、ということですね。与えられたものの中で頑張るだけじゃ、その中の成長でしかないので、与えられたものから更にプラスαを自分で作り出さなければいけないんです。それは大変なことだと思いますが、そこが一番大事だと思います。

それを作り出すためには、自分の中で目標設定をすると思いますし、その目標設定のために今いる環境をフルに使ってやれば良いと思います。

◆新しいものを取り入れていく

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—— サンゴリアスに入った時は同期が9人いて、佐々木選手を含めその同期たちは1年目から試合に出続けていたと思います。継続して活躍するためには何が必要だと思いますか?

自覚の問題だと思います。自分がチームに対してどういう影響を及ぼすかとか、そういう意欲が足りないと思います。ただ、この部分は人から言われてやるものではなくて、だからコーチ陣も特にそういう部分には触れないと思います。「今年はこれが出来たから、来年はこれをしよう」とか、そういうステップアップをしていかなければ、周りに追い越されます。

昨シーズン、仲宗根が伸びてきている中で僕が試合に出ていたのは、沢木さんがチームに帰ってきたことで、僕のジャッカルというスキルが100%伸びたからです。もうそれだけです。「そんな単純なことに、なんで気づかんかったんやろ」ってくらいのことで、簡単に言えばタイミングです。

—— トップリーグ2連覇、日本選手権3連覇していた時には、他のチームとはフィットネスでのアドバンテージがかなりあったと思いますが、それ以降はアドバンテージがなくなったように見えました

それはそうですよね。勝つためにフィットネスをつけなきゃいけないのであれば、他のチームはフィットネスをつけてきますよ。だから、フィットネスを更に追求していくか、フィットネスのレベルをキープしながらフィジカルを上乗せしていくかという方法がある中で、サントリーはフィジカルを上乗せしていく方法に移行したんです。ただ、それは正解だと思っていて、フィジカルがなければラグビーは出来ないですし、そうなればサントリーから日本代表に選ばれる選手はいなくなると思います。

世界の流れに沿って、僕らはフィジカルに特化してトレーニングをしながら、フィットネスもハードにやっていたので、飛躍的に伸びることはないんです。ただ、サントリーが掲げるラグビーは走れなければ成り立たなくなるので、そこの部分に関しては、毎年少しずつ伸ばしていっていました。そこで勝てなくなったというのは、ずっと同じことをやり続けていたことが原因なんです。他のどのチームもサントリーがどういうアタックをするか、どういうポリシーでアタックを仕掛けているのかということを、ほとんど分かっていたと思います。

—— そこをぶち破るためには、どうすればいいと思いますか?

古い考えは捨てて、ベースは残しても、新しいものをどんどん取り入れていくことが必要だと思います。

◆家族、エナジー

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—— 今後はどうしていくんですか?

まずは移籍先を決めます(笑)。

—— 移籍するチームを決めるためのポイントは?

一番は僕の家族が幸せであることで、二番目にそのチーム自体にエナジーがあることです。

—— 将来のビジョンは?

世界に通用する指導者になりたいと思っていて、まだ具体的には見えていませんが、やっぱり海外に出ることは必要だと思いますし、そこで認められることも必要だと思います。そういう指導者になって、トップリーグやスーパーラグビー、日本代表など、そういうところのコーチングに関わっていきたいと思っています。そして、最終的には日本代表の監督としてワールドカップに出たいです。その椅子はみんなが狙っていると思いますが、そこに近づけるようにプランニングしていこうと思っています。

—— 佐々木選手から見て、昨年のラグビーワールドカップでの日本代表として一番良かったところはどこだと思いますか?

ベースにあるところは、世界に勝つというメンタリティーをエディーが整えたことだと思います。そして、その準備を4年間かけてやった結果がワールドカップでの活躍だったと思います。急に勝てるようになったわけではなくて、メンタルも含めて4年間のしっかりとしたプランニングのもと、準備しきったからこそ良い結果を出せたと思います。考えられる最高の4年間の準備が出来たということが、一番評価されるべき点だと思います。

—— 選手たちの良さは?

エディーの言いなりじゃなかったところだと思います。それは、選手が考えて、意思選択し、決定することが出来るようになったということです。

—— そうなったポイントはどこだと思いますか?

スーパーラグビーで揉まれた選手たちが、しっかりとリーダーシップを発揮して、自分たちの意見をエディーにぶつけられたと思いますし、エディーの意見も取り入れて、チームが分裂しないように最終的にまとめたキャプテンやリーダーたちがいたからだと思います。選手目線でも勝つべく組織だと思いました。

◆勝たせられる監督

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—— 将来なりたいと思っている監督像はありますか?

どんなチームを率いても、勝たせられる監督です。簡単なように見えて難しくて、究極はそういう監督になることです。今はまだそういう監督になれるとは思っていませんが、この先経験を積んでいくことで、そういう監督になれると思っています。

—— コーチングに関してはどう思っていますか?

とても興味があります。コーチと監督は違うと思いますが、コーチングという意味では、選手に最大限のパフォーマンスを発揮させる手助けが出来る人というのが、僕の理想のコーチングです。だから、選手ありきで、自分のスタイルに選手を当てはめるようなことはしません。

監督は人を選ぶところからリーダーシップを持って、チームを良い方向に導いていかなければいけないと思うので、そう言う部分でコーチとは違うと思います。

—— 将来、選手を引退したら、海外でコーチ業を積むんですか?

そうしたいと思っています。誰と対峙しても対等に渡り合えるディスカッション能力などを、ベースとして身につけたいと思っています。

—— ラグビーでは海外でコーチとして活躍している日本人はいないですよね

いないですし、そもそも日本人は認められていないですからね。ただ、それに近い人はどんどん出てくるはずなので、自分も出来る限り、そういう流れに乗っていきたいと思います。オリジナリティーはそのうち出てくるものだと思っているので、その場で出来る準備をしっかりしつつ、しっかりプランニングして、5年後10年後にはどうなっているかということをイメージしてやっていきたいと思います。

—— サンゴリアスの同期はどういう反応をしていましたか?

みんな驚いていましたが、僕の決断を尊重してくれていますし、「頑張れよ」としか言われないですよ。これはスタッフの人も一緒で、みんなが僕のチャレンジに対して応援してくれているので、そこに対しての感謝も、本当に大きいです。

—— サンゴリアスの選手たちへのメッセージをお願いします

選手の成長が一番チームを強くするので、パフォーマンスだけじゃなく考え方も含めて、どんどん成長して、良いチームを作っていって欲しいと思います。あとはいち社会人として成熟していかないと見えてこない部分も大きいので、そういう部分を敏感に感じられるような選手が、しっかりとリーダーシップを取ってチームをひとつにまとめていくこと、それがチームが強くなる一番の近道だと思います。

—— 言い残したことはありませんか?

最終的にこのインタビューで何を伝えたいかと言うと、僕はサンゴリアスが好きだということと、サンゴリアスにはこの先も日本一であり続けて欲しいという思いを持っているという2つです。色々と語ってきましたけど、そこだけはみんなに分かって欲しいと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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